剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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72 命を懸けた戦い

 レイダさんが襲来した瞬間に、私は剣を抜いた。

 そのまま飛びかかろうとして……やめた。

 レイダさんが見たことのない、それでいて滅茶苦茶危険を感じる構えを取ったからだ。

 多分、これがオルステッドの言ってたレイダさんの奥の手。

 

 ━━水神流幻の奥義『剥奪剣界』

 

 五つある水神流の奥義のうち、最も困難な二つを組み合わせることによって生まれる、幻の六つ目の奥義。

 前後左右上下。

 レイダさんの間合いの中にいて、レイダさんが知覚できている全員に対して、指一本でも動かせば、否動かそうとすれば、その瞬間に斬撃が飛んでくる究極のカウンター奥義。

 

 稽古じゃ見せてくれなかった技だ。

 これを前にしたら迂闊には動けない。

 剣を抜かないまま相対してたらと思うとゾッとする。

 

「誰も動くんじゃないよ。こうなりたくなかったらね」

 

 ただ、私以外に動いた人はいた。

 最初に動いたのはペルギウスさんの使い魔『光輝』のアルマンフィさん。

 光の速度で動ける彼も、攻撃の時は実体化して動きが遅くなるから、その瞬間に斬り捨てられた。

 アルマンフィさんは人間じゃなくて精霊だからか、死体は残らずに光の粒子になって霧散した。

 

 次に動いたのもペルギウスさんの使い魔の人。

 名前は知らない。

 その人はレイダさんに腕を向けて、何かを放とうとした瞬間に遠距離スラッシュで斬られ、アルマンフィさんと同じように光の粒子になって霧散。

 

 その次に動いたのはルーデウスだ。

 動いたっていうか、指に嵌めたオルステッドへの連絡用の指輪に魔力を流そうとしただけなんだけど、それすらも感知されて手首を落とされた。

 といっても、斬られたのは籠手だけだけど。

 

 最後に動いたのは逃げようとした貴族の一人。

 足の腱を斬られて悲鳴を上げ、更なる斬撃で気絶した。

 死んでないから峰打ちだったっぽい。

 

「……動く奴ぁいないようだね。それじゃ、オーベール」

「な、なんであるか……?」

「アリエルとペルギウスと……あと泥沼とエミリーだね。さっさとそいつらの首を刎ねちまいな」

「そ、(それがし)がか?」

「そうだよ。他に誰がやるんだい? エミリーなんて、この奥義の中でも今にも動き出しそうじゃないか。あんた以外が行ったら斬り捨てられるよ」

 

 あ、バレてる。

 バレた上に警戒されてる。 

 さすがは水神。

 

 なら、そろそろ行こうか。

 止まってる間に誘剣と迷剣を使って、フェイントは充分に重ねた。

 オーベールさんが参戦してくるなら、あんまりモタモタしてるわけにもいかない。

 

 開戦だ。

 私はパーティー会場の床がヒビ割れるくらい強く踏み込んで仕掛けた。

 最初に力を込めた足に向かって飛んできた斬撃を、レイダさんと同じ水神流の技で受け流す。

 そのために動かした腕に向かって飛んできた斬撃を更に受け流す。

 そうして、私は前に出た。

 

「来たね。『剥奪剣界』!」

 

 正確無比な斬撃が私目掛けて連続で飛んでくる。

 大丈夫。

 対処できる。

 誘剣と迷剣によるフェイントがちゃんと少しは効いてる。

 その証拠に、レイダさんの斬撃は最適の場所とタイミングを僅かに外れていた。

 

 剥奪剣界の肝は、斬撃の絶妙なタイミングだ。

 動こうとした瞬間に飛んできて、動作の起こりを潰される。

 椅子から立ち上がろうとした瞬間に足払いが飛んできて転ばされるみたいな感じ。

 だから、誰も動けない。

 

 でも、剣速自体はガルさんの方が遥かに上だ。

 そのガルさんの二倍以上の速度を誇るオルステッドの攻撃を見た後だと、レイダさんの斬撃ですら遅く見える。

 なら、北神流のフェイントで肝心のタイミングさえズラしちゃえば、水帝級の技術で受け流せない道理無し!

 

 それでも斬撃は何発も何発も飛んでくるんだから、ドンピシャのタイミングで飛んでくることもあるけど、それも三回に一回とかその程度の頻度。

 剣帝級の剣速を持つ私なら、そのくらい後出しでも対応可能!

 

「剣神流『韋駄天』!」

 

 レイダさんの攻撃を受け流しながら、私は衝撃波加速は使わずに、剣神流の踏み込みだけで更に加速した。

 さすがに、この奥義の前で多少なりとも体勢を崩す衝撃波加速は使いたくなかったからだ。

 だけど、これでも充分な速度は出る!

 

「ハッ!」

「ぬぅ……!」

 

 加速して間合いを詰め、飛ぶ斬撃ではなく、お互いの剣が直接ぶつかる間合いで放った一撃。

 それを防ぐために、レイダさんは奥義『流』を使った。

 完璧な動きで私の攻撃を受け流してカウンターが放たれる。

 私はさっき使わなかった衝撃波の魔術をここで使い、体勢を無視して横に吹っ飛ぶことで回避。

 そして、レイダさんが私に対処するために別の奥義を使ったことで……

 

 ━━幻の奥義『剥奪剣界』が解除された。

 

 その瞬間、会場中の時が動き出す。

 

「「ガァアアアアアアア!!」」

 

 まず、エリスさんとギレーヌがレイダさんに向かっていく。

 だけど、すぐにルーデウスが声を上げた。

 

「違う! オーベールだ!」

「「!」」

 

 オーベールさんは、二人が動いた隙にルーデウスを狙って奇襲をかけていた。

 二人はそれに気づいて即座に方向転換し、ルーデウスと一緒にオーベールさんとぶつかる。

 3対1の戦いは、ルーデウス達がやや優勢。

 

 それでいい。

 あの二人を相性最悪のレイダさんにぶつけるより、オーベールさんを倒してくれた方がずっと助かる。

 ナイス判断だよ、ルーデウス!

 

「「「うわぁーーーーーー!!?」」」

 

 そして、貴族達が悲鳴を上げながら出口に殺到した。

 一刻も早くレイダさんから逃げたいっていう心の声が聞こえてきそうな逃げっぷりだ。

 それに紛れてダリウスが逃げようとするも、アリエル様の護衛の4人が飛びかかって逃亡を阻止。

 ダリウスを守るナックルガードとぶつかった。

 

 あの4人だけでナックルガードと戦ったら数分でやられるだろうけど、そこに師匠が乱入して互角以上の戦いを始める。

 更に、ルーデウスがオーベールさんと戦いながらダリウスを狙撃して手傷を負わせ、逃走する力を完全に削ぐ。

 あの辺りは、一瞬にして敵味方が入り乱れる戦場と化した。

 

 一方、私の方はレイダさんの注意が飛びかかろうとしてたエリスさんとギレーヌの方に逸れた瞬間を狙って再び間合いを詰め、斬り合いを開始。

 本気のレイダさんとの戦いに心躍らせる。

 

「こ、これは!?」

「ルディ!? エミリー!?」

 

 更に会場に乱入者が現れた。

 イゾルテさんと、外でペルギウスさん登場の仕込みをしてた姉だ。

 イゾルテさんの方は混乱の極みって感じだけど、咄嗟にレイダさんに助太刀しようとしたのかこっちに向かって走り出し、姉がそんなイゾルテさんを魔術で狙撃して止めた。

 

 そのまま二人での戦いになる。

 実力的にはイゾルテさんの方が上だけど、何をどうすればいいのかもわからずに戦ってる感じのイゾルテさんと、こうなるかもっていう覚悟を決めてた姉とじゃ集中力が違う。

 その差が実力差を埋めて、二人の戦いは互角の勝負になった。

 

 動いてないのは、シャリーアで仲間にした人達と一緒にアリエル様を必死に守ろうとしてるルークさんと、面白そうな顔してるペルギウスさん。

 あと、どうしていいかわかんない感じのピレモンさんと、命令が無いからか、そんなピレモンさんを守ってるだけのウィ・ターさん。

 他にグラードン含む上級貴族っぽいのが何人かと、その護衛。

 この辺がちょっと不確定要素だけど、それを除けば戦況は概ね互角か、こっちがやや有利の状態で安定した。

 

 なら、心配することは何もない。

 私は目の前の強敵だけに集中できる。 

 オルステッドの時みたく、こっちが一方的に仕掛けた罪悪感もない。

 仲間達も皆強いから、私が守る必要もない。

 だから、

 

「存分に、斬り合おう、レイダさん!!」

 

 私は笑った。

 獣が牙を剥き出しにするみたいに、好戦的な顔で笑った。

 

「ハッ! 小娘が! 調子に乗ってんじゃないよ!!」

 

 レイダさんもまた、水神にまで登り詰めるほどの剣士のサガか、私と似たような凶笑を浮かべていた。

 知り合いを殺すかもしれないんだから、決して楽しいものじゃない。

 けど、楽しくなくても血は滾る。

 剣士という生き物に流れる血が、戦いに生きる者としての本能が、強敵を前にして、どうしようもないほど熱く燃え滾る!

 

 そうして、遂に三大流派の長の一角との本気(・・)の戦いが幕を開けた。




オルステッド「…………」

ルーデウスから連絡受けて急行したけど、なんか普通に勝てるかもしれないし、もしそうなら魔力もったいないし、ピンチになったら出ていこうと思ってる社長の図。


ピレモン「政争はアリエル様が勝った。だが、水神が勝ってアリエル様を殺してしまえば、無理矢理ひっくり返ってダリウスの勝ちだ。あのエルフが水神に勝てるとは思えない。だが、ペルギウス様がいれば水神でも退けられるのか? くそっ!? どっちだ!? どっちにつけばいい!?」

ピレモンさん、いざという時に優柔不断(公式)
巻き込まれて参戦できなかったウィ・ターさん可哀想。
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