剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
政争に勝利した後、私は貧血でぶっ倒れて丸一日寝込んだ。
寝てる間にルーデウスが王級治癒のスクロールを使ってくれたみたいで、起きた時には魔眼も復活。
失った血を取り戻すべくガッツリ食べて、すぐに完全回復した。
それから10日。
心配した姉に安静にしてなさいって言われてベッドに叩き込まれてる間に、色々と後始末まで終わってた。
まず、アリエル様が王になることがほぼ確定。
グラードン派が悪あがきはするみたいだけど、油断しなければまずひっくり返らないらしい。
ピレモンさんは領主の地位を追われることが正式に決定。
その後は領地に軟禁状態になり、ルークさんが新しいノトス家当主になる。
どうも、このあたりの流れは、旅の途中で既に話し合ってたっぽい。
師匠がアリエル様とルークさんに話をしにいった時に。
ヒトガミに吹き込まれて師匠とルーデウスがノトス家の乗っ取りを画策してるって疑ってたルークさんの目の前で。
自分の功績と貴族籍と引き換えにピレモンさんを助けることをアリエル様に誓い、誓約書まで書いてルークさんを説得しつつ、自然な流れでアスラ王国の貴族社会からフェードアウトする。
ネタバラシされた時は、あまりにも立ち回りが上手すぎて、師匠にもバッチリ貴族の血が流れてるんだなって思ったよ。
もしくは、立ち回りの上手い北神流の力か。
どっちも言ったら怒られそう。
レイダさん、オーベールさん、ナックルガードの三人(四人?)は、ダリウスに味方してやらかしてくれた大罪人として、アスラ王国から永久追放されることになった。
受け入れ先はオルステッドだ。
これからは私達と同じオルステッドの使いっ走りとして頑張ってもらうことになる。
ついでに、同じ『北神三剣士』を名乗る仲間意識からか、公の場ではやらかさなかったウィ・ターさんもノトス家の用心棒を退職して、オーベールさん達に付いていった。
そして、オルステッドに引き合わされた瞬間、全員揃って己の所業の全てを後悔したかのような真っ青な顔になった。
レイダさんの「こりゃ、裏切れないねぇ……」って言葉が印象的だ。
うん。頑張れ。
ちなみに、イゾルテさんは職務を忠実に全うしただけってことで、お咎め無しだった。
今後はレイダさんの後を引き継いで、アスラ王国の水神流総本山のトップになるべく邁進し、数年後には次代水神を襲名する予定らしい。
イゾルテさんだけこんな感じなのは、水神流全体を敵に回したくないアリエル様の手回しの一環だって話だ。
そして、今回の騒動の全貌を知ったイゾルテさんは、凶行に及んだレイダさんにお小言の嵐を放ち、レイダさんはバツの悪そうな顔で目を逸らした。
でも、なんだかんだで、お婆ちゃんが死ななくて嬉しそうだった。
トドメを刺さなかった私に、剣士として甘いって怒ればいいのか、家族として感謝すればいいのか悩んで、結局お礼を言われたよ。
そんなイゾルテさんの代わりにレイダさんが「甘いねぇ」って言って鼻で笑い、またお小言の嵐を頂戴してた。
懲りない人である。
遅れに遅れてきたシャンドルにも事情を聞いたところ。
なんでも、私が随分前に出した「アレクに会っとけ」っていう伝言を見て、そのアレクが中央大陸南端の王竜王国首都に出没したと聞き、そっちまで行ってたらしい。
結局会えずじまいで諦めて北上してるうちに、アリエル様がアスラ王国に舞い戻ったって情報を聞きつけて、意気揚々と参上して出遅れたと。
あれ?
これもしかして、ヒトガミのせいじゃなくて私のせい?
いやいや、アレクを王竜王国に誘導したのがヒトガミかもしれないし。
シャンドルがしばらく王竜王国に滞在するように誘導したのもヒトガミかもしれないし。
このジャストタイミングでそんなことになってたのは間違いなくヒトガミのせいだ。
間違っても私のせいじゃない。
全部あいつが悪い。
で、政争には間に合わなかったとはいえ無事合流できたシャンドルは、
今後アリエル様の護衛に就職して騎士や兵士に北神流を布教しつつ、私に続く新たな才能を見つけるつもりらしい。
一切のブレがなくて安心する。
アレク探しに関しては、アリエル様にお願いして大国の情報収集能力を使わせてもらうことになった。
一人で世界中探し回るよりは絶対効率的だよね。
権力万歳。
ついでに、ギレーヌもそんなシャンドルと一緒にってわけじゃないけど、アリエル様の護衛としてアスラ王国に残ることを決めた。
アスラ王国の戦力のインフレが凄い。
オルステッドと癒着してることまで考慮に入れたら、世界大戦しても勝てるんじゃないかな?
そんなこんなで王位継承戦は終わりを告げ、帰る直前っていうところで、私は姉と共にアリエル様に呼び出された。
「シルフィ、エミリー。これまで本当にありがとうございました。
あなた達がいてくれなければ、ここまで来ることはできなかったでしょう」
アリエル様にお礼を言われた。
特に姉には深々と頭まで下げて、報酬とかじゃなくて、本気の気持ちと言葉で心からの感謝を伝えてた。
思えば、アリエル様と出会ってから、もう7年くらいになるのか。
姉とアリエル様の付き合いに至っては8年だ。
しかも、私と違って一時離脱することもなく、ずっと一緒に8年間。
病める時も健やかなる時も、姉はアリエル様達と一緒に苦難を乗り越えてきた。
そして、遂に目的地まで辿り着いた。
感無量だろうね。
そりゃ、心からの感謝くらい贈りたくもなるわ。
姉は昨日、正式にアリエル様の護衛を辞めた。
アリエル様はオルステッドの配下になったみたいだし、これからも付き合いは続くだろうけど、ずっと一緒の関係は終わりだ。
シャリーアとアスラ王国で物理的な距離も離れることになるし、そう思うと私も結構寂しいな。
「シルフィ、いつでも遊びにきてくださいね」
「うん」
「エミリー、いつでも夜這いにきてくれて構いませんからね」
「遠慮、しときます」
「あら、残念」
うふふと笑うアリエル様。
思えば、最初は拙かった敬語も、セクハラのあしらい方も、随分と上手くなったものである。
成長したなぁ。
……いや、前者はともかく、後者はこんなことで感慨に耽ってどうするんだ。
知らないうちに常識がアリエル様に寄ってたのかもしれない。
恐ろしいことだ。
ここで離れて正解なのかも。
なんか、気のせいじゃなければアリエル様の目がいつも以上にマジというか、身の危険を感じるレベルで熱っぽいし。
「では、二人とも、お元気で」
「うん。アリエル様も」
「セクハラは、程々に」
「ええ、わかっていますよ」
あ、わかってないなこれ。
余裕ができたら、枷から解き放たれた獣のように、城内のメイドさんとかを片っ端から食い荒らしそう。
まあ、それでこそアリエル様なんだけどね。
アリエル様はこの後、ルーデウスも呼んでお礼言うつもりみたいで、姉は念のためにルーデウスの下半身の監視役として残り、私は苦笑しながらアリエル様と別れた。
翌日。
エリスさんとルーデウスがギレーヌとの別れの稽古をやり。
その隣で私は久しぶりにシャンドルとの稽古をやって、模擬戦で互角に戦えて嬉しくなった。
シャンドルも「素晴らしい!」って大興奮しながら褒めてくれたよ。
それが終わったら出発だ。
お見送りの時にルークさんが師匠とルーデウスに侘びを入れてたり。
姉がアリエル様親衛隊の皆と涙ながらに再会の約束をしてたり。
手錠かけられて連行されるレイダさんに、イゾルテさんに連れられた大量の水神流門下生が涙ながらにお別れを言いに来て、「それでも剣士かい!」ってレイダさんに一喝されたり。
そんなことがありつつ、行きの王女様御一行とは違った意味で豪華すぎる面子(水神、北帝、北王、北王、剣水北帝、剣匠、剣王、元王女の護衛、シャリーア最凶最悪の魔術師)で、ペルギウスさんの空中城塞を経由した転移魔法陣を使わせてもらい、シャリーアに直帰した。
ちなみに、この時なんか当たり前みたいな顔して、お亡くなりになったはずの精霊二人もペルギウスさんの後ろに控えてた。
どうやら、ペルギウスさんの精霊は死んでも空中城塞で復活できるらしい。
便利すぎる。
その後、私達は成功を喜び合ってからお互いの家に帰還。
レイダさん達は死んだ魚のような目でオルステッドのもとへ直行。
こうして、アスラ王国での仕事は完全に終了した。
オルステッドコーポレーション面接会場
オルステッド「…………」ゴゴゴゴゴゴッ
レイダ(……死んだねこりゃ)
オーベール(こ、これまでか……! 無念)
ナックルガード(兄ちゃん、僕達死ぬのかなぁ!?)(安心しろ、死ぬ時は一緒だ!)
ウィ・ター(こいつら見捨てて逃げればよかった……)