剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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76 近況

「『剥奪剣界』」

「ぐはっ!?」

「ごふっ!?」

「おぶしっ!?」

「あがっ!?」

「「「ギャーーーーー!?」」」

 

 私は今、オルステッドについて魔大陸のとある魔王の城にカチコミをかけていた。

 魔族達が大挙して押し寄せてきたけど、レイダさんから教わった剥奪剣界で動いた奴から叩き斬る。

 とはいえ、水神流の幻の奥義と言われてるだけあって、この技の難易度は高く、まだまだ精度が荒い。

 雑兵相手には使えるけど、聖級剣士以上には無力だと思う。

 

 今戦ってるのは魔王の配下だけど雑兵だから問題なし。

 一口に魔王って言ってもピンキリだからね。

 かの伝説に残る『不死魔王』アトーフェラトーフェみたいなヤバい奴もいれば、本好きで変わり者のスライム魔王や、魔法大学に留学してたという平和的な魔王までいる。

 

 ここの魔王は強いんだけど、配下の育成には興味がないタイプみたいで、未熟な技でも普通に倒せた。

 もちろん、魔王本人とは中々の激闘になったけど。

 それでも、最近レイダさんとの模擬戦の勝率が6割に届いた私なら倒せない相手じゃなかった。

 

「*****」

「***!? ******!」

 

 そして現在、私に倒された魔王の胸ぐらを掴んで、オルステッドがなんか言ってる。

 魔大陸の言語である魔神語での会話だから私にはわからないけど、ニュアンスでなんとなく伝わる。

 魔王がオルステッドに命乞いしてるのだ。

 

 今回の目的は、この魔王にトラウマを刻むこと。

 そうしておかないと、将来この魔王は復活したラプラスの配下として結構な猛威を振るうらしい。

 オルステッドにはラプラスに戦争を起こさせないで倒す秘策もあるみたいだけど、上手くいく保証がないから、これは保険だって言ってた。

 

 で、この魔王は力は強いんだけど、心の方は弱くて根性がないから、

 こうして叩きのめした後、オルステッドの呪いによるトラウマを植え付けとけば、将来ラプラスに勧誘されても断固参戦しないって感じで、逃げて隠れて勝手にフェードアウトしてくれるんだってさ。

 ただし、殺すのはダメ。

 殺したら別の魔王が台頭してくるだけだから。

 

 そのうち仕事は無事完了したみたいで、魔王は泡吹いて失禁。

 オルステッドに「行くぞ」って言われて、私は彼と共に退散した。

 露払いは私の仕事だ。

 こんな感じで、最近の私はオルステッドの仕事を手伝っていた。

 

 

 

 

 

 アスラ王国の戦いから一年半と少し。

 ルーデウスとロキシーさんの娘であるララも生まれ、エリスさんも妊娠し、パパデウスは家族のために一層仕事に励んでいる。

 まあ、オルステッドがルーデウスに振る仕事は、私と違って人助け系みたいだけど。

 

 オルステッドに壊された魔導鎧の修復も終わった。

 ただし、そっちはあまりにも燃費が悪い上にデカくて重くてかさばるから、性能の大幅ダウンと引き換えに小型化して低燃費で運用できるようになった魔導鎧『二式』を開発。

 そこから更に改良を加えた『二式改』をルーデウスは主装備にするようになった。

 

 魔導鎧『二式改』は兜のない漆黒の甲冑だ。

 性能は聖級剣士と同等の身体能力と、そこそこの防御力を得る程度。 

 左腕には岩砲弾(ストーンキャノン)ガトリングを少し改造して、連発ではなくほぼ同時にいくつもの岩砲弾(ストーンキャノン)が発射されるようになった、小型のショットガンもどきを装備。

 その上から魔術師のローブを纏うのが、今のルーデウスの基本スタイルである。

 オルステッドと戦う時に使った大型の魔導鎧『一式』は強敵用の決戦兵器だ。

 あれ普通に戦ってるだけでも、ルーデウスのバカみたいな魔力量が一時間で空になるっていう、とんでもない兵器だからね。

 

 そんなルーデウスはさて置き。

 私の方はオルステッドの魔力節約のための護衛として、オルステッドについて転移魔法陣で世界中を飛び回り、戦いまくっていた。

 世界中の強敵達や、しょっちゅう妨害してくるヒトガミの使徒との戦いが結構楽しい。

 たまに斬りたくないような事情を持ってる人もいて、そういう時はキツいけど……。

 

 でも、仕事なら致し方なし。

 紛争地帯で屍の山を築き上げた時の経験が、普通にそう割り切れるだけの感性を私に与えてしまった。

 良かったのか悪かったのか。

 まあ、良かったってことにしておこう。

 この世界じゃそれが普通なんだし。

 

 あと、レイダさんに壊された剣の代わりも手に入れた。

 といっても、私は誕生日プレゼントの剣に凄い愛着があったから、持ち手はそのままで、砕けた剣身だけシャリーアの鍛冶師の人に新しく作ったものと変えてもらっただけだけど。

 さすがに10歳の頃よりは身長も伸びてて、ちょっとサイズ的に体に合わなくなってきてたから、ちょうどいい時期だったのかもしれない。

 

 でも、最近はそれとは別にもう一本、オルステッドから渡された剣を命令されて無理矢理持ち歩くことになってしまった。

 王竜王カジャクトの肉体から作られた48の魔剣の一つ『仙骨』だってさ。

 ひたすらに丈夫で、魔剣としての特殊な能力も『剣身に纏わせた闘気を増幅する』っていう、まあ、わかりやすく言えばただの攻撃力増強。

 変な癖がないから、どんな剣技にも使いやすい魔剣だった。

 

 うん。性能は良いんだよ。

 というか、良すぎるんだよ。

 これで破断とか使うと、ちょっと頭おかしい威力が出るし。

 誕生日プレゼントの剣と比べると、弓矢とライフルくらい違う。

 だからこそ使いたくない。

 

 シャンドルの教え『強い武器に頼ると強くなれない』が私の根幹に染みついてるのだ。

 いや、これはもはやシャンドルの教えというより、心の底から共感してる私自身にとってのジンクスになった。

 強い武器に頼ってるんじゃ、オルステッドは超えられない。

 そのオルステッド戦で使っただろって?

 あれは例外中の例外だから。

 

 だから突き返そうとしたんだけど、怖い顔で「またレイダのような強敵と戦った時にどうするつもりだ?」って、かなり真剣というか、心配そうな顔で言われちゃって、さすがにその厚意を無下にはできずに、渋々腰の後ろに装備してる。

 

 きっとあれだね。 

 せっかくの呪いが通じずに付き合える相手に死なれるのは嫌なんだね。

 ウチの社長は呪いのせいでボッチ拗らせてたから。

 静香もルーデウスもいるし、最近ではルーデウスの子孫であるルーシーやララにも呪いが効かないってことがわかってきたのに、寂しがり屋のウサギか!

 

 そんな感じの事情で、私の装備に魔剣が増えた。

 普段は誕生日プレゼントの方で戦ってるんだけど、手を伸ばせばすぐ引き抜ける位置により強い剣があるとか、舐めプみたいでなんか嫌だ。

 ちょっとピンチになったら、すぐ頼っちゃいそうな気もするし。

 そんな甘えを自分に許したくない。

 やっぱり、どこかで売り飛ばせないかな……。  

 

 

 あと魔剣といえば、世界最強の魔剣を持つあいつだけど、一年半が経っても未だに音沙汰がない。

 もしやヒトガミに始末されたのではって心配になったけど、オルステッド曰く、ヒトガミは私達への対処でてんやわんやしてるはずだから、

 ただでさえ強くて死ににくいアレクを仕留める余裕はないはずだって言ってた。

 

 ただし、アレクはヒトガミの使徒になる可能性も高いらしい。

 英雄願望を上手いこと利用されて、いいように使われるかもしれないって。

 うわぁ、ありそう。

 

 でも、私と出会ったことで運命に変化がどうたらこうたらで、使徒にならない可能性もあるってオルステッドは言った。

 実際、ヒトガミはオルステッドとの戦いにアレクを呼ぶなって言ったしね。

 多分、アレクはオルステッドの敵になる可能性が高いけど、私の味方になる可能性も高いってことだと思う。

 

 なら、敵になってないことを祈って、各地を回るついでに探しつつ、向こうからの連絡を待つしかない。

 もしも敵になってたら私が責任持って説得するか、ボコボコにして説得(物理)しよう。

 あいつに確実に勝てるように修行だー!

 

 

 私生活の方では、お婆ちゃんとクリフさんの息子であるクライブの誕生をお祝いしたりした。

 でも、基本的にはオルステッドコーポレーション(ルーデウス命名)に強制就職させられたレイダさん達やオルステッドに鍛えられて修行を積む日々だ。

 こっちは剣の聖地にも匹敵する極楽である。

 特にオルステッドはこの世に現存するありとあらゆる技を使えるというチート存在なので、いくら学んでも学べることが無くならない。

 

 私には魔力眼(しゃり○がん)があるとはいえ、見た瞬間にコピーできるわけじゃなく、ちゃんと覚えるためには時間をかけて修行を積まないといけないから、

 このペースだと、オルステッドから教えてもらう技術を剣術関連だけに絞っても、全部吸収するまでに100年、200年は余裕でかかりそう。

 

 そして、技だけコピーしたところで、実戦で使いこなせなきゃ意味がない。

 果たして、オルステッドを超えるまでに何千年かかることやら……。

 エルフの血が混ざってるとはいえ寿命が保つ気がしない。

 まあ、総合能力値だけで勝負が決まるわけじゃないし、晩年には勝ちたいなぁ。

 

 で、他の社員であるレイダさん達だけど。

 レイダさんは直接戦闘能力こそ高いものの、体力とかはご老人らしく衰えてて長旅とか長期任務には向かないから、基本的にシャリーアの守護を任されることになった。

 魔導鎧を制作した時の小屋を改築して作った事務所に住んでもらえばいいやって気軽に考えてたんだけど、そこにはオルステッドも住み着いてるから「冗談じゃない!?」って本気で拒否された。

 

 仕方ないから、レイダさんは自分でシャリーアの中に家を購入して住んだ。

 まあ、最近はクリフさんによるオルステッドの呪い軽減実験の成果がちょっとずつ出始めてるし、そのうち改善されることを祈ろう。

 

 オーベールさん達は、基本的に三人(四人?)ワンセットで運用されることが多い。

 主な仕事は暗殺である。

 奇襲してくるオーベールさんの厄介さは身をもって知ってるし、オルステッド曰く、暗殺に特化したオーベールさんは、暗殺者界隈で1、2を争うほど有能らしい。

 

 その有能さで、オルステッドにとって邪魔な人物をガンガンアサシネイトしまくってるのだ。

 たまに目立ちたがり屋な性格が抑えきれずに暴走して大立ち回りになることがよくあるらしいけど、

 そういう時は近くでスタンバってるウィ・ターさんとナックルガードと合流して蹴散らすなり撤退するなりしてるみたいで、安定感が凄い。

 

 ちなみに、オーベールさんは最近、休日とか長期休暇とかに特別生として魔法大学に通い始めた。

 もう嫌な予感しかしない。

 あの人、そのうち『奇神』オーベールとか呼ばれるんじゃないかな?

 

 まあ、こんな感じで、アスラ王国の戦いで仲間になった人達の仕事も生活も安定してきた。

 オルステッドコーポレーションはちゃんとお給料も出るしね。

 世界のどこに何があるのか大体把握してるっていうオルステッドはお金持ちなのだ。

 その気になれば、換金できるものを無限に取ってこられる。

 

 それよく考えたらとんでもないよね……。

 なんてことを思う私は現在休暇中だ。

 お休みを活かして、今日はルーデウス邸を目指した。

 休暇中はよくルーデウス邸とかお婆ちゃんのところとか行って、ルーシーやクライブに会ってるのだ。

 

 あと、ララにも。

 ララはルーシーやクライブと違って私と血が繋がってるわけじゃないんだけど、姉の家族である点は変わらない。

 それに、まだ赤ちゃんなんだけど、妙に懐いてくるから可愛い。

 懐いてるっていうか、オモチャにされてるだけな気もするけど……。

 

 そうして歩いてたら、私と入れ代わりでどこかに出張してたはずのルーデウスを見かけた。

 守護魔獣(ペット)のレオも一緒だ。

 そして、黒服のヤクザみたいな人達に「お帰りなさいませ!」って感じで頭を下げられてた。

 ……どういう状況?




一年半、助手としてエミリーを連れ回し、修行中にキラキラした目で見られ続けた結果、かなりの情が湧いてしまったチョロボッチ社長。
防犯グッズ(魔剣)を与える姿は、まさに保護者。

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