剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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77 未来の救世主

「ルーデウス」

「ん? ああ、エミリー。お帰り」

 

 黒服に頭下げられてるルーデウスに声かけたら、いつも通りの感じで返事してきた。

 どうやらルーデウスにとって、この状況は異常事態じゃないらしい。

 

「これ、どういう、状況?」

「……ちょっと色々あったというか」

「お! 姉御じゃニャいか!」

「久しぶりなの!」

「? 誰?」

 

 突然、ルーデウスの隣にいた、格差社会の象徴を胸に実らせた猫耳の女と犬耳の女が話しかけてきた。

 誰?

 

「酷いニャ!? あちしらのこと忘れちまったのかニャ!?」

「それはないの! あんなに尽くしたの!」

「裏切り者を、覚えとく、趣味は、ないよ」

「ま、まだ根に持ってたのニャ!?」

「そろそろ許してほしいの!」

「いや、さすがに、冗談。久しぶり、リニア、プルセナ」

 

 そこにいたのは、私が剣の聖地に行ってる間に卒業してシャリーアを去ったはずの犬猫こと、リニアとプルセナだった。

 ちなみに、私やアリエル様達の卒業のタイミングも二人と同じだ。

 剣の聖地での生活が楽しすぎて、卒業式の時期にまで頭が回らなかった。

 後悔は一切してないけど。

 

 まあ、それはともかく。

 卒業後の二人はどうしたんだっけ?

 確か、片方が故郷に帰って、もう片方が旅に出たって聞いたような。

 どっちが故郷に帰った方で、どっちが旅に出た方かは忘れたけど。

 というか、どっちにしても二人揃ってここにいるのはおかしい気がする。

 まあ、聞けばわかるか。

 

「で、なんで、ここに、いるの?」

「よくぞ聞いてくれたのニャ! 聞くも涙! 語るも涙の物語を……」

「簡潔に、お願い」

「ニャ」

 

 リニアが簡潔にこれまでの経緯を語ってくれた。

 どっちが未来の獣族の族長になるかを賭けてリニアはプルセナと決闘し、負けたから族長の役目はプルセナに任せて、自分は好きに生きると決めて商人になったこと。

 

 その後、騙されて借金背負わされて奴隷落ちし、逃げたところでたまたま獣族大好きなエリスさんに拾われ、色々あった末にルーデウスに借金を肩代わりしてもらって、ルーデウス邸のペット、もといメイドになったこと。

 

 しかし、メイドとしては私のごとくポンコツだったリニアは、有能メイドのアイシャちゃんとソリが合わず、ルーデウス邸に置いておいても家庭崩壊の引き金になりそうだったから、ルーデウスに言われてメイドじゃなくて何か別の商売やって借金を返せって言われたこと。

 

 今度はメイドの先輩としてではなくブレーンとしてつけられたアイシャちゃんと一緒に起業することになり。

 かつて私に挑んだ時、100人もの手下を率いることができた獣族の姫というブランドイメージのおかげで、なんか凄い勢いで人が集まって、そいつらと共に今は傭兵団をやってるらしい。

 

 その傭兵団こと『ルード傭兵団』は、アイシャちゃんの采配によって規模が膨れ上がり、ルーデウスの配下という名目で街中を跋扈してるんだとか。

 そういえば最近、街中で妙に今ここにいる黒服達と同じ、背中に黄色いネズミみたいなマークの入った黒服の集団を見たような……。

 

 凄いなアイシャちゃん。

 昔から頭の良い子だとは思ってたし、最近何かやってるとは聞いてたけど、まさかここまでのことをしてたとは。

 そう思いながら、途中で傭兵団の建物から出てきたアイシャちゃんの頭を撫でておいた。

 むふーって感じになってた。可愛い。

 

 でも、最近は私と外見年齢が同じくらいになってきた上に、格差がとんでもないことになってるから、そう遠くないうちに私の方が歳下に見えるようになりそう。

 由々しき事態だ。

 姉の結婚相手の妹だから、一応私にとっても義妹みたいな子なのに。

 

 で、プルセナまでいるのは、さっきまでミリス大陸の大森林ってところにある、プルセナが帰ってた故郷である獣族の里まで行ってたからだって。

 聖獣様が行方不明だって緊急連絡もらって。

 

 聖獣様とはレオのことだ。

 獣族の信仰対象になってるなんか凄い豆柴だって話は前に聞いた気がするけど、より詳しく言うと「生まれてから100年後に、救世主と共に世界を救う聖なる獣」、それがレオらしい。

 そんな聖なる獣を召喚魔術で拉致っちゃったから、菓子折り持ってお詫びに行ってたと。

 

 そこで色々と獣族の族長さんと話をした後に、一族の掟を破って牢に入れられてたプルセナと再会。

 何やったのって聞いたら、干し肉をつまみ食いしただけだって言われた。

 その程度で牢に入れられるとか、獣族怖い。

 

 で、その程度の罪で次期族長の内定が取り消されそうになってたプルセナをさすがに哀れに思い、正式にこっちで飼育する許可を得たレオのお世話係という名目でシャリーアに連れてきたらしい。

 無事に任務を全うしたら、その功績でもう一回次期族長に内定できるかもしれないってことで。

 戻れてもまたつまみ食いで台無しにするような気がするけど。

 プルセナってかなり食い意地張ってたし。

 

「━━っと、そんニャ感じで、プルセナはあちしの下僕として、再びシャリーアに住むことにニャったのニャ」

「ぐぬぬ! それについてはまだ納得してないの!」

「安心するニャ。傭兵団副団長の椅子は用意してやるから。()団長の椅子をニャ!」

「ぐぬぬぬぬぬぬ!」

 

 相変わらず仲良さそうで安心した。

 地味にお別れを言えないまま別れちゃったのは気にしてたんだよね。

 この調子なら、次はいきなり転移事件に巻き込まれても心配する必要なさそう。

 いつでもどこでも仲良く楽しくやるでしょ、この二人なら。

 

「ワンッ!」

 

 と、ここでお座りしてるのに飽きたのか、レオがルーデウスの背中をグイグイと押し始めた。

 早く帰るぞと言わんばかりに。

 

「わかったわかった。帰るから。それじゃ、アイシャ。プルセナをよろしくな」

「お任せあれ!」

「じゃーニャー、ボス」

「救世主様によろしくなの」

 

 え?

 救世主ってルーデウス邸にいるの?

 

 そんな疑問をぶつけながら、家の主と共にルーデウス邸への道を行く。

 ルーデウスの説明によると、獣族の族長さんとの話し合いで、なんとララがレオと共にいずれ世界を救う救世主になることが判明したらしい。

 確かに、レオはララによく懐いてた。

 でも、救世主なんてスケールの大きい存在でしたって言われても実感が欠片も湧かない。

 私にとってのララは、ただの可愛い姪っ子の一人だ。

 

「エミリーねぇ!」

「わ」 

 

 家の玄関を潜ると、もう一人の可愛い姪であるルーシーが突撃してきた。

 水神流の応用でふわっと受け止める。

 これが好きなのか、ルーシーは毎回私のお腹に飛び込んできてくれるのだ。

 そして、嬉しそうに笑ってくれる。

 可愛い。

 

「ただいま、ルーシー!」

「……おかえりなさい、パパ」

 

 一方、実の父親のルーデウスには何故か丁寧語である。

 しかも、怖がるように私の後ろに隠れてしまった。

 ルーデウスが膝から崩れ落ちる。

 仕事でしょっちゅう家を留守にするお父さんの悲哀ってやつだね。

 

「むむ?」

 

 その時、頭が後ろ側から引っ張られた。

 そこには玄関を開けて早々家の中に走っていったレオがいて、レオの上にはロキシーさんと同じ青髪の赤ちゃんの姿が。

 

 ルーデウスとロキシーさんの娘、ララだ。

 そのララが、お婆ちゃんみたいに伸ばして縦ロールではなくポニーテールに纏めてる私の髪を掴んでグイグイと引っぱってた。

 お姉ちゃんをハゲさせる気かね、君は?

 いや、その程度で私の龍聖闘気もどきはビクともしないけど。

 

「でも、やめい」

「あーう」

 

 まだ小さいララがレオの上から落っこちても危ないから、私が抱き上げる。

 しかし、ララは抱き上げられても私のポニーテールを離さず、今度はポニテの先端を口に咥え始めた。

 ロキシーさんそっくりのジト目で私を見ながら。

 

 ララのこの表情。

 何を考えてるのか、さっぱりわからない。

 まあ、赤ちゃんなんて皆そんなものなのかもしれないけど。

 

「この子が、救世主……?」

「あうー」

 

 わけがわからないよ。

 でもまあ、可愛いからいいや。




・エミリーの髪型
ゲームに出てくるポニテエリナリーゼから縦ロールを引いた感じのロングポニテ。
ただのポニテだとゼニスやノルンと被り、だからといって下ろすと今度はアリエルと被り、やるつもりはないけど縦ロールにしたらエリナリーゼと被り、ショートカットにしたらシルフィと被る。
周囲に自分と同じ金髪が多く、顔立ちがそっくりな双子の姉までいたことで、本人なりに悩みながら決めたスタイル。
が、悩んだ割には幼少期から大して変わっていない。

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