剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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79 情報収集Inシーローン

 ジンジャーさんとの情報収集。

 否、私に護衛されながらジンジャーさんが行った情報収集の結果、色々なことがわかった。

 

 まず、ザノバさんに送られてきた手紙の内容が真実であることが確定。

 パックス王子改め、パックス王が王の座に就いたって大々的に流布されてた。

 

 それを聞いてジンジャーさんが嫌そうな顔してた。

 なんでも、ジンジャーさんは昔パックスに酷いことされたらしい。

 他の人達と一緒に家族を人質に取られて、無理矢理言うこと聞かされてたんだとか。

 

 パックス、クズじゃん。

 オルステッドには、例えパックスがヒトガミの使徒だったとしても殺すなとまで言われたけど、個人的には助けたいとは思えない人物だと思った。

 ピレモンさんと同じ枠だね。

 

 次に、ご近所の国との戦争が始まりそうっていうのも本当。

 ビスタ王国っていう、紛争地帯のすぐ隣にある国が、国力の弱ったシーローン王国に攻め入ろうとしてるらしい。

 街中には防衛戦力として雇われたんだろう傭兵っぽいのがたむろしてた。

 ……こういう人達も紛争地帯の嫌な思い出を刺激するから、思わず斬りたくなるわ。

 トリスさんの同僚の皆さんと同じ枠だね。

 

 そして、これが一番重要な情報。

 パックスが王位を簒奪したクーデターで使ったのは、王竜王国から借り受けた、たった10人の騎士。

 小国とはいえ一国の王族とそれを守る者達全てを、たった10人で殲滅したのだ。

 

 並の使い手じゃない。

 しかも、その中の一人。

 最近常にパックスの傍に控えてるという、骸骨みたいな顔をした男。

 その人の正体が、七大列強の『死神』じゃないかって噂があった。

 

「へぇ」

「エミリー、楽しそうにしないでください」

「ごめん」

 

 まあ、あくまでも噂だしね。

 それにもし本当に噂の騎士が死神さんだったとしても、一応パックスは味方ってことになってるんだから、向こうから襲ってくるまでは手を出しちゃダメってジンジャーさんに窘められた。

 

 確かに、その通りだ。

 私はいくら相手が強者だからって、見境なく相手の事情も考慮せずに斬りかかるバーサーカーじゃない。

 でも、味方ってことは合法的に手合わせができるのでは?

 むしろ、そっちの方が私的には嬉しいぜ、ひゃっほう!

 

 そんなルンルン気分で、私はルーデウス達に情報を伝えるべく、ジンジャーさんと共に一旦シーローン王国から引き上げた。

 ジンジャーさんは、なんか短期間じゃ調べ切れなかった部分にきな臭い何かを感じてるみたいで、もうちょっと時間かけて調べたかったって言ってたけど。

 ザノバさん達と一緒に来たら、もう一回調べてみるつもりらしい。

 

 そうして、シャリーアに帰還したジンジャーさんがルーデウス達に情報を伝えるべくダッシュ。

 私はオルステッドに情報を伝えにいった。

 私の頭じゃ詳細情報なんて覚えてないから報告なんかできないだろうと思ったら大間違いだ。

 ちゃんと、ジンジャーさんから要点を纏めたメモを預かってるのだよ。

 

「骸骨のような顔をした騎士……。死神の噂か……」

 

 ジンジャーさんのメモを読んだオルステッドは考え込んだ。

 眉間にシワの寄った怖い顔で。

 やがて考えが纏まったのか、私の方を見る。

 

「王竜王国の騎士で、骸骨のような顔をしていて、小国とはいえ一国の中枢を少数で落とせるほどに腕が立つ。

 俺の知っている限り、そんな男は一人しかいない。

 ――七大列強第五位『死神』ランドルフ・マリーアン本人だ」

「おお!」

 

 色々知ってるオルステッドがそう言うってことは、噂は本当だったってことか!

 腕が鳴る!

 

「奴は王竜王国の切り札だ。他国のクーデターに貸し出されるような男ではないはずだが……ヒトガミの手引きであれば納得できる。

 他に俺やお前やルーデウスを殺せそうな駒に心当たりはない」

「どれくらい、強いの?」

 

 列強五位。

 シャンドルやアレク、ガルさんより上。

 人外と言われる四位以上を除けば最も序列の高い列強。

 つまり、まともな人間の中では最強ってことだ。

 一体どれほどの高みなのか、想像するだけで武者震いが止まらない。

 

「期待しているようだが、単純な能力値の比較であれば、恐らくランドルフよりもお前の方が上だ」

「え?」

「奴は長らく戦いから離れていたからな。

 全盛期ならばともかく、現在では水神と互角以上に渡り合うお前には遠く及ぶまい」

 

 そこから、オルステッドは『死神』ランドルフ・マリーアンという人物について話してくれた。

 彼は北神カールマン二世、つまりシャンドルの孫。

 血縁的にはアレクの甥になる。

 あの一族、どれだけ強い人を輩出すれば気が済むんだろう。

 

 それはともかく。

 幼少期のランドルフさんは今の北神三世、つまりアレクと一緒に修行を積むも、成人した頃にシャンドルと喧嘩。

 家出して独自に技を磨く。

 またか、シャンドル。またなのか。

 息子だけじゃなく、孫にまで反感持たれてるとか……。

 子育て下手すぎない?

 幼女の私を立派に育て上げたシャンドルは何だったの。

 

 その後、ランドルフさんは長い修行の末に、魔大陸にて当時の七大列強の一人を倒し、彼の称号を受け継いで『死神』を名乗るようになる。

 だけど、その日から列強の地位を狙うバトルジャンキー達とのエンドレスバトルが始まった。

 彼らとの戦いを10年くらい続けた後、ランドルフさんは哀れにも戦いの日々に嫌気が差してしまい、故郷の王竜王国に帰ってしまう。

 

 列強が戦いが嫌になるとか、バトルジャンキー達はどんだけランドルフさんを追い回したんだろう……。

 相手の都合も考えずに襲いかかるとは、バトルジャンキーの風上にも置けない奴らめ。

 私の爪の垢を煎じて飲ませたい。

 

 そうして故郷に帰ったランドルフさんは、一念発起して料理を習い出し、親戚の潰れかけの定食屋を継いで料理人になる。

 しかし、死神食堂の料理はそこまで美味しくなかったみたいで、赤字が続いて借金まみれ。

 とうとう食堂は経営難によって閉店し、借金だけが残って路頭に迷ってたところを、王竜王国の大将軍に拾われて騎士になった。

 

 なんというか、全体的に見て喜劇なんだろうけど、あんまり笑う気にはなれない話だったなぁ……。

 だってこれ、ひょっとしたら他人事じゃないかもしれないもん。

 

 私だって、いつか戦いに嫌気が差す日が来るかもしれない。

 今は剣の高みを目指すことが楽しくて仕方ないし、人生を全部使っても超えられそうにないオルステッドという壁に挑むことに生き甲斐を感じてるけど、

 100年、200年も経てば情熱の炎が燃え尽きてたっておかしくはない。

 

 その時は私もランドルフさんを見習って、妖精食堂でも開こうかな……。

 料理なんてできないし、仮に頑張って覚えるなり料理人を雇うなりしても、ポンコツ晒してお皿を割ったり料理をぶち撒けたりして潰す気しかしないけど。

 メイド服でも着て、ドジっ娘メイドで売り出せばワンチャン?

 いや、情熱が冷めたら、普通に弟子でも育てればいいや。

 ガルさんとかレイダさんも、多分そんな気持ちだったんだろうし。

 ランドルフさんは何を思って料理に走ったんだろうね。

 

「とはいえ、単純な能力値の優劣だけで勝敗が決まるわけではない。

 衰えたとはいえ、相手は歴戦の経験を持つ七大列強。油断すれば簡単に死ぬぞ」

「わかってる」

 

 能力値だけがそのまま勝ち負けに直結するなら、私はアスラ王国の戦いでレイダさんに勝ててない。

 あの時点での勝率は、高くても3割くらいだった。

 勝てたのは奇策を使って、レイダさんの隙に徹底的につけ込んだからだ。

 

 立ち回りによって、弱い方が強い方を倒すことは決して珍しくない。

 まして、ランドルフさんはシャンドルの孫で、独自に磨いた我流の剣士とはいえ、根底にあるのは多分、立ち回りに優れた北神流。

 私がやったみたいに、隙を作るのも、隙につけ込むのもお手のものだ。

 舐めてかかれば一瞬で首が飛ぶと思った方がいい。

 

「俺の渡した魔剣を使って確実に仕留めろ」

「それは、断る」

 

 オルステッドが出来の悪い生徒を見るような目で見てきた。

 仕方ないじゃん。

 魔剣を使えばそりゃ有利に戦えるだろうけど、その分、戦いを通して得られる経験値は下がってしまう。

 経験値が下がれば成長率も下がって、長い目で見れば弱くなるのだ。

 魔剣を使うか使わないかなんて、結局今を取るか将来を取るかの違いしかない。

 だったら、私は好きな方を選ぶ!

 

「……とにかく、死神とヒトガミの使徒に注意しつつ、ルーデウス達を守り、パックスを死なせるな。

 俺はルーデウスにも死神の情報を伝えてくる」

「了解」

 

 そんなやり取りをした翌日。

 私は今度はルーデウス達と一緒に、シーローンでの本格的な戦いへと赴いた。


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