剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
ザノバさんの人望により、昔ラプラスと彼が率いた魔族に散々やられたせいで魔族アレルギーを発症してるペルギウスさんに、魔族であるロキシーさんが空中城塞を通行する許可を貰い。
私達5人は転移魔法陣がある空中城塞下層へとやって来た。
「では、ナナホシ殿。もう会うことも無いでしょうが……お達者で」
「はい……」
そこで見送りに来てくれた静香に、ザノバさんが今生の別れみたいなこと言い出した。
静香はザノバさんに大分お世話になったみたいだし、そんなザノバさんがこんな感じだから、不安そうな顔で私とルーデウスを見てきた。
なので、任せろって感じでサムズアップしておく。
そんなやり取りを経て、ジンジャーさんと一緒に前回も来た、シーローン王国近辺の転移魔法陣へ。
そこから5日くらいかけて、シーローン王国の首都ラタキアへと舞い戻った。
空中ダッシュの『花火』は使わないっていうか使えない。
あれで運べるのは頑丈な人だけだし、人数が増えるほどお手玉みたいに難易度が上がる。
今回は私含めて5人もいる上に、ロキシーさんとジンジャーさんの頑丈さが足りず、
頑丈さって意味では問題ない残りの二人も、ルーデウスは魔導鎧二式改のせいで、ザノバさんは火耐性の全身鎧のせいで重いから、衝撃波移動の花火じゃ吹っ飛ばすのが大変なので、どっちみち無理。
そんなわけで、普通に歩いて首都ラタキアへ。
「ではザノバ様。自分は念のため町中に潜伏し、情報を集めようかと思います」
そこでいきなりジンジャーさんが別行動を願い出た。
前回感じてたきな臭さを再調査するために行くみたい。
戦争間近で治安の悪い街とはいえ、前回もジンジャーさんが対処できないような奴に絡まれたりはしなかったし、オルステッドグッズというお守りもあるし、まあ一人でも大丈夫でしょ。
ということで、ジンジャーさんが別行動。
私達はパックスと確執があって話がこじれそうなロキシーさんを宿に残して、私、ルーデウス、ザノバさんの三人で、手紙で呼び出した形のパックスとの謁見に向かった。
ランドルフさんがヒトガミの使徒なら、その場で戦闘になる可能性もある。
ならなかった場合はどうなるのかわかんないけど、そこらへんは頭脳労働担当のルーデウスに任せよう。
そして、私達は一応は王様なパックスに謁見するためにお城へ。
門でちょっと怪しまれたけど、ザノバさんは一応この国の王子様だし、何より呼び出したのは向こうなんだから、最終的に普通に通れた。
で、小一時間待たされた後に謁見の間へ。
そこには5人の人物がいた。
2人は普通の騎士。
強さ的には、ジンジャーさんと大して変わらないように見える。
多分、中級剣士クラスだ。
注目すべきなのは後の三人。
一人は玉座に座ってふんぞり返ってる小柄な男。
王冠被ってるし、あれがパックスか。
もう一人は、そんなパックスのすぐ隣に座ってる水色髪の女の子。
外見年齢は私と同じくらい。
綺麗なドレス着てるし、王冠のちっちゃいやつみたいなの頭に乗っけてるし、王妃様か何かかな?
王妃ってわりに、意思の感じられない虚ろな目が気になるけど、まあ、もっと酷い肩書詐欺がこの世界の王族貴族にはありふれてるから、そこまで気にもならない。
そして、最も注目すべきは最後の一人。
右眼に眼帯をした、骸骨みたいな顔の中年男性。
物腰は一見隙だらけに見えるけど、あれは見せかけだけだ。
わざと隙を見せて相手の攻撃を誘う北神流の技『誘剣』の応用で、初見の相手を油断させてるんだと思う。
この人はそういうのが得意だってオルステッドも言ってた。
何より、魔眼に映る練り上げられた闘気の質は誤魔化せない。
まあ、オルステッドの言ってた通り大分衰えてるみたいで、レイダさんとかに比べるとかなり劣るけど。
それでもオーベールさんより上だ。
つまり充分すぎるほどに強いってことだ。
「陛下。ザノバ・シーローン。召還に応じ、魔法都市シャリーアより馳せ参じました」
「……随分と、早かったではないか」
「火急とあらば、急ぎにて」
ザノバさんとパックスが言葉を交わす。
ザノバさんが兄で、パックスが弟って聞いてたのに、ザノバさんの態度は完全に部下のそれだ。
TPOを弁えてるってやつかな?
「で、そいつらは?」
「陛下もご存知の通り、ルーデウス・グレイラット殿にございます。もう一方は巷で有名な『妖精剣姫』こと、エミリー殿でございます」
「名前を聞いているのではない」
「では、何を?」
「何故ここにいるかと聞いている」
「戦ともなれば、強力な戦力はいればいたほうが良いゆえ、連れてまいりました」
パックスに聞かれて、ザノバさんが私達を紹介した。
強力な戦力って言われるのは悪い気がしない。
まあ、戦争ってなれば剣士の私より、アホみたいな魔力持ってる凄腕魔術師のルーデウスの方が遥かに役に立つだろうけど。
ルーデウスは人殺しを忌避してるから、そこの問題をどうにかできればだけどね。
アスラ王国の戦いでも、結局直接は誰も殺さなかったし。
ダリウスを狙撃してギレーヌに殺らせてはいたけど。
「ほう、そうか。てっきり、余を殺すために用意した手駒かと思ったぞ」
「まさか……陛下に仇なすつもりは毛頭ございませぬ」
「ほう。お前は簒奪を許すのか?」
「はい。別段、前王に忠誠を誓っていたわけでもございませぬゆえ」
「しかし、余に忠誠を誓いたいわけでもあるまい」
「…………」
ザノバさんが黙った。
まあ、クーデター起こして国をぶん取ったバカ殿とか、忠誠を誓われる要素ゼロだもんね。
そんなのがトップでも頭下げなきゃいけないとか、ザノバさんも大変だ。
「まあよい。兄上……いや、ザノバよ。お前がどのような思惑を抱いていようと、どうでもいい。見よ、王竜王国より連れてきた我が騎士達を」
パックスが騎士達、つまりランドルフさんを含むに声をかける。
騎士達は頭を下げて、ランドルフさんはあくびをした。
やる気ないなぁ。
「特に、この男は凄いぞ。七大列強第五位『死神』ランドルフ・マリーアンだ」
あくびの最中に名指しされたせいで、ランドルフさんがビクッとした。
バツの悪そうな顔で咳払いを一つ。
「ご紹介にあずかりました。ランドルフ・マリーアンと申します。
生まれは王竜王国、育ちは魔大陸。種族は雑種。人族とエルフと不死魔族と、あと幾つかの混血です。
職業は騎士。王竜王国大将軍シャガール・ガルガンティス麾下、王竜王国・黒竜騎士団に所属しております。
主な仕事は殺人。誰でも殺します。流派はありませんが、北神流と水神流をかじっております。
巷では『死神』と呼ばれているゆえに殺人狂と誤解されますが、そのようなことはございません。料理が趣味の、心優しい男です。以後、お見知り置きを」
そして、なんかペラペラと経歴を話した後、ニッコリと笑った。
骸骨の笑顔は中々に怖い。
「普段はこの通りだが、強いぞ? 何せ、兄上たちの親衛隊を瞬く間に全滅させ、余に王位をもたらしてくれた立役者だからな。
どうだ、ザノバ。貴様が連れてきたソイツらと、どちらが強いか試してみるか?」
「え? いいの?」
図らずも列強に挑むチャンスが巡ってきて、私のやる気ボルテージがマックスまで上がった。
なんだパックス良い奴じゃんと内心で掌を返しつつ、私の体から戦意が噴き出し、二人の騎士がガチガチと震えながら腰の剣に手をかける。
パックスは一瞬で真っ青な顔になり、ランドルフさんは苦笑した。
「おお、怖い怖い。さすがは、あの『水神』レイダを倒した妖精剣姫。これは私も勝てないかもしれませんねぇ」
「じょ、冗談だ! 真に受けるな!」
「えー」
パックスが即行で前言撤回してきたから、私も仕方なく戦意を収める。
なんだ、やっぱりただのクソ野郎じゃん。
私は返した掌を高速で元の位置に戻した。
「ま、全く、とんでもない奴を連れてきたものだな、ザノバよ。だが、味方となれば心強い。期待しているぞ」
「ハッ!」
その後、パックスは前回ルーデウスと会って国外追放に処された後、人質として王竜王国に送られてからの苦労話とか、水色王妃様(ベネディクトっていうらしい)との恋愛話とか、クーデターに至るまで顛末とか、もう国外追放の原因になったルーデウスやザノバさんを恨んでないみたいな話をして、
「さて、そういうわけだ、兄上よ……いやザノバよ。
お前は余が復讐のために呼び出したと思っているかもしれんが、そのつもりはない。
書状の通りだ。クーデターのせいで国の戦力は低下し、そこをついて北は攻めてくる。今はザノバのような武人が必要な時だ。
過去のことを水に流し、力を貸してくれ」
存外真面目な態度で、頭を下げた。
ほんの少しだけど。
「無論です陛下。余は、そのために生かされていたのですから」
これをザノバさんは快諾。
二人の間に信頼関係が結ばれたとかは一切なかったけど、とりあえずパックスはザノバさんを味方として扱い、任務を言い渡した。
「ザノバ・シーローン。貴様にカロン砦の守護を命じる。
既に兵は配置してある。指揮官として出向き、北からの軍勢を抑えよ」
「ハッ!」
これにてパックスとの謁見は終了。
ヒトガミの罠もなく、ランドルフさんと戦闘になることもなく、なんとも肩透かしな結果に終わった。
でも、この後には戦争が待ってるんだし、気を引き締めてこう。