剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
謁見の後。
私達は城の一室を与えられてそこで一日拘束され、翌日にようやくルーデウスは宿で警戒待機してるはずのロキシーさんのところに向かっていった。
ついでに意見を仰いでくるそうだ。
私はザノバさんの近くで警戒しつつ、出立の準備を手伝った。
それから、国から支給された馬車でルーデウス達と合流。
待ってる間に、ロキシーさんはジンジャーさんから私達がこれから向かうカロン砦の情報を聞いたみたいで、教えてくれた。
「敵兵、5千」
「はい。対して、こちら側の戦力は500だそうです」
完全に捨て駒にする気マンマンじゃん。
パックス、やっぱりクズだわ。
「まあ、そんなもんでしょうなぁ」
でも、ザノバさんは戦力差を聞いても欠片も動揺しなかった。
普通に勝ち目があるからね。
ザノバさん曰く、聖級魔術師は運用次第で千の兵に匹敵するらしい。
ルーデウスは聖級どころか帝級魔術師。ロキシーさんだって王級魔術師。
おまけに、ルーデウスは魔力切れとはほぼ無縁の燃料タンクだ。
正直、ルーデウスがオルステッドに向けてぶち込んだ一連のコンボを食らわせるだけで、雑兵の5千程度消し飛ぶと思う。
加えて、私も今なら、その程度の数の雑兵に遅れを取るつもりはない。
5千なんて所詮はファランクスアントの群れの半分。
あの頃より遥かに成長した今なら、真正面から斬り込んでいっても勝てる。
敵軍が全員聖級剣士以上とか、雑兵に紛れて神級がいたりとかしない限りは。
そんなことあるわけないだろって言いたいところだけど、紛争地帯の掃いて捨てるほどある小国の一つにシャンドルが雇われてたなんてことがあった以上、否定し切れないのが怖い。
今回はヒトガミの使徒だっているかもしれないし。
まあ、なんにしても私達の勝ち目だって十二分にある。
でも、ルーデウスは言った。
パックスはザノバさんが私達みたいなインフレ戦力を連れてくるなんて知らなかったはずだと。
それすなわち、ザノバさん一人を数の差が凄い戦場に放り込もうとしてたってわけで、
「お前、捨て駒にされたんじゃないのか?」
奇しくも、私が真っ先に直感で思ったのと同じことをルーデウスは言った。
更に、こうも言った。
「そんなのに従う必要はないんじゃないか?」
ザノバさんを引き留めようとするような言葉。
まあ、それもそうだろうね。
ルーデウスの最優先目標は、友達であるザノバさんの無事だもん。
でも、
「戦争では、誰かが犠牲にならねばならぬ時があります。
最初に犠牲になるのは兵ですが、時には王族も、死なねばならぬ時があるのです」
そんなルーデウスに、ザノバさんはフッと笑いながら、そう言った。
……いや、いくらなんでも使命感強すぎじゃない?
この人の人柄は、定期的に遊びに行った時に静香とのお喋りで話題に上るくらいのことしか知らないけど、それでもかなりキャラに合わないこと言ってるってことはわかる。
「でもそれは、パックスの尻拭いだよな。他の王族を全部殺したんだ。お前がやる義理はないだろ?」
「誰かが失敗してもフォローをするのが大事だと、師匠もよく言ってるではありませんか」
のらりくらり。
なんとなく、そんな感じがした。
何がザノバさんをそこまでさせるんだろうね?
あと、今更だけど、ザノバさんはルーデウスのことを師匠と呼ぶ。
人形作りの師匠だからだ。
私が師匠の剣術に感銘を受けたように、ザノバさんはルーデウスの1/10ロキシー人形に感銘を受けたのだ。
確かに、あれは良きものだった。
1/10エミリー人形の出来栄えには私もニッコリだ。
話が逸れた。
とにかく、ルーデウスはザノバさんの説得に失敗。
私達は大人しく砦行きの馬車に乗った。
そこから10日くらいガタゴトと馬車に揺られた。
道中はロキシーさんがシーローンの期間限定宮廷魔術師として雇われ、パックスの家庭教師に選ばれるほどの功績を積んだエピソードであるシーローン近辺の迷宮を単独攻略した話とか、そんなことするに至った動機とか聞いて、
迷宮に潜った理由が、まさかの婚活とかわけがわからないよとか思いながら時間を潰した。
そうして、ようやく砦に到着。
暗い顔してる兵士達を尻目に、ザノバさんは私達を連れて指揮官のところへ。
そのすぐ後に、ザノバさんは暗い兵士達の士気を上げたいってことで、兵士を一箇所に集めて演説を開いた。
ザノバさんは王子様だから、偉い人っぽい感じでお立ち台の上から。
「まずは諸君らに、援軍の紹介をしよう!」
自己紹介と簡単な近況報告的なものを受けた後、ザノバさんは私達を手招きしてお立ち台の上に立たせた。
兵士達がザワザワし始める。
ふっふっふ、妖精剣姫の異名はこんな小国まで轟いてるみたいだね。
と思ったら、兵士達の視線が注がれてるのはロキシーさんだ。
何故!?
「こちらはロキシー・ミグルディア。かつて我がシーローン王国の宮廷魔術師だった者だ。
知っている者も多いかと思うが、現在の対魔術教練の基礎を作った者でもある。
それに、その弟子であるルーデウス・グレイラット。二人とも、王級以上の凄腕魔術師である!」
「「「おおおおおおお!!!」」」
会場中が盛り上がった。
国民的アイドルが投げキッスを送ってもここまでにはならないと思う。
「更に! こちらはアスラ王国の政争にて、あの『水神』を倒した当代最強の剣士の一人! 『妖精剣姫』エミリー殿だ!
彼女一人で万の軍勢に匹敵するであろう!」
「「「おお!」」」
……なんだろう。
さっきのロキシーさん達の時より反応が薄い。
見た目か?
外見年齢14歳くらいのロキシーさんより更に幼く見える見た目のせいなのか?
私だって成長してるんだぞ!
亀の歩みのような速度でだけど、身長は伸びてるんだぞ!
くそう! 覚えてろ!
10年後、20年後には、絶対お婆ちゃんみたいなスラッとした美人さんになって見返してやる!
え?
格差社会の象徴?
成長の兆しゼロですが何か!?
「彼らに加え、神子であり『首取り王子』の異名を持つ余が、前線にて直々に指揮を取る!
余は、諸君らに勝利を約束しよう!」
「「「オオオオオオオ!!!」」」
せ、声援の大きさでザノバさんにも負けた……!?
なんだろう、この敗北感。
私、レイダさんを倒して、有名になって、ちょっと調子に乗ってたのかな……。
若干打ちのめされつつも、演説が終わった後は明るい顔になった兵士のうち、特に若い人に最初は恐る恐るって感じで声をかけられ。
「一手ご指南してください!」って言ってきた人を軽く揉んであげたら、そこからは「本物だぁ!」とか「握手してください!」とか「俺もご指導お願いします!」とかいう人が群がってきて、私の自尊心は満たされた。
正直、ここの兵士達の雰囲気は、ご近所だからか紛争地帯の兵士どもに似てて、うっかり斬りたくなる感じではあるんだけど、あいつらと違ってキラキラした目で見てくるから、苦手意識は大分薄れた。
好きにはなれないかもだけど、そこそこ仲良くはやれそう。
そんな感じで、私達は砦に着任した。
敵はいつ攻めてきてもおかしくないし、その敵もまた私が忌み嫌う紛争地帯の連中と似たような奴らだ。
せいぜい、積年の嫌悪感をぶつけてやるとしよう。