剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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82 久しぶりの戦争

 ルーデウスがザノバさんにお願いされて、敵が布陣するだろうポイントの地形をぐちゃぐちゃにして妨害したり。

 ロキシーさんが砦の兵士達に軽く魔術を教えたり。

 私が実戦前の演習として砦の全兵士を叩きのめしたり。

 

 そんな感じで砦での生活を送ってると、三日目にはバラして運送してた魔導鎧一式が届き、

 四日目には敵軍が向こうの砦から出陣したという情報が入った。

 

 2〜3日以内には敵軍が攻めてくるってことで、砦はにわかに騒がしくなる。

 ザノバさんは指揮官の人と部隊編成や作戦をチェックし直し。

 ロキシーさんは砦の屋上に殲滅用の魔法陣を書き始め。

 ルーデウスはそんなロキシーさんの手伝いへ。

 一般兵達は武器や鎧の整備とか、遺書の準備とかを始めた。

 私も誕生日プレゼントの剣を念入りに研いで磨いておく。

 

「エミリー殿、よろしいですかな?」

「うん?」

 

 そんな時にザノバさんが話しかけてきた。

 はて、何の用だろう?

 

「実は折り入ってお願いがありまして。

 此度(こたび)の戦、余は別働隊を率いて砦を飛び出し、敵軍の大将を捕らえるつもりでおります。

 その部隊にエミリー殿のお力を貸してほしいのです」

 

 へー、そんなこと考えてたんだ。

 あれ?

 でも、そんなことしなくたって、ルーデウスとロキシーさんの魔術で吹っ飛ばせばそれで勝てるんじゃない?

 

「別に、いいけど、なんで、わざわざ?」

「この戦いはあくまでも局所的なものですからな。

 大勝できたとしても、戦自体を終わらせることはできないでしょう。

 しかし、あれだけの大軍勢を率いる者を人質に交渉すれば、戦自体を終わらせることができるやもしれませぬ。

 いつまでもエミリー殿達をここに縛りつけておくわけにも参りませんからな」

「んん?」

 

 話がちょっと難しいぞ?

 

「要は、敵の重要人物を人質にしたいのです」

「なるほど」

 

 ザノバさんがわかりやすく一行に纏めてくれた。

 ルーデウスか静香あたりから私の扱い方を聞いてたのかもしれない。

 

「そういう、ことなら、任せて」

「ありがとうございます」

 

 力こぶを作りながら、ザノバさんの頼みを了承。

 ただ、ルーデウス達に言ったら付いて来そうだから黙っとくように言われた。

 ルーデウスの目的は砦よりザノバさんだし、そんなルーデウスがザノバさんについて行って砦が手薄になったら落ちかねないからって。

 まあ、そういうことなら仕方ないね。

 

 でも、ルーデウス達の予想によると、パックスがヒトガミの使徒で、私達を殺そうと試みてる場合。

 戦争で疲弊したところを狙って、背後からランドルフさんを差し向けてくるかもしれないって言ってたから、余力を残して戦った方が良さそう。

 ランドルフさんの気配がしたら、速攻で砦に取って返さないと。

 パックスとの謁見の時にランドルフさんの魔力は見たから、来ればわかる。

 

 そんな感じで、作戦が決定した。

 砦の防衛にはルーデウスとロキシーさん。

 敵が使ってくるだろう魔術のレジスト、及び聖級以上の魔術による敵の殲滅を担当する。

 

 別働隊として、私を含む、ザノバさんが率いる人質捕獲用の部隊が100人。

 敵の大将を捕まえて、人質交渉による戦争終結を目指す。

 これが大雑把な作戦だ。

 私にはこの作戦が正しいのか間違ってるのかなんてわかんないけど、ザノバさんは自信ありそうだったし、まあ大丈夫でしょ。

 

 

 

 

 

 その翌日。

 思ったよりも早くに敵が来た。

 5千って割には少ないように見えたけど、ザノバさん曰く後詰がいるらしい。

 全軍を一度に突撃させてくるようなのは、脳筋のバカか、それしか道がない場合だけだってさ。

 

 そんなことを考えてる私達は森の中。

 オーベールさんも言ってたけど、奇襲はタイミングが命。

 ザノバさんの狙いは、ルーデウス達の魔術で敵が大混乱に陥った瞬間だ。

 異論はない。

 私もランドルフさんとの戦いに備えて体力を温存しとかないといけないし、楽に勝てるならその方がいい。

 

「始まった」

「そのようですな」

 

 敵軍の中から巨大な砂嵐が発生する。

 土聖級魔術『砂嵐(サンドストーム)』だ。

 

「事前に師匠に作っていただいた大量の落とし穴を、あれで塞ぐつもりでしょうな」

「へー」

 

 ザノバさんによる戦略解説は聞いてて楽しい。

 合戦っていうのは剣術とは違ったロマンがあるよね。

 魔術ありきのファンタジー戦術ならなおさら。

 まあ、今は半分部外者っていう余裕のある立場にいるからそう思うだけで、転移事件の時みたいに余裕のない状態で渦中に叩き込まれると、ただの地獄なんだけどさ。

 

「おー」

「今度は風聖級魔術『颶風(バイオレントストーム)』ですな。

 師匠が砂嵐(サンドストーム)をレジストするために放ったのでしょう」

 

 ザノバさんの言う通り、砦から砂嵐をかき消すような暴風が吹いてきた。

 砂嵐はあっさりと霧散させられ、敵の作戦は失敗に終わる。

 でも、敵はすぐにもう一回砂嵐の魔術を使ってきた。

 

「あれは、どういう、戦略?」

「ふむ……恐らくは連発することで、こちらが先に魔力切れを起こすと踏んだのかと。

 もっとも、師匠の魔力総量の前では失策でしょうが」

 

 ああ、ルーデウスはやたらと魔力量が多いからね。

 私より魔力量の多い姉でも、聖級魔術は三回も使えば魔力切れになるって言ってたのに、ルーデウスは多分100回は余裕で使える。

 ルーデウスも私達神級剣士とは別方向で化け物なのだ。

 

 その後、砂嵐の発生と暴風による相殺が5回くらい続いた後、敵軍が進行を始めた。

 

「動いた」

「動きましたな。こちらが魔力を使い切ったと、希望的な観測でもしたのかと」

 

 無能か。

 いや、ルーデウスの化け物っぷりを知らないんじゃ仕方ないのかな?

 

 そこからは戦争という名の蹂躪が始まった。

 最初はお互いに弓矢と魔術をぶつけ合ってたんだけど、

 砦から放たれた大魔術が敵軍の魔術師っぽい一団を壊滅させてからは、敵軍はこっちの魔術をレジストできなくなって、ルーデウス達の大規模魔術によって面白いように崩壊していった。

 指揮系統も狂ったのか右往左往。

 もう勝敗は完全に決していた。

 

「では、そろそろ行きますかな」

「了解」

 

 ザノバさんが指差した方向にいる、恐らくは総大将の一団と思われる奴らが逃げようとしてたから、そいつを捕まえるために私達も出撃。

 まだルーデウス達の魔術は猛威を振るってて、そこら中に雷やら暴風やらが吹き荒れてるけど、ここで行かないと大将には逃げられちゃう。

 

 暴風を突っ切り、私の水神流で雷を受け流しながら前へ進んだ。

 

「『光の太刀』!」

「「「ギャーーー!?」」」

 

 混乱状態でも向かってきた敵兵だけをぶっ倒しながら前進。

 向こうは大所帯だから、私達より更に足が遅くて追いつくのは簡単だった。

 そこへ挨拶代わりに一発。

 

「『烈断』!」

「「「うぁああああああ!?」」」

 

 それだけで数十人は軽く倒した。

 私の技も進化したものである。

 そして、私の穿った敵軍の穴からザノバさん達も突撃。

 私達は一塊となって敵軍を蹴散らし、大将への道をこじ開けていく。

 

 ザノバさんの戦いぶりは凄かった。

 技術なんてこれっぽっちもないんだけど、敵兵の攻撃を食らっても神子パワーの防御力によってビクともせず、反撃の棍棒で殴り倒す。

 飛んできた魔術も、火はマジックアイテムの鎧の力で無効化し、

 半端な水、風、土は物理攻撃と大して変わらないから神子パワーの前には通じず、進撃のザノバは止まらない。

 本当にやばい攻撃は私が受け流せる。

 

 これ、100人もぞろぞろと引き連れてくる必要なかったでしょ。

 どう考えても私とザノバさんだけで充分だ。

 むしろ、100人もいるせいで守り切れなかった味方がフレンドリーファイアの雷に打たれて何人か逝っちゃってるし……ルーデウスが気に病みそう。

 

 まあ、敵の中にヒトガミが用意した強い奴がいたかもしれない以上、結果論なんだけどさ。

 そういうのがいた場合、私がそいつと戦ってる間に、100人の兵士達が敵の雑兵をかき分けて、

 ザノバさんが敵の大将に突貫をかますっていうのが、事前にザノバさんが立てた作戦だった。

 結局、正解なんて後にならなきゃわかんないってことだ。

 

 少なくとも、盛大に作戦を間違えた目の前のこいつよりは、私達の方が遥かにマシでしょ。

 

「お、幼いエルフの女剣士……!? 貴様『紛争地帯の悪魔』か!?

 最近は全く噂を聞かなかったというのに何故!? 何故こんなところに!?」

 

 私を見て頭をかきむしりながらそんなことを叫んだのは、敵の大将っぽい奴だ。

 そういえば、昔はそんな異名で呼ばれてたことがあったなぁ。

 妖精剣姫の方が気に入ってるから、できればそっちの方を広めておいてほしい。

 まあ、こいつはここで捕まるから無理だと思うけど。

 

「剣神流『疾風』!」

「「「ぐはぁーーー!?」」」 

「せいや!」

「くそっ!? なんだこれは!? 離せ! 離せぇ!」

 

 私の連続斬りで親衛隊っぽいのを全滅させ、ザノバさんがここに来る前に装備したオルステッドグッズの『乱獲の投網』で大将を捕獲する。

 目的は果たしたってことで、そのまま私達はトンズラした。

 この頃にはルーデウス達の魔術も消えてたから、雷に打たれる心配もなく、私が殿になって確実に生き残りの全員が生還。

 

 別働隊の戦死者は10名。

 砦での戦死者も数名。

 結局、懸念してたランドルフさん襲来もなく、敵にヒトガミの使徒がいるなんてこともなく、10倍の人数に挑んだ戦いは、蓋を開けてみれば私達の圧勝で幕を閉じた。

 

「あ、あのさ、ザノバ……落雷とか、当たってないよな?」

「……師匠、戦には犠牲は付き物です。そして、犠牲を出したのは全て、指揮官である余の責任。

 師匠が気に病むことはありません」

 

 ただし、自分の魔術が味方に当たったって知ったルーデウスは、可哀想なくらい真っ青な顔になった。

 まあ、そうなるよね。

 いくら皆覚悟の上だったとはいえ、私だってフレンドリーファイアなんてしちゃったら相当気に病むだろうし。

 でも、ルーデウスはそれに輪をかけてトラウマになってそうなほど顔面から血の気が引いてる。

 顔面ブルーレイだ。

 

 やっぱり、ルーデウスに戦いは向いてない。

 命のやり取りに向いてない。

 人が死ぬのが当たり前の戦争なんて、なおのこと。

 元日本人としての真っ当な感覚が、ここでは毒なのだ。

 今回はザノバさんのためにって頑張り過ぎて、無理し過ぎた。

 ゆっくり休んでほしい。

 

 ルーデウスのメンタルケアに関してはロキシーさんに任せよう。

 そして、もしランドルフさんと戦いになるなら私がやろう。

 改めてそう決意した。




・紛争地帯の悪魔

一時期、紛争地帯の各地に現れ、数百数千の屈強な兵士達を斬りまくり、行く先々で血の海を作り出したという恐怖の象徴。
命が惜しければ、エルフの少女に手を出してはいけない。
見た目に騙されて良からぬことを考えれば、確実な死が待っているのだから。

何千人も斬り捨てたことで、一人の少女の人殺しに対する忌避感をまるっと吹っ飛ばしてしまい、覚悟ガン決まり状態に至らしめた紛争地帯の罪は重い。
ただし、その経験のおかげで最強剣士が誕生したと思えば、むしろグッジョブの可能性も無きにしもあらず。

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