剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
敵軍を退け、ザノバさんが捕まえた大将(なんと敵国の王族らしい)を使って人質交渉を始め、ルーデウスのメンタルもロキシーさんの献身的なケアで大分回復してきた頃。
その報せは齎された。
めっちゃ急いだんだろう、疲労困憊のジンジャーさんの手によって。
「クーデター? また?」
「ああ。シーローンのジェイド将軍が、第11王子とかいうのを担ぎ出して、パックスに反乱を起こしたらしい。
もう軍を率いて、王城を包囲してるそうだ」
疲れ切ったジンジャーさんがどうにか伝えてくれた情報を、ルーデウスが遅れてきた私に噛み砕いて教えてくれた。
なんでも、パックスがぶっ殺した前の王様に忠誠を誓ってたジェイド将軍とやらが、まだ3歳で、しかも農民である自分の妹の子供だから隠されてた、けど、そのおかげでパックスの粛清の魔の手から逃れられた第11王子を旗印にして決起。
前王の仇を取るべく、パックスにクーデターを仕掛けたそうだ。
立て続けにクーデター2連発とか、この国ではクーデターが流行ってるのかな?
という冗談はさて置き。
まさかのクーデター返しを食らったパックスは、僅かな手勢と共に籠城してるらしい。
なんで?
ランドルフさんがいればこんな小国の、しかもクーデター2連発で国力の落ち切ってる国の軍隊くらいどうにでもなりそうなのに。
パックスが何考えてるのかはわからない。
でも、ザノバさんは即決でパックスを助けに行くことを決めた。
ジンジャーさんが必死に引き留めても、ルーデウスが頑張って説得しても、ザノバさんが意見を変えることはなかった。
割と揺れてるようには見えたけど。
正直、ザノバさんが愛国心と使命感で戦わなきゃいけない場面はもう終わった。
戦争は他ならないザノバさんの手によって終結に向かってる。
今起こってるクーデターはただの内輪揉めであって、王じゃなくて国のために戦ってたはずのザノバさんが何とかする義理はない。
ルーデウスが説得のために使ったその理屈は、ポンコツな私が聞いても筋が通ってるように感じた。
いや、ザノバさんが論破されかけてるの見てそう思っただけだろうけど。
でも、ほぼ論破されかけてたザノバさんは、この一言で逆にルーデウスを納得させてしまった。
「あんなのでも余の弟……最後の肉親です」
家族のため。
その言葉を持ち出されれば、家族のためにヒトガミと戦う道を選んだルーデウスは何も言えない。
え?
肉親なら第11王子もそうだろうって?
会ったこともない、生まれたことも知らない、そもそも将軍が旗頭にするために前王の血を引いてるって嘘言ってるだけの可能性まである奴を肉親認定はしてないっぽいよ。
こうして、ルーデウスは半ば無理矢理説得されてしまい、ジンジャーさんの必死の懇願も虚しく、私達はパックスを助けに行くことになった。
私は別に異論はない。
パックスを死なせるなっていうのも、今回の仕事に入ってるしね。
ジンジャーさんの最低限の望みである「ザノバさんに死んでほしくない」って願いだけは私もルーデウスも必ず叶えると約束し、私達はロキシーさんも一緒にパックスの籠城してる首都へと向かった。
私の移動手段はダッシュ、ルーデウス達の移動手段は魔導鎧一式だ。
ルーデウスが一式に乗り込んで、ロキシーさんとザノバさんの二人を乗せた馬車を引っ張る形。
これなら、せっかく運搬してもらった一式も首都に持っていける。
私は一式ルーデウスより早く走れるから併走してるだけで良かったんだけど、他の二人は乗り心地最悪の馬車のせいでゲーゲー吐いてた。
休憩を挟み挟みだったせいで、スピードの割に首都まで5日もかかったし、城への突入前にも休憩がいる。
しかも、休憩だけだと一式の稼働に使ったルーデウスの魔力も回復しない。
魔力を回復させるには寝るしかないのだ。
ルーデウス曰く、戦闘稼働じゃなかったからまだ魔力はそこそこ残ってるらしいけど、オルステッドと戦うのは無理なレベルだろうって。
この状態でランドルフさんとやり合うのは危険だね。
「ランドルフさんが、敵だったら、私が、戦うから」
「ああ、頼む。俺はサポートに徹するよ」
「ん」
元々そのつもりだったし、ルーデウスは大船に乗ったつもりでいるといいよ。
その後、休憩を取り終えたロキシーさんとザノバさんと共に、私達はザノバさんに教えてもらった、王族だけが知ってるという城への抜け道とやらを通って王城へ。
ちなみに、一式は大きすぎて通路を通れなかったから、ここに置き去りだ。
ますますルーデウスにランドルフさんと戦わせるわけにはいかなくなった。
城の周辺には兵士とかが大量にいたけど、この抜け道には待ち伏せがいるとかもなく。
ルーデウスが昔ヒトガミに誘導されてこの国に来た時にザノバさんと出会った思い出の場所とか、ロキシーさんが宮廷魔術師だった頃に住んでた部屋の前とかを通って。
緊張を紛らわそうとしてるのか、それとも知識を披露したいだけなのか、結構饒舌に話すザノバさんにこの城のことを色々と解説されながら、王の部屋がある最上階を目指す。
城内は待ち伏せどころか、人っ子一人いなかった。
最上階、王の寝所のある部屋の前。
その入り口である階段の踊り場で椅子に座ってる、一人の男を除いて。
「なんで、この国の王様は、こんな高いところに寝所なんて作ったんですかねぇ」
骸骨みたいな顔をした剣士。
『死神』ランドルフ・マリーアン。
彼は椅子にもたれかかるように座ってて、やる気というものが全く感じられない。
「こんなところに寝所なんて作ったって不便なだけでしょうに。
執務だって、いちいち下に降りるのも面倒でしょう。
食事を運ばせても、1階の炊事場からここまでじゃあ、若干冷めてしまう。
年を取って足腰が弱くなれば、昇り降りにも一苦労だ。
火事なんかあったら逃げ遅れてしまうかもしれない。
私だったら一階に作る。
執務だってスムーズだし、ご飯も温かいものが食べられる。
どこかに出かけるのだって簡単だ。
と、思うのは、私が庶民だからなんでしょうねぇ」
ペラペラと、割とどうでもいいことを喋り続けるランドルフさん。
謁見の時もそうだったけど、見た目の割にお喋りが好きなのかもしれない。
「ランドルフ殿」
「ご機嫌麗しゅう、ザノバ殿下。こんなところまで、いかがなさいました?」
焦れて話しかけたザノバさんに、ランドルフさんはニッコリと笑って受け答える。
相変わらず、骸骨の笑顔は中々に怖い。
狙ってやってるならともかく、本当に友好的に話しかけてくれてるんだったら、ちょっと可哀想。
顔で損してるよ。
「この城の様子について、何かご存知か?」
「ええ、もちろん、もちろんご存知ですとも」
そう言って、ランドルフさんは右眼の眼帯をズラした。
「陛下の命にて、この『空絶眼』の力を使い、王城周辺に壁を作りました。
その力により、現在もなお、敵軍勢を引き止めております」
ランドルフさんの右眼は赤く光ってて、六芒星みたいな文様が浮かんでた。
魔眼だね。
私の魔力眼とは見た目も性能もまるで違うけど。
壁を作る魔眼かぁ。
あれはあれで便利そう。
さてさて、どう攻略すべきか。
「なるほど。他の者は?」
「皆、討ち取られるか、逃げました」
「……それで、その陛下はいずこに?」
「この奥に」
「そうか、うむ、陛下の守護、大義であった」
ザノバさんが奥へ進む。
ランドルフさんがすっと立ち上がって、手を伸ばして止めた。
「何故止める?」
「陛下には、誰も通すなと命じられております」
「しかし、火急の用なのだ」
「例え火急の用であっても、今、陛下は大変お忙しいのです」
「どいてもらおう。余は、陛下をお救いに参ったのだ」
「陛下は、この城を離れる気はないようです」
ランドルフさんが通してくれない。
そして、やっぱりパックスが何考えてるのかさっぱりわからない。
あの魔眼の発動にだって魔力がいるんだし、見た感じランドルフさんの魔力はもう随分と減ってる。
こんなんじゃランドルフさんの無駄遣いだ。
バカなの?
やっぱり、パックスはバカ殿なの?
「陛下と直に話をする!」
「まあ、お待ちください。陛下は今、非常に心を痛めておいでです」
「心を?」
「ここからは城下の様子がよぉーぅく見える。
城壁の内側で敵意を向けて睨んでくる兵士も、城壁の外側に集まりつつある兵士が、なんでか王を助けようともせず、じっと見守っている様子も……」
言われて窓の外を見てみれば、確かに結構な人の群れが見える。
でも、さっき城に突入する前に見てきたけど、城壁の外側にいるのは兵士じゃなくて、クーデター2連発のせいで街から追い出されて途方に暮れてる哀れな被害者の皆さんだったけど。
「その心がお鎮まりになるまで、私はここを動きません」
「いつお鎮まりになるのか」
「さて……いつになりますことやら、そう時間は掛からないと思いますがねぇ」
「ええい! お前と話していても埒があかん!」
ザノバさんがランドルフさんの肩を掴んで強引に押し退けようとする。
あ、それはマズい。
「剣神流『韋駄天』!」
「むぅ……」
ランドルフさんがザノバさんを体術でぶん投げようとしてたので、剣神流の踏み込みで距離を詰めて、ランドルフさんの手を弾いておいた。
一応、ザノバさんを殺そうとした感じじゃなかったから、剣は抜かずに手刀を使った攻撃だけど。
「おお、速い。やっぱり、あなた強いですねぇ。
でも、行かせたくはないんですよ。
どうか引き下がってはくれませんか?
ちょっと待ってくれるだけでいいですから」
ランドルフさんは困ったような顔でそんなことを言ってきた。
戦うつもりはないように見えるけど……でも、心理誘導もお手のものな北神流だからなぁ。
私ですら少しはそういうことができるし。
もっとも、戦闘中に多少意識を誘導するくらいで、話術とかこの手の演技とかは壊滅的だけど。
「どうする?」
戦っていいのかちょっと判断がつかなかったから、私は後ろのルーデウスをチラリと見た。
判断は任せた、頭脳労働担当。
「ランドルフさん、あなたが待てと言うなら待ちますが……。
その前に一つ聞いておきたい事があるのですが、いいですか?」
「なんでしょうか」
「ヒトガミという存在を、知っていますか?」
「ええ、知っていますとも。それが何か?」
ランドルフさんはニッコリと笑いながらそう答えた。
……なんとなく、本当になんとなくだけど、オルステッドと初めて会った時の私の反応と似てる気がした。
聞かれたから答えたけど、別に他意は一切ないって感じ。
でも、ルーデウスはそう思わなかったのか、ランドルフさんに向けて殺気を放ってしまった。
条件反射っぽい殺気だ。
ヒトガミを知ってる=敵みたいな反応。
オルステッドに似てきたね。
「ああ、結局、やるんですか」
その殺気を受けて、ランドルフさんがやる気になった。
緑色に光る魔剣をスラリと抜いて構える。
私もそれに応えるように剣を抜いた。
「さてさて、あまり勝ち目は見えませんが、私もこう見えて腐っても七大列強。
そう簡単に通れるとは思わないでくださいね」
またニッコリと、今度は威圧するような感じで笑うランドルフさん。
……なんだろうなぁ、この感じ。
ギレーヌやシャンドルと戦った時を思い出すっていうか。
つまり勘違いの予感だ。
まあ、向こうが既に戦闘モードに入ってる以上、悠長に話なんかしてたら、誤解を解く間もなく誰かがやられるだろうけど。
私を狙ってくれるならともかく、会話の隙を突いてロキシーさんあたりを人質にでもされると辛い。
まさか、アリエル様に殉じる覚悟があったルークさんの時みたいに、諸共斬るつもりでいくわけにもいかないし。
そうならないためにも、無駄口叩かずに応戦した方が良さそう。
そうして、若干モヤッとするものを感じつつも、七大列強との戦いが始まった。
モヤってるせいで全然楽しく感じない……。
いや、いくら七大列強とのガチバトルとはいえ、シャンドルの孫相手に殺し合うなら、モヤってなくても楽しくはなかっただろうけどさぁ。
それにしたって、レイダさんの時みたいに滾りもしないなんて嫌な感じだ。
おのれヒトガミ!