剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「━━と、以上になります」
「……そうか」
ルーデウスからの報告を受けて、オルステッドが眉間に皺を寄せた。
私も一応報告に立ち会ってるけど、正直来た意味なかったかも。
報告はルーデウスだけで事足りるし、私の頭じゃ二人の会議にはついて行けない。
失敗した。
ザノバさんのところがパックスとジンジャーさんで修羅場気味だったから逃げてきたけど、こっちじゃなくて家に直帰すれば良かった。
「……王竜王国国王レオナルド・キングドラゴンはヒトガミの使徒だった。恐らく、シーローン王国将軍ジェイドも使徒だろう。
ヒトガミはこの二人を操る事でパックスを追い詰め、自殺に追いやろうとしたのだ。
それを阻止したことに関してはよくやった」
よくやったと言いつつ、オルステッドの表情は優れない。
あれ?
私、何かミスった?
「だが、パックスは精神が擦り切れて廃人化。シーローン王国は二度目の内乱でボロボロか。
パックスを逃した以上、首魁の討伐で沈静化することもない。国はしばらく荒れたままだろうな」
「申し訳ありません……」
「お前達のせいではない。お前達の立場でこれを阻止するのは相当に困難だったはずだ」
「しかし……」と、オルステッドは更に難しい顔になる。
「ルーデウス。お前から見て、パックスが立ち直るまでに、どれほどの時間がかかると思う?」
「……正直、立ち直れるかどうかすらわかりません。
ベネディクト王妃が妊娠してるって話ですし、父親として奮起できればあるいはといったところですが」
「少なくとも年単位の時間がかかる上に、それも可能性が高いとは言えないか……。
パックスが立ち直るまでシーローン王国が保つか。俺達の手で無理矢理存続させようとしてもギリギリといったところだな」
オルステッドは「はぁ」とため息を吐いた。
「可能性がある以上、あがいてはみるが……シーローン
ん? 共和国?
それがパックスが国に与えるはずだった、オルステッドにとって都合のいい現象だったのかな?
「ぬぅ……」
「あの、シーローン共和国って、そこまで重要な要素なんですか?」
「ああ。パックス・シーローンは本来、クーデターで王となった後、燃え尽きて王政に疑問を持ち、共和制を提案する。これは前に話したな」
「はい」
聞いてない。
けど、頭脳労働担当が聞いてるなら問題ない。
私は事務所の棚からジュースを取り出してきて、そこらの椅子に座って飲みながら二人の会話を一応聞いておいた。
「共和国となってしばらくして、奴隷商人だった男が台頭してくる。名を、ボルト・マケドニアス。
奴隷市場との繋がりが強かったパックスはその男を重用する。ボルト・マケドニアスは、国の重鎮となり、シーローン共和国に根を張る」
「何をする人物なんですか?」
「ボルト・マケドニアス自体は何もしない。ただ、その子孫から、『魔神』ラプラスが生まれる」
魔神ラプラス。
思わぬところから出てきたビッグネームに、聞き耳立ててた私のエルフ耳がピクリと反応した。
「共和国が誕生しなければ、ラプラスがどこから生まれてくるかわからなくなる。
ラプラスはヒトガミに至るため、必ず殺さなければならない相手だ。
奴は復活した後、しばしの潜伏期間を置いた後、仲間を集めて戦争を起こす。
奴の配下を倒しつつ、ラプラスを仕留めるには、多大な労力と魔力がかかる。
その直後には、ヒトガミと戦わなければならないのだからな」
「ええと……ラプラスを倒した後、魔力を回復させてから、という流れではダメなのですか?」
「ラプラスの復活する時期は概ね決まっている。ループの終わりに近い時期だ。
もっと早い段階で復活させようと画策したこともあったが、無理だった」
なんか二人が私の知らない話し始めた。
ラプラスはまだいいとして、もう一個の方はさすがに聞き捨てならない。
「ループ?」
「「あ」」
私の言葉に二人が反応した。
ルーデウスは「言ってなかったんですか?」みたいな目でオルステッドを見て、オルステッドは「忘れてた」みたいなバツの悪そうな顔になった。
こいつら。
「どういう、こと?」
「……俺は前に言ったな。俺には運命を見る力を得ると同時に、世界の理から外れる術がかけられていると」
「言ったっけ?」
「ある程度未来が見えて、ヒトガミからは見えなくなるって言ってたやつだ」
ルーデウスから即行で補足説明が飛んできた。
なるほど、あれか。
「それは半分嘘だ。俺に未来を見る力はない。
俺にかけられている秘術は、魔力の回復力を犠牲に、いつどこで死んだとしても、記憶を保ったまま最初からやり直すというものだ」
「つまり、タイムリープだ。死に戻りとも言う」
「なるほど」
アニメでたまに見るあれか。
滅茶苦茶な能力だけど、オルステッドなら持っててもおかしくない。
だって、オルステッドだし。
「最初とは甲龍暦330年の冬。中央大陸北部、名も無き森の中だ。
猶予はそこから200年。
それを過ぎた時、ヒトガミを殺していなければ、俺は強制的にそこに『戻される』。
例え、その途中で俺が死んだとしてもな」
「つまり、今から100年後くらいまでにヒトガミを倒せないと、ループして全部無かったことになるってことだ」
「へー」
甲龍暦っていうのは、この世界の年号だ。
『甲龍王』ペルギウスさんがラプラスを倒した偉業を讃えてつけられたらしい。
ええっと、今が甲龍暦何年だっけ?
確か、427年だったかな?
「ループすると、私達、どうなる?」
「……今までであれば、俺以外は全員記憶を失っていた」
「そっか。じゃあ、次は、最初から、仲間に、誘ってね」
オルステッドは最高の先生だから、ちょっと叩きのめしてくれれば私はあっさりと懐くだろうし。
そう言ったら、オルステッドは何故かポカンとした顔になってた。
でも、なんかちょっと嬉しそうだ。
ボッチ生活が早めに終わるのが嬉しいのかもしれない。
この寂しがり屋のウサギさんめ。
「そうか……。話を戻すぞ。シーローン共和国が誕生せねば、ラプラスの復活場所がわからなくなるという話だ」
「はい」
「ラプラスは復活直後であれば簡単に倒せる。何せ赤子だからな」
ああ、前に言ってたラプラスに戦争を起こさせない秘策ってこれのことだったのかな?
「だが、復活場所が特定できなければそれもできん。
そして、戦争を経由してはヒトガミに届く可能性は低い。
シーローン共和国の樹立失敗は、ループ全体の失敗に直結しかねないほどに大きい」
「そ、そんな……!?」
ルーデウスが真っ青な顔になった。
追い詰められたピレモンさんみたいな顔だ。
やっぱり血が繋がってるのか、ちょっと似てる。
「そうなったら、私が、ラプラス、倒せばいい」
列強上位に挑む。
望むところだよ。
今はまだ瞬殺されるかもしれないけど、ラプラスの復活って何十年も先なんでしょ?
だったら、それまでに強くなってラプラスを倒す!
寿命が長いエルフの血が入ってて良かった。
「お前一人では、恐らくラプラスには届かんぞ」
「じゃあ、仲間、集める」
前にラプラスを倒したペルギウスさん達だって、一人で戦ったわけじゃない。
魔神殺しの三英雄の他の二人。
更に、その戦いで死んじゃった人を含めれば七人で袋叩きにしたって話だ。
オルステッドに挑む時にも考えたことだけど、シャンドルなり、アレクなり、ガルさんなり、レイダさんなり、ランドルフさんなり、ぞろぞろと引き連れていけば勝てるんじゃないかな?
あ、ガルさんとかレイダさんは寿命的に無理か。
「……シーローンがどうにかなればそれが最善だが、不可能であればそうする他ないか。エミリー、任せられるか?」
「当然」
前の魔王トラウマ任務を始め、オルステッドだってこうなる可能性を考慮してたんだろうし、だったら勝ち目は普通にあるはずだ。
私が魔神殺しの三英雄のリーダー的存在、かつての『龍神』ウルペンの役をやるよ。
いや、やってやるよ。
魔神ラプラス、覚悟せよ!
「そうか。ルーデウス」
「わかってます! 未来の仲間を集める計画、必ずや成し遂げてみせます!」
だから見捨てないでください! って続きそうな必死な声だった気がするけど、気にしないようにしよう。
頼りにしてるよ、通訳デウス。
「だが、まずはシーローンだ。再度調べ上げ、立て直しが可能ならば立て直すぞ」
「了解!」
そうして、私達はまたもペルギウスさんを使い倒してお小言を貰いつつもシーローンに取って返し……そこで知った。
シーローン王国がもう再起不能になってるってことを。
例の第11王子とジェイド将軍とやらは、何者かの襲撃を受けて死亡。
私達が捕まえた敵国の王族も、停戦協定が完全に纏まる前に奪還された。
更に、私達がいないって情報でも聞きつけたのか、敵国は残ってた後詰の戦力を使ってカロン砦を突破。
上層部が丸々ダメになってるシーローンにこれを防ぐ力はないと思ったのか、首都から逃げ出す人達が大量発生。
ボルトなんちゃらとかいう奴隷商人も、店を畳んで我先にと逃げちゃったらしい。
それを聞いてオルステッドは苦々しい顔で一言「ヒトガミの仕業だろう……」って呟いてた。
私達がシーローンを離れてまだそんなに経ってないのに……。
電光石火の早業だ。
アスラ王国の戦いでは、レイダさんをぶつけてきたことと、シャンドルを遠ざけたこと以外はロクな手を打てなくて、割と簡単にボッコボコにされたヒトガミとは思えない手際の良さ。
誰か優秀なブレーンでも雇ったんじゃないかってレベルだよ。
なんにせよ、オルステッド曰く、これでシーローン共和国が誕生する可能性はほぼ完全に潰えた。
約80年後、ラプラスとの戦争が起こる。
それに備えて修行だ!
オルステッド「お前一人では、恐らくラプラスには届かんぞ」(届かないだろう。届かない、はずだ。だが、この成長率からすると…………もしかするのか?)
社長、エミリーのせいで常識が壊れる。