剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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88 未来を見据えて

 シーローンでの戦いが終わってから、ルーデウスは前にも増して精力的に動き始めた。

 第二次ラプラス戦役を見据えて、それはもう色々とやってる。

 

 まず、ラプラスの軍勢と正面切って戦うことになるだろう世界各国にラプラスの情報を伝えて、戦争に備えてもらうためのパイプ作り。

 つまり、お偉いさんとのコネ作りだ。

 

 とはいえ、これは一朝一夕でできることじゃない。

 だってこれ、前世で言えば、日本、アメリカ、中国、ロシア、その他諸々、とにかく色んな国の総理大臣とか大統領とか国家主席とかに声をかけまくる作業だもん。

 どれだけの権力があればそんなことできるんだって感じ。

 まあ、ウチの陣営には権力最強のアリエル様がついてるから、時間はかかってもどうにかなると思うけど。

 

 アイシャちゃんの作ったルード傭兵団も、ルーデウス自らが口を出して、ルーデウスの活動をサポートするオルステッド配下の組織に生まれ変わらせた。

 今後はもっともっと大きくして、各国に支部とか作って、情報収集やら何やらを人海戦術によって効率良く進めるとか言ってた。

 

 これに何の利点があるのかと言うと、例えばシーローン事件の時点でこの組織が世界に広がってれば、

 私達が自分の足で頑張って情報収集をする手間を省いて、出発を決めた時点で例の将軍がクーデターを目論んでる情報まで掴めてたかもしれない。

 そうすれば、到着して即将軍をぶっ潰すことで、クーデターを未然に防ぎ、シーローンが吹っ飛ぶこともなかったかもしれない。

 

 という説明をルーデウスにされた。

 凄いな、アイシャちゃん。

 そんなことができる組織を作ってたなんて。

 

 更に、消耗させちゃいけないオルステッドの代わりにラプラス本人を討伐するための、戦闘メインの武闘派集団の勧誘も始めた。

 私の将来の仲間候補だね。

 列強上位の残りの二人、一位の『技神』と三位の『闘神』は事情があってスカウトできないっぽいけど、その二人には到底及ばないとはいえ、強い人はいっぱいいる。

 

 『剣神』『水神』『北神』『死神』『鬼神』などなど。

 神という称号を持ってる人は大体やばい。 

 オルステッド曰く、七大列強の下位と序列外の15位くらいまでの間に大した力の差はないとのことだ。

 つまり、この人達を片っ端からスカウトしていけば、列強下位クラスが10人くらい集まることになる。

 とんでもない戦力だよ。

 

 他にも、神の二つ名は持ってなくても『甲龍王』とか『不死魔王』とかの事実上神級の強い人もいる。

 神級には届かないまでも、一歩下の帝級や王級上位の人達なら、戦い方によっては、ラプラス相手に一矢報いるくらいはできるってオルステッドは言ってた。

 なら、そういう人達も数を揃えて神級のサポートに回せば、ちゃんとした戦力になるってことだ。

 

 ルーデウスはそういう人達のスカウトも始めてる。

 剣神や水神は寿命的に第二次ラプラス戦役まで生きられないから、その弟子達や孫弟子達がキーマンになるみたいだけど。

 レイダさんにその話をしたら、「紹介状は書いてやるから、後は自分で説得しな」って言われた。

 

 ついでに、オーベールさん達も自分の弟子や北神流奇抜派の皆さんに手紙を書いて話を通してくれるそうだ。

 シャンドルは長命だからそのまま仲間になるし、アレクとの連絡が取れれば北神流もコンプリート。

 ランドルフさんも抱き込んだし、残るは在野の強い人達と剣神流だ。

 

 というわけで、私は忙しい中でようやく纏まった時間の取れた通訳デウスと、その護衛のエリスさんを連れて剣の聖地に飛んだ。

 ここに来るのも久しぶりだ。

 アスラ王国の政争が終わった後に、オルステッド戦に協力してくれたガルさんにお礼を言いに来た時以来か。

 そんなガルさんに事情を話して勧誘したところ、

 

「そんな先のこと知るか。俺様はオルステッドを斬るための修行で忙しいんだ。そんな用事なら帰れ」

 

 と、にべもなく追い返された。

 せっかく来たんだし、私も成り行きとはいえガルさんより上の列強の地位を手に入れたってことで、久しぶりの勝負はしてきたけど。

 

 結果、お互いの手足が斬り飛ばされて宙を舞う激闘の末に、私が勝った。

 ガルさんは荒れた。

 荒れて更なる修行に身を投じた。

 いつかのエリスさんみたいだ。

 体壊さなきゃいいけど。

 

 で、ルーデウスの方もせっかく来たんだから、このままスゴスゴと退散するのももったいないと感じたのか、ガルさんは無理でも他の剣神流の人達に声かけてた。

 剣帝の二人とかに。

 結果は思わしくなかったみたいだけど。

 あの二人、ガルさんの信者みたいなところがあるからなぁ。

 

 私の方はガルさんとの勝負の後、剣術三人娘の一人こと、ニナさんと話してた。

 

「見てたわよ、エミリー。まさかお師匠様に勝っちゃうとはね。

 ちょっと前に稽古した時も、さすが七大列強って感じでやたら強くなってるとは思ったけど、相変わらず化け物だわ……」

 

 ニナさんには、褒めてるんだか引いてるんだかわからない、笑顔だけど若干引きつってるような顔で、そんなことを言われた。

 ちょっと前に稽古したって言葉からもわかるように、実はニナさんとはつい最近にも会ってる。

 アリエル様の戴冠式の時だ。

 

 ちょっと前に、長いこと病気してたアスラ国王が遂にお亡くなりになり、グラードン派の悪あがきを叩き潰して、アリエル様がようやく正式に国王になった。

 その時に戴冠式と合わせて盛大なパレードが開かれたんだけど、イゾルテさんがニナさんにも手紙を出してて再会できたのだ。

 

 お祭り騒ぎを満喫した後、久しぶりに三人とやった稽古は楽しかった。

 その時の一件でニナさんも、元々仲間だったエリスさんや、アリエル様配下のアスラ王国所属な上に、レイダさんの紹介状もあって協力を約束してくれたイゾルテさんに続いて、オルステッドの仲間になることを了承してくれたのだ。

 寿命の関係で、この三人娘と一緒にラプラスと戦えないのは残念だけどね……。

 

 とにかく、そういうわけでニナさんと会うのは久しぶりじゃないし、既に勧誘が成功してる人と長話する意味はない。

 でも、勧誘なんて私の片言でできるわけないので、そっちはルーデウスに丸投げして、私は友達とのお喋りを楽しんだ。

 このために通訳デウスを連れてきたといっても過言ではない。

 面倒な仕事は丸投げするに限る!

 

「エミリーさん、お久しぶりです」

「ん?」

 

 そうしてニナさんとのお喋りに興じてた私に、話しかけてくる人がいた。

 まだ20歳くらいの若い剣士だ。

 

「ジノくん?」

「覚えててくれたんですね。忘れられてるかと思ってました」

「戦った、強い人は、忘れない」

 

 ジノくんは前に剣の聖地に来た時、最年少の剣聖って呼ばれてた人だ。

 年齢は私の一つ下。

 最終的には王級下位くらいまで強くなってたから覚えてる。

 でも、これは……

 

「ちょっと、見ないうちに、見違えた」

 

 今のジノくんが纏う闘気は、王級どころか帝級を超えてる。

 確実に剣帝の二人より強い。

 戦い方と相性によってはランドルフさんすら倒せるかも。

 私以上の超速成長だ。

 凄いな。

 

「何か、あった?」

「ええ。実は剣神様に『ニナと結婚したければ俺様を倒せ』って言われまして。それで頑張って修行中です」

「へぇ」

「ちょ!? ジノ!?」

 

 焦って真っ赤な顔になるニナさんを、思わずニヤニヤとした目で見ちゃった。

 そっかぁ。

 剣の聖地にいた頃から兆候があったけど、遂にかぁ。

 微笑ましい。

 

「エ、エミリーはどうなのよ!? エリスですら結婚したんだし、あなたにも良い相手くらい……」

「私は、剣が、恋人」

「あ、うん。その、ごめん……」

「なんで、謝った?」

 

 別に強がりじゃないんですけど?

 男の剣(比喩表現)握るより、本物の剣握ってる方が楽しいし幸せなだけですけど?

 なんで、そんな気まずそうに目を逸らすのか、小一時間ほど話し合おうか?

 

「えーっと、いいですか?」

「何?」

「いえ、エミリーさんに稽古の相手をしてほしくて。今の自分の完成度を確認しておきたいんです」

「望む、ところ」

 

 私はニナさんへの追求を一旦中止して、木刀を持ってジノくんと向い合った。

 ニナさんよ、ほっとした顔してるみたいだけど、これが終わったら追求再開だからね?

 

「エミリーさん。お願いがあるんですけど、剣神流だけで戦ってくれませんか?」

「ん? いいけど、なんで?」

「僕の目的はあくまで、剣神様に勝つことなので」

「へぇ」

「こっち見ないで!? 戦いに集中しなさいよ!」

 

 もちろんしてますよ。

 これはフェイントの一種だ。

 まあ、それはそれ、これはこれなんだけど。

 

「そういう、ことなら」

 

 私は基本的な中段の構えをやめて、上段に剣を構えた。

 普段は色んな動きに即座に移行できるように基本の構えを取ってるけど、剣神流だけならこの方がやりやすい。

 上段は烈断系でめっちゃ慣れてるからね。

 

 対するジノくんは居合いの構え。

 一分の隙もない綺麗な構えで私に相対する。

 

「じゃあ、行くよ」

 

 一気の出足で間合いを詰める。

 そのまま上段から最速最短の光の太刀。

 割と会心の一太刀だと自分でも思った。

 

「ふぁ?」

 

 でも、ジノくんの方が僅かに速かった。

 相手の光の太刀が最高速度に達する前に、自分の最高速度の光の太刀で相手の手首を斬り飛ばす技、剣神流奥義『光返し』。

 それを使って、ジノくんの木刀が私の右手首を叩いた。

 

 やられる。

 そう思った瞬間には体が反射で動き、両手で握ってた木刀から左手をパージ。

 光返しで手首を打たれ、右手が弾かれると同時に左手を前へ。

 

 気づけば左ボディブローがジノくんを吹っ飛ばしていた。

 

「ごふっ!?」

「あ」

「ジノ!?」

 

 ニナさんが慌ててジノくんに駆け寄る。

 私も駆け寄って治癒魔術をかけた。

 幸い、硬い闘気の鎧のおかげで肋骨が一本逝ったくらいの軽傷だったから、すぐに治る。

 

「ごめん。拳、出ちゃった」

「ごほっ。いえ、構いませんよ。対処できなかった方が悪いんですから」

「でも、今のは、私の、負け」

 

 勝負としては勝ちだろうけど、試合としては負けだ。

 あの拳は剣神流というより北神流の動きに近い。

 ルール違反による失格ってところだと思う。

 まさか、こうなるとは思わなかった。

 

「ジノくん、凄い、強く、なってる」

 

 身体能力でも闘気の質でも私の方が上だ。

 光の太刀の打ち合いで負けるとは思ってなかった。

 それでも負けたのは、あの光の太刀の技としての練度が、身体能力と闘気の差をひっくり返せるくらいに、私の光の太刀よりも勝ってたから。

 

 構え、タイミング、力の入れ方、闘気コントロール、全てで私は劣ってた。

 剣神流だけでも神級に達してるってオルステッドのお墨付きをもらった私よりジノくんの方が優れてたのだ。

 つまり、新たなライバル発見である。

 じゅるり。

 

「もう一回、やろう」

「いえ、遠慮しておきます。今の自分の能力は大体わかったので」

「えー」

 

 まだ戦いたかったけど、ジノくんは「あくまでも僕の目的は剣神様なので」の一点張りで、木刀を持ったままどっか行っちゃった。

 ニナさん曰く、最近は一人で素振りしてることが多いらしい。

 私は強い人とガンガン戦うことで強くなったけど、まあ、強者に至る道は一つじゃないからね。

 仕方ないから、私はニナさんへの追求を再開し、剣も使わず羞恥のみで剣王を倒すという新技を会得した。

 

 その後、勧誘が上手くいかなかったルーデウス達が戻ってきたから、そのまま私達はおいとました。

 あ、勧誘ならジノくんを誘っとけば良かった。

 まあ、あの様子じゃニナさん以外は眼中に無さそうだし無理か。

 末永く爆発しろ。




エミリー「私の負け」(無傷)

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