剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
シーローンの一件から1年半くらい。
順調に強くなれてる今日この頃だけど、ここ最近はなんかイベントが多発してる。
15歳で成人を迎えたノルンちゃんとアイシャちゃんの誕生日を盛大に祝ったりした。
この世界の人族の風習として、5歳、10歳、15歳の誕生日は盛大にお祝いするものだからね。
私も10歳の誕生日に師匠の家に呼ばれて、姉と一緒に祝ってもらって、今も愛用してる剣(剣身は別だけど)を貰った時のことは忘れない。
5歳の時だって、家計が火の車で誕生日プレゼントこそ貰えなかったけど。
頑張って当時の基準で言えばご馳走と呼べる料理を用意してくれた家族の温かさは覚えてる。
15歳の時はベガリットで遭難してたから、残念ながらこれだけは良いエピソードとは言えないけど。
そんな私の失われし15歳の誕生日の分まで二人を祝うべく、師匠やルーデウス達と一緒にめっちゃ張り切った。
誕生日プレゼント選びのために、普段は使わない頭を使いまくり、
ノルンちゃんの知り合いである魔法大学の生徒達とか、アイシャちゃんの知り合いであるルード傭兵団の面々も巻き込んで、大いに盛り上がった。
誕生日パーティーというには騒がし過ぎたような気もするけど、二人も楽しんでたから良し!
そして、イベントが多発してると言ったように、イベントはこれだけではない。
次なる大きな出来事は、姉の妊娠だ。
ルーシーに続いて第二子である。
グレイラット家全体で見れば、エリスさんが産んだ初めての男児であるアルスに続いて、4人目の子供だ。
パパデウスは子沢山である。
更に、お婆ちゃんの旦那さんであるクリフさんが魔法大学を卒業し、息子のクライブが乳離れするまで見守ってから、故郷であるミリス神聖国に帰った。
あの人、実はミリス教団教皇の孫であり、本国での政権争いを勝ち抜くために、戦いに巻き込まれかねないお婆ちゃんとクライブを私達に託して帰ったのだ。
一端の地位を築いたら、必ず迎えにくるとカッコ良く約束して。
そんなクリフさんが心配だったお婆ちゃんに依頼されて、ルーデウス達も一緒について行った。
でも、ミリスに行った理由はもう一つあって、随分前にゼニスさんの現状を手紙で知らせたらしいミリスにあるゼニスさんの実家から手紙の返信が届いたからだ。
ゼニスさんを連れてこいっていう。
ゼニスさんの実家には、転移事件の時の資金援助やら何やらお世話になってる上に、そもそも半分廃人状態のゼニスさんを実家というか親が心配してるんだから、連れていくのが筋ってもんでしょ。
というわけで、ゼニスさんを連れたルーデウスと師匠、あと手紙にはノルンちゃんとアイシャちゃんも連れてこいって書いてあったらしいので、アイシャちゃんもクリフさんと一緒にミリスに行った。
ノルンちゃんはお婆ちゃん(ゼニスさんのお母さん)が苦手な上に、今は魔法大学でアリエル様の後任の生徒会長とかやってて忙しいからお留守だ。
アイシャちゃんも苦手そうにしてたから、ノルンちゃんみたいに理由があったら全力で拒否してただろうね。
ゼニスさんのお母さんって、どんな人なんだろう。
でもまあ、今回は切った張ったの戦いはないだろうし、
ミリス教には魔族排斥の思想があって、更に上の方では人族以外の種族を等しく差別する派閥もいるらしいので、私は今回お留守だ。
お婆ちゃんがクリフさんについて行けなかった理由の一端もそれだし、私が行っても事態を引っかき回す予感しかしないから。
「ハァアアアア!!」
「おっと、これは手厳しい」
というわけで、シャリーアに残った私は現在、オーベールさんとランドルフさんによる模擬戦の見取り稽古をしていた。
最近はオルステッドがシャリーアに引きこもり気味だから、護衛の私も暇なのだ。
オーベールさんは長期休暇中である。
ランドルフさんの方は普段パックスの介護で忙しいし、そもそも戦いに嫌気が差した感じの人だけど、
「お世話になってるお返しをしないと、捨てられてしまいますからねぇ」なんてことを骸骨顔でカタカタと笑いながら言って、こうしてたまに私達の稽古相手をしてくれてるのだ。
結局、ランドルフさんに関しては、ラプラスとの戦争を見据えて全力で抱き込むことになった。
本人の希望通り、ランドルフさんは表向き死んだことにして王竜王国の騎士としての立場を捨て、パックス一家共々オルステッドの庇護下に入った。
そのランドルフさんを殺したのが私ってことになると色々面倒だから、ルーデウス達が色々と考えた結果、
ランドルフさんを殺したのは、シーローンでクーデターを起こした例の将軍と、彼が率いた大軍勢ってことになった。
私は戦場で絆が芽生えたランドルフさんの遺言で、ランドルフさんが守り切れずに死なせてしまったパックスの仇討ちを頼まれ、将軍達をぶっ潰した。
結果、列強の地位はランドルフさん→将軍→私の順で変動した。
そういうことになった。
まあ、そんな細かい話が正確に広まることはなく、世間では私がランドルフさんを倒して列強になったってエピソードになってるけど。
捏造までしたのに真実の方が広まるとは、これいかに?
とにかく、そんな感じの捏造エピソードを使って王竜王国を宥めた。
私もランドルフさんの遺品ってことで、何かの骨でできた指輪みたいなものを持たされて、弁明に行かされたりもした。
ポンコツ晒して余計なことを言わないように、徹底的に無口キャラを貫いたよ。
それが何とか成功。
向こうも向こうで、北の防波堤という重要な属国だったシーローンが落ちた上に、王様が何者かに暗殺されるなんて大事件が重なって修羅場ってるから。
この上、更に世界最大のアスラ王国と深い繋がりがある龍神陣営と揉めたくないってことで、この言い訳で一応は納得してくれた。
まあ、王様を暗殺したのもオルステッドなんだけどね。
ほら、シーローンの一件の時にヒトガミの使徒になってたから。
しかも、私達はこの事実を隠したまま、ほとぼりが冷めた頃に王竜王国もラプラスとの戦いを見据えた戦力として味方にするつもりでいる。
……恨まれても文句言えないわ。
で、そんな苦労を経て、めでたくランドルフさんは私達の仲間となった。
多大な恩ができたってことで、ランドルフさんは快くラプラスとの戦争への協力を約束してくれた。
……戦いに嫌気が差した人を戦いの舞台に立たせるのは心苦しいけどね。
でも、列強上位のラプラスを相手にするなら、あんまり甘いことも言ってられない。
一応、ランドルフさんも嫌嫌って感じじゃなくて、納得して覚悟した上で戦うことを選んでくれたから、そこだけは救いかな。
それだけの献身が全部パックスのためとか、ランドルフさんは死ぬほど良い人だね。
死ぬほど良い人だから『死神』なのかもしれない。
そんな忠義者のランドルフさんは結局、
ザノバさんとパックスを一つ屋根の下にするのはジンジャーさんとの折り合い的に見てパックスの精神に悪いと判断して、
ザノバさん宅の近所に家を買って、パックスとベネディクトさんの三人で住み始めた。
ザノバさんはロキシーさんと一緒に、忙しい仕事の合間を縫って、しょっちゅう通ってるそうだ。
ザノバさんが行くならってことでジュリちゃんもついて行き、嫌々ながらジンジャーさんもついて行く。
廃人のパックスに加えて、生まれてきたばかり赤ちゃんまでランドルフさんとベネディクトさんの二人だけで面倒見るのは大変だろうからって。
四六時中一緒じゃなければ、ジンジャーさんも何とか耐えられるみたいだ。
その甲斐あってと言うべきか、それとも父親として奮起したのか、ほんのちょっとずつパックスには生気が戻ってる。
げっそりとやつれて、ヒョロガリのザノバさんとよく似てきちゃったけど。
そんな感じでパックスのところに通ってるザノバさんも、忙しい合間を縫ってと言ったように全然暇じゃない。
シーローン王国が吹っ飛んだせいで、今まで王族として貰ってた仕送りが無くなっちゃったザノバさんは、ルーデウスの提案で新たな仕事を始めた。
それが『ザノバ商店』。
ルーデウスが前々から作ってた『ルイジェルド人形』と、そのモデルになったルイジェルドさんとやらを主人公にした『スペルド族の冒険』っていう絵本を売り出すためのお店だ。
このお店の開店もまた多発してるイベントの一つだね。
なお、絵本の作者はノルンちゃん。
ルイジェルドさんというのは、私も何度か聞いたことがある、ルーデウスとエリスさんが魔大陸に飛ばされた時にお世話になった恩人だ。
ノルンちゃんも師匠達がベガリットに渡る時に、イーストポートで偶然再会したっていうルイジェルドさんにルーデウス達のところまで送ってもらったっていう恩があって、しかもルイジェルドさん自身に懐いてたそうだから、絵本を書くに至ったと。
なんで絵本なんかが必要なのかと言うと、ルイジェルドさんの種族であるスペルド族が、かなりの迫害を受けてるからだ。
400年前のラプラス戦役で、敵味方問わず殺しに殺しまくった悪魔の種族がスペルド族。
あまりに嫌われてて、スペルド族が槍使いだったから、槍みたいな長物の武器を使う人が少なくなったり、スペルド族と同じ緑髪ってだけで迫害される人まで出る始末。
昔の姉が髪色でイジメられたのは、これが原因だ。
ただ、この話には裏があって、私も絵本を読むことで詳しく知ったんだけど、
スペルド族が暴れる原因になったのは、何を思ったのかラプラスがスペルド族を陥れて、精神を蝕む呪いの槍を渡して暴走させたから。
ルイジェルドさんは呪いの槍のせいで暴走して、敵味方どころか奥さんと息子さんまで殺してしまい、
息子さんが命懸けの抵抗によって呪いの槍を折ってくれたおかげで正気に戻った後は、せめてもの贖罪として、地に落ちたスペルド族の名誉を取り戻すための旅を続けている。
泣ける話だ。
絵本を読んで感情移入したせいか、普通に泣いた。
ノルンちゃん、作家の才能あるよ。
それはともかく。
ルーデウス達がスペルド族の冒険の絵本を売ろうとしてるのは、お世話になったルイジェルドさんのために、スペルド族の名誉回復の助けになるためだ。
そして、今となっては第二次ラプラス戦役を見据えて、かつてラプラスに一矢報いたほどの戦士であるルイジェルドさんの勧誘のため、行方の知れないルイジェルドさんの情報をばらまいて居場所を特定して勧誘に行くためでもある。
そんな感じの仕事にザノバさんは従事してるのだ。
最初はパックスの介護も考慮されて、かなり緩めのスケジュールが組まれてたみたいなんだけど、何かの拍子にパックスをあんなにしたのがヒトガミだって話がザノバさんに伝わっちゃったみたいで、怒りでやる気のボルテージが急上昇。
ザノバさんは立派なワーカーホリックと化した。
おかげで、ザノバ商店は予想外の成長を見せてるみたいだけど、ルーデウスは頭を抱えた。
「ぬぉおおおおお!!」
「おっとっと」
まあ、ザノバさんのことは置いとこう。
今はお世話になってるお返しと言いつつ、本当は体動かしてストレス解消したいだけなんじゃないかと私が密かに疑ってるランドルフさんとオーベールさんの戦いだ。
戦いは全くの互角だった。
基礎能力ではランドルフさんが上。
でも、オーベールさんは土遁の術(土魔術)で地面に潜ったり、
出てきたと思ったら、それは魔導鎧の元になった『ザリフの義手』っていう魔道具を上手く使った囮だったり、
オーベールさん専用にカスタマイズされたその義手を爆発させて目くらましにしたり、
その隙に実はこっそりと地中から這い出して、風魔術と装備した布を使ってムササビみたいに滑空しながら上空に潜んでた本体が強襲したり、
かと思えば身代わりの術(マジックアイテム)で丸太と入れ替わったり、
その直後に遠距離から水遁の術(水魔術)で全部洗い流したり。
そういう奇想天外な手でランドルフさんを徹底的に惑わせて、互角の戦いを繰り広げていた。
そして、遂に……
「お見事」
「か、勝った……?
「元ですけどねぇ」
散々惑わされたところに、ようやくまともな斬り合いに持ち込んだと思ったら、
直後にロケットパンチという奇手でランドルフさんの度肝を抜き、
その一瞬の隙に最後は普通に強い剣技でランドルフさんを制してオーベールさんが勝った。
ネタを殆ど晒しちゃったから、次に戦ったらこうはいかないと思う。
けど、勝ちは勝ち。
私が事前にランドルフさんに勝ってなければ、今頃オーベールさんが七大列強だ。
もう本格的に『奇神』を名乗っていいと思うよ。
「オーベールさん、次、私」
「あ、ああ」
オーベールさんとは、向こうが一番得意とする森の中での隠れ鬼ルールで戦い、
本気で逃げ隠れしながら徹底的に隙を狙ってくるオーベールさんを半日かけて追い詰めて何とか勝った。
まともな斬り合いに中々持ち込めないから、もどかしくてしょうがなかったけど、これも良い修行だ。
この人の相手に慣れれば、大抵の奇襲や不意討ちは怖くなくなる気がする。
そんな感じで、私は今日も充実した一日を過ごした。
事態が大きく動いたのは、ミリスに行ったルーデウス達から連絡が届いた時だ。
最近はルーデウスの提案によって、オルステッドが古代龍族の技術とやらを使って通信石板というチャットもどきを作ってたから連絡が早いのだ。
このチャットもどき、じゃなくて通信石板は、石板に書き込んだ文章を、遠く離れたところにある他の石板にも表示するって感じの機能を持ってる。
使われてる技術は七大列強の石碑とか、冒険者カードとかと同じらしい。
そういえば、あれも謎の通信技術が使われてたっけ。
ただし、この通信石版、重くてデカいから持ち歩きは不可。
手書きの転移魔法陣(事務所直通)と一緒に拠点に設置して使う。
そんな通信石板で送られてきたのは、吉報と凶報の両方だった。
吉報の方は、ミリス教団に囲われてる『記憶の神子』っていう人の助力があって、ゼニスさんの正確な容態がわかったこと。
ゼニスさんは『他人の思考を読み取る神子』になっており、思った以上にしっかりと現状を理解できてるそうだ。
師匠とのエッチがないのを不満に思ってるレベルらしい。
あと、クリフさんも無事に功績を積めたこと、ミリス神聖国にルード傭兵団を売り込み、龍神陣営への勧誘が成功したことも朗報。
そして、凶報の方は…………ギースさんの裏切りが発覚したことだ。