剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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90 裏切りの報せ

 ギースさん。

 師匠が昔組んでたSランク冒険者パーティー『黒狼の牙』のメンバー。

 戦闘はからっきしだけど、戦闘以外のことなら何でもできると豪語するほどに多芸。

 私と合体すれば究極生命体になれそうだと思ったこともある人物。

 

 彼はヒトガミの使徒だった。

 随分昔からヒトガミの助言を受けて動いており、ゼニスさんが転移の迷宮に捕らわれてるという情報を得たのもヒトガミから。

 それは多分、日記の未来に誘導するための布石だったんだろうっていうのがルーデウスの予想。

 ギースさんがどこまで知って動いてたのかは知らないけど。

 むしろ、ヒトガミのクソ野郎っぷりを思えば、何も知らせずに駒にしてた可能性大だけど。

 

 とにもかくにも、ギースさんは私達を裏切ってヒトガミについた。

 理由は、ギースさんが書き残していった手紙によると、ヒトガミへの恩を返すため。

 

 戦闘力皆無のギースさんは、昔からヒトガミの助言に従うことによって命を繋いできた。

 もちろん、ヒトガミがそんなことしてた理由は、ギースさんを駒にしてエグいことするためだったけど。

 実際、ギースさんはヒトガミに騙されて故郷を滅ぼされたそうだ。

 それでも、ギースさんは恨みは恨み、恩は恩として精算するつもりらしい。

 

 ギースさんは私達に恨みなんて無いけど恩も無い。

 師匠には世話になったけど、それも転移事件で師匠の家族を探した分でチャラ。

 一方、ヒトガミには恨みがあるけど、まだまだ恩が残ってる。

 恨みはあっても恩を返す。

 それがギースさんのジンクス。

 手紙にはそうあった。

 

 それを受けて師匠はキレ散らかし、ルーデウスはギースさんを敵として認定した。

 ギースさんの目的はヒトガミの手助け。

 つまりオルステッドやルーデウスの妨害。というか殺害。

 次はそのための戦力を集めて、正々堂々、正面から宣戦布告するつもりらしい。

 

 ルーデウスはそれに対抗するために、こっちも戦力を集めるつもりだ。

 まあ、既に充分すぎるほどの戦力が集まってるような気もするけど。

 

 オルステッドは消耗を抑えないといけないから除外するとして、神級だけでも、私、レイダさん、シャンドル、ランドルフさん。

 『奇神』オーベールさんもここに入れていいと思う。

 魔導鎧一式に乗ったルーデウスもこのレベルだ。

 

 帝級には、最近の修行で充分にその領域へ達したエリスさんに、『水帝』の認可を受けたイゾルテさん。

 この前、久しぶりに会って稽古した感じ、ギレーヌも帝級に達してる。

 

 王級には、胸を張ってこのレベルだと言えるほどに成長した師匠に加え、

 度重なる神級クラスとの合同稽古によって、出会った頃より遥かに強くなった『北王』ウィ・ターさん、同じく『北王』ナックルガード。

 

 聖級クラスには、姉とロキシーさん。

 怪力無双のザノバさんや、元Sランク冒険者のお婆ちゃん、あと最近北神流上級の認可を得た父だって、そこらの相手には負けない。

 

 姉は妊娠中で戦えないけど、それを差し引いても圧倒的ではないか我が軍は!

 これギースさんどころか、王竜王国あたりと正面から戦争してもひねり潰せるような気がするよ。

 世界三大国家すら軽く凌駕する我が軍に勝てるとしたら、列強上位くらいでしょ。

 

 と、慢心しまくってるのは私だけで、ルーデウスもオルステッドもギースさんを滅茶苦茶警戒してる。

 戦いは数と質だけど、ぶつかり方によって勝敗は大きく変わるというのがオルステッド談。

 

 かつてのラプラス戦役でも、戦力だけで見れば数多の魔王と魔族の大軍、

 更に獣族と海族を引き連れ、アスラとミリス以外の人族の国を全部滅ぼして敵戦力を削いだラプラス軍の方が圧倒的だった。

 だけど、最終的に勝ったのは人族軍だ。

 細かい戦略の内容なんて私は覚えてないけど、とにかく最後には弱い方の軍勢が勝った。

 

 それを同じことをギースさんができないなんて保証はない。

 まして、バックにヒトガミがついてるともなれば。

 ギースさんだけなら、ヒトガミだけなら、まだ何とかなる。

 オルステッド曰く、ヒトガミは未来予知なんてチートで全てを解決してきたからこそ、それが通じない相手との心理戦は苦手だ。

 だからこそ、アスラ王国の戦いでは大負けした。

 

 でも、そこに戦闘以外何でもござれのギースさんが力を貸したら。

 ギースさんがヒトガミの弱点をカバーしてしまったら。

 最悪の展開も大いにあり得る。

 フルパワーを発揮したヒトガミのやばさは、未来ルーデウスの日記を見ても明らかだ。

 

 そこまで言われて、私は油断を捨てて気を引き締めた。

 油断すればどんな強者でも死ぬって教えられてたのに、お恥ずかしい限りだ。

 あまりの大軍勢に、知らないうちに浮かれてたっぽい。

 

 というわけで、慢心せずに更なる戦力を集めていくことになる。

 狙い目はアレクと、例のスペルド族のルイジェルドさん。

 それから静香が病気になった一件の時にルーデウス達と色々あって、こっちが何もしなければ敵に回りかねない『不死魔王』アトーフェラトーフェだ。

 剣の聖地の剣神流も仲間にしたいけど、既に断られてるから無理。

 

 というか、剣の聖地では、ちょっと前に遊びに行った時に波乱があった。

 なんと、ジノくんがガルさんを倒して、剣神が代替わりしたのだ。

 いつかはそうなるかもと思ってたけど、予想以上に早い。

 

 で、ジノくんは約束通りニナさんを娶ってラブラブというか、軽度のヤンデレ発症して「どこにも行くな」的な感じになってるから、説得が成功してたはずのニナさんの助力すら望めない。

 決戦中に妊娠しててもおかしくないよ。

 

 一方、負けたガルさんは剣の聖地を去ってどこかに消えた。

 去り際に運良くエンカウントできたから勧誘したんだけど、「倒してぇ奴らの仲間になる気はねぇよ」ってギラギラした目で断られたから、ガルさんを仲間にできる可能性も本格的に潰えた。

 

 まあ、あの調子なら更に剣を磨いて挑戦しに来てくれそうだし、それだけでも良しとしておこう。

 念のために「ヒトガミに気をつけて」とは言っておいたし。

 ガルさんは前にヒトガミのせいで憔悴したルーデウスを見てるから、多分大丈夫でしょ。

 ヒトガミの策略じゃないなら、挑戦はいつでもウェルカムだよ。

 

 というわけで、剣神流は潔く諦めて、次だ。

 次は仲間にするのとは少し違うみたいだけど、ギースさん捜索のための検索エンジンとして、かつてゼニスさんを見つけた実績のある『魔界大帝』キシリカ・キシリスを探す。

 

 そのために、まずは最優先で魔大陸にいるアトーフェラトーフェに声をかけて、そのままの勢いで魔大陸中の魔王に声をかけて、魔大陸から出られないらしいキシリカを人海戦術で捜索することになる。

 ゼニスさんの時といい、静香の病気の時といい、キシリカ、いやキシリカさんにはお世話になりっぱなしだ。

 会う機会があったらお礼の一つでもしないと。

 

 それが終わったら、アレクとルイジェルドさんを探しつつ、オルステッドの経験上、ヒトガミの使徒になる可能性の高い人に接触して、先に倒すか仲間にすることになる。

 北方大地の東端、ビヘイリル王国の鬼ヶ島にいる『鬼神』マルタ。

 魔大陸の『不快の魔王』ケブラーカブラー。

 天大陸にある世界三大迷宮の一つ『地獄』に住まう『冥王』ビタ。

 

 不快の魔王はキシリカさん捜索の時に会うことになるだろうし、冥王のいる地獄は転移の迷宮の比じゃないような大迷宮らしくて、攻略には死ぬほど手間がかかる。

 だから、最初に行くのは鬼神のいるビヘイリル王国かなって話になった。

 オルステッドとルーデウス達の会議で。

 

 他の皆も参加してたけど、最近のオルステッドはクリフさんの置き土産である呪い封じのヘルメットのおかげで、ちょっと驚かれるくらいで済んでたよ。

 あの人がミリスに行っちゃったのは惜しいなぁ。

 

 で、更にその後は、世界三大国家のうち、唯一まだ協力体制を築けてない王竜王国や、

 直接戦闘は不得手だけど鍛冶師として最高峰で、質の良い武具を量産してくれるドワーフの『鉱神』に声をかける予定らしいけど、

 この二つはギースさんと戦う上ではそこまで重要な要素じゃないので、優先順位は低いらしい。

 特に王竜王国はシーローンの一件をまだ引きずっててゴタゴタしてるから、最後に回すことになった。

 

 そんな感じのことが会議で決定し、私達は動き出した。

 最初の目的地は魔大陸のガスロー地方にあるネクロス要塞。

 そこにいる『不死魔王』アトーフェラトーフェだ。 


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