剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
転移魔法陣を使って魔大陸へ。
メンバーは、私、ルーデウス、シャンドルの三人だ。
なんでこの面子なのかというと、ルーデウスは交渉担当で私は戦闘員。
シャンドルはアトーフェさんの説得役だ。
『不死魔王』アトーフェラトーフェはシャンドルのお母さんだからね。
北神英雄譚で知った。
ただし、息子が頼めばお母さんも協力してくれるだろうなんて甘い考えが通じる相手じゃない。
シャンドル曰く、彼女はバカだ。
私よりバカだとシャンドルがハッキリと明言した。
前に会ったことがあるルーデウス曰く、ギレーヌよりもバカらしい。
だからこそ、彼女には話が通じない。
話の内容を理解できないからだ。
息子の話なら多少は頑張って聞いてくれるみたいだけど、やっぱり、ちょっとでも難しい話をすれば「わけのわからないことを言うな!」って言ってキレるそうだ。
オルステッドに協力してほしいなんて言っても「何故だ!?」って言われて、理由を説明すれば「わけのわからないことを言うな!」からの親子喧嘩一直線だろうと、シャンドルは諦めに満ちた顔で語ってた。
それでもシャンドルがいた方がまだスムーズに話が進むそうだから連れてきたけど。
ついでに、シャンドルの武器がいつの間にか棍棒に戻ってたけど、これは余談かな。
でも、背中に魔剣っぽい大剣も背負ってた。
アリエル様に口八丁で説得されて持たされるようになったらしい。
オルステッドに無理矢理持たされてる私とお揃いだね。
「***! *************!」
「***。*********」
「**!? **、********!?」
で、今はシャンドルが要塞の門番と何やら話してる。
魔大陸の言語である魔神語だ。
当然のごとく私にはわからない。
「なんて?」
「『英雄よ! よくぞネクロス要塞に辿り着いた!』って言われて、シャンドルさんが『すみません。アトーフェの息子なんですけど通してください』って返した感じだ」
「なるほど」
通訳デウスを連れてきて良かった。
ルーデウスはこう見えてなんと、人間語、魔神語、闘神語、獣神語と、この世界で主に使われてる六つの言語のうち四つを話せるマルチリンガルなのだ。
伊達に私を差し置いて『龍神の右腕』なんて呼ばれてないね。
ちなみに、私の呼び名は『龍神の尖兵』である。
使いっ走り感が強くて、なんかやだ。
「****! *******!」
あ、話纏まったみたい。
門が開かれていく。
そのまま私達は要塞の中に案内され、何故か謁見の間ではなく勇者VS魔王の最終決戦の場みたいなところに通された。
そこに、魔王がいた。
天井の無いこの場所で、夕陽に照らされ、禍々しい玉座に腰かける女魔王。
肌は青く、額からは角が生え、背中には蝙蝠のような翼がある。
私が会った誰よりも魔族っぽい魔族。
その身に纏う闘気は、シャンドルとほぼ同レベルなほどに凄まじい。
なるほど、これが恐怖の代名詞として伝説にもなった魔王。
『不死魔王』アトーフェラトーフェか。
「*******! *****! ********!」
「通訳デウス」
「『アーハッハッハ! 久しいな、アール! よくぞ戻ってきた!』」
悪乗りしてるのか、口調まで再現してるっぽいルーデウスの通訳によって、アトーフェさんが何言ってるのかを知る。
楽しそうに高笑いしてるのを見るに、陽気な人みたいだ。
あと、シャンドルはお母さんにアールって呼ばれてるんだね。
本名がアレックスだからアはわかるけど、ルはどこから出てきたんだろ?
あ、いや待てよ。
フルネームはアレックス・カールマン・ライバックだから、アレックスのアと、カールマンのルを取ってアールか。
今日の私は冴えてるぜ。
「******。********」
「『久しぶりだね、母さん。実はちょっと頼みがあって帰ってきたんだ』」
「『***? ******!』」
「『頼みだと? お前がオレに頼みとは珍しいな!』」
アトーフェさんの一人称、オレなんだ。
まあ、カッコ良い黒鎧に身を包んだ女武人って感じだから似合ってるけど。
「*********。**********」
「『実は今、とある強敵と戦っていてね。母さんの力を貸してほしいんだよ』」
「***! *************!」
「『断る! オレはオレが認めた奴としか、共に戦うつもりはない!』」
あ、シャンドルがため息を吐いた。
そのままこっちに戻ってくる。
「すみません、ルーデウス殿。ああなったらもう無理です。理屈による説得は通じないでしょう」
「諦めるの早すぎませんか?」
「母さんは、そういう人なんですよ」
「それは……まあ、わかりますけど」
わかられちゃってるよ、アトーフェさん。
そのアトーフェさんは、シャンドルと一緒にいる私達が気になったのか、息子の友達に挨拶する元気なお母さんって感じの笑顔で近づいてきた。
しかし、その笑顔がルーデウスを見た瞬間に、笑顔は笑顔でも獰猛な肉食獣みたいな牙をむき出しにした笑顔に変わる。
「****……!」
「『お前かぁ……!』だそうだよ」
そんな笑顔を向けられてビビってるルーデウスに変わって、シャンドルが通訳を代わってくれた。
この反応の理由はわかってる。
ルーデウスは静香が病気になった一件の時に、色々あってアトーフェさんに目をつけられたって話だからね。
具体的には、当時アトーフェさんが滞在してた城の地下に静香の病気を何とかしてくれる薬草があったから、ルーデウス達はそれを譲ってもらいにいった。
ついでに、その情報を教えてくれたキシリカさんをアトーフェさんが探してたので引き渡した。
そうしたらアトーフェさんに褒美を貰う流れになって、力をくれてやるって一方的に言われて親衛隊に強制就職させられそうになり、頑張って逃げたら、逃走先の転移魔法陣でアトーフェさんとペルギウスさんがエンカウント。
二人は犬猿の仲なので、油断してルーデウスの魔術を食らって弱ってたアトーフェさんをペルギウスさんがボッコボコにして、ペルギウスさんはニッコリ。
アトーフェさんはブチ切れ。
こんな感じの顛末だったらしい。
個人的には、妻子のある奴をこんな遠方の地で強制就職させようとしたアトーフェさんが悪いと思う。
アトーフェ親衛隊は、10年に一度の2年間の休暇以外では家にも帰れず、死ぬまで訓練を続けさせられる上に、アトーフェさんに逆らえなくなる契約を結ばされるみたいだし。
最後の契約さえ無ければ、私にとってはご褒美な可能性もちょっとはあるけど、ルーデウスにとってはただの拷問だ。
まあ、どっちが悪いなんて話はアトーフェさんには通じないみたいだし、
アトーフェさんにとってルーデウスは、ペルギウスさんにボッコボコにされた原因を作った忌々しい奴って認識なんだろうね。
「***、**、**、***、***********……!」
「*、******、*****!」
ルーデウスがアトーフェさんに命乞いみたいなことしてる。
オルステッドのオススメで持たされた、アトーフェさんの好物らしいお酒を渡してご機嫌を取ってる。
「あ、許してくれたみたいだよ」
「えぇ……。チョロい」
酒瓶を持って喜ぶアトーフェさん。
悪い男に騙されないか心配だ。
具体的にはラプラスとか。
オルステッドの知る限り、アトーフェさんは第一次でも第二次でも、ラプラス戦役ではまず間違いなくラプラス側に付くらしいし。
「*****」
あ、ルーデウスがもう一本お酒を渡した。
アトーフェさんが驚愕した後、飛び跳ねるように喜んでる。
確かあのお酒、オルステッドに持たされた『
アトーフェさんが追い求めてた幻の美酒らしい。
さっきのお酒をあげるから前のことは許してください。
このお酒をあげるから仲間になってください。
今回の作戦を要訳すると、こんな感じだったはず。
それを受けてのアトーフェさんの返答は……
「**、*****!」
「『よし、では決闘だ!』だってさ」
「なんで?」
「ルーデウス殿の話を理解できなくて聞き流したんだろう。
母さんには、戦う、倒す、仲間になる。これくらいシンプルな話じゃないと通じないよ」
私以上のバカと言われた理由がわかった気がする。
まあ、それくらいわかりやすい方が好きなのは私も一緒だけどさ。
でも、脳筋って極まるとああなっちゃうんだね……。
私はせめて今の知能指数を維持する努力くらいはしよう。
そう固く心に誓った。
「***『****』、***********! *********! ***************!」
「『オレは『不死魔王』アトーフェラトーフェ・ライバック! オレに勝てれば勇者の称号をやろう! 負ければ我が傀儡として息絶えるまで使ってやろう!』だって」
「わかった」
負けた奴が勝った奴に従う。
実にシンプルでわかりやすい。
望むところだって気持ちを胸に、私は剣を抜いてアトーフェさんの前に進み出た。
・龍神の尖兵
龍神が動く時、必ず露払いを務め、全てを薙ぎ倒していく最強の剣士。
彼女を止められない者に龍神に挑む資格はない。