剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
私は剣を構えて伝説と向かい合う。
『不死魔王』アトーフェラトーフェ・ライバック。
4200年前にキシリカさんが起こした第二次人魔大戦、及び400年前のラプラス戦役で名を馳せた大魔王。
彼女は決して倒れない。
そこに技術はない。
剣は鈍く、遅い。
ただ、死なない。
どれだけ攻撃を受けても、どれだけ致命傷を負っても、死なない。
どんな攻撃を受けても立ち上がり。
そして、最後に勝つ。
それが『不死魔王』アトーフェラトーフェ。
でも、その伝説は過去のものだ。
今の彼女はアトーフェラトーフェ・
ラプラス戦役後、どんなラブロマンスがあったのか知らないけど、彼女は魔神殺しの三英雄の一人、『北神カールマン一世』こと、カールマン・ライバックと結婚。
彼との間に子供を授かると同時に、北神流開祖である彼から直接北神流を教わった。
つまり、今私の目の前にいるのは、生まれついての不死能力だけで伝説になった大魔王に、開祖直伝の北神流を組み合わせた化け物ということだ。
相手にとって不足なし。
オラ、ワクワクしてきたぞ!
「*******! ***********!」
「『良い眼をする奴だ! このオレを前にして欠片の恐れもない!』だそうだよ」
「*********!」
「『貴様のような奴こそ、オレの親衛隊に相応しい!』だってさ」
現在の通訳担当はシャンドルだ。
通訳デウスはちょっと別の準備で急がしいから、そっちの護衛をしつつ仕事を変わってくれてる。
ちなみに、シャンドルは私が負けるまで手を出すつもりはない。
アトーフェさんとぶつけることで、私の成長っぷりを見たいからだ。
なお、この思惑はオルステッドとも一致してる。
エリスさん達を連れてこなかったのも、ラプラス戦を見据えて、今の私が本気で向かってくる神級相手にどこまでやれるのかを確かめるため。
先生二人にそんなこと言われたら、期待に応えたいと思うのが弟子のサガでしょ。
まあ、そっちは本来の目的のついでなんだけど。
「右手に、剣を。左手に、剣を」
だから、私は初手から全力で行った。
「両の、腕で、齎さん。有りと有る、命を、失わせ。一意の、死を、齎さん」
「**!? *、*******!?」
「『なっ!? そ、それはカールの技!?』」
シャンドルも通訳デウス並みに悪乗りしてるのか、口調とか抑揚とかまで再現してくれるから助かるね。
「不治瑕北神流奥義『破断』!!」
剣神流の踏み込みで距離を詰め、斬撃飛ばしではなく、剣で直接破断を放った。
アトーフェさんはガードしようとして大剣を盾にするも、私の奥義はガードごと捻じ伏せてアトーフェさんを真っ二つにする。
油断して最初の一撃を食らうのは純血の不死魔族のお家芸って誰かから聞いたことあるけど、まさにその通りな展開だ。
こんなテレホンパンチならぬテレホンスラッシュ、神級の実力者なら、油断してない限り普通に受け流せるはずなのに。
少なくとも、レイダさんやランドルフさんには通じない。
あの人達相手には、フェイントや他の攻撃で体勢を崩してから叩き込むか、この技自体を牽制に使うのが基本戦術だ。
もちろん模擬戦で不治瑕は使わないし、クリーンヒットしそうになったら寸止めもするけど。
「ぐわぁーーーーー!!?」
「『ぐわぁーーーーー!!?』」
アトーフェさんが絶叫しながら吹っ飛ぶ。
叫び声まで通訳しなくていいから。
意味のない声なんだから、通訳なしでもわかるよ。
「****! *******! **********!」
「『面白い! 面白いぞ、お前ぇ! ここまで面白い奴は400年ぶりだ!』」
アトーフェさんは真っ二つになったまま楽しそうに笑う。
そして、傷付いた場所を剣で斬り飛ばして分離し、残った体を合体させて再生してしまった。
そう。
この不死殺しの斬撃をもってしても、不死魔王を一撃で殺すことはできないのだ。
傷付いて再生不能になった細胞を切り離せば普通に再生できる。
まあ、切り離した細胞の分、アトーフェさんはさっきより一回り縮んでるけど。
それも時間をかけて細胞分裂すれば元に戻る。
これが不死魔王の恐ろしさ。
完全に殺そうと思ったら、全ての細胞を再生不能の状態にするしかない。
今回は殺しにきたわけじゃないから関係ないけどね。
「*****! **************!」
「『だが、舐めるなよ! 今のオレは、その技に敗北した時のオレより強い!』」
アトーフェさんから油断が消え、一回り小さくなった体で大剣を構えて突撃してくる。
それに対して、私は構えを取った。
水神流の構えを。
「水神流奥義『剥奪剣』」
「ぬっ!?」
「『ぬっ!?』」
アトーフェさんの踏み出そうとした足が、剣を振り上げようとした腕が斬れる。
今の私は破断以外に不死殺しの効果を乗せられないから、アトーフェさんは斬られても関係ないとばかりに再生しながら向かってこようとしてるけど、一時的にでも手足が無くなれば明確な隙が生まれる。
その隙に私は別の構えに移行し、足に力を込めて踏み込んだ。
「剣神流奥義『光の太刀』!」
「ぬがっ!?」
「『ぬがっ!?』」
すれ違い様に一閃。
アトーフェさんの首を斬り飛ばす。
なおも再生しようとするアトーフェさんに対し、私は振り返って、剣を上段に構えて威圧する。
破断の構えだ。
降参しなければ斬る。
言外にそう伝えたつもり。
そんな私を見て、アトーフェさんは口が裂けそうなほどの笑みを浮かべ……
「ムーアァーーーーー!!!」
「『ムーアァーーーーーー!!!』」
仲間を呼んだ!
ムーアとはアトーフェ親衛隊の隊長さんの名前だ。
見れば、渋いナイスガイの老戦士が他の親衛隊に号令を出して私に攻撃開始しようとしてた。
しまった!
本気でアトーフェさんを殺そうとすれば、親衛隊に敵対と見なされて、全員で来られるってオルステッドに言われてたんだった!
別に殺す気のないただの脅しだったんだけど、そんなの向こうにはわからないよね!
ムーアさんは凄腕の魔術師って話だ。
近接戦担当と思われる親衛隊が私に突撃し、ムーアさん含む魔術担当が詠唱を始める。
私はバッと、サイドステップで横に飛び、アトーフェさんから少し離れたところで次の技の構えを取った。
「不確かなる神よ。我が呼び声に答え……」
「奥義『剥奪剣界』!」
「**!?」
「『何っ!?』」
親衛隊全員の動きが止まった。
というか、私が無理矢理止めた。
まだレイダさんには及ばないまでも、強敵相手に使えるレベルに達した幻の奥義『剥奪剣界』。
私の認識範囲内にいる敵全員、魔術でも物理攻撃でも、動こうとした瞬間に斬撃が飛ぶ技。
それによって親衛隊が斬り裂かれる。
殺す気はないから死んではいないけど、近接攻撃担当は手足を斬り飛ばされ、魔術担当は喉を斬られて詠唱が止まった。
ただ、さすがは魔大陸最強の軍隊と言うべきか、止まらない人も何人かいる。
不死魔族の血が入ってるのか、アトーフェさんみたいに再生しながら動こうとしてる人もいる。
斬撃が通じてないっぽいスライムみたいな人とかもいる。
果てはギリギリだけど、剥奪剣界を普通に受け流してる人までいた。
強いなぁ。
いくら私の剥奪剣界が本家に及ばない上に、殺さないように注意してるとはいえ、並大抵の相手なら封殺できる自信があるのに。
このアトーフェ親衛隊、ほぼ全員が聖級剣士以上だ。
王級や帝級の端に手をかけてる人もいる。
楽しい!
とりあえず、聖級クラスは剥奪剣界で脱落したので、残った人達に斬撃を集中させて無理矢理抑えつけておいた。
スライムっぽい人は、途中で巨大斬撃の烈断を挟んで吹っ飛ばしておく。
体が爆散してたけど、スライムなら死にはしないでしょ。
でも、そうやって頑張っても、アトーフェさんとムーアさんだけは止まらない。
アトーフェさんは再生と受け流しを併用しながら私に突撃し、ムーアさんはズタボロになりながらも喉だけは死守して詠唱を続けようとしてる。
このままなら、アトーフェさんかムーアさんの攻撃を受け流すために、私は剥奪剣界を解除しなきゃいけなくなるだろう。
そうなれば、抑えつけてる親衛隊の人達が自由になって、どう転ぶかわからない戦いになる。
いいねいいね!
最高!
でも、残念なことに時間切れだ。
ここには戦いを楽しみに来たんじゃない。
アトーフェさんを勧誘しに来たんだ。
私が一人で戦ってたのは、あくまでも主目的のついで。
準備が整うまでの時間を有効活用しただけ。
仕事なんだから主目的を優先しないと。
「なっ!?」
アトーフェさんが不意に私の側面を見て驚愕って感じの顔になった。
そこには、いつの間にか石の巨人が立っていた。
身の丈3メートル。
迷彩カラーに彩られ、左手には大盾を、右腕には世界観に合わないガトリング砲を装備したカッコ良い巨大ロボットが。
「闘神鎧……!」
それを見て、アトーフェさんが呆然とした様子で呟く。
固有名詞だから私にもわかった。
「撃ち抜け!」
最近の研究の成果によって遠方から召喚できるようになった魔導鎧『一式』に乗り込んだルーデウスが、ガトリングを起動させてアトーフェさんを蜂の巣にした。
アトーフェさんの上半身が木っ端微塵になって吹き飛び、ムーアさんが本気で焦ったような顔になる。
だけど、そこまでだ。
ルーデウスはガトリングを構えつつも追撃はせず、私も驚愕して動きが止まった親衛隊に剥奪剣界以外の技で斬りかかることはしない。
そして、あくまでもカウンター技の剥奪剣界は、動いてない相手を斬ることはできない。
静寂が訪れた。
「*******?」
「『まだやりますか?』」
バラバラの肉片が集まって再生したアトーフェさんに向かって、ルーデウスが魔神語で話しかける。
ルーデウスの言葉までシャンドルが通訳した。
「***!」
「『やらん!』」
そう言うアトーフェさんは、さっきまでの凶笑が嘘みたいに落ち着いてた。
シリアスな雰囲気だ。
通訳で水を差しちゃいけない感じの。
「***。********」
アトーフェさんは地面にあぐらをかいてどっかりと座り、静かに何か語り出した。
シャンドルはこういう空気は読む男だ。
故に通訳はなく、私には何言ってるのかわからない。
ただシリアスな雰囲気っていうわりに、アトーフェさんはガトリングで服を吹き飛ばされたから上半身裸だけど。
多分、魔導鎧の兜の下で、ルーデウスの視線はむき出しのおっぱいに向かってるんじゃないかな。
いや、さすがに伝説の大魔王相手に劣情を抱く余裕はないか。
アトーフェさんはルーデウスとも言葉を交わし、やがてひと通り語り終わったところで……
「*****。****、********、********」
「『負けを認めよう。約束通り、お前達が生きている限り、オレはお前達の配下となる』」
アトーフェさんは、負けを認めて私達に下った。
伝説の不死魔王が仲間になった。
その後、ルーデウスが私以上にアホなアトーフェさんの代わりに実務の一切を取り仕切ってるというムーアさんと色々話し合ってる間に、魔王討伐の宴が開かれた。
討伐された魔王本人の手によって。
私は何故か、あぐらをかいて座ってる上機嫌のアトーフェさんの足の間に座らされ、親衛隊による出し物の数々を楽しんだのだった。
アトーフェ「こいつ勇者じゃねぇ! ラプラス的なアレだ!」
エミリー、仲間と協力もせず、戦術を工夫することもなく、単純な剣技と身体能力だけでアトーフェ様を圧倒しちゃった強さ+因子による若干の面影のせいでラプラスと重ねられ、勇者認定されずに親衛隊出動案件となってしまった。
今こそ全身全霊を懸けて戦う時!
そうして戦った結果、あれだけ強いにも関わらず、最後はちゃんと
良かったな!