剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
アトーフェさんの勧誘は成功した。
ルーデウスとムーアさんの話も纏まり、ルーデウスはアトーフェさんというか、ムーアさんに貰った書状を手に各地の魔王のところを回り、キシリカさん捜索と第二次ラプラス戦役での助力をお願いしに行く旅に出た。
シャンドルをアリエル様に返却して、代わりにエリスさんとロキシーさんをお供に加えて。
で、ルーデウスのプレゼンの結果だけど、キシリカさんの捜索はともかく、第二次ラプラス戦役に関しては「そんな先のことはよくわからん」って感じで断られた。
魔王は長い寿命を持て余してるから、先のことなんて考えてないんだろうっていうのがルーデウスの予想だ。
良かったのは、オルステッドが要注意って言ってた『不快の魔王』ケブラーカブラーさんにヒトガミの使徒になった兆候がなくて、奴に声をかけられる前に脅し……釘を刺せたことかな。
途中、ロキシーさんの故郷の近くに寄ったので、ルーデウスとロキシーさんがララを連れて挨拶に行ったりもしつつ、魔大陸巡りの旅は終了した。
で、次は当初の予定通り、『鬼神』のいるビヘイリル王国だ。
姉の出産時期が迫ってきてるし、この仕事が終わったらパパデウスは一時休職かな。
いくらギースさんの撃破が急務でも、出産の時くらいは姉の傍にいてほしい。
レオやレイダさんに守られてるとはいえ、ヒトガミが手を出しやすいっていう妊娠中に飛び回ってる分もね。
ビヘイリル王国に行く面子は、私、ルーデウス、エリスさん、ロキシーさん、師匠、北神三剣士の4人。
合計9人の大所帯だ。
鬼神は神級の強力な武人な上にヒトガミの使徒の可能性が高いって話だから、手軽に動かせる戦闘力の高いメンバー勢揃いである。
アトーフェさんの時に私の性能チェックも済んだので、ここからは遊び一切抜きのガチパだ。
ロキシーさんだけ、ややサポート寄りってところかな。
最近は転移魔法陣も書けるようになったらしいし、そのスクロールも用意して持ってきてくれてるしね。
まあ、転移魔法陣ってデカいから、スクロールとなるとめっちゃかさばるけど。
ちなみに、ちょっと前まではルーデウスも腰に魔導鎧『一式』召喚用の同じやつを背負ってたから、めっちゃかさばってた。
でも今はロキシーさんが開発した魔導鎧『二式改』の背中に装着する加速装置みたいな見た目した魔道具。
内部に折りたたんだスクロールを何枚も収納できて、腰のボタンを押すと対応したスクロールの効果が発動する『スクロールバーニア(ルーデウス命名)』によって、召喚用のスクロールを圧縮収納して持ち歩けてるから、随分とスッキリした。
やっぱり、ロキシーさんはサポート職だわ。
そんな9人でビヘイリル王国近くの転移魔法陣へと飛び、鬼神がいるという鬼ヶ島を目指す。
鬼ヶ島はビヘイリル王国の三つある都市の一つ、第三都市ヘイレルルとかいう海沿いの街の沖合にある小さな島で、そこには鬼神の同族である『鬼族』の集落がある。
鬼族は道中でも国の中に普通に紛れて生活してるのを見たけど、2メートル以上の巨体、2本の角、赤い肌、デカい下顎とそこから伸びる牙っていう、日本人がイメージする鬼の姿そのまんまな種族だった。
鬼神はそのリーダーで、他の鬼族よりひと周り大きいらしい。
あ、ちなみに今のは男の人の話で、女の人は割と人族に近い姿してたよ。
牙はあるし、色々とデカいけど。
格差社会の象徴までデカい人が多いけど。
ぐぬぬ。
あっちを見てもこっちを見てもデカい人が多くて、私の神経がささくれ立つ。
こんな雑念まみれなことで神経をすり減らす余裕があるのは、神級一人相手にするくらいなら、この9人組が過剰戦力だと思ってるからだろうなぁ。
魔導鎧を召喚するまでの短い時間とはいえ、私一人でアトーフェさんとその親衛隊を圧倒できた。
なら、9人もぞろぞろと引き連れていけば、鬼神と鬼族の戦士くらい問題ないはずだ。
もちろん、余裕はあっても油断はしてないけど。
懸念もあるっていうか、嫌な予感もしてるしね。
それというのも、ビヘイリル王国に行くってなった時に、オルステッドの顔が明確に曇って、何か言おうか言うまいかモジモジと迷った末に、結局タイミングを逃して言わなかったからだ。
告白できない乙女か。
あんなことされたら気にもなるし、嫌な予感くらいするってもんだよ。
こんなガチパ編成にしたのも、そこらへんが不安だったからって理由がちょっとはある。
そんな嫌な予感に気を引き締められながら、鬼ヶ島に続いてる第三都市ヘイレルルを目指す。
でも、途中で気になる情報をルーデウスが掴んできた。
「え!? この国にルイジェルドがいるの!?」
「いや、待って、落ち着いて、エリス。あくまでも噂だからね?」
エリスさんが過剰反応した情報。
それは、例のルイジェルド人形によく似た感じの人が、第二都市イレルの郊外にある『地竜谷の村』とやらで目撃されたって情報だ。
薬を買いにきたところを商人に目撃されたらしい。
この情報を掴んだ後、ルーデウスは悩んだ。
鬼神を優先すべきか、ルイジェルドさんを優先すべきか。
あと、この情報自体がギースさんの罠なんじゃないかとか、深読みしすぎじゃない? って感じのことまで疑った。
ロキシーさんを始め、頭脳労働ができる面子とも相談しながら。
私は役に立たなかったので、「ルイジェルドに会いたいわ!」としか言わなくてつまみ出されたエリスさんと、同じく頭脳労働が苦手なナックルガードと一緒に、皆の邪魔にならないようにお外で
今更だけど、『双剣』のナックルガードっていうのは芸名みたいなもので、この双子の本名はナクルとガドだ。
どっちがナクルで、どっちがガドかわかんないけど。
この二人を見てると、同じ双子でも私と姉は二卵性なんだろうなぁって強く思う。
私達も顔立ちこそそっくりだけど、体質も髪色も外見年齢も全然違うし。
特に外見年齢なんて、姉は17〜18歳くらいに見えるのに、私はやっとギリギリ14歳に見えるかどうかってところだ。
成長の速度も、成長がゆっくりになったタイミングも違う。
もしかしたら、その分私の方が寿命が長いのかもしれないけど、この大事な時期に肉体が下手したら幼女認定されかねないほど未熟っていうのは、ちょっと思うところがあるよね。
そんな鬼神ともルイジェルドさんとも全く関係ないことを考えながら軽く遊んでるうちに、会議の結論が出た。
「鬼神を優先します」
「なんでよ!?」
エリスさんが猛抗議。
まあ、エリスさんはルーデウスと同じく、この中で一番ルイジェルドさんと縁が深い人だからね。
ルーデウスと一緒に魔大陸に飛ばされて、そこからアスラ王国に帰ってくるまで、ずっと二人ともルイジェルドさんに守ってもらったって話だし。
言わば、私にとってのシャンドルだ。
今までずっと会えなかったんなら、会いたいに決まってる。
そんな正当な理由で荒ぶるエリスさんを「どうどう」と宥めながら、同じくルイジェルドさんと一番縁が深いはずのルーデウスは説明に入った。
「まず、ルイジェルドの情報に関しては、あくまでも噂だ。
確実性がないし、真偽を確かめるのにどれだけの時間がかかるのかもわからない。
だったら、早めに接触しないとヒトガミの使徒になりかねない鬼神の方を先に訪ねた方がいい」
「むぅぅ……」
「だから、鬼神を訪ね終わったら、その足でルイジェルドの方を調べに行こう」
「わかったわ!」
不満を飲み込もうとしてた感じのエリスさんが、最後の一言で一転上機嫌になった。
さすが旦那。
エリスさんの操縦方法をよく心得てる。
というわけで、私達は当初の予定通り第三都市ヘイレルルに向かって、そこから更に船に乗って沖合の鬼ヶ島に上陸した。
でも、そこに鬼神はいなかった。
外出中だそうです。
そして、鬼族達の態度もトゲトゲしいというか、敵意向けられてるような感じがした。
それだけで私達は察した。
頭のよろしくない私やエリスさんですら察した。
鬼神は既にヒトガミ側についたみたいだと。
ランドルフが既に味方になってるから王竜王国に行くイベントが省かれ、北神三世を探しに紛争地帯に行く意味もなく、剣の聖地も既に行った後。
その結果、シルフィの出産やナナホシのイベントの前に鬼神勧誘を差し込めたので、原作よりもかなり早くビヘイリル王国に向かうことになったルーデウス一行。
ただし、持ってる情報量も原作より遥かに少ない。