剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
転移魔法陣を設置した場所から移動して数時間。
推定ルイジェルドさんが発見されたという『地竜谷の村』までやってきた。
普通に歩けば半日かかる距離なんだけど、急いでるからルーデウスがロキシーさんをおんぶして、皆して走ったのだ。
おんぶされたロキシーさんを除けば、この中で一番足が遅いのは聖級剣士相当の身体能力を持ってるはずの二式改ルーデウスなんだから、この一行の戦力のインフレっぷりがよくわかる。
で、辿り着いた村から更に森に入る。
そこを進んでいくとでっかい谷があって、この谷の下には
だから村の名前が『地竜谷の村』っていうんだね。
地竜はかなり強い魔物みたいだけど、今は用が欠片も無いからスルーする。
谷にルーデウスの土魔術で橋をかけて渡った。
オルステッドから情報を聞いたルーデウス曰く、ここから先は少し注意しろとのことだ。
谷の先の森には透明になれるという能力を持った狼の魔物が住んでて、そこそこ厄介とのこと。
スペルド族は『第三の眼』っていう、額にある宝石みたいな器官でその程度の魔物の隠密性は見破れるから、討伐には苦労しないそうだけど。
ついでに言うと、私の魔眼でも透明狼の隠密性は見破れた。
魔物の魔力はわかりやすいから、出力強にしておけば遠距離からでも察知できるのだ。
更にオーベールさんがペンキみたいなものをまき散らす魔道具を発動させて、ペンキの雨を振らせて透明狼の姿を浮き彫りにしたから、これなら誰でも簡単に討伐できる。
透明能力に頼り切りなのか、それを抜いた戦闘力は大したことなかったし。
というか、オーベールさんの装備がまた増えてるよ。
私との模擬戦でも全部の手札を使い切ることはないから、一体あの人がどれだけの手札を隠し持ってるのかわからない。
まさに『奇神』。
そんなこんなで私達は森を簡単に抜け、私の魔眼による感知によって、森の中に建てられた小さな村を見つけ出した。
2メートルくらいの柵に囲まれた集落。
その入り口には、額に赤い宝石みたいなものが付いてる緑髪の戦士が二人、白亜の槍を持って立っていた。
悪魔として伝えられてる伝承通りの見た目だ。
なんかロキシーさんの膝がガクガクしてるけど、そんなに強そうには見えない。
中級剣士以上、上級剣士以下って感じかな?
大した闘気も纏ってないし。
いや、でも、なんか闘気じゃない変な魔力は纏ってるように見える。
神子や呪子に近いけど、かなり微弱な魔力。
門番二人ともだし、スペルド族の種族特性か何かかな?
それとも弱めのマジックアイテム?
なんか、どこかで見たことあるような魔力だけど……。
「何者だ?」
そんな門番さん達に近づいてみたら、槍を突きつけられた。
警戒心全開って感じだ。
スペルド族は迫害されてるらしいし、無理もないんだろうけど。
そんな警戒心むき出しの門番の前に、敵意は無いって感じで両手を上げたルーデウスが進み出た。
「突然お邪魔してすみません。俺はルイジェルド・スペルディアの友人です。
ルイジェルドに伝えてもらえないでしょうか。ルーデウスとエリスが来たと」
「……ルイジェルドの、客人? わかった。しばし待て」
訝しげな顔をしながらも、門番の片方が村の中に入っていった。
ルイジェルドさんに伝えにいってくれてるんだと思う。
こんなにすんなり行ったのは、門番さん達が私達の実力をある程度見抜いてるからかな。
エリスさんとか、いかにもな強者のオーラがあるし、戦っても勝てないって心のどこかでわかってるんだと思う。
だから要求を聞いてくれたと。
脅迫と同じ原理だね。
私達も
少し待ってると、さっきの門番さんに連れられて、一人の男性が村から出てきた。
門番さん達と同じ緑髪に、額には鉢金、顔には傷があって、手にはこれまた門番さん達と同じ白亜の槍を持ってる。
強い。
闘気の質ならオーベールさんと同等くらい。
でも、注目すべきはそんなところじゃない。
「「ルイジェルド!」」
「久しぶりだな。ルーデウス、エリス」
久しぶりに知り合いに合って、嬉しそうにする三人。
だけど、そんな感動の再会に水を差すように、私は二人とルイジェルドさんの間に入って、剣に手をかけた。
「あんた何やってんのよ!?」
「エミリー!?」
「ルーデウス、エリスさん! この人、変!」
私の魔眼はハッキリと捉えてるのだ!
この人の体に起こってる異常を!
ルイジェルドさんの中に別の魔力がある。
門番の二人と同じで、だけど遥かに強い魔力。
マジックアイテムのような、それでいて生物のような、首筋がピリピリとする危険な感じの魔力。
この魔力には見覚えがある。
前に見た時に嫌な感じがしたから覚えてる!
門番二人のは微弱すぎてわからなかったけど、何故か桁違いに強い魔力を纏ってるルイジェルドさんを見て完全に思い出した!
「体の中、何かいる! ギースさんが、前に、持ってた、瓶と、同じ、魔力!」
「「「!?」」」
「……ぐっ!」
私の一言で仲間達全員が戦闘態勢に入った。
同時にルイジェルドさんが胸のあたりを抑えて苦しみ出し、門番二人も同じように苦しみ出す。
そして、数秒としないうちにルイジェルドさんの目が濃い青に染まり、口は半開きになり、その顔から理性が消失した。
「さすがですね。こうなるだろうと聞かされていましたが、思った以上に早くバレた」
そんな状態でルイジェルドさんが喋った。
いや、これはどう考えてもルイジェルドさんじゃない。
私でもわかる。
今喋ってるのは、ルイジェルドさんの体の中にいる何かだ。
そんな何かに操られたルイジェルドさんの背後に並ぶように、同じく操られてるように見えるスペルド族の人達が続々と村から出てきて槍を構えた。
「お前は……! お前は、なんなんだ!?」
ルーデウスが叫ぶように問いかける。
悲痛な声。
大切な人がわけのわからない状態になって、答えを求めるような声。
ルイジェルドさんを操ってると思われる奴は、律儀にもルーデウスの問いに答えた。
「はじめまして、『泥沼』のルーデウスに『妖精剣姫』エミリーよ。
私はビタ。ヒトガミの使徒『冥王』ビタです」
ヒトガミの使徒を名乗った謎の寄生生物。
『冥王』ビタ。
オルステッドが言ってた要注意人物の一人だ。
カッコ良い異名だったから、よく覚えてる。
どんな人物で、どんな能力を持ってるかは知らないけど。
別に私が忘れたとかじゃなくて、スペルド族の件といい、ループの件といい、最近報連相が下手くそなんじゃないかと思えてきたウチの社長が説明しなかったせいで!
と、その時、更なる異変を私の魔眼が捉えた。
「何か、来る! 後ろから! 凄い、速さ!」
私が叫んだ時には、背後から森の木々を薙ぎ倒すような音が聞こえ始め、すぐにそれを成した存在が現れた。
森から巨大な何かが飛び出し、私達の後ろに着地というか、着弾する。
それは、身長3メートル近い赤い肌の巨人だった。
鬼族。
それも他の鬼族よりひと周り大きくて、とんでもない闘気を纏ってる存在となれば一人しか思い浮かばない。
『鬼神』マルタ。
ヒトガミ側についたと予想した、神級の怪物。
「とう!」
更に鬼神に続いて、見覚えのある人影が森から出てきた。
凄まじい魔力を纏った全長2メートルはある巨剣を持つ、黒髪の少年。
一時期一緒に旅をして、最近はずっと探し続けてた奴。
「アレク!?」
「久しぶりだね、エミリー! 今日は君達を倒して、オルステッドを倒して、僕が君の隣に立つに相応しい英雄なんだと証明するよ!」
『北神カールマン三世』アレクサンダー・ライバックが、わけのわからないことを言いながら、鬼神の隣で私達に向けて巨剣を構えた。
アレクが敵に回った。
このバカ!
ヒトガミにかギースさんにか知らないけど、ものの見事に口車に乗せられたな!
いつまで経っても見つからないからまさかとは思ってたけど、案の定か!
「ッ!?」
その二人に気を取られた隙に、違う方向から凄い速さの斬撃が飛んできた。
水神流『流』で受け流したけど、私以外を狙われてたら一人死んでたんじゃないかって思うほどの素晴らしい斬撃。
この手応え、よく覚えてる!
「ガルさん!?」
「チッ。やっぱ、この程度の攻撃が通用する奴じゃねぇよな、お前は」
「ちょ!? ガルさん!? エミリーは僕の相手ですよ!?」
「うるせぇ。早いもん勝ちだ」
『剣神』、いや元剣神ガル・ファリオン。
かつて一緒にオルステッドに挑んだ戦友。
剣の聖地を去る時に勧誘に失敗して以来、全く音沙汰が無かった人が、私に攻撃しながら現れた。
つまり、この人まで敵に回った。
敵側として現れた師を、エリスさんが殺気むき出しの顔で睨んでる。
ああもう!
ヒトガミに気をつけてって言っといたのに!
それで大丈夫だと思ってたけど、大丈夫じゃなかった!
敵に回るならヒトガミの手駒としてじゃなくて、道場破りみたいな感じで定期的にシャリーアに来てほしかったよ!
けど、嘆いてもどうしようもない。
前には『冥王』ビタに操られたルイジェルドさんとスペルド族の戦士達。
後ろには『鬼神』マルタと、『北神カールマン三世』アレクサンダー・ライバック。
横からは元『剣神』ガル・ファリオン。
神級三人に、人質を兼ねた帝級クラス+戦闘種族軍団。
今の私達にぶつければ、十二分に勝算のある戦力。
やられた!
オルステッドの言ったことは正しかった。
戦いは数と質だけど、ぶつかり方によって勝敗は大きく変わる。
ここまで完璧な状況を用意してみせるなんて……ヒトガミの力を得たギースさんは危険すぎる!
「ルーデウスよ、ギースからの伝言です。『さあ、開戦だぜ、センパイ』だそうですよ」
ビタがルイジェルドさんの口でそんなことを宣い、そして向こうの戦力が一斉に攻撃態勢に入った。
私達はまんまとギースさんの罠にハメられ、最悪に不利な状態から決戦はスタートした。