剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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96 いきなりの開戦

「剣神流『韋駄天』!!」

 

 私は剣神流の踏み込みで敵に向かって突っ込んだ。

 狙いはアレクだ。

 初手からいきなり王竜剣によって何倍にも強化された破断を使おうとしてるこいつが一番危ない!

 

「『光の太刀』!」

「おっと!」

 

 アレクは王竜剣の能力、重力操作で自分に対して横向きに重力をかけ、サイドステップと合わせて私の間合いから簡単に外れて光の太刀を不発にした。

 そして直後には逆方向にかけた重力と踏み込みで戻ってきて、王竜剣を私に向けて振りかぶる。

 

「北神流奥義『重力烈断』!」

「水神流奥義『流』!」

 

 重力操作によって重さを増し、威力を増した烈断を水神流で受け流す。

 受け流す方向にも注意が必要だ。

 うっかり他の皆や村の方に受け流したら、今の一撃だけでも全滅しかねない。

 ええい! やり辛い! 

 

「ガァアアアアアア!!!」 

「北神流『色彩弾』!」

 

 一方、私がアレクとぶつかると同時に、他の皆も戦いを開始していた。

 エリスさんが迷うことなくガルさんに突っ込み、一人じゃ無理だと思ったのかオーベールさんがそれをサポートする。

 さっきのペンキ魔道具をガルさんに投げつけて、ガルさんがそれを思わず斬り裂いたら、大量のペンキが飛び散ってガルさんに降り注ぎ、視界をペンキに塗り潰されるのを嫌がらせて後退させた。

 そういう使い方もあるんだ。

 

「エリスにオーベールか。ケッ、面倒な連中が出てきたもんだ」

「こんなところにノコノコ出てきて! 殺してやるわ!!」

「ハッ! お前が俺様を殺すだぁ?

 オルステッドに負け、エミリーに負け、ジノに負け、落ちぶれて剣神の座まで失って。

 だったら挑戦者として、覚悟決めたマジの戦場でもう一回あいつらに挑んでやろうと、わざわざ猿野郎の誘いに乗ってこんなところまで来たが、お前ごときに殺されるほど弱くなったつもりはねぇぞ!」

 

 ガルさんとエリスさんの剣がぶつかる。

 実力はガルさんの方が上。

 しかも、今のガルさんは剣神だった頃以上の、吹っ切れたみたいな気迫を纏ってる。

 でも、オーベールさんのサポートがあれば、エリスさんにだって充分に勝機はあるはず!

 

「ウオオオオオォォォ!!!」

「うわぁああああああ!!!」

 

 そして、鬼神との戦いもまた始まっていた。

 巨体と怪力に任せて突進する鬼神と、魔導鎧『一式』に乗り込んだルーデウスが正面から激突し、巨大怪獣VS巨大ロボットの夢の戦いが勃発してる。

 師匠が全力サポートしてるのを見るに、師匠が時間を稼いでる間に、ルーデウスがスクロールバーニアで一式を喚び出してライドしたんだと思う。

 

 それでもなお、明らかにパワータイプの鬼神には力負けしてるけど、ルーデウスの真骨頂はあの鎧に守られたところから放たれる大火力魔術の数々だ。

 師匠もいるし心配いらないと思う。

 

「落ちる雫を散らしめし、世界は水で覆われん! ━━『水蒸(ウォータースプラッシュ)』!

 天より舞い降りし蒼き女神よ、その錫杖を振るいて世界を凍りつかせん! ━━『氷結領域(アイシクルフィールド)』!

 混合魔術『フロストノヴァ』!」

 

 ロキシーさんは何故か顔を真っ青にして、膝をガクガクと震わせながら、体の表面を凍結させる魔術でスペルド族の戦士達の動きを止めた。

 戦士達はやっぱりそこまで強くないのか、それだけで動きが止まる人も多かったけど、

 動きが鈍るだけで止め切れないそこそこ強そうな人も結構いるし、帝級相当のルイジェルドさんに至っては全く止まらない。

 そんなスペルド族達に、ウィ・ターさんとナックルガードの二人(三人?)が、ロキシーさんを守りながら立ち向かう。

 

「うぅ……まさかスペルド族と戦う日がくるとは思いませんでした。しかも、操られた味方としてなんて……。

 三人とも! 前衛よろしくお願いします!」

「任せて!」

「できれば師匠と戦いたかったけどね!」

「レディをお守りできるとは剣士の誉れ!

 エミリー殿に加勢して師匠との因縁の対決というのも捨てがたいが、これはこれで良し!」

 

 目立ちたがり屋どもがなんかアホなこと言ってる。

 それが聞こえたのか、あの二人(三人?)に出ていかれた師匠であるアレクが微妙な顔になって、意識がそっちに逸れた。

 

「隙あり!」

「うおぉ!?」

 

 一瞬、わざと隙を見せて攻撃を誘う『誘剣』じゃないかと思ったけど、アレクはそういう細かい技が苦手だったし、そもそも私の目には今の隙がフェイクには見えなかったから、同じ北神流としての直感を信じて光の太刀を放った。

 

 結果、普通に隙だったみたいで、アレクは受け流しに失敗して体勢を……崩さない。

 重力操作によって体を支えて、ワイヤーで吊られてるみたいな不自然な体勢のまま、普通に強烈な攻撃を繰り出してきた。

 

「相変わらず、反則……!」

「これが北神の力さ!」

 

 予測も対処も難しい攻撃の数々を、それでも受け流して反撃していく。

 こいつに負け続けてた時より、私は遥かに強くなった。

 曲がりなりにも、今の私はアレクより上位の列強だ。

 そう簡単には負けない!

 

「強くなったね、エミリー! やっぱり君は北神英雄譚に登場する頼れる仲間に相応しい!」

「なら、なんで、敵に、なってるの!?」

 

 中距離から烈断を叩き込む。

 重さを増した王竜剣の一閃であっさりと霧散させられた。

 

「君の隣に並び立つためさ! 今の僕は君と共に成したファランクスアント討伐以来、大した偉業を成せていない。

 対して、君は難易度S級の迷宮を制覇し、水神を倒し、あのランドルフを倒し、他にも世界各地で多くの逸話を残している」

 

 アレクは悔しさと歯がゆさが同居したような顔で剣を振るい続ける。

 

「今の僕じゃ君の隣に相応しくない。せいぜい、君の引き立て役だ。

 だけど、この戦いで僕は君にも、そして父さんにも負けない名声を手に入れる!

 神級の集うこの大舞台で列強五位の君を倒し! 君にも倒せなかった『龍神』を倒して! 僕は英雄になる!

 そのためにギースの誘いに乗ったんだ!」

 

 そう語る、そう叫ぶアレクの目は。

 一緒に旅をしてた頃と違って、どんよりと濁ってるような気がした。

 病みの気配をビンビンに感じる。

 

「アレク…………このアホ」

「アホ!?」

 

 アホが。

 バカが。

 いくら病んでるとはいえ、ほとほと呆れ果てた。

 私を倒す。オルステッドを倒す。

 それは別にいい。

 だけど!

 

「剣士なら、剣で、語れ。剣で、誇れ。名声、なんかに、振り回されるな」

 

 自分の剣に自信があるなら。

 私にもオルステッドにも勝てると思うくらい自信があるなら。

 堂々と胸を張って挑戦しにくれば良かったんだ。

 それか私の勧誘に応じて、「僕の力を貸してあげよう!」みたいな感じで自信満々にふんぞり返って、上から目線で協力してくれれば良かったんだ。

 

「名声、なんかに、振り回されて。勝手に、卑屈に、なって。よりにも、よって、ヒトガミ、なんかの、味方に、なって……!」

 

 あんなのに協力して名声を得ても虚しいだけだと思うけどなぁ!

 勘違いと成り行きで手に入れた私の列強の地位より虚しいでしょ!

 

 アホな選択したアレクに怒りが湧いてくる。

 同時に、病んだアレクにそんな選択をするように誘導したんだろうヒトガミにも怒りが湧いてくる。

 人間は弱ったところに付け込まれると、間違った選択をしがちだ。

 実際、紛争地帯でヒトガミが夢に出てきた時は、私も多少なり揺れた。

 アレクもきっと揺れて、押し切られて、間違った道に押し込まれちゃったんだと思う。

 私の友達に何してくれてんだ!!

 

 スーパーサ○ヤ人に覚醒しそうなほどの私の怒気に晒されて、アレクがビクッとした。

 

「有名に、なりたくて、唆されて、騙されて、いいように、使われて。

 そんなの、英雄じゃない。だって、カッコ悪いから」

「カ、カッコ悪い!?」

 

 ガーン! って感じのショックを受けた顔になったアレクに一撃叩き込み、隙を作って後ろに下がる。

 そうして距離を取ってから、剣を鞘に戻す。

 戦ってるうちに、皆から多少は離れられた。

 この距離ならこれ(・・)を使っても巻き込む可能性は低い。

 

「私は、武人には、敬意を、払う。

 でも、今の、アレク、注目、されたいだけの、迷惑系、ユーチューバー」

「ゆ、ゆーちゅーば……?」

「だから、私も、敬意は、払わない」

 

 私は剣を引き抜く。

 愛剣である誕生日プレゼントの剣ではなく、腰の後ろに装備してた使うつもりの無かった魔剣を。

 もしこれを使うとしたら、背伸びをしなきゃ勝てないと断言できる超格上相手の時だけって決めてたんだけど、今の私は剣士としての流儀も敬意もぶん投げてるから遠慮なく使う。

 まあ、ここで出し惜しみしたらその間に皆が死にかねないし、どっちみち使うしかなかっただろうけど。

 私の流儀より仲間の命の方が遥かに大事だし。

 

 それでも、これから始まるのは剣士と剣士の尋常な勝負なんかじゃない。

 気に食わないことしてる友達をボッコボコにして連れ戻すための、ただの派手な喧嘩だ。

 

「魔剣『仙骨』」

 

 アレクの持つ王竜剣と同じく、シャンドルが倒したという最強の竜、『王竜王』カジャクトの肉体から作られたという48の魔剣の一つ。

 この48魔剣は王竜剣を作るための練習で作ったって話だから、刀剣の格としてはまだ私の方が劣る。

 でも、英雄と迷惑系ユーチューバーを履き違えてるバカ相手には、ちょうどいいハンデだ。

 

「行くよ、アレク(バカ)

「……来い、エミリー。カッコ悪いなんて言わせない。僕はカッコ良く君を倒して、君を僕の仲間にする!」

 

 アトーフェさんか。

 ああ、いや、そういえばアレクってアトーフェさんの孫だったっけ。

 魔王の血族は、戦う、倒す、仲間になるが好きみたいだ。

 なら、私も遠慮なくぶっ倒して、首根っこ引きずって下僕にしてやる。

 

「右手に、剣を。左手に、剣を」

 

 私は剣を上段に振り上げた。




・アレクの理想の決着
エミリー達がアスラ王国でレイダ達を倒した時みたいなシチュエーション。
戦いに勝ち、されど命は奪わず、昨日の敵を今日の友とする。
ヒトガミ的には、オルステッド陣営を消耗させてくれればそれでオッケー。

・ガルさん
オルステッドとの戦いで生涯最高の一太刀を振るえたせいで、模擬戦じゃ満足できない体にされてしまった。

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