剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「北神流奥義『破断』!!」
私の最高火力。
北神流最高の必殺技を初手からぶっ放した。
殺す気はないし、こっちの方が発動が早いから回復封じの斬撃にはしない。
それに対抗するように、アレクもまた奥義を放った。
「北神流奥義『重力破断』!!」
かつて、最強の魔物ファランクスアントの群れを一網打尽にした最強必殺技。
あの時は重力操作で敵を浮遊させて逃げられなくしたところに打ち込んでたけど、今回は私の奥義を迎撃することに主眼を置いたのか、単純に全てを押し潰す圧力が付与されただけの極大斬撃だ。
それだけでも充分やばいと思うけど。
私達の斬撃は正面からぶつかり合い、
「なっ!?」
相殺した。
ややこっちが押し込まれた形だけど、それでも二つの斬撃は互いに互いを打ち消し合って消滅した。
世界最強の剣とまで言われる王竜剣カジャクトを使って放たれた最高の必殺技を打ち消されて、アレクが驚愕の表情を浮かべる。
魔剣を手にすることで何が一番変わるかといえば、斬撃飛ばしの火力だ。
切れ味とか剣の耐久力とかももちろん大きく上がるんだけど、個人的に一番大きいのはこれだと思ってる。
生まれついての体質、神子であるザノバさんには及ばないまでも、ラプラス因子によって常人より遥かに強化された肉体を龍聖闘気もどきで更に強化してる私の体は、
下手したら幼女認定されかねないくらい未成熟な状態であるにも関わらず、神級の中でも上位の怪力を誇る。
シャンドルにも、レイダさんにも、ランドルフさんにも、一式ルーデウスにも、腕相撲で圧勝だった。
最近は力の入れ方がなってないザノバさんにも勝てるようになってきてる。
勝てないのはオルステッドだけだ。
そんな私の力を魔剣で更に増幅して、剣術三大流派の数ある技の中で最も火力に優れる破断なんて使おうものならどうなるか。
正直、これをぶっぱするだけで大抵の相手に勝ててしまう。
レイダさんにすら「殺す気かい!?」って言われたし。
まさにシャンドルの言った通り、強すぎて成長を阻害する武器だ。
私とこの魔剣は相性が
だけど、目の前の世界最強の剣を使うバカ相手にはちょうどいい!
「剣神流『韋駄天』!」
私は剣神流の踏み込みによって、自信満々の大技を砕かれて隙を晒してるアホに突撃する。
「くっ!?」
アレクが受け流しの体勢を取った。
でも、その時には私はもうアレクの構えた方向にはいない。
北神流『幻惑歩法』+『
もはや、私の黄金コンボと化した動きだ。
「『光の太刀』!」
「ッ!?」
そして、隙だらけの背中から光の太刀。
体の反応は間に合ってなかった。
でも、王竜剣の魔術による反応は間に合ったらしい。
アレクは自分に後ろから重力をかけて前方にスライド移動。
そのまま重力操作だけでぐりんっと体を回転させ、あの状態から体重の乗った反撃を繰り出してきた。
でも、アレクにしては単調な攻撃だ。
焦ったな!
「奥義『流』!」
「ぐぁ!?」
反撃の一太刀を受け流し、完璧に決まった水神流のカウンターで、アレクの右足を斬り落とす。
あのアトーフェさんの血を引くアレクは、この程度ならほっといても出血死とかすることはないけど、純血の不死魔族じゃないんだから、失った手足がすぐに戻ることもない。
「この程度ッ!」
でも、アレクは失った足に頓着せず、すぐに動き出した。
そう。
ことアレクに限っては、本当にこの程度はそこまでの痛手にならない。
元々、四肢欠損まで想定した型がある北神流を極めてることに加えて、王竜剣の重力操作があれば片足でバランスを崩すこともないからね。
あの武器、ますますチートだ。
あれのせいでシャンドルが武器に頼るな主義に目覚めたのもよくわかる。
「北神流『重力歩法』!」
そんなチート武器の重力操作を使い、アレクが片足で私の周囲を凄まじい速度で飛び跳ねる。
前に後ろに、右に左に、縦に横に、上に下に。
急加速したと思ったら急停止。
ジャンプしたと思ったら急降下。
予測困難の動きで私を惑わす。
私の使ってる幻惑歩法と衝撃波移動の合せ技を、より高度に、よりスマートにした感じの技だ。
懐かしい。
ベガリットでの旅の時は、よくこれにやられて敗北を喫した。
けど、今の私は対処法を持ってる!
「水神流奥義『剣界』!」
水神流の五つの奥義の一つ『剣界』。
レイダさんの幻の奥義『剥奪剣界』のもとになった技の片割れで、前後左右上下、どこにいる敵に対しても、同じ体勢からカウンターを放てるという技。
フェイントに釣られて体勢を崩すことがない分、この手の技にはかなり強い。
タイミングを外されるのだけはどうにもならないけど、そこは同じ北神流としての技の読み合いでカバーする。
「くっ!?」
攻撃を尽く受け流され、その度にカウンターでダメージを食らったアレクは、堪らず一時的に距離を取った。
不死魔族の血のおかげで、あの程度の浅い傷は1分もすれば完治するからね。
距離を取って仕切り直すのは正しい選択だ。
でも、逃さん!
「『烈断』!」
「ッ!?」
飛び下がるアレクに、追い打ちのような形で巨大斬撃の烈断を放つ。
咄嗟に王竜剣でガードされたけど、魔剣で強化された一撃は防ぎ切れずに体勢は完全に崩れた。
重力操作があれば1秒で立て直せるだろうけど、最速の剣技を前に1秒は大きすぎる隙だよ!
「『光の太刀』!」
「うっ!?」
最速最短の踏み込みで間合いを詰めて、すれ違いざまに放った光の太刀で、今度は左腕をもらった。
某11番隊隊長も言ってたけど、剣っていうのは片手で振るより両手で振った方が強いのだ。
私だって片手じゃ破断や光の太刀はおろか烈断すら使えない。
片手でその手の奥義を放てるデタラメな存在は、私の知ってる限りオルステッドだけだ。
アレクだって、片手を失えば大きく戦闘力が下がるはず。
ちょっと見ない間にデタラメの領域に片足突っ込むほど成長してたら話は別だけど、それもない。
「なんで……!?」
絶望顔のアレクにトドメを刺すべく、私は再び距離を詰める。
油断せず、幻惑歩法を使って惑わしながら前進。
でも、アレクが王竜剣に魔力を送り、発動した重力魔術が私を含む周囲一帯のものを全て浮遊させて、私から踏み込む地面を奪った。
構わず衝撃波を自分にぶつけて空中ダッシュ。
北神流『花火』!
「どこで、こんな差が……!?」
片手で突き出してきた遅すぎる刺突を受け流し、カウンターで左足を斬る。
「うぁああああああああ!!!」
悲痛な叫びを上げながら、アレクは重力操作でフワフワと浮いた状態で、最後に残った右腕による全力の一撃を放ってきた。
渾身。
死にものぐるい。
残った力の全てを込めたような一撃は、片手打ちで、しかも踏み込む足も失くしてるにも関わらず、充分すぎるほどの威力があった。
それを、私は容赦なく叩き潰す。
「奥義『光返し』」
攻撃特化の剣神流の中で、ほぼ唯一の返し技。
本来なら最速の剣技である光の太刀を、同じく光の太刀で迎撃するための技。
でも、別にそれ以外の技に対して使えないわけじゃない。
アレクの剣が振り切られる前に、私の最速の剣技がアレクの右手首を斬り飛ばした。
「僕は、名声だけじゃなく、剣でまで、君に……」
……アレクの泣きそうな顔に酷く心が痛むのを感じながら、私は剣の腹でアレクの頭を思いっ切りぶっ叩いた。
両手足を失い、王竜剣を失い、意識も失って崩れ落ちるアレクを、そっと抱き止める。
「バカアレク。起きたら、根性、叩き直してやる」
気絶する寸前のアレク(ああ、なんか、いい匂いする……)
愛剣『バースデー』を使った、現在のエミリーの実戦稽古の戦績
VS『死神』(魔剣装備)勝率99%
VS『奇神』(何でもありモード)勝率95%
VS『水神』(魔剣装備)勝率80%
VS『泥沼』(遠距離戦)勝率75%
VS『龍神』(素手)ギリッギリ一本取れた
魔剣装備エミリー戦闘力 ラプラス戦役以前の列強下位並み
世界最強の男の教えを写○眼を使って超効率的に吸収し、習得した技を存分にぶつけて磨き上げられる好敵手達に囲まれた結果、とんでもねぇ化け物が誕生してしまった。
現時点でこれなのに、肉体的にも技術的にも全盛期はまだまだ先なのだから戦慄ものである。
この化け物を見出すという偉業のせいで伝説の登場人物になりそうな勢いの初代師匠は「もうどうにでもなれ」という顔になり、二代目師匠は北神一世の教えの凄まじい可能性を見て大興奮したという。