第一王子は廃嫡を望む(調整版)   作:アマシロ

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諸々コメディとかラブコメ寄りにした対エタり調整版になります(エタらないとは言っていない)。


第1話:出来損ないの第一王子

 

 

 

 

 

 ラグノリア王国、首都セントリア。

 その中心に位置するセントリア城は、大河の中洲にある古代遺跡を中心に築かれた白亜の城である。

 故に、その城の基盤に当たる古代遺跡部分には一般の兵士や、貴族たちですら知らぬ部屋や通路が隠されており。そのうちの一つで、魔法のランプを用いた怪しい密談が行われている。

 

 

 

「計画の進捗はどうだ」

 

 

 

 上座に座るのは、金髪碧眼―――明かりを受けて僅かに輝く瞳は高位貴族の証であり、透き通った王族由縁の蒼色のその青年は悪どい笑みを浮かべていた。それに応えるのは胡散臭い笑みを貼り付けた優男。

 

 

 

「はい、殿下。万事抜かり無く、高位貴族を中心に反第一王子の派閥が勢いを増しております。ヴェスパー侯爵家の話が良い呼び水になっているかと」

「すばらしい」

 

 

 

 

 さらりと口にされるのは、本来であればこの国を継ぐはずである第一王子に対する政治的な敵対行為。王族による継承争いであろう発言に、動揺する人間はいない。この場には三人しかいないので当然といえば当然だが、それだけ計画の中枢にいる三人だった。

 

 

 

「主、どうやらヴェスパー侯爵家は親第二王子派ではなく教会派に接近しているみたい」

 

 

 

 金髪に通常の碧眼。貴族として一般的な色合いながら、隙のない振る舞いの小柄な少女が小さく手を挙げて補足する。すると、主である青年は小さく鼻を鳴らして呆れた様子を隠さず言った。

 

 

 

「まあ、ああいう輩はいない方がむしろいいだろう。四大公爵家は?」

 

 

 

 青年が優男に目を向けると、優男はさして気にした風もなく王国の重鎮である公爵家の方針をさらりと述べた。

 

 

 

「最大勢力たるアグリア公爵家は、やはり北の守護を理由に中立ですね。イルミリス公爵家は第二王子支持優勢、ウィンドルム公爵家は第一王子支持優勢、エンディミア公爵家は不干渉の構えかと」

 

 

 

 さすがに国の主軸である四大公爵には反王政、というか昨今の内憂外患の象徴とも言える教会派はいないようで青年もホッと息を吐き。それから僅かに目を細めて優男を見た。

 

 

 

「第一王子派とは、ウィンドルムは正気か? ロクな魔法が使えない王など飾りにもならないだろうに」

「ハハハ、まあ彼らなりに時勢を読んだ結果でしょう。勿論一枚岩ではありませんので、切り崩しようはありますが」

 

 

 

「クックック、やるなアリオス」

「ハハハハ、殿下ほどではありません」

 

 

 

 フフフ、ハハハと完全に悪事を企む笑いを交わす男二人を前に、一人なんとも言えない顔をしている少女が小さくつぶやく。

 

 

 

 

「そういえば、イルミリスのご令嬢は第一王子派らしい」

 

「は?」

「おや」

 

 

 

 言葉の通り、ひどく意外そうな青年。

 言葉の割に、全く驚いてなさそうな優男。

 

 青年は数秒かけて再起動すると、腕を組み直してから真顔に戻る。

 

 

 

「まあ、いい。なら俺が直接第一王子の器を突きつけてやるまでだ」

「それは……効果的なことは間違いありませんね」

「どっちの意味で?」

 

 

 

 なんとなーく部下二人に生暖かい目を向けられていることに気づかず。主である第一王子(・・・・)、ルーク・ラグノリアはテーブルに拳を叩きつけた。

 

 

 

「もう、父上の優柔不断を放置してはおけない。第一王子()は王の器に非ずと叩きつけ、是が非でも王位継承権を剥奪させる! その第一段階は、極めて順調に推移している」

 

 

 

 

 第一段階、市井においてやりたい放題で権力を振りかざし、悪名を轟かせる。

 そのために街に出ては王位継承権第一位という権力をブン回して気に食わない者を貴族だろうが平民だろうが大商人だろうが教会の人間だろうが叩き潰してきた。

 

 

 

 しつこいナンパ男(伯爵家)がいれば近衛兵を呼んでしょっぴかせ、普通は暗黙の了解で有耶無耶になるところを王族の権限で無礼討ち……は流石にしないが、視察を邪魔したという理由で公務執行妨害に。

 

 談合していた大商人からは違約金をたんまりとふんだくって公共事業に投資。

 教会の人間が無茶な立ち退きを迫っていた証拠を掴んで大々的に宣伝してやりご破産にする。

 

 暗黙の了解なんて知ったことか、俺がルールだ。とばかりの振る舞いに高位貴族からは苦情が殺到し、最大宗教である聖竜教会の教皇猊下からお手紙が届いたこともあるとか。それはちょっとルークも冷や汗が出た。

 

 ついでに王族の金を好き放題に散財しまくり、『黄金の王子』などという二つ名を持つほどの放蕩っぷり。

 

 

 

 

 なんでこれで廃嫡されないのか、と常々疑問に思っているルークだが、どうせ父上の負い目のせいだろうと解釈している。

 

 『血を継げなかった王子』、『出来損ない』などと揶揄されるようになった原因には、父が母と大恋愛の末に反対を押し切って結婚したことと、魔法の遺伝がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――魔法。それは、血に宿る奇跡。

 かつて魔法を使える者たちが人々の生活を支え、集団ができた。それはやがて国となり、魔法使いは王や貴族として人を導くようになった。

 

 その最たる理由が、魔法の才能が遺伝すること。そして貴族同士の婚姻が魔法の才能を長い年月を掛けて高めていくからであった。

 

 

 

 だから、貴族は己にふさわしい相手と子を成さねばならない。

 それだけが唯一、高貴なる血筋に生まれた義務だと貴族たちは言う。それを破ったのが父であり、その結果生まれたのが母と同じ男爵家並の規模の魔法しか使えないルークだった。

 

 

 ルークが廃嫡されるべきだと考える理由こそがその魔法の弱さであり。そして、公爵家など高位貴族の権力が揺るぎないものである理由もその魔法にある。男爵家であれば自分だけ、あるいは誰か一人程度にしか作用しない魔法しか使えないのに対し、子爵なら数人から数十人、伯爵なら数十から数百人、侯爵なら数百から数千人、公爵なら万に届く規模の魔法を扱うことができる。(無論、相手も貴族なら魔法で対抗されるのでそう上手くはいかないが)

 

 国の威信であり、最大戦力であり、積み重ねてきた歴史そのもの。そして血統という未来に続く商品でもある。それこそが貴族。

 

 

 だから、ルークは思うのだ。

 自分が王位を継ぐことは、いずれ自分と同じ不幸を味合わせることだと。

 

 

 

 

「国の治世に、親子の情など不要だ。それでもなお、考えを曲げないのであれば――――最新の知見に倣おう」

 

「……最近の廃嫡というと、アレでしょうか」

「?」

 

 

 

 何かを察したように遠い目をするアリオスに、小首を傾げるティナ。

 ルークに目線を向けられて、アリオスは若干口元を引き攣らせながら言った。

 

 

 

「つい先月になりますが、隣国で聖女と婚約破棄した第一王子が廃嫡されました」

「主、婚約するんですか」

 

 

 

 心なしから先程までより視線が冷たいティナに若干たじろぎつつも、ルークは小さく頭を振った。

 

 

 

「勿論、ただ婚約破棄すればいいってもんでもない。隣国の場合、聖女派がクーデターを起こしたりとか色々あったみたいだが、聖女の実家が居ないと派閥のバランスが崩壊するのが最たる理由みたいだしな」

 

「我が国においては、イルミリス公爵家になりそうですが」

 

 

 

 

 

 

 なんとなく、イルミリス公爵家の令嬢の顔が浮かぶ。

 公爵家の名を背負うに相応しい、怜悧な美貌を思い浮かべてルークは目をそらした。

 

 

 

「リュミエールは、止めよう。絶対協力してくれない気がする」

「第一王子派らしいですからね」

 

 

 

 腹心の部下であるティナを疑うわけじゃないが、その情報は本当だろうか。

 嫌われていないと信じたいが、好かれる心当たりが無さすぎる。貴族の義務と誇りを擬人化したような完璧な令嬢だぞ。と、ルークは思いつつげんなりした顔で言った。

 

 

 

「第一王子に協力してくれない第一王子派ってなんだよ」

「反第一王子派筆頭の第一王子の方が変では?」

 

 

 

 仕方ないじゃないか、誰もやらないから俺がやるしかない。

 そんな言い訳を脳内で浮かべたルークは、残るウィンドルム、エンディミアの公爵令嬢たちを思い浮かべて。

 

 

 

『お兄様、婚約されるのですか? え、わたくしと? え? ふえぇぇ!?』

『はぁ……婚約、ですか。不要です。どうしても、とおっしゃるのなら――――わかりますね?』

 

 

 

 お兄様、と自分を慕ってくれるウィンドルム令嬢に失望されたくないというなけなしの男心と、果たしてどんな無茶な要求をしてくるか分からないエンディミア令嬢にげんなりとした気分を抱いた。

 というかウィンドルムの令嬢、ラティス・ウィンドルムは好きな相手がいると聞いた覚えがあるし。兄貴分としては血の涙を飲んででも応援せねばならない。

 

 

 

「なんで顔見知りにそんな無茶を頼まないといけないんだ」

「ははは、殿下の発案では?」

 

 

 

 そもそも王族が年頃の高位貴族令嬢と顔見知りでないわけがなかった。

 親しい、そこそこな親戚の女の子に「ちょっと婚約と婚約破棄されてくれないか」と頼むのは明らかに罰ゲームである。

 

 

 

「もちろん、詫びとして次期国王になるレオンとの婚約はつけるし、責任は全部こっちで引き受けるが――――それで乗ってくれそうなやつ、いるか?」

 

 

 

 レオンなら多分「はぁ、全く兄上は」と言いつつ引き受けてくれるだろうし、血統厳選は王族の義務であるので、第一王子を廃嫡せざるを得ないくらいハイレベルな令嬢と結婚してくれれば国としてはプラスだろう。ラティがレオンのことを好きなら話は早いのだが。

 

 

 

「ラティってレオンのこと好きだったりしない…かな」

「無いですね」

「無いです」

 

 

 

 にべもない。

 と、若干顔が引きつってるような気がしないでもないアリオスが問いかけてきた。

 

 

 

「ちなみに、何故そう思われたんです?」

「いやほら、レオンは俺の弟だろう。ラティは俺の妹分だろ。つまり二人は―――」

 

「赤の他人」

 

 

 

 にべもない…っ。

 雷光の如き切れ味でティナに一刀両断された。

 

 

 

「くっ、レオンに何の不満があるって言うんだ。次期国王で、魔法も良くて顔も性格も良いぞ」

「「そういう問題じゃないから(では?)」」

 

 

 

 

 まあ確かに、魔法と顔と性格だけで選ぶのではなく相性も大事だろう。

 じゃあレオンに合いそうな令嬢を紹介して、レオンを王にするために協力してもらうというのが一番筋が通るとは思う。

 

 問題は国を動かすほどの影響力があって、婚約者がいなくて、王妃になっても問題なくて、レオンと気が合いそうな人で、協力してくれそうな令嬢が思い当たらないことである。

 

 

 

 

「普通に考えれば四大公爵家だけどな」

 

 

 

 半王家、なんて言われ方があるくらいには名門中の名門。

 アグリア家がなければこの国は北の守護を失って、なだれ込む魔獣や異民族で荒れ果てる。イルミリス家は西の海での貿易で莫大な利益を上げており、ウィンドルム家は飛竜を用いた空輸で物流を担い、エンディミアは国外にも通じる魔道具関係の最高権威。

 

 失礼をかませば王族だろうとタダでは済まない、それが四大公爵家。 

 蝶よ花よと大切に育てられると同時に、歴史の積み重ね、血筋と魔法の結晶として丹念に磨き上げられた公爵令嬢とは、それこそ基本的には目に入れても痛くない、公爵家の宝玉だ。

 

 

 

 ラティに偽装婚約と破棄なんて頼んだら、それこそあの恐ろしい“雷嵐”ウィンドルム公爵が八つ裂きにしようと迫ってくるだろう。でもそもそも可愛い妹分のラティに引かれたら永久に凹む自信がある。

 

 リュミエールはね、うん。やめとこう。

 美人は怒らせると怖い。

 

 ヴィーヴィル・エンディミアは利益によっては協力してくれるだろうが、あの性格的に王妃という立場に欠片も魅力を感じないだろう。よって、支払うべき利益は莫大なものになる。無理。

 

 と、絶望しているのを見かねてかアリオスは笑みを止めてにわかに真剣な表情で言った。

 

 

 

「一応、病気療養中のアグリア公爵家令嬢もおりますが」

「……パーティでも一度も見たこと無いぞ?」

 

 

 

 正直、色々合って社交には手を抜いていたのは否めないのだが。

 高位貴族とは仲が悪いというか、魔法が明らかになってから気まずすぎて会っていない。ポンコツ王子として見下されるだろうが、レオンと気が合うかもしれないなら会ってみたいところ。

 

 

 

 

「何かその病気の情報は?」

「ご当主であるアグリア公爵が八方手を尽くし、火の魔法に耐性のある魔道具を求めているくらいですね。アグリアは代々火の魔法の家系、ならば魔法の制御が覚束ないか、あるいは―――――」

 

 

 

 

 普通に考えれば、制御できないほどの火の魔法に苦しんでいるのだろう。

 だが、四大公爵であるアグリア公爵が手こずるほどに? 戦場で鍛え上げられた、あの白銀の熊とも称される精悍な公爵の顔を思い浮かべて、ついでにこれまで市井で見てきた問題なども思い返しながらルークは言った。

 

 

 

「アリオス、その令嬢の特徴って何か分かるか?」

「……父譲りのプラチナブロンドの髪に、夜明け前のような紫の瞳が美しいと。ただ、一度のみ出席した未成年向けのパーティでは見るに堪えない姿だったとも聞いていますね」

 

 

 

 それを聞いて、ルークは天を仰いだ。

 なんとなく、疑問の一つが解消されたような気がした。

 

 

 

「とりあえず行ってみるか。で、アリオス。一つ頼みがあるんだが――――」

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

 

 で。

 今、何故か、ふっかふかのソファに座って、膝の上にちみっこい令嬢を乗っけて滂沱の涙を流して人目も気にせず号泣するアグリア公爵と向かい合っていた。

 

 

 

 

「う゛、う゛お゛ぉ゛ぉ゛、ごの゛、ごの゛、だびばまごどに」

 

 

 

 やや窶れた風もあるが、間違いなく王国でも最強を争う魔法の使い手にして防衛戦の名手―――なのだが。最早何を言いたいのか、感謝されてるのか怒っているのかも判然としない。いや、多分怒っていないとは思うが。

 

 

 なんでこんなことになったのやら、と思い返すべきはおそらく数年前のこと。

 全てが始まった日のことを。

 

 

 

 

 

 

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