数年前、親友が審神者になった。
午前3時、スマホのバイブレーションで目が覚めたときは、また変な遊びを思いついたのだろうと思った。振り回されるのには慣れていたから。
けれど、電源を落とそうとして、指が止まった。どうして今日はいきなり電話をかけてきたのか。突飛な性格だけれど、変な所で律儀なのだ。なんとなく不安感を覚え、結局電話に出ることにした。電話口から聞こえる声は珍しく緊張していた。ただ会って話しがしたいと言うだけで、何かに誘おうという風ではないのが、更に不安にさせた。
何もなければ食事を奢らせて、ついでに宿題も押し付けようと考えながら、パジャマを脱ぎ捨てた。スマホと財布だけ鞄に突っ込んで、家を飛び出す。こんな時間に外出するのは祖父の家に帰る時ぐらいで、もちろん、全力で駅まで走ったりはしない。
いくつかの信号を無視して改札に着くと、今まで見たことの無い顔をした親友がいた。嬉しそうでいて、どこか寂しそうでもあった。普段自分たちがとんなやり取りをしていたのか、突然わからなくなった。
「飛留間、どうしたの?」
呼吸を整えると、偶然居合わせた知人に対するような、ぎこちない調子で声をかけた。かすかに、息を吸う音が聞こえた。
「私、やらなくちゃいけないことがあるの」
審神者。神を率いて歴史を守るのだと、ニュースか何かで聞いたことはあった。飛留間はつらつらと何でもないことのように話しているが、私は頭が真っ白になった。
年に1度手紙のやり取りができる、それだけ。次に親友の声を聞くのはいつになるだろう。もしかしたら、いや、もし彼女に何かあったら。頭の隅で、ここ最近感じていた違和感の正体がわかったなと、ぼんやり思っていた気がする。
「時間だ、そろそろ行くね」
一通り説明を終えると、飛留間はいつもの明るい声色に戻っていた。私は黙って話を聞いていただけで、かける言葉が見つからなかった。
「上手くやりなよ」
なんとか絞り出した声は震えていて、冷たかった。それでも彼女は安心したように笑って、しっかりとした足取りで改札の向こうへ行った。後ろ姿が見えなくなっても立ち尽くしていたが、空が明るみ始めると、来た道を戻った。
玄関のドアを音を立てないように開けて、部屋に入り、ベッドに腰掛けた。唐突な別れを理解できず、床に脱いだままのパジャマを眺めていた。
やがて朝日が差し込むと、机に置かれたゲームソフトのパッケージが目に入った。薄明かりの中で手に取ると、ついこの間2人で遊んだ思い出が濁流のようになだれ込み、数日前の出来事が一瞬で遠い過去のことになったとさえ思えた。
鞄からスマホを取り出し、何度か電話をかけようと試みた。いよいよこれは現実なのだと認めざるを得なくなると、ぼろぼろと涙が零れた。