今日の朝一に考えたテーマで書いた4000文字程度の短編です。夢をテーマに、一つ書いてみましたので宜しけれは暇つぶし程度に読んでみて頂けますと幸いです。
朝起きて朝食を食べ、身支度を整えて出勤する。会社では上司にどやされながらも仕事をこなし、定時には退社。家に帰れば動画を見て適当に暇を潰し、夜になったら眠りにつく。
そんな平凡人間な修道にも、悩みがあった。ただその悩みは、一般的とは少し異なるものだが。
修道は、悪夢に悩まされていた。小さいころからという訳ではない。ここ数ヶ月の話だ。それでも、修道からしてみれば大きな問題となっていた。
毎日毎夜異なる悪夢を見る為にまともに眠ることが出来ず、いつも夜中に目を覚ましてしまう。そこから眠ろうとしても、寝付くことが出来ず気づいたら朝を迎える。医者にも行ったが、睡眠薬を処方されるだけでそれ以外には何も手を打ってもらえなかった。その睡眠薬も大して効果を発揮せず、悪夢に叩き起こされる日々が続いていた。
最早眠る方が疲れる毎日。そのせいで、最近は仕事には集中できずにミスを連発してしまう修道。上司から怒られる回数も増え、段々とストレスが溜まっていた。
どうしたらいいのか。悩む修道に、ある日転機が訪れた。
それはいつものように仕事を終え、暇つぶしに動画を見ていた時のこと。動画の合間に入る広告の中で、ふと修道の目を引くものがあった。
「DREAM、OFF…………?」
それは『夢、買いませんか?』というシンプルな一言とリンクだけが書かれた5秒くらいの広告だった。いつもだったらさっさとスキップして動画を見始める修道だが、その時は何故かその広告が頭から離れなかった。
悪夢で悩んでいた、というのもあるのかもしれない。詐欺だっていうのは百も承知だが、修道からしてみたら藁にも縋りたい気持ちだった。
「これで悪夢から解放されるなら、楽なんだけどな……」
自嘲気味に呟きながら、修道はサイトへのリンクをクリックした。新しいタブが開かれ、DREAMOFFへとアクセスされる。
サイトが開かれ一番最初に修道の目に飛び込んできたのは、ゴシック体のフォントででかでかと書かれた『夢の売り買い、お任せください』という言葉だった。
青緑の背景に文字を直置きしたようなデザインで、書かれた文字も中央揃い。いつの時代のHPだよと言いたくなるほど古めかしいデザインだった。
サイトを見ていくと『販売ページ』と書かれたリンクがあることを修道は発見する。クリックしてみるとページが変わり、ずらりと文字が並ぶページへと飛ばされた。
そこには『空を自由に飛べる夢――220円』『好きなものをおなかいっぱい食べられる夢――330円』『欲しかったあのゲームを買ってもらい、ずっと遊んでいられる夢――1,180円』と夢の内容と値段が書かれていた。中には『ハーレムを作り上げ、好き勝手に女性と遊べる夢――120,000円』など、とんでもなく高額なものもある。
「ばかばかしい」
サイトを見た修道は鼻で笑うと、直ぐにページを閉じた。ちゃちな作りの詐欺サイト、修道はDREAMOFFをそう認識した。
やっぱり駄目だったという失望感に駆られながら、修道は床に就く。目を閉じ、いずれやってくる睡魔にその身を委ねた……。
その日も、修道は悪夢を見た。今日は知らない人間に腹を裂かれ、内臓を食べられる夢だった。飛び起き、確認のために腹をさすってみるが血は出ていない。当たり前だ、さっきまでのものは夢なんだから。
「ああ、クソっ……」
ボフン、とベッドに横になる。顔や体は汗びっしょりで、とてもこのまま入眠できる気がしなかった。ふと時計に目をやると、まだ深夜2時。修道は諦めてベッドを出ると、汗を流す為にシャワーを浴びることにした。
「…………」
頭から熱いお湯を被りながら修道が考えるのは、寝る前に見たあのサイトのこと。修道自身はまだ気づいていないが、かなり精神的に追い詰められていた。だから修道は、詐欺だと分かっていても、気休めだと分かっていてもあのサイトに頼りたくなってしまった。
適当に髪を乾かして先ほどのサイトにアクセスする修道。手元のクレカで、お試し程度に一番安い『空を自由に飛べる夢』を購入する。
数秒程して画面に現れる『ご購入ありがとうございました。』の文字。ああ買ってしまった、という後悔が修道の胸中を襲うが、それ以上にこれで何か変わったら、という希望の方が強かった。
再び布団に潜り、目を閉じる修道。いつもならここから寝付くことなく朝日が顔を出すのだが、今日は不思議と直ぐに眠気が襲ってきた。
抗うことなく、再び眠気に身を任せる修道。そのまま、意識を闇に手放した。
「……嘘だろ」
朝、修道は目を覚ます。いつもとは違い、悪夢を見た後なのにしっかりと眠ることが出来た。
しかしそれ以上に、修道には驚いていることがあった。それは夢の内容だ。修道が再び寝た後に見た夢は、寝る前にサイトで購入した『空を自由に飛べる夢』だった。背中に翼を生やし、鳥と一緒に晴天の空を自由気ままに飛び回る夢。おおよそ悪夢とはかけ離れた、そんな夢だった。
寝直したおかげで体の疲れは感じられず、幾分か清々しい気持ちでその日は出社することが出来た。
その晩、修道は夢を買わずに眠った。すると、またも悪夢に苛まれることとなった。
夢を買わなければ、悪夢に苛まれる。そう感じた修道は、昨日と同じサイトで同じ夢を購入しようとする。しかし昨日の空飛ぶ夢はサイトから消えていて、一番安いものでも330円の『好きなものをおなかいっぱい食べられる夢』だった。
修道は迷わずそれを購入。再び昨日と同じ購入完了の画面がスマホに映し出される。寝汗を雑に拭き、布団に潜って目を閉じる修道。ほどなくして、修道を睡魔が襲う。
その日も、修道は購入したものと同じ内容の夢を見ることが出来た。二度の体験を経て、修道はこのサイトが『本物』であることを確信した。悪夢を見ない為、安眠を得る為にその日以降毎日、修道は夢を買うようになった。
一度買った夢は再び購入することは出来ない。悪夢さえ見なければそれでいいと思っていた修道は安い夢から順番に購入していった。そうして何日も過ごしていくうち、ふと一つの夢が気になった。
それは『ハーレムを作り上げ、好き勝手に女性と遊べる夢――120,000円』このサイトの中でも高い部類に入る夢だ。所詮夢は夢、現実じゃない。そう思っても、修道はこの夢が気になって気になって仕方なかった。
そうして日が経ち、給料日。ついに修道はこの夢を購入することにした。12万の決済を済ませ、期待に胸を膨らませながら床に就く。一か月前の修道からしたら、想像も出来ないような心持ちだった。
翌日、目を覚ました修道は一瞬今自分が夢の中にいるのか現実なのか分からなかった。それほどまでに、夢の中の体験はリアルで、そして満足感に溢れるものだったから。
それから修道は、他の楽し気な夢にも手を出すようになっていった。『大金持ちになって好きなものを好きなように買える夢』『世界一周旅行をする夢』『アイドルになってライブに立つ夢』など、どれも気持ちのいい夢ばかりを買って見ていった。
しかし、そういった『気持ちのいい夢』はどれも価値が高い。ただのサラリーマンでしかない修道の貯金は、あっという間に底をついてしまった。
このままでは、安い夢すら買えなくなってしまう。どうしようかと迷っていた修道は、DREAMOFFのサイト内に新たなページが出来たことに気づく。
「買い取り、フォーム……?」
そこは、『あなたの夢、買い取ります』と書かれたページだった。ネット買い取りのページと同じようなレイアウトで自分の名前と生年月日を書き込む欄があり、下にある送信ボタンを押すことで夢を売ることが出来るらしい。
この一か月で、このサイトが本物だと信じ切っていた修道は、この怪しげなページにも一切疑いを持つことは無かった。自分の名前と生年月日を入力し、送信ボタンを押す。ほどなくして、修道のメールアドレスに一通のメールが届いた。
差出人は不明。内容は、先ほどの夢の買い取りの件についてだった。
『申し訳ありませんが、当店では悪夢は取り扱っておりません。またのお売りをお待ちしております』
「――っ、売れねぇなら期待させんじゃねえよ!」
ベッドに向かって携帯を叩きつける修道。その日は夢を買うこともなく、眠りについた。
その日に見た夢は、悪夢だった。しかも妙に生々しく、中学の頃の友人一人一人に包丁で刺されるという夢。なまじ顔をよく知っている分、今まで見てきた夢の中で一番強烈なものだった。
勿論寝覚めは最悪。寝不足な修道の仕事に身が入るわけもなく、その日はミスを連発することになった。
「やっぱり、俺には夢が無いとダメだ……」
修道が仕事終わりに向かおうとしていたのは『消費者金融』。是が非でも、修道は夢を買う為の金が必要だった。
無人機があるところに脚を踏み入れようとした瞬間、修道のスマホが震える。何気なく開いてみると、一通のメールを知らせる通知だった。
メールを開く。差出人は不明。内容は――
「夢、買い取りキャンペーン……?」
強化買い取り週間と題して、一生分の夢を買い取ります、というお知らせだった。昨日悪夢は買い取れないと言われたばかりなのに何を言っているんだと思う修道だったが、そこで一つの可能性に気づく。
一生分なら、悪夢以外の夢もあるんじゃないか? と
早速ページに飛び、昨日と同じ手順で必要事項を入力する修道。加えて、ページには『その日』と『一生』のどちらかを選択する項目が新たに追加されていた。修道は迷わず『一生』を選択。送信ボタンをタップする。
修道は無人機には入らず、帰路に就くことにした。借金をするよりも夢を買い取ってもらった方がましだろう、そう考えたからだ。
ほんの5分ほどでメールが届く。開くと、修道が待ち望んだ内容だった。
『査定させて頂けました結果、貴方の夢を10,000,000円で買い取らせていただきたいと思います』
額を見た修道は、声を出して驚く。何しろ一千万だ。そんな額がいきなりどかんと入ってくるとなると、臓器でも売り飛ばすんじゃないかと思うような額、それが、毎日見る夢を売るだけで手に入る。
これで毎日好きな夢を見ることが出来るし、買わなくても悪夢を見ることは無くなるはずだ。そう思った修道は、別段迷うことなく夢を売り飛ばした。
その夜、修道は夢を買わなかった。何となくそんな気になれなかったからだ。
眠っても、悪夢は見なかった。夢も見なかった。熟睡できた。朝起きた修道の心に訪れたのは、何とも言えない虚無感だった。
朝食を食べ、身支度を整えて出勤する。会社では上司にどやされながらも仕事をこなし、定時には退社した。
仕事中、修道の虚無感はどんどんと大きなものになっていった。何の為にこんなことをやっているんだろう。何の為に俺は生きているんだろう。そんな考えが頭の中をぐるぐると巡っていた。
そうして一日、二日と過ごすうち、遂に修道には生きる理由が分からなくなった。そう思った途端、今までやっていた仕事や生活が、苦痛になった。
「…………いっか、俺にはもう
その日、修道はベッドに潜らなかった。