帳が落ちる   作:たべま

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到来

 ──世界が、闇に包まれた。

 

 煌々と頭上で煌めいていた太陽は、既にその姿を常闇に消し。代わりに世界を照らすのは──紅い紅い『月』だった。

 

 最早月と呼んで良いのかすら分からないそれを僕以外に認識した一人は、一瞬固まると──歓喜に顔を歪ませた。

 

 「……は、ははははははっ!ああ、素晴らしかったぞ!貴様の策には驚かされた!ああまったく素晴らしい──……だが、運命は我々に味方した。どうやらここまでのようだ」

 

 やっとの事で追い詰めた《魔王軍》の部隊長を担う男──フラド。食人鬼と言うその種から、僕たち人類の永遠の敵と言われた彼ら。

 その上位に君臨する者を殺せると言う、千載一遇のチャンスは──ある存在の到来によって握り潰された。

 

 僕の右、フラドから見て左となる方向に、一つの影が見えた。

 

 最初の感想は──『黒い』。どこまでも黒い。どこまでもどこまでも、飲み込まれるほど深淵で、呆れるほどに侮蔑的な『黒』。

 

 (カラス)のような貪欲な色を称え、だがその瞳は無味乾燥とした感情を宿す。矛盾した、だが僕達のような努力しただけの人間には決して届くことのない存在。

 

 あぁ、別に奴に意図などないのだろう。

 

 ザクリと、地面を削る音が聞こえる。ただそこにあるだけで、昼夜と言う概念すら逆転させてしまう彼女は、たんなる散歩でここに来たのかもしれない。

 

 ザクリと、音が大きくなる。フラドは先程と変わらぬ興奮を瞳に宿し、だが冷静に僕と近づいてくる『存在』両方から目を離さない。

 

 そこで、突然腰に掛けた魔晶伝が震え出す。

 

 『──リド!逃げろ!!逆転した!!昼夜が!!夜だ!!こんな現象は一つしか知らない!!付近に《晦冥(かいめい)》が──』

 

 「知ってるよ」

 

 ブチリと音声機能を司る部分を引きちぎる。残るのは、視界を宿す金色と、集音を行う本体だけだ。

 水晶を、本来なら信じられないほど近づいた存在に向ける。

 

 「──見えるかい?数百メートル先に()()よ。はは……頑張った、んだけどなぁ。……天災には勝てないよ」

 

 僕がそう言うと、それを落ち着いて見ていたフラドは眉を顰める。

 

 「ふむ、我々の技術を真似したか?そのような事に関しては、俺は貴様らが嫌いだ」

 

 「耳が痛いよ……だけど、僕達はそうでもしなきゃ他の種族相手にどうしようもなかったんだ」

 

 本来なら顔を付き合わせれば殺し殺されの関係の僕らが、会話をしていた。その事に微かな驚きを抱きつつも、だがやはり僕らは相容れない。

 

 「弱者の戯れ言だ。言い訳だ。……やはりお前らは好かない」

 

 ピキリ、と。何かに罅が入ったような音が聞こえた。やけに近い。

 ああ、それもそうか。《晦冥》の近くにいるだけで、その事実だけで──『魔』以外の生命は、浸食される。

 体が痛い。腕が、足が、何もかもが痛い。口すら動かしたくない。だが、せめて最後に何か言わなくちゃ、人間として意地が許してくれなかった。

 

 「僕も……君たちが──」

 

 ピキリピキリと、それはもうどうしようもない領域まで至っていた。肌が突き破られる。目が開かれる。歯が内側から破壊される。臓腑が皮肉が鮮血が、裂けて。

 

 泣き叫びそうな痛みの中、僕は──。

 

 「──大っ嫌いだ」

 

 ──次の瞬間、砕け散った。

 

 

 ◆◇

 

 

 「──《晦冥(かいめい)》よ、感謝致します」

 

 誰だよお前、って状況に私は陥っていた。割と真面目に。

 

 久し振りに家出て散歩してたら、知らん奴に頭下げられてた。

 

 一言で纏めるとこんな感じ。本当に意味分かんない。てか隣に置いてある人型の水晶なに?怖いんだけど……。

 いや、よく考えたら廃墟行くとき大体あるな……趣味か?君たちの趣味なのか?あれ創ってるの君たちなのか?

 

 かれこれ数分間は頭を下げたままの知らん奴。なんか煽られてる気がしてきた。イラッとくる。

 

 ……やるか?お?やるか?

 

 だけどお姉ちゃんが近くにいない今、そんな調子にのったこと言えず、よく分からないまま鷹揚に頷いた。

 

 「……何か、ご要望の品がありましたら、私の力の限り──望むがままにご用意致します」

 

 マジ?マジなら容赦なく一年分のだらだら用品を頼むんだけど……大体こう言うのって詐欺って相場がきまってるんだよなぁ。

 

 首を振る。

 

 ビクリと男が体を振るわす。

 

 「……では、この感謝をどのように表せば」

 

 ……よう分からん。マジでよう分からん。何を怖がってるのかも、何を望んでるのかも。

 

 いうて私昔から換算しても他人と関わる経験なんか百もなかったからな。対処法なんかしらんのだ。ただ半数はこんな感じで怖がって怯える。

 

 お姉ちゃんが『それでいい』って言うからそのままにしてるんだけど……まあいいか。いつも通り無視だ無視。

 

 

 そして、後ろを向いて帰ろうとした──その瞬間。

 

 

 「──……お前か」

 

 

 鈍く響く、声が聞こえた。




 登場人物の名前が分かりづらかったので一部改変しました。
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