帳が落ちる   作:たべま

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少女

 聞き慣れぬ声を感じ、顔を上げたフラドの目に入ったのは二人の少女の姿であった。

 

 片方は《晦冥》。どこぞの聖職者が纏う法衣に似た、だが色は真逆のそれを被った小柄な少女。目に入れただけで()()()()()()()にフラドは思わず立ちくらみを起こそうになるが、もう一人。

 

 視界に入ったもう一人の存在が、フラドの意思を固く縛り付ける。

 紅い髪の、寧ろ晦冥よりも体躯だけで言えば大きい少女であった。爛々とした紫の瞳は猛く燃え盛り、晦冥を睨みつけていた。

 

 それを一瞥し、晦冥はコテンと首を傾げる。

 

 なんの変哲もないその動作は、それは晦冥が目の前の存在を欠片も脅威とも見なしていない故に。

 

 それを理解したのであろう。フラドが恐怖に身を凍らしている間にも、少女はその言動を改める様子は微塵も見られなかった。

 

 「お前が……お前が!!お前がリドさんを殺したの?!」

 

 少女が叫ぶ。剣が虚空から滲み出る。それは、高位の魔族で無ければ扱えない筈の、生産魔術をより戦闘に特化させた精製魔術と呼ばれる物。

 

 (……やはりこの少女は魔族か?……だが、ならば何故《晦冥》へ剣を──)

 

 停止した思考が回り出すと同時、ハッとする。止めなくては。

 たとえ同胞であろうとも、いや、同胞だからこそ晦冥への無礼は許してはならない。晦冥をチラリと見遣る。映るのはどこまでも無表情。まだ、晦冥の逆鱗には触れていないのだろう。

 それはフラドにとって喜ぶべき事だ。行動を取ろうと、体を持ち上げ──

 

 「──だんまりってわけ?!バカにしないでよ!!」

 

 ──少女の足が地面を蹴り上げた。

 

 同時、轟音が響く。地面が爆ぜた。粉塵が世界を覆う。

 

 (──なっ?!)

 

 仮にも部隊長を担う魔族である。そのフラドに反応させる事なき、迅速の加速。それは、フラドの上司である存在をも幻視させるものであったのだ。驚愕に目を見開き、慌てて立ち上がる。

 

 「……びっくり」

 

 そして、フラドの思考を代弁するような幼い響きが世界へ渡る。聞き覚えのない声。

 つまり、これは晦冥のものである筈だ。予想よりも幼さが先立つ響きだが、しかしその声に含まれる苛立ちは確かな物。

 

 焦りに襲われながら、どうにか粉塵の中を見詰め──倒れ伏す赤髪が垣間見えた。

 

 「……ぅあ……なに、よ!何をしたのよ!げほっ、げほっ──」

 

 地面に倒れる赤髪の少女。爛々と戦意を滾らせる瞳は確かに晦冥を射貫いていた。滲む殺意と憎しみは一筋の疑念も抱かせないほど澄んだものだったが、しかし今横たわる彼女にそれを成せる可能性は皆無と言えた。

 

 何が起きたのか分からない。だが、晦冥には何の危害も加えられていないというその事実にフラドは秘かに安息のため息を付き──そして慌てて《晦冥》に向き直った。

 

 ──ゾッとするような目をしていた。

 

 のっぺりとした、余計な色の落ちきった瞳。なんの感情も感じさせない、その事実が恐ろしい。

 

 しかし数瞬。なにか別の感情が瞳によぎる。そしてそれは、晦冥の琴線に触れるものであったようだ。

 

 一瞬、少女を一瞥する。そして、仄かに笑むとポツリと呟いた。

 

 「……また、ね」

 

 「──ぁ」

 

 そして少女は、思わずといったように声をもらす。

 

 一陣の風が吹く。その視線の先には、もう誰もいなかった。

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