ただ一つの恋の文   作:ある日の夕暮れ


オリジナル現代/恋愛
タグ:恋愛 高校生
悲しいことがありました。
走馬灯に出てくるくらいの、悲しいことがありました。
人生で指を数えるほどの、悲しいことがありました。

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ただ一つの恋の文

 俺を哀しみに誘うのは、いつだって冷たい風だ。

 ガラスのハートなんていうが、あるだけマシじゃないか。ガラスは殴らないと砕けない。

 弱った俺の心はトランプタワーだ。

 ふ、と息を吹きかければ、簡単に崩れさってしまう。

 これがジェンガならまだ手の加えようもあったのに。

 

 どうして気付かなかったんだろうか。

 多分、7年くらいずっと好きだったというのに。

 今なら分かる。先輩と付き合っても、さざなみ程度にしか心を動かされなかったのを。

 彼女は俺を津波の中に呑みこんだのに、俺は津波の中で息をした。

 酸素の足りない肺であるのに、必死に誤魔化した。

 

 彼女の顔が好きだ。笑い声が好きだ。交わし合う軽口が好きだ。優しさが好きだ。彼女の全てが好きだ。

 重い愛だし、ストーカーみたいだ。

 でも、それくらい、ずっと好きだったんだ。

 

 誰にもこの気持ちは負けてない。

 いつもは被害を留めるために敗けをみとめる心も、今だけは俺の味方をしてくれた。

 だから、出来ることなら別れてほしい。

 きっとその人も彼女のことが好きなんだろう。

 けど、それを言ってしまえば、俺だって同じだ。

 ずっとずっと、きっとそいつよりずっと好いてたんだ。

 多分、この先一生、誰と会っても彼女を思い出す。

 俺は一生幸せになれないんだ。

 

 だから、もし俺に勇気があるなら、奪ってしまいたかった。

 奪わなかったのは、単に勇気がなかったからだ。

 倫理とか、優しさとか、そんなもんとうになかった。

 もし俺がガラスの心をもっていたら、例え非情の鬼と言われようと、人の成りした悪魔だと揶揄されようが、俺は彼女をさらってキスをしよう。

 でもそれが犯罪であることは分かってるし、何より彼女が望まない。

 だから俺は手を出せない。

 二人の愛を窓の外から眺めることしかできない。

 

 昔、俺は自分を見失う愛を笑っていた。いついかなる時も、威風堂々たる心を持つべきだと思っていた。

 だから、そんな馬鹿げた愛を描く物書きを笑っていた。

 いつの間にか、笑われる側になっていた。

 彼ら物書きは本当の恋を、愛を、激情を、知らない。

 今なら、そう言えるだろう。

 

 彼女の幸せを願うことなんて出来やしない。

 性欲だとか、お金だとか、そんなもの全部いらない。

 ただ隣で笑っててほしい。

 ただ隣で笑っててほしい。

 ただ、隣にいて欲しい。

 ただ、俺のとなりにいて欲しい。

 

 愛していたのに、気付くのが遅すぎた。

 

 

 どうして、このラブレターをこんな所に放ろうとしてしまうのだろうか。

 どうせなら彼女に全て打ち明けた方が、楽になれる。

 でもそれは救われることのない恋心と直面することとなる。

 

 

 

 ずっとずっと、好きでした。

 

 

 これは、ついぞ誰にも届くことのないラブレター。



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