「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 作:カフェイン中毒
夏と春の間の過ごしやすい気候、雲一つない晴れやかな天気、まさに絶好のお出かけ日和というやつだろう。なんせ、折角3人で集まることが出来るんだから。俺も20を超えて成人になったし、それは俺の幼馴染二人組も同様、チェーン店のカフェでブラックコーヒーを嗜みつつ、待ち合わせ時間を待つ。こういうのは早く来た方が印象がいいというがあいつらなら気にしないだろうけど、ささやかな見得くらいは張りたいね。
「あれから7年かあ、俺もでかくなるわけだ」
「なーに黄昏てるの?アルトくん?」
「思い出してたんだよ、7年前3人そろってガンプラ大会に行っただろ。まだ集合時間には早いぜ?」
「セイくんとレイジくんと決勝やった時ね!うわ、懐かし~~!トロフィー二つともまだあるかな!?」
「…聖鳳学園に行ってみれば分かるよ。あとアルトなら、早く来るだろうって。当たったでしょ?」
「あーあ、隠し事できねえんだからな、お前らには」
ゆったりとしたソファ掛けの席、俺の目の前に二人の女性が腰かける。相変わらず日焼けしやすいのか変わらない小麦色の肌、すらりと伸びた身長と昔は短かったのにロングになった髪をサイドポニーでまとめ、反対側にはいつだかプレゼントした銀の髪飾りをつけているヒマリと、身長は伸びず全くそのまま、出不精なので真っ白の肌に長かったロングヘアをゆるふわのショートに変え、目は相変わらず隠しているツムギだ。同じ銀の髪飾りをヒマリと同じ場所につけている。
結局、7年たってもこのトリオは仲良しのままで、定期的に集まってはバカ騒ぎしてるし、残りの異世界王子とガンプラバカ、旅館の次期主人にガンプラメイジンとも集まってバカ騒ぎして誰が一番強い、って大戦争を仕掛けてるよ。もちろん、ガンプラバトルでな。
この7年間は割といろいろあった。俺たち3人の異世界探検があったせいでアリスタ由来のプラフスキー粒子が秘密裏に使用不能になり、あわやガンプラバトルが出来なくなる、というところまで行った。なんとか貯蔵分のプラフスキー粒子を確保しアリスタは元の世界に帰っていった。世間一般では消失したってことになったけど、実際はレイジが持って帰っただけなんだけどな。もうこんなこと起こらねえように管理するって。
それで、困るのはガンプラ業界だ。プラフスキー粒子の消失は大打撃をもたらしたが、それも半年の話。アーリージーニアス、あの天才ニルス・ニールセン、現在はヤジマ・ニルスが半年で人工かつ安全なプラフスキー粒子を開発したことで、ガンプラはさらに盛り上がった。現在第何次か分からないけどガンプラブームの真っ最中である。
「ねね、アルトくん。次のライブに協力してくれないかな?ツムギちゃんも出てくれるっていうし」
「演奏と演出か?わかった、とりあえずヤジマの方に連絡入れておくわ。自営業なんだけどな~俺」
「でも、現役の企業ビルダーでしょ?お願い!」
「断る選択肢は最初からねーよ。ドンと任しとけ」
ヒマリが顔の前で手を合わせてお願い!と言ってくるので断る気は最初からなかった俺は快諾をする。プラフスキー粒子は演出の面において広く世界に浸透した。例えば映画、ドラマ、特撮の特殊効果。GPベースを利用することで大爆発などのエフェクト合成、表現、カメラ撮影をひと手間でできるようになったりして、結構業界からいい評価を受けてるのだ。そして、もう一つが音楽、俺がやったミュージックビデオは言うに及ばず、現在はライブのパフォーマンスとしても利用されている。
ライブの全床をGPベースにすることで歌に合わせたエフェクト、効果を容易に入れられるようになり、演者の衣装にプラスチックを仕込めば浮かして飛びながら歌うこともできる。もちろん優秀なファイターがいなければだめだが、どんどんと活躍の場を広げていっていることには変わりない。ますますこの先が楽しみになってくる。
目の前で変わらずにコロコロ笑っているヒマリは、歌手になった。7年前のイベントで鮮烈なデビューを果たした彼女、異世界でてんやわんやしていたせいでそのあとの活動に間が開いてしまったが帰ってきた彼女は経験を積みまくっていたのですぐさま遅れを取り戻すどころか一気に話題となった。女優業は一切せず、ただ音楽と向き合って歌を全世界に届ける彼女は今や大人気だ。
テレビなんかには積極的に出ないけど、大きな歌番組だと必ず声がかかるらしい。あとファンクラブもある。ファンクラブナンバーの1番は俺がとったよ、自力で。2番はツムギ、全力で頑張ったんだけど成功して超嬉しい。おっとそれはともかく。ライブでGPベースを使おうって言いだしたのもヒマリが最初、ツムギとヒマリが飛んだ時操作したのは俺、観客の上を飛んだりしながら歌い踊る二人に感動したし、ファンクラブのサイトはそのライブ後に落ちた。仲のいいヤジマのサーバー管理者の人はまた落ちたああああああ!!!って嘆いてたけど。
「ツムギ、やっぱりソロデビューしねえの?ファン付いてるぞ」
「…アルトがデビューするんだったらしてもいいよ?一緒にやろ?」
「やらねえけどさ」
「…けちぃ」
13歳から変わらない身長のツムギ、どこに行っても子供と間違えられる彼女は作家になった。色んなアニメのノベライズ、脚本をしていて臨場感のある戦闘描写、特にロボット物を得意としている。あと、実は恋愛系にも定評がある。戦争系の話はリアルすぎてちょっと不評だったり。ヒマリとコンビならと歌手活動はヒマリとだけ行っているが、それで「歌って踊れる作家」なんて言われて非公式のファンクラブまである始末。
最近は出不精を解消するために積極的にヒマリに連れまわされているらしい、ドッキリ番組に出演するもカメラを全部見破って台無しにするという変わらない目の良さと洞察力を持っている。
そして、二人ともガンプラバトルを続けている。ヒマリは趣味の範囲だけどツムギは割とガチだ。ツムギはバトルではなくレースの方へ転向した。世界大会の種目から分岐したガンプラレース、春夏秋冬で開かれる4レースを3年間自分の作ったヅダで総なめにした彼女は殿堂入りとなり、今となっては誰も越せないレースクイーンとして挑戦者を置き去りにしている。
ガンプラバトルはかなり変わった。俺たちのころにはバトルすれば確実にガンプラは壊れていたが今はそんなことはなく、ノーダメージのレギュレーションが追加された。世界大会も年齢別に分かれており、個人戦は大人のみ、それ以下は3vs3のチーム戦に変わる。タツヤさんが言うにはチームワークを鍛えることで学生の協調性をとかなんとか言ってたけど。面白くなったのは事実。ついこの間呼ばれたネット番組でタツヤさん、俺、セイという相手にしてみたら地獄のようなチームにネット民代表が挑むという企画をやって大盛り上がりしたところだ。コメントは反則とか書かれたけど。結果?言うまい。
「アルトくん、次のマクロスってどうするの?」
「そうだな…やっぱりあの話で行こうと思う。いー感じに再現してやろうぜ」
「…いいね。懐かしいな、みんな元気かな、また銀河を震えさせてるのかな」
「そうだろうさ、なんせ戦乙女だからな。きっと、幸せにリンゴ畑でもやってるんじゃないか?」
マクロス、俺がここまで来ることになった原動力。俺がちょっと行方不明になってる中でもプロジェクトは凍結されてなかった。戻ってすぐ超がんばって2年と少しかけて最初の映画を放映し、その後アニメとプラモを次々展開して、7年でかなりの人気コンテンツになっている。今現在放送中のフロンティアは死ぬほど恥ずかしかったんだけどな!でも、やっぱりああじゃなくっちゃ。自分のウィキに「遂に主人公になった男」とかいうタグが付いて悶絶した覚えがある。流石に声優とかは違うけど。
そしてマクロスの人気に伴ってガンプラバトルのレギュレーションも変わった。ガンプラ部門と無差別級のどっちかを選んで出場できるようになったのだ。無差別級の人口は少ないけど、年々増加している。俺は勿論無差別級、自分でも信じられないけど殿堂入りだ。ガンプラ部門で殿堂入りした3代目メイジンことタツヤさんと肩を並べてしまった。最後の大会でクォーターで乗り込んだのはやりすぎだったかもしれない。改良したクォーターと10機のバルキリーという数の暴力は流石に大人気なかったと思っている。マクロスの方で乗り込もうとしたら流石に止められたんだけどだって勝ちたかったんだもん!フルスクラッチカイラスギリーが許されるなら戦艦持ち込んでもいいでしょ!?が通ったのが悪い(責任転嫁)
そして、俺自身は自営業を営んでいる。正確には企業所属のビルダーという立場と個人のプラモ店という2足の草鞋生活、俺の気ままに店を開ける不定期な自営業ともいえない店とマクロスの原作とかそこら辺のアレを同時にこなしている。もうそろそろ俺の手を離れる時が来るかもしれないマクロスのため、何時もせこせこ働いているのだ。店の方はツチノコ呼ばわりされるほど開けてないけど。だってー!忙しいんだもんー!店開ける暇あんまりないんだもん!
俺の手によってシェアーワールドとして野に放たれたマクロスという種は様々なところで芽吹いている。ガンダムのその先にある世界として扱われたり、自分のオリジナルのマクロスとして書いてみたり、恋愛ものとして表現してみたり、いろんなものが見れて嬉しい。きっとこの先俺の予想だにできないものが作られるに違いない。楽しいし、面白い、これだからプラモは辞められないんだ。
「そういえばアルトくん、セイくんと会ってきたんだよね?どうだった?」
「…チナ、ずっと待ってるのに」
「ああ、セイのやつな。今度はイタリアに行くんだと、でもコウサカには会いに行くみたいだぞ?タツヤさんも今はインドにいるらしい」
「グローバルだね~」
「お前も世界ツアーやればいいじゃん」
「二人がついてきてくれるならいいよ?」
「…私はいいよ。最近はあんまり仕事入れてないし」
「俺必要かぁ?あー、まあ別について行くのはいいんだけど…またやったか」
「アルトくんはホントに墓穴を掘るね~、変わらないや」
「そういうお前はだいぶ変わったな。主に背が」
「ね~、こんなに伸びるなんてびっくりしちゃった。ツムギちゃんは小さくていいな~」
「…私はヒマリの背が欲しい、10センチ頂戴」
背が低いことで結構苦労しているらしいツムギは、髪で隠された目を怪しく光らせながらそう言った。もちろん冗談で、やーんかわいいーとヒマリに抱き着かれるだけで終わっているけど。変装してるからいいけどお前ら有名人なんだからちったあ声抑えろよ、と思っていると二人が追加注文したコーヒーが届く。アイスコーヒーにガムシロップとミルクを落としてぐるぐるかき混ぜるヒマリとウインナーコーヒーの生クリームを口に含むツムギ、ホットのブラックを飲む俺と和気あいあいと時間が過ぎていった。
「っと、そろそろ行かねえとな。時間だわ」
「えー、もう?でも楽しみだな~、久しぶりに聖鳳学園に行けるよ!」
「…ヒマリが行ったら大騒ぎになりそ」
「もー!アルトくんやツムギちゃんが行っても同じでしょ!?マクロスの原作者とノベライズ担当で!私のパートナー達なんだから!同じくらい有名だよ!」
30分ほど話していると、そろそろ行かなきゃいけない時間になった。なんせ今日はちょっとした呼び出しを受けているから3人そろって母校である聖鳳学園に行くことになっている。なんだかおもしろそうな感じだから受けてしまった。
「…ラルさんから呼ばれるなんて何があったんだろ?自分の機体を持ってこいって」
「ラルさんだもん!きっと私たちの時みたいに新しい子にガンプラを教えてるんじゃないかな?そうなると、私たち練習相手?」
「俺達相手にさせるとかスパルタ通り越してるぞ…いや、もしくは俺たち以上に素質があるかもな」
そんなことを話しながら卓上の伝票をとって二人が財布を出す前に電子マネーでサクサクと支払いを済ませる。払う!と主張してくる二人をのらりくらりと適当に躱して言いくるめる。コーヒー代くらい持たせてくれよ。それはともかく、ラルさんが俺達の手を必要とすることかあ…しかも今の聖鳳学園はプラモデル部とバトル部の二つに分かれてるらしいしバトル部の方は消滅寸前だと聞く。しかもバトル部の方を手伝えときたもんだ。ちょっと面白くなってきそうじゃん?まま、やれるだけやってやろうじゃないの。
カフェを出ると、結構な日差しだ。まだ春だってのに雲一つないから眩しい、手で顔を覆い隠しながら何となく今までの事を思い出す。この世界に来てからいろいろあったけど、どれも素晴らしい体験で後悔したことは一つとしてなかった。だから、過去の俺にこうやって胸を張って言えるだろう。
やっとマクロスができた!続けて見せる!ってな。過去の俺に届くかは分からないけど、何でないんだ!って叫んじまった俺に思いっきり返してやろう。お前が作るんだよ!っつってな。
「いくか~」
「トライ・ファイターズかぁ…私たちみたいだね!」
「…むむ、私たちが最強のトライアングル」
「じゃあ、それを証明するために後輩を揉みに行くぞ」
3人で、一歩を踏み出す。これを多分俺たちはずっと続けていくんだと思う。先に行くツムギを追いかけるヒマリ、俺はそれを緩やかに歩いてついて行くのだった。
はい、そんなわけで最終回です。長かったあ!前話の決勝戦の勝敗は隠しとこうと思います。優勝したのか、負けてしまったのか。作者決めてません。引き分けかもね。
さてさて長くなる話は活動報告でいたしとうございます。ついでにアンケート機能じゃできないアンケートを番外編のためによろしくお願いします。見たい話アンケートですね、掲示板とか、7年間何があったとか、トライ編とか。
こちらからどうぞ
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=276245&uid=88429
あと同時に番外編も更新してます。内容は掲示板デース。
ではこれからは番外編でお会いしましょう!こちらにたくさん評価や感想をしてくれた方々は勿論、読んでくれただけで望外の喜びでした!今までありがとうございました!ではまたどこかで会いましょう!
プラモデル大交流会の時他作品ネタを出してもいいか
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どんなネタでも出していいよ
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機体のみにしておけ
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やはりガンダムに限る