トレギアだけど、元の宇宙に帰りたい   作:鵺崎ミル

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よし、お前ら喧嘩しろ。
最近お約束になりつつある精神世界とかインナースペースとかで起きる殴り合い。


トレギアとトレギア

「ぐあっ!?」

「トレギア!!?」

 

 自分の声が不気味な音調で脳裏に響いたと同時。

 蒼い闇が俺の身体から噴き出した。突然生じた我が身の変調に頭がパニックになる。

 

 なんだこれは!? グリムドの力ではない!! 

 

 混乱しながらもグリムドによる力ではない事に気づいたが、そのグリムド自体の力を上手く動かせない。

 噴き出した闇が炎のように揺らめきだすと俺の身体にまとわりついていく。

 

「随分長く好き勝手してくれたようだ。グリムドの加護にこんなイレギュラーが生じるとは思わなかったよ」

「ぐあああああっ!?」

 

 熱い! 身体じゃない、俺の精神が焼かれている!! 

 まさか、まさか!! 

 

 こいつ()か!! 

 

「大丈夫か、トレギア!?」

「近づくなタイガ!!」

 

 想定外の事態にタロウの息子を巻き込せてたまるか。

 

 ()がいる場所はわかっている。心の奥底に封じ込めていたのだから。

 ならばやることは1つだけだ。俺は激痛に耐えつつ意識をインナースペースに向け、飛びこんだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 混沌のサイケ色が渦巻く俺の心象風景。

 闇の炎で全身を焼かれ続けている俺の前には、蒼い闇が人型を象っている。

 爛々と輝く紅い両目は興味深そうに、しかし敵意を隠さないまま俺を睨んでいた。

 

「改めて初めましてだな?私よ」

「くっ……」

 

 どうにかしようと精神世界に飛び込んだというのに、俺を焼き尽くそうと舐め回す炎が一向に消えない。目の前のこいつの仕業なのは明白だが、それは既にここまで領域を支配されている事を意味する。目覚めたばかりだろうに行動が早いな畜生!

 だがこの炎、俺を焼き尽くすには足りていない。激痛こそ消えないが、俺の心が壊れてしまうほどでもない。耐えられる。ウルトラ戦士ならば気合でいけるレベルだ!

 全力で気合を入れて耐える。そんな俺をジロジロと眺めた()は、わざとらしくため息をついた。

 

「さっさと燃え尽きればいいのに何を抵抗しているんだ。君の願いであるウーラーは死んだのだろう?」

「は?死んだんじゃない、救ったんだよ。あの光を見てないのか」

「詭弁だな、死なせたことになんの違いがある」

 

 嘲笑う様に肩を震わせる蒼い影。

 

 開幕殴ってきやがるなクソが!

 あの光を直接見ていないなら、そう言えるのも無理はなく、そして俺が「それでも生かせるものなら」と僅かにでも考えていた事を見抜いている。仮にも自分自身に対して容赦なさすぎて笑うわ。いや自分自身だからか。自己嫌悪の塊なのは知ってるからな、俺だし。

 

「お前が何と言おうが、所詮は当事者の枠外からの戯言にしかならんな。ウーラーの本音を訊くために今から怪獣墓場にでも行くか?」

「……ふん、これぐらいでは折れてはくれないか」

 

 あーはいはい、やっぱりそういう狙いか。

 俺を焼き尽くせないということは、このままでは結局肉体奪取すら叶わないのだろう。

 そして焼き尽くすために、俺の心に罅を入れようとしている。()からすれば、さぞ楽しい瞬間だろうな。

 

 だがタロウの傍へ帰れた俺を嘗めるなよ。俺は、()と違って太陽と共に在るのだからな!!

 

 ()が支配する闇の炎を、気合だけでなく折れない心の芯を盾にして、耐え抜く。このまま続けていたところで意味はないぞと睨み返してやれば、()は呆れたように再びため息をついた。

 さぁ、何を言ってくる?貴様のせいで味わった絶望以上のものでなくば、俺には通じんぞ!!

 

「信じられないぐらい強固な精神……魂だな? 私とは思えない。いや、私ではないだろうお前」

「なに?」

 

 予想外の言葉が来た。

 ここぞとばかりに自分殺しに全力出すのが()だろうと思っていたのに、嫌味が通じないから俺をトレギアと認めない路線に切り替えたのか?

 

 ……まぁ、言いたいことはわからんでもないがな。そもそも俺もお前を俺だと思いたくないわ。

 それでもどうしようもなく俺だと思っているぞ。()、現実から目を逸らしてんじゃねーぞ。

 

「君が変質した理由は、調べさせてもらった。惑星チュツオラを離れるまでは間違いなく私だ。だが、ある瞬間、私ではなくなっている」

 

 調べた、ね。

 間違いなく、今の今まで眠っていたはずだろうに。この精神領域といい本当に手の早いことだ。

 さぞ良い目覚めだったことだろう。

 

「覗いたなら、わかるだろ。俺の前世は……」

「馬鹿馬鹿しい、それが真実だとしてもお前のような変質を起こすものか」

 

 ()は仰々しく両の手を広げた後、俺を指さしてくる。

 一々挙動が鬱陶しいが、言いたいことがわからない。

 寧ろ変質を抑えるのに苦労しているほどなんだが……。

 

「私は哀れな人間たちが、異世界へ転生する夢想に快楽を見出しているのを知っている」

「なるほど? 続けろ」

「チッ、余裕を見せるじゃないか。その中には、憑依というものもある。神を名乗る何者かによって行われるものもある」

「詳しいな()、さぞ読み込んだことだろう。今度気に入った作品があったら教えてくれ」

 

 俺の軽口に、蒼い影から今度は特大の舌打ちが鳴った。

 別に俺は余裕を見せているわけではない。

 だが、俺は()の悪辣さを知っている。心を追い詰める話術に長けている事を知っている。

 今も全身を焼き尽くされる痛みに襲われている中、軽口を叩くのは俺なりの防衛手段だ。というか軽口で強がらないと悲鳴が口から出る。攻撃は最大の防御というわけだ。

 そして()は俺の言葉を無視して焼き尽くすことはできない。それ以上燃やせないからこうして対峙している。

 

 俺が今も耐えられているのは、理由は不明ながら俺が邪神の狂気に負けない程魂そのものが強いからだろう。頑強な魂により精神が保護されている感覚だ。その精神そのものについてはお世辞にも強いと言えない自覚がある。目の前のコレがその証明な。

 ()がそれを崩さない限り主導権を握れないのはさっきのやり取りで証明したようなものだが、同時にそれは、()の地力が尽きてこの炎を止めた瞬間に敗北することを意味している。

 俺は俺で、下手に真正面から受けて、隙を見せたり、心がへし折れるようなことになれば終わる。

 

 つまり、これは俺と()の我慢比べということだ。

 今更ながらなんつうタイミングでおっぱじめやがったんだ空気読めよ馬鹿が。

 タイガと祝杯すらあげてないんだぞこの野郎。

 

「お前のそのいくら燃やしても芯を焼けぬ魂の強度……神とやらの恩恵なら納得できないか?」

「面白い仮説だな。俺はその神とやらにあった記憶はないぞ。創作ネタに縋り過ぎではないかな?」

 

 ()が言及したのはその俺でもわからぬ、魂の強度。

 だがこれを起点に俺を否定しようと妄想で語るのはいかがなものか。

 そう言い返すと()は馬鹿にしたように鼻で笑う。

 

「はっ、お前が言えるのか? 『この宇宙の創作物は、別宇宙の出来事である』と知っているだろうに」

「……俺の得た知識も多少は把握済みか」

「創作物で未来の道筋を知るなどなんともずるいものだな。ああ、こういう時はチート乙と返すのが礼儀らしいぞははははは」

 

 くそ、前世知識の内容にまで手を突っ込まれていたのは痛手だ。どうせなら劇場版まで覗いて絶望してくれたらよかったものを、自分の心に不利な知識は本能的に避けたと見る。

 だが、指摘した内容そのものは反論が難しい。神様転生論の根本否定は無理だな。

 

 言い返せないでいるとめっちゃ上機嫌に嘲笑してきた。さっきからぶん殴りたいほどウザいな。でもこいつ嫌うってのは自己嫌悪の極致になるのか? わからん。

 まぁ向こうはもう完全に俺を同一人物だとは認めていかない方針のようだが。アイデンティティの崩壊でも狙っているのだろう。

 あとチートってどの口が言ってるんだお前。

 

「さぁ本題に入ろう。そういった転生をなしたならば、私とは最初から違う存在であるべきだ。だが、君はチュツオラを離れるまで私だった……」

 

 本題に入ると言いつつ口を止めるな。間を作るな。

 心理攻撃の衝撃作りたいのが見え透いてて萎えるだけだ。

 やがて()は、突きつけるように俺へ指を向ける。

 

「私の精神が虚無に返った瞬間、乗っ取るように憑依した地球人。お前の正体はそれだ」

 

 ……ふむ、なるほど。

 

 俺の胸に去来した感情は、なんとも淡白なものだった。向こうからすれば衝撃的な効果音とか付けて揺さぶったつもりだろうが、随分と甘い指摘だ。

 

 お前のスペアボディにされかけた俺が自己分析や自己の再定義を何度繰り返したか、知らないのだろう。

 

 そういう可能性もまぁ0ではないとはとっくの昔に考えていた。

 あまりに唐突な前世記憶の蘇り。あまりにも急激な精神の回復。

 これは、前世を思い出したよりはなにかが憑依してきたという方がわかりやすいのは否定できない。

 何より、この前世記憶は、混ざり過ぎないように脳内アーカイブ化している。アーカイブ化できている。つまり元は違うものという可能性も捨てきれないのだ。

 

「憑依も完璧ではなかったのだろう、残滓と化した私の精神と記憶を取り込み、こうして【自分をトレギアと思い込む哀れな一般人】が完成したわけだ」

 

 それだと区分けした前世記憶が憑依元であって、俺は変わらずトレギアになるんだが、そこの事情まではわからないか。お陰で動揺は防げたので助かった。

 

「おままごとのままに、やりたいことは済ませられて良かったじゃないか。だが、楽しい楽しい成り切りごっこも切り上げ時だろう?」

 

 自己の再定義を再度必要としなかった事に安堵してる様を、俺が絶句したと解釈しているのか上機嫌に振る舞う()。気分はあれかな、完 全 論 破。

 

「もうわかったか? この身体はお前のものじゃない。私の身体だ。消えてくれ」

「……」

 

 ため息をこぼす。

 こいつは何もわかっていない。だが、そのネタを突きつけるなら、前世記憶に則り俺はこう返しておく。

 

「俺はウルトラマントレギアだ、誰が何と言おうとウルトラマントレギアなんだ」

「思い込むのも大概にしろ地球人風情が!!!」

 

 激昂する()。ネタ振ってきたのそっちだろうが。

 だいたいな、お前は大きな勘違い、いや、致命的な見落としをしている。

 その可能性は過去に検討済みであって、現時点をもって否定済みなんだよ。

 

「なぁ()。一つ確認しておきたい」

「はぁ? 何をいまさら確認したいと言うんだ」

「じゃあなんでグリムドは今まで俺の味方をしていたんだ」

「……は?」

 

 蒼い影が固まる。

 ようやく気付いたか。

 

 ()が目覚めたというのに、一向にグリムドが力を貸していないことに。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 トレギアは、蒼い闇に囚われたまま動かない。

 もう此方がいくら呼びかけても反応しなくなっていた。

 

『そうか、そうだったのか』

『どうしたタイタス』

『過去に私達と戦ったトレギアと、一度倒した後のトレギアは、同一人物であってそうではない! あの善行を果たしたトレギアこそが、タイガの言っていたウルトラマンタロウの親友に違いない!!』

「!?」

 

 タイタスの言葉にみんなが息を呑んだ。

 確信を持ったように、タイタスが続ける。

 

『トレギアが何故光の国を離れたのか、誰もわからないのだろう? きっと彼は闇に蝕まれ、一人苦しんだ末に飲まれたのだ。私達の絆の力で、本来のトレギアが目覚めはじめた……闇によって苛まされながらも、元のトレギアとして動いた結果があの不思議な違和感に違いない!!』

 

 確かに、それならばしっくりくる。そうか、あれが本当のトレギアだったのか。

 

『じゃあ今、その闇と戦っているんだな!? 俺達でなんとかできねぇのか!?』

『駄目だ、今余計な事をしたら何が起こるかわからない。それにこれは彼にとって大事な戦いであり禊だ。だから、彼の勝利を信じよう……!!』

「トレギア……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「何故だ、何故私に応えないグリムド!!」

 

 ()が大きく叫ぶも、返事はない。

 当然だ、グリムドからすれば『どっちでもいい』のだから。

 すなわち、両方契約対象者であり、優位に傾いた方へそのまま契約を履行するだけだ。

 

()がいるから、俺はグリムドの力を振舞えたと思っていたが、違ったようだな。図らずも今回の事で確信したよ。俺の憑依地球人説は今この時破綻した」

「なんだと……!?」

「グリムドと契約したのはトレギアだ。もし俺が憑依したただの地球人であるなら、どうあがいても『トレギアの姿と力を奪った地球人』にしかならない。契約外対象であり、お前が目覚めた時点で今度こそ俺は消滅することになっていたはずだ」

「……つまり、グリムドは貴様を!?」

「邪神様のお墨付きだぞ()? 俺はウルトラマン。ウルトラマントレギアなんだよ!!」

 

 激しく動揺した()の隙を突き、精神を燃やし続けていた炎をかき消す。

 炎が消えた俺の姿は、涙が出るほど懐かしい、邪神と融合する前の俺だった。

 

「馬鹿な!! 貴様のような奴が私であってたまるか!!」

「おーおー、光も闇もないという虚無主義に走った()のくせに、俺を同一人物と認められないのは哀れだな。虚無の前にはすべてが同じじゃなかったのか?」

「屁理屈をォ!!」

 

 蒼い闇のまま、()が怒りに任せた拳をふるってくる。

 それをいなして、カウンター気味にすかした顔面をぶん殴る。

 

 ずっとやりたかった一発は、思ったよりもスカッとしなかった。

 

 蒼い影は吹っ飛ぶことこそしなかったが、打たれた位置を抑えるように怯んだ。

 追撃だと思いっきり蹴り飛ばしにかかる。俺の恨みを思い知れ()!!!

 

「ふん!」

「げほっ!?」

 

 はい、鋭く放ったつもりの蹴りはあっさり掴まれ逆に蹴られました。痛い。

 

「弱いな貴様は! やはり貴様は私などではないのだ!!」

「つつ……経験値の差だけで別人呼ばわりされてもなぁ」

「減らず口がああああああ!!!」

 

 俺と()がひたすら殴りあう。

 

 殴る。

 

 殴られる。

 

 殴られる。

 

 殴る。

 

 殴られる。

 

 殴られる。

 

 殴られる。

 

 いや殴られすぎだろ俺。

 

 だが、ダメージそのものは向こうが上だった。単純な経験の差は完全にあっちが上だが、ここはインナースペース。

 精神の強さも影響される。だから、俺の拳は()へとヒットするたび、影の形を削っていった。

 

「何故だ……何故だ!! 何故貴様如きに私が!?」

 

 動揺いまだ収まらず。削られていく自身の身体を見て更に動揺を重ねる()

 その哀れな様子を見て、俺に浮かんだのは疑問符だった。

 

 ……いくら何でも余裕なさすぎないか?

 

 一度持論否定されたぐらいで殴り合いになってるこの現状はおかしい。尺に制限ある番組じゃないんだぞ。もっとこう、色々上から目線で煽ったり一見正論っぽい詭弁で惑わすのが()の得意技だったはずじゃあ……。

 だから俺も最大限警戒して必死にその減らず口を回していたのに。

 

 そもそも持論を跳ね返されたからってここまで否定することはないだろうに。

 最初のやり取りのように、俺を()だと認めて、その上で精神的に煽って主導権を奪うことをこいつはできるはずだ。

 自己否定に陥りやすいのがトレギアだと、俺はよく自覚している。だから、それを武器にするべきだったのにこいつはそれを捨てて別人説に全賭けした。無数の絆を破壊してきた男が、何をそんなに拘っているんだろうか。

 

 ……。

 

 …………まさか。

 

「ハッ!!」

「ッ!!」

 

 ふと思いつくと同時に顔面を思い切り殴られる。だが、返しは打たずに踏ん張った。殴り返すより先に確認したいことがある。

 

「なぁ、()

「黙れ、貴様が私をそう呼ぶな」

「お前が俺をトレギアだと認められないのってさ……俺がタロウのそばに帰れたからだろ」

「……」

 

 蒼い影が固まった。

 やっぱりお前は()だよ。

 

 タロウだよな。俺たちはあの太陽なくして語れない。

 

「光の国へ帰るという選択肢があったことを認められない」

 

「タロウのそばへ帰った可能性を認められない」

 

「タロウと共に歩めた未来を認められない」

 

「黙れええええええええ!!!」

 

 図星を突かれた()が光線の構えを取った。

 トレラシウム光線。

 必死に鍛え上げて、それでも合格点に届かなかった俺たちの情けない必殺技だ。

 

「ハァッ!!」

 

 両手で構えて受け止める。

 激昂したまま放たれた光線は俺の手を焼き尽くす事すら叶わずに消え去った。

 驚愕する()へ突撃し、今迄被ったあらゆるものを込めて思いっきり殴る。放った拳は、赤目しか見えない顔面を、防ごうとした奴の腕ごと弾き飛ばした。

 あんなに殴りたかったというのに、今では気が晴れるどころか虚しさと怒りが無い混ぜになった気分だ。膝をつく影に向かって、その感情のまま叫ぶ。

 

「馬鹿野郎が! 狂気を言い訳に逃げたからそうなったんだろうが。助けを求めれば応えてくれる最大の親友から背を向けたらそうなるわ!!」

 

 前世記憶から確認していた、()の末路を思い出す。

 

 悪を為しているつもりすらなく、自己蔑視の感情を他者へぶつける有様を、自分にとって正義を執行してる気分で巻き込むだけ巻き込んで、勝手に悟ったように絶望して、勝手に自殺したような最期だ。

 全てを否定して突き抜けた。だが、邪神グリムドをその身に宿して、生も死もない肉体になったとしても、戻れる道は絶対にあった。

 

 光の戦士(ウルトラマン)として完全に死んだとしても、戻れる道はあったんだ。光の国に生まれた者ならば、わかっていたはずだ。幼き日、プラズマスパークを背にした、あのタロウが心に焼き付いていたならば、わかっていたはずだ! 

 

 家族の絆を前に敗れた時、思い留まればよかった。

 

 タイガたちの絆の力を前に砕け散った時、反省すればよかった。

 

 タイガが手を伸ばした時、その手を掴めばよかった。

 

 タロウが手を伸ばした時……。

 

 ……耐えられなかったんだろう?

 誰よりも許せず、嫌悪している存在が己自身だったというのに、許されるということが。

 光も闇もない、全ては虚無だと今を生きるもの全てから目を背け続けた自分が、今更太陽の傍へ帰るということが。

 光に一度背を向け、闇を極めようとしてその闇にも絶望して、遂には虚無に堕ちて、真理にして正義と信じ込んだ悪行に手を染めるたびにもう戻れないと狂ったまま自覚していたんだろ? 太陽が今なお自分を信じてくれていることなんて苦しくてしょうがなかったんだろ?

 

 もっと言ってやろうか。タロウと対等でありたいからここまで太陽の影としての要素を極めたんだろ? 助けられたら、その瞬間に対等でなくなるのも辛くて悲しいんだろ? 

 

 もう、戻れる道なんて無いんだと思った方がよほど楽だよな。

 

 わかるよ。

 

 俺だからわかる。

 

 俺だって、そこまで行ったらきっと助けを求めることすらできず、タロウの伸ばす手すら掴む勇気もないまま引っ叩いて本当に死を迎える瞬間まで孤独であっただろう。

 

 だから、俺は()を否定することはない。

 

 その上ではっきり言う。この馬鹿野郎が。

 

 本当にしょうがないし気持ち悪い自分だよ。だけど、自分だからこそ、見捨てることは俺はしない。

 先程のトレラシウム光線が賭けに等しい一撃だったのはわかっている。

 また俺の心の奥底に封じ込められるぐらいなら消滅を選ぶ覚悟で放ったのだろう。蒼い影の姿は自壊を始めている。

 

 同時にそれは、グリムドにとって勝負の決着を意味する。

 

「グリムド」

「(・ω・)」

「こんな茶番に付き合わせて済まないな」

「(・ω・)ノ」

 

 蒼い影が目を見開く。

 俺の傍に、蒼い球体となったグリムド達がいるのがそんなに驚愕するものか? 

 

「契約したのは私だ! お前じゃない!!」

 

 お前は過去にこいつをこう呼んだじゃないか。『邪神』だと。

 何故最後まで付き添うことを妄信していたんだ。

 

「何故だグリムド!!」

「((-ω-))」

 

 不意に、脊髄の端から脳まで泡が次々弾けるような錯覚が走った。

 少し遅れて、それが彼らの発した笑い声だと気づく。

 僅かながらに意思疎通が成った俺ですら本能的に感じる恐怖。果たして彼らを力としてのみ利用した()にはどう聞こえたのだろうか。

 

 蒼い球体へ左手を向ける。

 同意は、受け取った。契約は、俺が引き継ぐ。

 

「なんだ? 結局私と同じことをしようというのか?」

「否定はしない。だが、俺は()よりは絆を信じる方だから、こうする」

 

 嘲笑う()を前に、右腕にかつてタロウと作り上げた、タイガスパークを再現、装備する。

 

 今、できるはずがないと思ったな? 美食同盟を嘗めるなよ!! (今考えた同盟名)

 

 まるで風船のように膨らんだ蒼い球体から、光と闇が渦を巻く。

 渦の先は俺の左手の上へと向かい、全ての力が収束していった。

 

 渦が消え、俺の掌には混沌の輝きを放つキーアイテム。

 怪獣リングではない。タイガ達の変身アイテムであるウルトラアクセサリーに似ている。

 

 だがカラータイマーを再現する位置には無機質な一つ目が宿り、ウルトラマンの顔があるべき場所は全てを嘲笑うような口が刻まれていた。

 

 いやこえぇよ。そこまで『邪神』に拘らなくてもいいと思うんだが。

 

『( ´・ω・)』

「わかった、悪かった。良い出来だ」

『( *・▽・)』

 

 準備は整った。始めよう。

 闇に偏った混沌の次は、光に偏った混沌もお前は知るべきだ!! 

 

Come on!! 

 

「原初の混沌、グリムド!!」

 

ギュンギュンギュンギュン! 

 

ギュピーン! 

 

『(`・ω・´)』

「BUDDY GO!!」

 

Ultraman Tregear Anastrophe

 

「その姿はなんだ……?」

「お前の混沌(虚無)を、切り裂く混沌()だ!」

 

 

 




ウルトラマントレギア アナストロフィ
ごめんなさい、捏造形態です。一度はやってみたかった…!
イメージとしては、トレギアアーリースタイルに、なんかキラキラしてる(申し訳程度の光要素)グリムドのパーツがアーマーとなってそこかしこについてる。グリムドの全身から生えてる赤い棘みたいなのが肩や背中を保護する甲冑になり、両腕両足はあの骨のような白さのパーツが小手や具足に。どうみてもタロウ意識してるのがわかるグリムドホーン2本生えているし、胴体はあの邪悪な顔みたいなのが金属光沢ある蒼いアーマーになってる。カオス。モンスアーマー着こなすXを見習え。
台詞ウルトラマンゼロ意識したせいで強い新形態に見えるけど、グリムドの力しか借りてないので原作トレギアと最大スペックは全く変わらない。地球環境下では燃費悪い光エネルギー寄りだし、鎧の下はただの雑魚トレギアなので下手するともっと弱い。
この形態の本質は戦うことにない。グリムドと共に在ることができると示すためにある。

トレギアのところで一度区切れば語感は良いし、ギリシャ語縛りもクリアしてる名前。
反転を意味するのですが、自分の名前と組み合わせて狂気からの反転になります。なお英語表記で書いてるせいで雑に訳すとウルトラマントレギア倒置法とかになる。ださい。
狂気から脱するという意味ではアリッサム(アリソン)でもいいんだけど、トレギアに女性名っぽさある類つけると本気で洒落にならないので最終的にこうなった。
他候補 Adamas(不屈の精神) Makarios(神からの至福) など。Selene(月)は最初、太陽の対になっていいかも!となったけどこれ女神名でもある上に、女神セレネさんはちょっとヤンデレ要素あってダメでした。光よりの混沌()

11/22追記
グリムドアクセサリーのデザインを描いてくれました!黒兎可様ありがとうございます!!

【挿絵表示】


・自分VS自分
この為にオレギアさんの一人称は『俺』でした。
原作トレギアが「光も闇もない」虚無たる混沌ならば、オレギアさんは「光も闇もある」充実たる混沌。太陽の影にはなれるが太陽の傍に在ることはできないトレギアと、太陽にもその影にもなることは絶対にできないが太陽の傍に在ることができるオレギアさん。設定上同一人物のはずなのに対立するしかない2人。

・トレギア、論戦敗北。
初期プロットでは実は自己否定の塊でもあるトレギアによる熱い八つ当たりと話術に動揺し、揺らいだオレギアさんをタロウの思い出が支えて奮起する……とかだったんですが、なんでこうなった。
いや、原因はわかってるんです。トレギアのタロウに対する拗らせまくった感情を元に、このオレギアさん見た時どういう評価するだろうって色々考えてたら、そもそもこいつを自分のありえた可能性だと認めてしまった時点で自我崩壊級のダメージになると結論付いてしまったからです。オレギアさん、コンプレックスを狂気ごと投げ捨ててちゃんとタロウの元に帰ることができたトレギアなんで。自分ではない地球人だという可能性に縋りつくしかなかったので、あっさり論破されたどころか自己分析できてるオレギアさんによりタロウという地雷を全力で踏み抜かれる結果に。
オレギアさんが憑依転生者なら『一度部活仮病で休んだら延々休み続ける羽目になってしまう負のスパイラルですね』みたいなこと言ってたと思われる。

・オレギアさんは転生者なのか憑依転生者なのか。関わった神様はいたのか。
トレギアが予定と違ってあっさり敗北してしまった為(初期プロットでは論戦劣勢→自己見つめ直しからの覚醒で2話分)、本作劇中で断定される機会なさそうなので、神様の有無は明言しますと神様転生ではありません。そうならタグつけてる。
作品あらすじに偽りなく、オレギアさんの前世は地球人です。人間の心を欲しがった人間臭いウルトラマン、トレギアに人間だった過去がついた存在です。自覚持つのが遅過ぎたせいで、ウルトラ族である認識が強すぎて元地球人という認識レベルにすら至れないだけ。私たちが今、前世はなんかの哺乳類でしたとか自覚持ったところで、人間の価値観捨てられないと思いますよ。
憑依タグついてる?そこは次回に軽く触れる予定。

・タイタス、力の賢者として盛大に推理を外す。
『光と闇について思考を深めすぎた結果、勝手に発狂したあげく、勝手にSAN0になって邪神を力にして暴れるだけ暴れていたが、タイガ達に倒された際のリレイズで盛大にバグってこうなった。だからどちらもトレギア』
これを正解できたら大したものである。光の力を信じているからこその優しい推理ミスである。
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