トレギアだけど、元の宇宙に帰りたい   作:鵺崎ミル

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日誌SSなのに文字数が9千字に迫るのはどうかと思いつつ、分割なしでこのまま続行の構え。


外伝:ザラブの日誌4

 

 

2020年11月11日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 色々あって疲弊している。昨日の分含めて時系列順にまとめよう。

 

 11月10日、東京丸の内にて巨人化した禍特対所属浅見分析官が出現。催眠状態にあり、ビルを一部破壊する示威行動を取る。加えて、駆け付けた自衛官、禍特対構成員に対し実行犯が声明。浅見分析官はそのまま道路へ倒れ意識喪失する。

 

 声明は巨人化のデモンストレーションであり地球人に対するプレゼンテーションでもある事を明示しており、技術付与を仄めかしていた為、各国政府の通信量が激増した。

 

 禍特対は既に神永がウルトラマンであることを承知である模様。政府は未把握である為、秘匿している様子。彼に対し質疑応答を繰り返していた事が判明しているが、口頭でのやり取りで電子情報が無い為詳細不明。

 

 私ザラブは官邸に呼び出され、説明を要求される(小田原の蒲鉾御三家とも評される店舗より蒲鉾を取り寄せ味わう最中だった為、不快感は表明)。政府側も混乱しているようでまとまりのない質疑が複数回生じた。

 私が回答した内容は以下の通りである。

 

 君の同族の仕業か──『違う。私の仕業でもない。そもそも技術提供を目的とするならば、この場で仄めかせばいい』

 

 あの技術はなんだ──『巨大化技術は割と珍しくはないが、声明通りであればウルトラマンと同質の巨大化技術を用いているようだ』

 

 あの声明をした者の目的は──『本人に訊ねるしかない。間違いなく接触を図るだろうから、現地調査は現場に任せ、貴方達は泰然と構えていればよい』

 

 我々に協力はできないか──『交渉の席に立つことはやぶさかでないが、当人が地球との取引を目的としているならば、私を頼ることは危険だ。私は貴方達と政治的取引を行うつもりはなく、国家というものは、利の無い行動は嫌疑の対象なのだろう?』

 

 静観と中立を維持しながらも、人類側への必要最低限の情報開示は行うという、極めて神経を摩耗する一時だった。

 

 その後、深夜2時頃──人類科学の通常手段では巨大化した人間から衣類の繊維1つ切り出せない、全く解明の余地がない事実が判明したタイミング──実行犯であるメフィラスが禍特対の前に現れ、自己紹介。ウルトラマンを視線で牽制しつつ、彼の前で堂々とベーターボックス(ウルトラマンの所持する起動点火装置より遥かに巨大だが、原理は同質とのこと)を披露。浅見分析官を元の姿へ戻した後、政府とのコンタクトを要望。

 

 11日の朝になって、私とも官邸で遭遇した。

 

 私が苦情を口にする前に「はじめまして、ザラブ」と牽制された為、不承不承合わせる事となった。

 それでもせめて文句の1つは言っておきたいと思い、

 

「私の光学迷彩を暴くアプリを提供したのは君か」

 

 と問い質せば。

 

「ええ、地球を守った功労者は胸を張るべきだと思いましたから。また君の同族が現れた時、地球人が手を打てる為にもね」

 

 といかにも本音と建前を入り混ぜたと受け取れる表現を用いてきた。居合わせた官僚や政治家が感心したように頷いていて内心頭を抱えた。現生人類が同じ轍を踏まない為にも必要だったという言い回しは実に悪質な正論だ。単に私を拘束し利用したいだけという真意を理解できるのは私だけだ。

 

 その後、メフィラスは総理大臣を始めとした日本政府中枢と会談、交渉。

 あれよあれよと言う間にメフィラスの言う『自分を上位概念として認めるならば、ベーターボックスを地球へ無償提供する』という条約の締結が前向きに検討され始めた。

 

 私はこの時点で、ようやく彼が日本を舞台に暗躍していた理由を悟る。

 この国家は元より『上位存在』への許容値が高いのだ。大半の国民は宗教精神が大らかかつ多神教のそれであり、内閣総理大臣とは別に天皇という上位概念(日本における宗教面でのトップとも表現可能だが、『日本国及び日本国民統合の象徴』と表現されている以上、上位概念と解釈して間違いはないだろう)を受け入れている。また、一部の者は『日本は米国の属国である』と卑下すらしている様子もある為、メフィラスにとっての『最初の1歩』として最良条件だったわけだ。

 正直、我々侵略宇宙人は『とりあえず侵略するなら日本からでいいんじゃね? 知らんけど』感覚で突撃しているのが大多数である。その為、こうも真面目に検討して計画を進めたメフィラスには感嘆を覚えた。

 

 それはそれとして、私を利用して日本政府からの信用を勝ち取った行動は面白くない。

 放っておけばさらに利用されそうなので、ウルトラマンとコンタクトを取ることを検討する。

 

 問題は、光学迷彩が役に立たない事か。本気で工作すれば造作もないとは思うが、手の内をメフィラスに知られるだろう。そして行動そのものを利用されるのは明白だ。私が暗躍していると政府へ疑いの種を撒いたりな。おのれメフィラス。

 

 ……日誌を記していてさらに疲れた。今日はもう休眠行為に耽るとしよう。

 

 

2020年11月13日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 ウルトラマンと接触した。

 逆に考えればいいんだ。堂々としちゃっていいと考えるんだ。

 

 表向き、同族の悪行で禍特対が被った事への個人的謝罪と銘打つ事で私の担当外交官に通達、スムーズに接触した。恐らく向こう側も接触を希望していたのだろう。朝に通達しておきながら、会合は昼に決まった。

 

 第三者が見える範囲で、私は同族の行いを詫び頭を下げる。

 それを禍特対代表として班長が快く許し、握手でもって和解とする。

 その後は懇親の場と称して彼等のみと交流する具合だ。

 

 結論として、やはり彼等は神永がウルトラマンであることを理解しているようだ。

 だが、彼と同化していることまでは理解しているようには感じない。後ろめたさもあるのかもしれないな。彼らの信頼を崩壊させるのに、神永の肉体を乗っ取ったと囁く離間工作は悪くない……つい本能が疼いたが、そんなことはしない。私はオムニバーシアンだ。侵略宇宙人ではない。一瞬グリムド様の視線を感じた気がして怖い。

 

 彼等にとっては私もメフィラスの仲間であり、警戒対象であるという認識だったようで、中々剣呑な雰囲気もあったが(特に浅見分析官の憤懣は空間を歪めんばかりに立ち昇っていた。人類史初の巨大化人間ということで丸1日あらゆる検査機関をたらい廻しにされたそうだ。ネットにも映像が出回る始末だが、流石にメフィラスも悪いと思ったのか責任を持って全削除したようである)、ウルトラマンが窘めてくれた。

 

 私は改めて中立の立場を強調し、それはそれとしてメフィラスに利用された分程度の報復は検討している意思を表明した。

 ウルトラマンからの提案は会食に同行願いたいというものだった。この男、いつの間にかメフィラスともコンタクトを取って食事の約束を取り付けていたようである。禍特対の誰も知らなかったようで驚愕の表情を浮かべていたのが印象に残っている。隣の浅見分析官が裏切られたような顔をしていたのだが、後ではり倒されたのではなかろうか。

 

 合流の場は何故か鎌倉だった。

 転移技術を用いて人気のない通りから、観光客を装って語り合おうというものである。

 散歩をしながら紅葉が始まりつつある、鮮やかな空間を楽しみましょうとはメフィラスの談だが、要は「人類の変化を受け入れろ」と言外に伝えているようだ。11月末ならより良い紅葉になるでしょう、じゃない。勝ち誇るな鬱陶しい。

 あとこいつ私達より先にしらす丼を味わっていたようで、散歩は腹ごなしを兼ねていた。おのれメフィラス。

 

 メフィラスの口から語られるのは、これまでの計画だ。

 パゴスからは明確に生物兵器であることを示し、人類が手に負えなくなってくるタイミングで光の星の使者が降臨、更にマーカーを発見したザラブによって地球侵略を試みさせ、人類は外星人には敵わないと悟らせ絶望する土壌を育ませる。そして素直になった所に上位概念として君臨し、人類を星間協定においても合法的に管理有効活用する。誘導こそしているが直接手を汚さないなんとも悪質な手口である。

 ザラブ利用に関しては私が妨害した為半端に終わったが、引き換えに私の存在を、人類の上位存在として強調させつつ外星人との有益なコンタクト経験に繋げさせ計画の円滑化に利用した。おのれメフィラス。

 

 ウルトラマンが人類と融合した事でベーターシステムとの相性も抜群だと理解したのだろう。そして巨大化実験により、人類の全てが生物兵器として極めて優秀だと証明されたわけだ。なにせ60億を超えているからな。星間移動技術さえ確立すれば銀河支配も夢ではなくなる。宇宙基準において、寿命が80~100年程度はとても短いが、引き換えに約20年という極めて短い期間で成体となるし、繁殖可能期間も長い。……滅ぼした方がいいかもしれんなこの種族。怖い。

 

 ただメフィラス、計画を語りながら青銅製巨大座像を背景に自撮りをするな。その真っ黒な手帳を御朱印帳と主張する気か。そのメフィラスマークはなんだ。受付もにこやかに対応するな。

 あとウルトラマン、お前はお前で巨大草履ばかり見つめるな。交互に足元と見比べるな。なんだ履きたいのか。

 

 河岸を変えようと言いながら転移で別のお寺に行くんじゃない。人気歴史ドラマ番組の特集があるから足を運びたかったとか言うな、一人で行け巻き込むな。付き合おうじゃないだろウルトラマン。こいつの計画止めたいんじゃないのか。現生人類を深く知る為とか真顔で言ってるが絶対嘘だろ。鯉の餌を私に向かって投げるな。おかげで鳩塗れだ馬鹿野郎。

 

 ……終始このような具合で他にも色々あったのだが、ここではもう書くだけで疲れるので割愛する。

 

 夜になってから改めて会食となった。鎌倉ではなく、東京の居酒屋でだ。予約を取っていたらしい。つまり鎌倉での行脚は単にメフィラスの趣味だったのだろう。おのれメフィラス。

 

 提供される食事に舌鼓を打ちながらも、メフィラスは自身の優位性を説明し、遠回しな勝利宣言を通達してきた。光の星の掟は思ったよりも面倒臭いようだ。光の国と比較して大分融通が効かないように思える。本来の仕事を放棄して地球を死ぬまで守り通したウルトラマンやウルトラセブンという実例を知っているので余計にそう感じているのかもしれない。もっとも光の国は自主性を重んじ緩い分、罰則は厳しいようだが。

 

 一方ウルトラマンは、「自分は地球人と融合しており、それ故に光の星が定めた掟とは適用されない範疇が存在する」と法の抜け道を堂々と宣言。メフィラスの行動を実力阻止すると明言した。

 

 メフィラスはウルトラマンの行動と判断を称賛しながらも、打つ手はないだろうと余裕の態度だ。私はというとメフィラスがらっきょうを美味しそうに頬張っている様子を見て、別世界のメフィラスもらっきょうが好物である事実に衝撃を受けるばかりであった。

 

 ただ、立場だけは表明した。

 

「この星の未来が人類と文明の滅亡でないならば、どちらが勝とうが問題はない。管理独占も、自立誘導も、原生人類にとって利がある。お前たちの敵にも味方にもなる気はない」

 

 飾った言葉だが、要するに「巻き込むな」が本音だ。別にこの地球が滅んだところで別の宇宙には美しい地球が変わらずあるだろう。闇で包もうが焼却しようが銀河ハイウェイの建設工事で爆破しようが知った事ではない。だが滅ぶならばこのザラブの手でm

<<(◎)>>

ん? 

<<(◎)>>

 違うんですグリムド様申し訳ございません今のはザラブの本能思考が疼いただけであって決して関わった星が滅ぶ様に愉悦を抱いているわけではございませんウルトラマンとメフィラスと板挟みにされてストレスを蓄積したが故の戯言でございます皇帝陛下の意向を無碍になど決して致しませんどうかご厚情の程を願います……

 

 

 

 ……危なかった。オムニバーシアンとしての立場と意識を失念してはならない。クール星人のような末路はごめんだ。死ぬにしても断固お断りな死に方というものがこの世にはある。

 静観中立を宣言したが、予定変更。介入しなくてはならない。しかし、どう介入する? というか救援はよこさないくせにグリムド様による監視は働いているのだな。逆に言えば完全な断絶は発生しない保証にもなっているのだが。

 

 いかん、日誌に混乱した思考が流れ込んでいる。落ち着いて整理しよう。

 時間猶予はほぼ無い。今頃ウルトラマンは実力行使の為なんらかの策を練っている事だろう。それに便乗する選択肢を検討……厳しいな。ウルトラマン視点、私はただの不確定要素だ。前言撤回からの共闘は悪手だろう。

 

 では協定成立の妨害行為はどうだろうか。これも中々難しい。別に原生人類からの信用を失ったところで何も痛手にはならないのだが、せっかく同胞の悪事を潰して得た信用を無碍に捨てるのは、名残惜しいものがある。なにより地球の未来において、これは悪しき教訓となり外星人の全てを敵視する思想へ繋がりかねない。つまりオムニバーシアン的にアウト判定をもらう恐れがある。

 

 ウルトラマンとメフィラスが戦闘した際に介入。両方から殴られる事間違いなしだが、水を差す事で強引に戦闘を終了させる。静観中立の宣言故の介入となるような理由を捏造するか。

 

 ……ウルトラマンの出方次第だな。今はゆっくり待つとしよう。

 

 

追記:グリムド様の件ですっかり書き忘れていたが、一番飲み食いしてたくせにあのらっきょう野郎堂々と3等分の割り勘を主張して通しやがった。おのれメフィラス。

 

 

2020年11月14日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 まずは書かせてほしい。流石は一流工作員、ザラブ。

 私はやはり優秀だ。私はやはり精鋭だ。成果を認識した後の自画自賛は甘美なものだ。

 

 メフィラスと日本政府の条約締結、その会場に私ザラブも出席した。メフィラスからすれば拒絶するどころか「他の外星人も歓迎する友好条約」というアピールに使えるとばかりに歓迎していた。私が妨害に走る事の無為を理解していた故だろう。正直グリムド様の圧がなければその通りであった。

 

 締結までの流れは粛々と進み、列席者の拍手でもって受け入れられた。メフィラスがプランクブレーンよりベーターボックスを会場へ出現させた直後、同空間よりウルトラマンの手が出現。ベーターボックスを鷲掴みにして登場した。高次別空間をよくもまぁ自由に探索したものだ。十八番を奪われたに等しいイカルス星人には同情しよう。

 

 メフィラス曰く、浅見分析官の匂いがベーターボックスに残っており、それを探索に使われたらしい。言うは易しの典型例と思うのだが、ウルトラマンもメフィラスも規格外な連中だ。

 

 ベーターボックスは軍用ヘリを拝借した禍特対に投げ渡され、あくまでも決めるのは原生人類という星間協定の隙をついた対応。流石のメフィラスもこれには不快感を隠せぬ様子であり、中々に痛快であった。

 

 案の定、そこからはウルトラマンとメフィラスの戦いである。

 

 メフィラスの目がウルトラマンにのみ向けられた千載一遇の好機であった。

 混乱する人々を差し置いて、私は総理大臣に近付き一言告げる。

 

「総理、貴方には今できる事があるのではないか」

「な、何がだ!?」

「ウルトラマンもメフィラスも実力者だ。余波で傷つくのはこの国土。そしてどちらが勝とうがそれは彼ら視点の勝利でしかない」

「……」

「さて、来賓に頭を下げるぐらい、貴方は苦でもないのでは? それで外交勝利を勝ち取るならば安いものでしょう」

 

 これだけで彼も、彼の背後にいる政治家や官僚も理解したようで唇を引き締めている。わずか数秒の沈黙には、様々な検討と案が浮かんでいる事が伺えた。官邸暮らしとなった事は、図らずも彼等の知性と性格を把握する事に繋がったので、何が活かされるかわからないものだ。

 彼らは無能ではない。大国の顔色を窺うしかない弱小国の面をしながら貪欲に経済の牙で食い込み、両得か両損の2択を迫らせる狸国家だ。メフィラスとの条約締結にしても、他の大国達が妨害も介入もできていないのだから。

 

「……対価は何かね」

「総理!」

 

 この返答の速さと無駄な装飾を省いた言い回しには大変好感が持てた。

 事は急を要するのだから当然とはいえ、確認の手間を省く危険性を政治で痛感している政治家が、外星人相手にそれを為す。たいしたものだと感心した。

 わざとらしく小刻みに体を震わせ、笑っているとアピールしてからこう告げた。

 

「実は私、潜伏中は関東圏しか渡り歩いていなかったのですよ。他の地方に根付く文化……現地の美味……他の外星人が羨む限りの体験を提供してほしい」

 

 快諾の返答を貰ったのは言うまでもない。

 

 

 巨大化した私が到着した時には丁度ウルトラマンの八つ裂き光輪がメフィラスの手で弾かれたところだった。派手に転がった光輪が工場をズタズタにしていくのを見て呆れるより恐怖が先に立った事を記載しておく。私の肉体では防ぐことすら叶わない攻撃だったからだ。ベムスターも両断されて終わるだろう。ウルトラマンもメフィラスもおかしい戦闘力を有している。

 工場地帯に損害が出てしまったことで余波の被害を防げなかったわけだが、この時点での介入なのだから、最低限に抑えたと自認している。

 

「そこまでにしておけ。ウルトラマン、メフィラス」

「ザラブか」

「おや、中立だったのではないですか」

「中立だとも。どちらにも肩入れする気はない。だが君達が争っている場所は日本という国だ。その日本の全権代理者たる政府から『2者の戦闘停止』を依頼される分には中立に反しない。よって私が到着した現時点より、先に攻撃を仕掛けた方へ私は攻撃すると宣言させてもらう」

 

『先に手を出した方が悪い』というのは、人間社会における重要なルール。八つ裂き光輪ぶっ放したウルトラマンが先手と解釈していいのだが、こういったものは宣言時点より遡及されないものだ。メフィラスに悪用されないように現時点と明言することで牽制を強める。

 必然、2人は戦闘行為を終了せざるを得ない。例え私が戦闘力という意味で大して脅威でないにしても、私がベムスターを有している以上は数の差は3VS1が成立する(ガンQもいるので正確には4VS1)。ウルトラマンであってもメフィラスであっても避けたい構図だ。

 暴力による抑止力の体現と言えるだろう。こうして書いている今も流石ザラブだと自賛の高揚が止まらない。

 

 ただ正直、これはウルトラマンやメフィラスが相手だったから成り立った策だ。実力があり、理性的であり、対話が可能であるものでなければならない。どれか1つが欠けても抑止としては心もとないのだ。現実は侵略宇宙人塗れだからな。

 

「それで? この状態を維持する事で何がしたいか答えてもらおうかザラブ」

「今一度話合ったらどうだ。先日の飲み会と違い、状況は変わった。どちらかが消える事が手っ取り早い解決手段なのはわかるが、それによって国土を荒されることをこの国は良しとしない」

 

 状況が変わった、という部分に関して少し書いておこう。

 この日誌を読む者の中には疑問を持つ者もいるだろうからな。

 

 ウルトラマンは『現時点で人類にベーターシステムは早すぎる』という立場を日本政府側に行動で表明した。つまり、ベーターボックスを手中に収めた時点でウルトラマンと敵対する危険性を彼等は意識せざるを得ない。同時に禍特対にベーターボックスを投げ渡した事でウルトラマンと禍特対には友好的交流があると推察可能。

 さてここで問題だ。この情報を入手した他国はどのような情報工作を行うだろうか。

 ウルトラマンの信用失墜は私ザラブが防いだ以上、民衆は無責任にウルトラマンを怪獣退治のヒーローとして扱っている。そのウルトラマンがベーターボックスに反対の立場……実に工作しがいがある厄ネタだ。

 

 メフィラスはというと『条約締結は為されている』事が強みだが、肝心要のベーターボックスの市場価値が、リスク増大という嫌な部分で下落してしまった。無論情報操作は全力を出すことだろうが、ここで私ザラブがネックとなる。電子情報操作に関して言えば同レベルの外星人がいるのだ。『メフィラスが工作しているところを発見した』などと動かれるリスクは常に存在する。

 トドメに日本政府は『この国が荒らされるのは嫌だ』と私に戦闘停止を依頼した。それは、今後ベーターボックスの扱いが変わってしまう可能性が高いことを意味する。日本がベーターボックスを主導し利用するから『上位概念メフィラスによる地球支配』が表向き平和に進むのであって、及び腰になって他国の介入に経済利益を強く意識するであろう現状では最悪地球そのものの資産価値を落とす結末……世界大戦が視野に入ってしまう事だろう。他国が主導ではうまくいかないと結論付けたから日本を選んだのだから、まったくもって望ましくない状態だ。

 

 結局ウルトラマンさえ倒してしまえばメフィラスの問題はだいたい解決するのだが、それを私が通せんぼしている。実に良い報復行為でコーヒーが美味い。

 

 メフィラスは10秒ほど沈黙を保ち、熟考の様子を見せた。

 ウルトラマンは静かに気を静めつつも禍特対のヘリを気にしているようだった。

 

「……ベーターボックスをあの場で堂々と奪われた時点でこうなる結末でしたか。わかった、ウルトラマン。君の言う通りにしよう」

 

 メフィラスは渋々とだが、ベーターボックスを回収し地球を去る事となった。

 まぁ去った振りして地球行脚を再開する気しかしないが。

 

 あっさりと返却は済まされ、メフィラスはテレポートによって姿を消した。

 ウルトラマンは禍特対のヘリが着陸後に消失。私も合わせて縮小化して政府首脳陣と合流した。

 

 ベーターボックス受領は成らずに終わったが、総理の顔には安堵も伺えたのでこれで良かったのだろう。というか周囲に対して私との友好が示された事を強調していた。最終的に利潤を確保するとはやってくれたものである。

 

 私も日本全土を堂々と行脚し堪能できる機会を得たのは上々と言えるだろう。やはり私は優秀な一流工作員だ。

 ざまぁみろメフィラス。これがザラブだ!! 

 

 

 

 

¢月PP日(2020年11月16日 地球:日本 所在地天候:晴れ)

 

 どうほうはやくたすけにきてください。そらが、そらが! 

 

 




次回 ザラブ日誌最終回「さらばザラブ」

日記形式徹底すると別視点による補完描写が難しくなるなぁ。禍特対側とかメフィラス側とかもあとがき補完以外で書いた方がわかりやすいのですが、もうゼットンまで迫っている中で一度決めた形式をブレさせるのも良くないのでこのままいきます。

・巨大化浅見分析官の調査
本作では神永が正体暴露した上で禍特対によって情報保護されている為、実は禍特対内部では浅見がベーターシステムによる巨大化ということは早々に分かっている。神永はシステム原理に関しては情報開示ができない旨を(本人なりに)丁寧に説明したが、本編観た人には周知の通り彼は言い回しに難のある人物。滝とひと悶着あったりする(ならこっちで勝手に暴いてやる!と躍起になって調べだした。神永は自力解析できるならそれはそれで喜ばしいと微笑みを浮かべたが、挑発と解釈され余計ムキになった模様)。

・鎌倉行脚する外星人3名。
ただの怪獣散歩。メフィラスがやたら優位なのもお約束。ボケに走る天然リピアーもお約束(二次創作)。普段はツッコミ側に廻るのがシンメフィラスだが、ザラブがいたせいで2人そろってボケに走った。
ただしザラブが意図的に日誌に残さなかったやり取りもある。こいつはこいつで鎌倉行脚を楽しんでいた。

「大吉が引けるまで何度も御御籤を引くとは……ザラブ、無粋という言葉を学んでいないのですか」
「君の行いは負け惜しみに等しい。速やかに結果を受け入れる事を推奨する」
「黙れ、繰り返してでも望む結果を掴めば勝ちだ。どうせお前ら念力と透視を使っていただろう」
「やれやれ、それこそ無粋の極みというもの。運気を楽しみ、結果を楽しみ、余裕を持って対応していくことが御御籤の醍醐味でしょう。目的の為なら手段を選ばない、私の苦手な言葉です」
「……」
「……ウルトラマン?」
「おい、目を逸らしたぞこいつ」


・グリムド様、監視中
宿であるトレギアへの反逆行為ならまだしも野心の発露程度であれば普段は些事と流すが、今回のザラブは遭難したオムニバーシアンなのでその分だけ『注視』していた。その為、ラインに触れた時点で警告。本人的には「日誌とはいえジョークでも書いたらいけないと思うなー」程度の注意。

・ザラブによる停戦工作
日本政府の依頼という言質を引き出すチャンスをずっと伺ってた。
解釈をほぼ委ねるような短い言葉には驚いていたりする。ちなみに、事件後に禍特対はちゃっかりヘリに紛れた神永共々拘束されたが、その日の内に問題なく開放されている。日本政府の面子はザラブへの停戦依頼を用いて保たれたのと、ザラブ本人がウルトラマンに隔意を抱かれてはたまらないと、彼等の安全と開放に口添えしていた為。ただ、少なくともウルトラマンとコンタクトを取っている事が露見した件もフォロー(情報操作に全面協力)していたりする。無論、日誌に残してはいない。浮かれて書き損じたとも言う。
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