みちのくKanon―20thAnnIversary.veR―   作:衛地朱丸

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リメイク版第一話ということで、8割方新規書下ろしです。旧作で中盤辺りだった夢の話を冒頭に持って来て、電車内の描写を膨らませた感じです。


第一話:遥か遠き日の物語

夢、夢を見ている。

 

「祐一く~~ん。こっちだよ、こっち~~!」

「待ってよ~~」

 ヘトヘトになる幼い俺を先導し、雪の降り積もった山道の石階段を登り走る少女。

「お疲れ様、祐一くん。ここがボクのとっておきの場所だよ」

 少女に導かれた場所は、雪化粧された杉並木に囲まれた鎮守の森。

(なんだろう? はじめて来たのに、はじめてじゃないような……)

 凍て付く空気によって守護された神秘の空間。不思議な感覚だった。未知の場所のはずなのに、幾千層にも及ぶ懐かしい心情を抱く。

「あれっ? あれれっ?」

 気が付くと、少女の姿はいずこかへと消えていた。

「どこ? どこ~~?」

「祐一く~~ん。ここだよ、ここ~~」

 背中から声が聞こえ、後ろを向く。だけど振り向いた先には樹齢千年には及ぶであろう神木が生えているだけ。少女の姿はなかった。

「どこー? どこにいるのーー?」

「上だよ、木の上~~」

 少女の声に導かれるがまま上空に目を向ける。

「あっ!?」

 陽光が枝に降り積もった雪に反射され、白銀に輝く大気の先にはあった。太い木の枝に座り、とても気持ち良さそうに寒天の風を全身に受けている少女の姿が。

「鬼さん、鬼さん、こんにちは。つれて来たよ! ボクの大切な人を!!」

 少女は語りかける。まるで親し気な友人と会釈するよう神木に。

 

『そうか――。裏葉(うらは)の願いを継ぎし月之宮(つきのみや)の子よ。この童子が頼信(よりのぶ)の――』

 

「えっ? えっ?」

 まるでテレパシーのように頭の中に声が響き戸惑ってしまう。

「誰? 誰の声!?」

「鬼さん! この木の下に、ずーっと眠り続けてる人!!」

 俄かには信じ難い話だった。確かにこの地には奥州藤原三代のミイラが伝わっている。だけど地中で生存し心の中に呼びかけて来るだなんて。

「鬼さん? 鬼さんって名?」

 

『然り! 我が名は赤い鬼の柳也(りゅうや)。千年にも至る永き時、想い人との再会を夢見し待ち人よ――』

 

 

「夢、か……」

 軽快にレールを摺り上げるMAXやまびこの走行音に導かれるように俺は目覚める。

 なんの夢を見ていたかは、もはやおぼろげだ。だけどあれは多分、幼い時母さんから何度も子守唄のように聞かされた昔話の夢だ。

 

我が子よ よくお聞きなさい……

 

これから話す事はとても大切な事……

 

親から子 子から孫へと語り継がれてきた物語……

 

遥か遠き日の約束を伝え行く物語なのですよ……

 

 そんな前置きで始まる物語。確かこんな話だったような。

 

 むかし、むかし、ある所に、美しき羽の生えた少女がおりました。

 月読尊(つくよみのみこと)の子孫と言われる少女は、実の母と離れ離れに、山奥の社に幽閉されておりました。

 侍女と二人きりの生活を送る少女の元に、ある時血塗られたような赤い鬼の仮面を被った男が現れました。

 赤い鬼は母親と会いたいという少女の願いを叶えるべく、侍女を引き連れ、高野山を目指しました。

 

 そして……そして……。

 なんだっけ? 大体いつもこの辺りで眠ってしまって、後半はあんまり覚えてない。

 確か都から源頼光の弟だかが追って来て、赤い鬼の正体は東宮の地位を追われた殿下だとかで。

 なんと言うか、『東日流外三郡誌』にでも乗っているかのようなトンデモ日本むかしばなしって感じだ。

 で、重要な部分はその少女と赤い鬼は恋仲になったけど離れ離れになって、天に昇った少女の再臨を今でも待ち続けている。

 そして俺は少女の侍女と約束を交わした頼光の弟の末裔で、弟君は侍女と子孫が協力するって約束を交わしたとかなんとか……。

 先祖自慢したいからって、普通ここまで話盛るか?

 子供の頃は興味深く聞いたけど、今だとハイハイ。とても面白いフィクションなのでとっととラノベの新人賞に送りましょうねって、鼻であしらう程度の三文話だ。

(だけど……)

 なんだろう。“約束”って部分は無下にできない、大切な想いを抱く。

 約束――。俺にもとっても大切な約束があったような……。

 

 

「富竹フラーッシュ!!」

「うおっ!? 眩しっ!?」

 唐突にデジカメのフラッシュを浴びせられ、俺は目を瞑る。

「なんなんだ一体?」

「ごめんなさい。『車窓に佇む好青年』っていい感じのシチュエーションだったからつい」

 一瞥したのは、見た目二十代後半の深緑に染まった長髪の女性。高級そうな紺色の冬着に身を包んだ清楚な外見だった。

「私は園崎詩音(そのざきしおん)。こう見えてもフリーのカメラマンです。メインは鉄道の撮影でして、断った試しがないんですよ。アハハハ」

 なんだ、ただの撮り鉄か。列車の撮影だって時と場合によっては許可が必要だろうに。撮り鉄っていつもそうですね……! 被写体のことなんだと思ってるんですか!?

「大丈夫、大丈夫。後からフォトショ加工で超絶美形にビューティー先輩化して、ネットにうPしますので。それじゃ!」

「ちょっ! 待っ!? 無断転載お断り……って、もう着いちまう!!」

 詩音という女性の後を追おうとしたが、タイミング悪く下車駅到着のアナウンスが流れる。俺はクソコラ化して一生ネットの晒し物にならないことを願いつつ、急いで身支度する。

(7年振りだな、こんなに本格的な雪景色を見るのは…)

 目覚めたばかりの頃はトンネル内で、その後は撮り鉄女との一悶着。落ち着いて外を見る余裕がなかった。

(不思議なものだ。本能的には美しいと感じているのに、理性がそう感じるのを許さない。昔はこんなことなかったのにな……)

 美しい雪。幻想的な雪。街という街が雪に覆い隠された空間。それは首都圏に時折降る雪の比ではない。そこはまさに雪の異世界という感じだ。

「寒っ!?」

 ホームに降りた瞬間全身を覆う凍て付く冷風。

 何コレ? 超絶寒いんですけど!? いくら新幹線の中が暖房ぬくぬくだからって、寒暖差が東京の比じゃねぇ!?

 あっちが冷たい息なら、こっちは冷たく輝く息だぞ!? さながらフリーザーにれいとうビーム喰らって氷漬けにされた感じ。助けてリザードン!! とかちつくちて!?

「駅の中はまだあったかいよな。ああでも、待ち合わせ場所は外のジャンボ鉄瓶? だっけ? 早く来てくれよ名雪(なゆき)……」

 そう俺は観念して従姉妹の名雪を待つべく、小雪の舞い散る駅前広場へと足を踏み出すのだった。

 

 

「おねえ。私です。詩音です。例の少年は無事に駅を降りました。“奴等”の追手の気配はありません。私も周囲を警戒しながら様子を見に行きます。梨花(りか)ちゃんの妹、舞花(まいか)ちゃんの所に……」




ご無沙汰しております。衛地朱丸です。果たして旧作を読まれていた方がどれだけいらっしゃるか不明ですが、十数年の時を経て再びお読みになってくださるのは感謝の限りです。

さて、連載開始20年を過ぎ21年目に突入した今、何故リメイクしかたと言うと。ひぐらしのなく頃にの新シリーズとかぎなどの放映に触発されてという身も蓋もない理由です。

実のところ、『みちのくkanon傳』のリメイク版である『みちのくkanon』を書き始めたのはいいものの10年近く更新途絶してて。
その間に小説投稿サイトが生まれたので、そっちに移そうか。でも、そのまま掲載するのも憚れるし、更新途中から書き直すか、それとも再始動するか悩んだ末、後者を選択しました。

というわけで非常にややこしいのですが、本作は「『みちのくkanon傳』のリメイク版である『みちのくkanon』を投稿小説用に校訂したもの」となります。
大まかな流れは校訂元と同じですが、大きな変更点が三つあります。

・ネトウヨ的思想信条に基づいた描写や時事批判の削除

・オリキャラの削除

・本筋と関連性の低いエピソードの削除

一点目は当時はノリノリで書いていたものの、今読み返すと非常に痛々しいので、あまり本筋と関係のない思想信条ネタは削除しようかなと。
二点目は自分の分身的なキャラを出していたのですが、これまた痛々しい行為だなと。
三点目は量が量なので見直しにも時間がかかり、単調になり過ぎないようにするためですね。

逆に削った代わりに、「懐かしネタ」を追加できればなと。何せ連載当時は作中時間と実時間が数年しか離れていなかったのですが、今だと20年以上ですからね。
90年代末ネタを入れれば入れたいなと。

それでは最後になりますが、同人書いたり他の作品書いたりで更新が滞ることはありましょうが、今度こそ未完で終わらせずに完走できればなと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
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