みちのくKanon―20thAnnIversary.veR― 作:衛地朱丸
旧作該当話:第八話「あゆと鯛燒き屋の小父さん」
新規シーン:・祐一と美汐の腐った会話
・美汐による真琴の正体への言及
削除シーン:・午前中の水瀬家でのやり取り
変更シーン:・部屋の整理の時間が午後から午前に
・手伝うメンバーが名雪とあゆと秋生さんとオリキャラから、
朋也、美汐、鈴香、秋生さんに
「さて、そろそろ始めるとするか」
朝食を取ってから30分ほど休んだ後、俺は部屋の整理を始めようと身体を動かし始めた。7日にタンスやらCDプレイヤーを運んでから、何一つ物を運んでいない。軽い物は自分でやるからいいとして、問題は一人で運べないような重い物だ。名雪では頼りなさそうだし、ましてや真琴に頼むわけにもいかない。ここは男手を借りたい所だ。
「という訳で、すまないが俺の部屋の整理を手伝ってくれないか?」
俺は少しでも人材を集めるべく、この間番号交換した潤の携帯に電話をかけた。
『そういわれてもなー このあいだ ことわられた ばかりだし……』
おもちゃ屋の誘いを断ったのを根に持っているのか、潤は塩対応だった。
「そんなこと いわず ちょっとでいいから 手つだってくれよーー」
『では おまえが スーパーヒーロー作戦を 買ってくれるというのは どうだ? おまえが スーパーヒーロー作戦を 買ってくれたら かんがえよう』
「そんなもの 買ってやれるか!」
『したてにでれば いいきに なりおって しね!』
そんな会話の流れで潤には断られた。まあ、台詞の流れからして本気で怒っているなんてことはないから大丈夫だろう。しかし、潤がダメとなると他にアテがない。困ったものだ。
「えーと。そういうわけでだなー。誰か男手を知ってればでいいんだけど……」
この間の鑑賞会の折、潤の他美汐とも半ば強引に番号交換させられていた。本人には期待できそうにないので、知り合いの伝手とかに頼ろうとしたのだが。
『そうですね。残念ながら知り合いに迫真空手部の三人のような方はおりません』
「いや、仮にいても先輩の二人に掘られそうなんだが」
『そうですね。では、私が鈴香くんを誘って手伝いに行きます』
来てくれるのはありがたいけど、女手二人だと多少不安が残る。あと一人くらい男手がいると助かるんだけど。
「あら、祐一さん。何か悩みごとでもあるのかしら?」
「秋子さん! 実は……」
リビングで悩んでいると、秋子さんに声をかけられた。俺は助け舟に乗るように相談した。
「部屋の整理ね。
「はい、お願いします」
古河さんという人がどんな人かは分からないけど、秋子さんの知人なのだから悪い人ではないだろう。
「手伝ってくれるらしいわ。良かったわね、祐一さん」
秋子さんが電話をかけたら、その古河さんという人は快く応じてくれたようだ。これで一安心だと、俺は一人でできる範囲で整理を開始した。
「勝負だ! 祐一!!」
作業開始から十数分後。水瀬家のインターホンが鳴る。件の古河さんかと思ったら、朋也だった。
「何の用だ?」
「テメェッ!? バーコードバトルのこと忘れたとは言わせねぇぞ!!」
「あっ!?」
ヤバイ! 真琴の件があって、すっかり忘れていた。
「その顔、忘れてやがったな!!」
「すまんすまん。しかしだな、荷整理の手伝いに人を呼んでしまってだな」
一通り落ち着いたら勝負を受けてやるつもりだったんだけど。
「荷整理!? だったら俺も手伝ってやる!!」
意外なことに朋也が申し出て来た。
「いや、男手が欲しかったのは確かなんだが。年下に」
「俺の方がテメェよりよっぽど力持ちだってのを証明してやるよ!」
断ろうと思ったが、当人はやる気満々で水瀬家の敷居を跨ぐ。
「よお、祐一、手伝いに来たぜ」
朋也の後を追おうとしたら、断ったはずの潤が姿を現した。
「おお友よ、来てくれるとは思わなかったぜ。来たついでなんだが、ひとっ走り『アニメージュ』を買いに行って来てくれないか?」
「おい! 来てすぐにそれはないだろ!」
せっかく来てくれた潤には申し訳ないが、もう人手は十分だ。正直顔も知らない古河さんに手伝ってもらうよりは、潤に手伝ってもらいたいところだ。けど、秋子さんに頼んでまで呼び寄せたのだから、もう人手は足りましたと、古河さんを追い返すわけにもいかない。
「ちっ、分かったよ。買って来てやるよ」
そう言い、潤はバイクを飛ばし街の方へ向かって行った。元々潤には買いに行くよう頼むつもりだったので、結果的に手間が省けた。
「おはようございます、クソザコナメクジ先輩」
「へあっ!?」
潤と入れ替わるように到着する美汐。人を淫夢くん呼ばわりするのも例のアレ過ぎるのだが。何より驚いたのは。
「おはようございます。手伝い、来ました」
「重くないのか、ソレ?」
鈴香ちゃんの背中におぶられていたことだ。
「人乗せて走るの、落ち着くから」
「いや。本人がいいのなら別に」
そんな涼しい顔で答えられても返答に困るので、それ以上の追及はやめることにした。
「こんな感じに鈴香くんは二馬力くらいの力はありますので、お役に立ちますよ」
「微妙な例えだな。そこは十万馬力とか言わないか?」
「生物に馬十頭分の力を求めるのですか? そんな酷なことはないでしょう」
「分かった分かった。頼りにしてるぜ」
ネタにマジレスされるのも反応に困るので、それ以上の(以下略)で、家の中に入らせた。
「これは、どこに置けば?」
美汐の言う通り鈴香ちゃんは見た目に反して力持ちで。同人誌がいっぱいに詰められた段ボール二箱を、軽々と持ち上げてくれた。
「ぐおお! 負けねぇぞ!!」
それに対抗意識を持った朋也が同じく持ち上げようとするが、一箱が精一杯だった。
「美汐ちゃんは運び終えた本を本棚に並べてくれ。順番は適当でいい」
同人誌は単発物がほとんどだから、並び順に特に拘りはない。
「はい。ところで手伝ったお礼に、薄い本を何冊か分けていただけませんか? 1×4とか、3×4とかあればよろしいのですが」
「俺は腐ってないぞ?」
「残念です。では代わりに、5×3とか。健全で構いませんので」
「随分マニアックな組み合わせだな」
「いえ。戦記ではなく新世紀の方です」
「そっちかー。そこまで踏み込んだのはないが、ブームの時に島を絨毯爆撃した時の戦利品なら、今運んでもらったのに入ってるぞ」
「ありがとうございます」
さすがに1と2の男性向け十八禁は譲れないが、オールキャラギャグ物とかなら構わないな。
「にしても、随分4に拘るな」
「ええ。見た目が女性的な少年ってステキじゃないですか」
この間のMAD上映会の時に薄々感付いていたけど。疑惑が確信に変わったな。
「ちわ~~。古河パンで~~す」
今いるメンバーで部屋の整理を続けて十数分後。ようやく古河さんが来たようだ。
「おはようございます、古河さん」
「おはようっす、水瀬さん。いや~~、水瀬さんはいつ見てもお若くてお美しい。ウチの
古河さんという人がどんな人なのか気になり、玄関に出てみる。口に煙草を咥え、見た目は30代前半の軽快な雰囲気の男性という感じだ。「ウチの早苗」という言葉から、恐らく既婚者なのだろう。雰囲気からはとても奥さんがいるようには見えないけど。
「わざわざすみませんね」
「いや、いいってことですよ。親戚の坊主が引っ越して来たはいいが、自分の持って来た荷物さえまともに運べない貧弱野郎で、お美しい水瀬さんがお困りのご様子とあれば、手伝おうしかないでしょ」
「俺は貧弱じゃないですよ!」
恐らく冗談で言ってるのだろうが、古河さんの言い方が気に障ったので、挨拶代わりに反論した。
「あん、見掛けねぇ顔だな? ああ、てめぇが引っ越して来た貧弱野郎のガキか」
「坊主やらガキって……。俺には相沢祐一っていう立派な名前があるんですよ」
「相沢祐一? そうか、てめぇが『祐一くん』か……。しばらく見ねぇうちに随分と大きくなったな……」
俺が名前を喋った瞬間、古河さんは急に神妙そうな顔をしながら頭をかき始めた。しばらくって、古河さんは昔の俺にあったことがあるのか? そう思い記憶を辿ってみるが、古河さんの顔は思い出せない。
「てめぇが祐一ってなら、確かに『貧弱野郎のガキ』は的外れだな、ひ弱な坊やの祐一くん」
「だから俺はガキでも坊やでもないですって!」
「俺はから見れば十分テメェは小僧だよ」
確かに、古河さんよりは年下だけど、いくらなんでもガキやら小僧呼ばわりする所以はない。まったく、この人はどこまで俺を罵れば気がすむんだっ!
「あぅ。なによぅ。朝からどったんばったん……」
そんな時だった。荷整理やら俺の怒鳴り声やらで目覚めた真琴が、寝ぼけた眼を擦りながら階段を降りて来ようとする。
「随分と遅いお目覚めだな、お姫様」
朝食時間をとっくに過ぎた覚醒に、俺は皮肉交じりに呼びかける。
「おや? 君は?」
そんな時だった。真琴の顔を見た古河さんが神妙な顔をする。
「あっ? この間のおじさん」
「この間の? どういうことだ?」
お互いに顔見知りなのか?
「うん。真琴にこの間、パンをわたしてくれたの」
「!?」
ってことは、あのバッグの持ち主が古河さん!?
「お嬢ちゃん。名前思い出したんだな」
「うん。祐一のおかげで思い出せたの」
「そいつは良かったな」
「……」
古河さんがどんな人かはよく分からない。けど、真琴を優しく見つめる人が、到底悪人には見えなかった。
「色々言いたいことはありますが、手伝いに来てくださってありがとうございます。俺の部屋はこっちです」
「あいよ」
玄関で話し続けても埒が明かないので、俺は古河さんを招き入れる。
「同級生でシコって最低だ先輩。本の整理は終わりました。次はどうすれば?」
そんな時、物凄く失礼な言い回しで美汐が部屋から顔を出す。
「あぅ? お客さん?」
「!?」
真琴の顔を見た瞬間、美汐の顔がまるで狐にでも摘ままれたかのような神妙な顔になる。
「真琴、今からでも朝食取っておくんだぞ」
「ふぁい……」
生返事しながら階段を降りる真琴。
「相沢先輩。何者ですか、彼女?」
入れ代わり俺と古河さんが二階へと上がると、間髪入れず美汐が訪ねて来た。
「やっとまともに呼んでくれたな。正直俺にもよく分からん。道端で突然襲われたと思ったら、妙に懐かれてな。古河さん、ご存知ですか?」
バッグを渡したのだから何かしら知っていると思い訊ねる。
「知らん。山に登った時にな、倒れてたんだよ。素っ裸でな」
「倒れてた!? 山で!?」
裸でということは、誘拐事件にでも巻き込まれ、命からがら逃げて来たのだろうか?
「ああ。流石にそのままだと凍死しちまうからな。家で保護した後娘の服着せてな。事情を聞こうと思ったが、とにかく会いたい人がいるからと話聞かなくてな。数千円の金と食い物入ったバッグ手渡したんだよ」
「山って、どこですか?」
冬の日にわざわざ山に登ったのも気になるが、それよりも少しでも手掛かりが欲しい。
「駅から見えるだろ? この街で一番高い山、神奈山だよ」
「神奈山!? まさか、伝説の阿弖流為の子孫!?」
「何か知っているのか、美汐?」
「いえ。ただの昔話ですよ」
「昔話?」
「ええ。
「ああ」
「阿弖流為には子供が何人かいたのですが、反逆者の子息がどんな扱いになるかは察しが付きますよね?」
「……。ああ」
一族郎党皆殺し。武士の世に至るまでよくある話だ。ましてや相手は他民族。日本人以上に慈悲がないのは容易に想像できる。
「ですから、処刑されるのを避けるために、一手を講じたと伝わっています」
「それは?」
「狐に変化させ、神奈山に逃したと」
「狐ねぇ」
人が人以外の者になるなんて、ありふれた昔話だ。
「じゃあ何か? 真琴はその狐だってか? バカバカしい。いくらオタクだからって、空想と現実をごっちゃにし過ぎだろうが」
「ええ、確かに。そもそもこの昔話では、人に戻す方法は伝わっていないので。子孫代々まで人としての姿を取り戻せる術を講じていなかったのなら、そんな酷なことはないでしょう」
「しかし、何故狐なんだ?」
空を飛ぶ鳥や屈強な熊や狼の方が、生存率高そうなのに。
「狐は信仰の対象だからですよ。狐がお稲荷様の使いだというのは有名な話でしょう」
「成程な。神の使いなら、容易には殺せない。なかなかよく考えられてるな。しかし、肝心の狐に変化させたのは、誰なんだ? 例えば山の由来が、その張本人だとか」
「いぃや。いい線いってるがちげぇよ、坊主。この街の名はなんて言う?」
「それは、“神羽”ですよね?」
横から古河さんが口を挟み、俺は答える。
「そうだ。名前は伝わっていないが、街の由来となった羽を持った神様だ。神奈ってのは、その神様と阿弖流為の娘の名だと伝わっている」
つまりは、神と人の子とって訳か。でもそれだと、子供も羽が生えてそうだし。尚更狐じゃなく鳥にでもした方が良さそうなのにな。
「にしても、狐かぁ。確かに、んな昔話あったな。……やっぱまだいるんだな、雪風さん」
(雪風?)
そう遠くを見るような目で呟く古河さん。雪風。どこかで聞いたことあるような……?
「オイ祐一! テメェの部屋の整理サボってんじゃねーぞ!!」
「ああ、すまん」
この街に関する興味深い話ではあったけど、真琴には関係なさそうだな。そうして俺は朋也に怒鳴られ、正気に返るように作業へと戻る。
今回、話の半分くらいは新規書き起こしですね。
水瀬家での日常会話はストーリー上重要でないことが多いので削っているのですが、名雪の出番が減ってしまってますね。
さて、真琴の正体はKanonファンには既知のことですので、この作品における真琴は、どういった存在かを匂わせています。
正体に言及するのが美汐というのは、ある意味原作通りですね。
しかし、回を重ねる毎に美汐のイタさが倍増していると言いますか。よくよく読み返すと、初登場時は祐一を普通に呼んでて、ヘンな呼び方しているのは美坂姉妹なんですよね。
従来はストーリーにも関わらない、台詞もほぼないという空気キャラだったので、随分出世したなと。