みちのくKanon―20thAnnIversary.veR― 作:衛地朱丸
旧作該当話:第九話「渚と朋也」、第拾話「冬休みの終わりに」
作中時間軸:平成11年1月10日(日)
新規シーン:・美汐の台詞が相変わらず腐ってて汚い
・だんご大家族
削除シーン:・午前中の水瀬家でのやり取り
変更シーン:・渚のバブみ度がアップ!
・朋也のクソガキ度がアップ!
・渚と朋也が幼なじみの関係に
・バーコードバトラーで戦うメンバーが、オリキャラから秋生さんに
使用キャラの職業が、祐一と潤で逆に
男が三人に、女二人と人数も充実したこともあり、運搬作業は思いのほか素早く運んだ。
「ったく、なんでパン屋のオッサンがいんだよ」
「そーいう坊主こそ、人助けなんて珍しいことしてんな。どーせ頑張ってるところを名雪ちゃんに褒めてもらいたいんだろ?」
「そっ、そんなんじゃねーよ!!」
「二人は知り合いなんですか?」
朋也と古河さんの会話から察するに、顔見知りだと思い訊ねる。
「ああ。同じ町内会だしな。コイツが俺の愛娘の一個下なこともあって、昔からの腐れ縁だよ」
ということは、古河さんのパン屋も、割かし近所か。
「ふ~~。こんなものか」
正午に差しかかろうとする頃、あと一箱というところまで進んだ。もう終わりも近い。
「みんな、今日は手伝ってくれてどうもありがとう」
作業は終わったも同然なんで、俺はみんなに労いの言葉をかける。
「小僧、このダンボール箱に入っているのはいいのか?」
当然の如く、残りの一箱に古河さんがツッコむ。
「ええ。それは俺の宝物が入ってるんで。できるなら自分で並べたいんで」
「宝物ねぇ……。エロ本とエロフィギュアの間違いじゃねえか?」
「そんなもん、入ってないですよ!」
俺はからかう古河さんに必死で否定した。いや確かに、コミケで購入した薄い本は数十冊単位で持っているが。流石に人に見られたくはないので、既にベッドの下に格納済みだ。
「成程。ホモビが見当たらないと思ったら、そんなところに。きっと淫夢くん先輩のことですから、オークション男とか、Babylon Stageシリーズとか、VG-menシリーズとか、メジャーどころは一通り揃えているんですね」
「だから俺は腐ってねー!!」
つーか、それはもう腐じゃなくて、ガチのアレだぞ!?
「ま、何にせよ。否定されれば否定されるほど見たくなるのがにんげんのサガってモンよ」
「あっ、ちょっと!」
静止する俺を振り切り、古河さんがダンボール箱に手をかけた。
「なっ、なんじゃこりゃーー!!」
開けた瞬間、古河さんは大声で叫ぶ。
「その叫びよう。やはりホモビ……」
驚く古河さんに反応し、美汐が段ボール箱に近付こうとする。
「来るなっ! これはJKが見るのは早過ぎる! 見た瞬間妊娠しちまうぞ!!」
「ああ、妊娠モノBLですね。
「祐一、お前。そっち系だったのか……?」
古河さんと美汐の会話を真に受け、朋也が青ざめた顔で冷たい視線を送る。
「違うって!」
俺は軽蔑の眼差しで見つめる朋也に、必死で否定した。って言うか、見ただけで妊娠するってどういうモノだっ!?
「なんだろ?」
そんなやり取りに興味を覚えた鈴香ちゃんまでもが近付く。
「何……? 赤い……?」
箱の中身を見た瞬間、鈴香ちゃんはキョトンとする。
「ふっ、お嬢ちゃんには分からねぇだろうな。いいか、これはシャア専用と言ってだな……」
その後、数分間古河さんによるシャア談義が続いた。箱の中はなんてことはない、健全なる男子諸君ならば誰もが必ずしも持っているであろう、ガンプラだ。ただ俺のは普通のと違って全部赤く塗られているだけだ。
名付けてシャア専用補完計画! 全てのガンプラを赤く塗ろうという壮大な計画だ。今はまだジオン系のメカにしか手を付けていないが、いずれは連邦やUC以外のガンプラも赤く染めたいと思っている。
「全部シャア専用色か。北兄ぃの『オールガンダムハイパーモード発動化計画』に勝るとも劣らないな」
どうやら潤も俺に似た構想を抱いているらしい。全部金色とは、流石はキングオブハートと言ったところか。しかし古河さん、俺が説明するまでなくシャア専用だと理解したところを見ると、筋金入りのガノタだな。
「赤、女の子の色だと思ってた」
確かに鈴香ちゃんの言うように、赤は女の子のイメージが強い。例えば、女性の小学生のランドセルやトイレの標識は赤だ。それらの一般的な事例から連想すれば、赤は女の子の色だと思うことだろう。
しかしである。よくよく考えてみて欲しい。例えば健全なる男子諸君ならば幼少の頃確実にハマる戦隊物のリーダーは、例外はあれど大概は赤色の戦闘服を着ている。
また、シャア専用は言わずもがな、仮面ライダーのマフラーだって赤いし、ウルトラマンの身体も赤を基調としている。
このように、赤色というのは女の子の色に思われがちだが、実は男の子の色であることも分かる。それぞれの性別においてニュアンスや印象は異なるものの、男女双方に似合う色に違いはないだろう。
「ん、こいつは……」
まじまじと箱の中を観賞していた朋也が異質な物を見つけたのか、声をあげた。
「おい、祐一。このザクⅢとキュベレイが赤く塗られてねーぞ」
「何ぃ、こんだけ赤く塗られているのにザクⅢとキュベレイが赤く塗られてねぇだ!? ひょっとして小僧、マシュマー様ラブラブのハマーン様原理主義者でプルツー嫌いか?」
「ハマーン様もマシュマーも好きなキャラですけど、偏愛している訳じゃないし、プルツーは普通に萌えていますよ」
二人が疑問に思うのも無理はない。ザクⅢは地球連邦軍の開発したハイザックとは違い、正当なザクの後継機だ。ジオンのMS全てを赤く塗ろうなんて考えたら、ファーストのMSの次くらいに赤く塗っても不思議ではない。
そしてキュベレイはシャア専用ではなく、プルツー専用機として公式で赤色のバージョンがある。公式で赤色があるのに赤く塗らないなんて、ガノタから奇異な目で見られても仕方がない。
「ダメなんだ。白い物を赤く染めるのは……」
俺はそう細々と呟いた。自分でも言ったように、この二つは真っ先に赤く塗っても不思議ではないプラモだし、実際に赤く塗ろうとした。
けど、ダメだった。少し塗っただけで突然気分が悪くなり、それ以上作業が続けられなくなった。何度か試みたが、結果はいつも同じだった。自分でもよく分からないが、どうも生理的に白いものを赤く染めるのは駄目らしい。
「でも、プラモはまだいい方なんだ。イチゴサンデーやイチゴのかき氷に比べれば……」
赤色のイチゴシロップを、アイスや氷にかける。白く冷たい塊を赤く染める行為、それを実行しようとすると単に気分が悪くなるを通り越して頭痛や嘔吐感に苛まれる。
もっとも、昔は普通に食べられた。駄目になったのは、思い出が止まった7年前のあの冬からだ。この街に来なくなったのと白い物を赤く染める行為を生理的に受け付けなくなったのは同時期だ。二つの事例に関連があるのは間違いない。けど、関連があるのまでは分かっているのに、何故そうなったのかは相変わらず思い出せない。
「……。心の傷はまだ癒えちゃいない、か……。やっぱテメェはまだ坊やだよ」
えっ……!? 知っているんですか、古河さん、あなたは……。俺の封じられた心の記憶の枷を……。
「まっ、塗る気がないってんなら俺が貰っておくぜ」
「えっ、ちょっと、古河さん」
俺は古河さんの口から俺の記憶に関する言葉が出ることを期待した。でも、実際に古河さんの口から出た言葉は、ガンプラを貰っていくという、到底了承できない言葉だった。
「あん? まさか小僧、この俺様をタダ働きさせようって言うんじゃねぇだろうな。こっちはわざわざ忙しい仕事の合間を練ってだな……」
「お父さん、ウソはいけません」
そんな時だ。突然見知らぬ少女が部屋に姿を現した。
「君は……?」
俺は見知らぬ少女に声をかけた。
「秋子さんのご許可をいただきましたので、二階まで上がって来ちゃいました。あなたが祐一さんですね。初めまして。わたしは古河
「お父さん、『クソかったりなぁ~~』なんて言いながら店番してたんですよ。そこに秋子さんからお電話が来まして、『ヨッシャ、いいヒマつぶしになるぜ』って喜びながら駆け付けたんですよ。えへへ」
笑顔で父親の行動の詳細を語る渚ちゃん。まあ、確かに作業中の古河さんは嫌な顔一つしていなかったけど。
「それで渚ちゃんはお父さんに店番させるために、迎えにでも来たのか?」
「いえ、お店の方は代わりにお母さんが店番をしているから大丈夫です。わたしはお父さんに頼まれていたのを届けに来ただけです」
「届けに来た?」
「はい、パンです」
そう言い終えるや否や、早速持ってきたパンをみんなに配る渚ちゃん。なんて言うか、見た目は中学生くらいなのに、物腰はあゆなんかより落ち着いている雰囲気がある。
「ひょっとしてこれ
パンを手に取るや否や、朋也が顔面蒼白になる。会話の流れからして、古河さんの奥さんだろうか。
「心配するな坊主、これは正真正銘俺が焼いたパンだ。作業が終わるのは昼頃だと踏んでいてな。頃合いを見て渚に届けるように言っていたんだよ」
成程、手伝った者に対する労いというわけか。でもそれは、本来ならば俺がやるべきことなのだ。この人は自分が手伝いを頼んだわけじゃないのに、娘に労いのパンをわざわざ持ってこさせたのだ。
渚ちゃんの言葉も踏まえるならば、ひょっとして古河さんは物凄くお人よしな人なのかもしれない。俺を子供扱いするのは気に入らないけど。
「でも、元々持って来る予定だったなら、予め持って来れば良かったんじゃないです?」
「分かっちゃいねぇな、小僧。いいか? 俺が前もって気遣ったらみんなお前のためじゃなく、パンのために働いてしまうだろうが。せっかくテメェのために善意で集まって来たヤツラが利益のために働いちゃ、いい気分しねぇだろうが」
「言われてみれば確かに……」
今、ここに集まったみんなは見返り程度で心を動かす人間じゃないというのは分かってる。それでも、予めパンを持って来ていたなら、少なからず場の雰囲気は異なっていたかもしれない。
同じパンを労うという行為でも、予め労うのと後から労うのとでは印象が大きく異なる。古河さんはその辺りの気配りがしっかり出来ている大人だと思った。外見上はどうにもガサツな人間にしか見えないのだが。
「それにな。俺みたいなオッサンにパン渡されるよりも、お持ち帰りしたくなるほどかわいい美少女に渡された方が、テメェも気分がいいだろ?」
「それは確かに」
「ケッ! こんな面倒見良過ぎる奴のどこが美少女なんだか」
文句を言いながらも、黙々と食する朋也。
「相変わらず朋也くんは口が悪いですね。わたしは慣れているからいいですけど、他の女の子には言っちゃ、めっ! ですよ?」
などと、朋也をあやすように頭を撫でる渚ちゃん。
「だからぁ! それが!!」
顔を真っ赤にして怒鳴り付ける朋也。口では否定しているが、反応を見る限り悪い気分ではないようだ。
「ダッハッハ! 相変わらず素直じゃねぇな。『古河渚は私の母になる女性だ!』って思ってるクセに」
「だぁかぁらぁっ! 思ってねーっつの!!」
何だろう? 三人のやり取りを見ていると、昔から仲の良い家族のように思えてくる。古河さんは冗談交じりに言ってるけど、朋也と渚ちゃんが夫婦になるってのは違和感がないって言うか、物凄く自然に思えてしまうな。
「よお祐一、買って来たぜ」
パンを食べ終わった頃、潤がアニメージュを買って来たと携帯に連絡を寄こす。
「サンキュー、潤」
俺は二階に上がらせて潤が差し出したアニメージュを手に取ろうとする。
「よっと!」
しかし、俺が手に取ろうとした瞬間、潤は一度差し出したアニメージュを引っ込めたのだった。
「なんだよー。もったいぶらずに早く渡せよ」
「ただでは ゆずれんぞ!
「てめえ ゆるさん! 戦う」
「そうだ! 勝負だ祐一!!」
俺と潤がいがみ合っていると、思い出したように朋也が割り込む。
「なんだ、先約があったのか?」
「ああ。朋也の奴とBB2でバトルやる約束してたんだよ」
「そいつは面白れぇ! だったら優勝商品は、オレが買って来たアニメージュってのはどうだ? お前が勝った場合は大人しくやる。その代わりもしオレが勝ったら、アニメージュの代金をお前に払ってもらうぜ」
「お前もやるのか? BB2は二人対戦だぞ?」
「C0で拡張すりゃ、四人まで戦えんだろ?」
そういや、そんな拡張機器あったな。
「ヘッ! C4でバトロワか!! 北兄ぃもC0持ってたよな?」
「応! 待ってな! 今機器とバーコード持ってくっから!!」
そんなこんなで、潤は一旦部屋を出る。
「そんな感じに俺たちはバーコドバトルするんで、他の人たちは帰っていいですよ」
「懐かしなー。買い物行った先のガキ共がバーコドまじまじと見てたから、なんだと思って興味持ったら俺自身ハマっちまってよ。余ったパンまとめて袋売りする時わざわざチートコード作って、ガキ共に売ってたもんだぜ!!」
この人は、そんな闇商人紛いのことやってたのか!?
「うし! 俺が四人目になってやる! 一旦帰ってカード持って来るから待っていやがれ!!」
流れに乗り、いつの間にか古河さんまで参加することになってしまった。
「つーワケで、帰るぞ渚」
「いいえ。わたしは残ってます」
意外なことに、渚ちゃんは帰ろうとしない。
「お父さん、熱中して家に帰らなそうだから。勝負が終わるのを見届けて、区切りのいいところで帰りましょう」
どうやら父親の監視を行うのが目的のようだ。
「はいはい。わーったよ」
古河さんは頭をボリボリとかきながら、しょうがねぇなという顔で一旦戻る。
「二人はもう帰って……」
「いえ。男四人の血沸き肉躍る闘いという養分を取らずに退散するなど、そんな酷なことはないでしょう」
今にでも鼻血を出しそうな真顔で宣言する美汐。鈴香ちゃんも一人じゃ帰らなさそうだし、結局メンバーは変わらずだった。
「始める前に確認しておくぜ。ルールは公式ルールに準拠したものでいいよな?」
潤と古河さんが戻り、俺からルールを提示する。
バーコードバトルの公式大会で使われるルール。簡単に説明すれば、使えるアイテムは1つのみで、合体は禁止。薬草等における回復の禁止。魔法は1回のみ使用可能で、回復魔法は禁止というものだ。
ルールで色々縛るより制限なしでやったほうが戦略性も増すだろうしバトルも熱くなるだろうが、敢えて縛ったほうが面白みが増すこともあり、回復できない公式ルールのほうが短期決戦で勝負が着く。
「よし! まずはオレだな。オレのバーコード名は『シャイニングゴッド』! 熱く燃えたぎる聖戦士だ!」
一番最初にバーコードを入力したのは潤だった。潤の入力したバーコードは、「HP34400、ST11900、DF1900」と、HPとDFを犠牲にしてまでSTに拘った、攻撃力に特化したバーコードだった。
C0から追加の聖戦士。ノーマル前提で俺は用意し切れなかったから、ここで優位性つけようって訳か。
「俺のバーコードは『奥様は魔法少女』。名前から分かるように、魔法使いよ!」
続けて入力した古河さんのバーコードは、「HP49200、ST6700、DF9900」と、潤とは対照的にSTを犠牲にしてHPとDFの数値に拘ったバーコードだった。
しかし何より気になるのは……。
「それ、奥さんの写真ですか?」
カードに貼られていたのは、カードキャプターのコスプレをした、若い見た目の女性の写真。立場上赤の他人の写真を貼るわけはないのだが、しかしこれは。
「若い頃は劇団に所属しててな。伝手を頼って衣装を借りたのよ!」
「いや、衣装を借りたのはいいけど、成人女性に小学生の……」
「ウッセーな! 早苗はカワイイ衣装が一番似合うんだよ!!」
まあ、映ってる当人も満更ではなさそうだからツッコまないけど。
「次は俺だな! 『アナル=ジャスティス』! 性の力を秘めた偉大なる戦士だ!」
俺のバーコードは、「HP44200、ST11700、DF9900」と、恐らくもっとも理想とされるバランスの取れたステータスを持つバーコードだ。
「アナルファックちんぽこハメ太郎先輩。すごくセクハラな名前です」
「何だと! 偉大なる
上連雀三平先生とは、バトラーにとってはバイブルとも言える漫画、『バーコードファイター』の作者である小野敏洋大先生の別名だ。基本的に小野先生は作品のジャンル別に名前を使い分けていて、基本的には、「コロコロ」などの一般紙に連載する時は「小野」名義で、エロ漫画を描く時は「上連雀」名義だ。
「ったく、中学生がいる前でそんなエロエロな名前のカードなんか作るなよな」
「カード名だけでエロエロだと分かるお前も、十分エロエロ人間だけどな」
「今のうち吠えてろ! 俺のバーコード『ネーム=スノー』で、、テメェの心を凍り付かせてやるぜ!」
朋也のバーコードは、「HP33800、ST10300、DF5400」の僧侶だ。能力は可もなく不可もなくという感じだが、何より気になるのは……
「ネーム=スノーってそれ、まんまなゆ……」
「さあ! バーコドバトル! レディーゴーだ!!」
まんま名雪の英訳だろうとツッコもうとしたら、朋也が顔を赤くしながら開始を宣言する。名雪が「ただのお姉ちゃん」の存在なら、わざわざカードの名前なんかにしたりしないだろう。まったく、分かりやすい奴め。
ともかく、これで四人全員がバーコードを入力し終えた。ここに、今月号の『アニメージュ』を賭けた熱きバトルが始まる!
「先攻は俺だな! 食らえ、祐一!」
先攻の朋也は宣言通りに、まず俺に攻撃を仕掛ける。朋也の攻撃により、俺のHPは3万台まで減った。
「やったな、この!」
2番手の俺は仕返しとばかりに朋也を攻撃した。俺の攻撃により朋也のHPは2万台まで減った。
「クッソ~~、やったな祐一~~!」
「先に仕掛けたのはお前だろうが。やられたらやり返して何が悪い」
「さてと、次は俺だが……」
3番手の古河さんは一番HPの低い朋也を攻撃する。
「クソオヤジ、テメェ!」
「勝負の世界に情けは無用! これで終わりだ! ヒート・エンド!!」
4番手の潤はHPが残り5千を切った朋也にトドメを刺しにきたのだった。これにより、朋也はあっけなく退場を余儀なくされたのだった。
「チックショー! 寄ってたかって俺を攻撃しやがって!!」
負けた途端、朋也は不満が溢れた顔で負け惜しみを言い始めた。
「そう言われてもなー。弱い奴を始めに叩くのは勝負の世界じゃセオリーだぜ?」
「俺はまだ中学生なんだぜ! 年下をイジめてそんなに楽しいのかっ!?」
「お前がもう少し口の利き方に気を付けたなら多少は手加減してやっても良かったんだけどな。年上を呼び捨てにする奴に手加減する腕はないね」
「いやー! クソガキを徹底的にいたぶって尊厳破壊するの、サイコーだねー」
年が近い俺や潤はともかく、古河さんは大変大人気ない。
「おい ジュン! くそナマイキチューボーやろうと じゅんじょうちゅうがくせいと どっちがすきだ?」
「きくまでも なかろうよ!」
からかいついでに潤に話題を振ってみたが、どうやら潤も俺と同じ考えのようだ。
ちなみに、くそナマイキ中坊野郎は朋也のことで、純情中学生とは渚ちゃんのことだ。二人を比べてどちらが好感が持てると訊ねられたら、渚ちゃんの方が好感が持てると応えるのが通常の人間の思考だろう。
朋也もそれくらい可愛げがあれば、もうちょっといい扱いだっただろうに。
「クッソー! 今のナシだ! もう一回だもう一回!!」
あまりに悔しかったのか、朋也は再戦を訴える。
「めっ! 真剣勝負にやり直しはナシですよ」
しかしそんな時、渚ちゃんが割って入り、朋也を制止する。
「ウッセー! 誰が何と言おうと……!!」
「だんご♪ だんご♪ だんご♪ だんご♪ だんご大家族♪」
すると突然渚ちゃんは、笑顔で歌い出す。
「くっそぉ……。その歌は……力が……」
見る見るうちに顔から剣幕が消え、脱力する朋也。恐らくだが朋也に取り、この歌は子守唄のようなものなのだろう。
「食らえ祐一! F02デカンツだ!!」
朋也が退場した次のターン、攻撃の番が回って来た潤は俺を攻撃する。
F02デカンツ。BB2ダブルで15種に増えた魔法の一つで、使用した場合相手に大ダメージを与えることができる魔法だ。時には思ったほどダメージが与えられないこともあるが、今回は5千程度まで減らされた。
「クッ、やるな潤! 倍返しだぁっ!!」
次のターン。やられたらやり返すの精神で、潤を攻撃。HPを2万台まで減らせた。
「悪く思うなよ小僧!」
HPの弱い奴から攻撃するのがセオリー。通常なら古河さんは俺を攻撃するはずだが
「なにいっ!?」
予想外に潤を攻撃したのだった。
「今んとこ無傷な俺が生存率が一番高い。となれば、他のHPを平均的に減らしておいた方が後々有利だからな」
まずは人数を三人に絞り。続けて二人を一撃で倒せる状態にしておく。なかなか合理的な戦略だ。
(次はどうする? 古河さんのHPを減らすか?)
残りHP的に一撃を喰らえば俺は沈む。一分の望みに懸け、少しでも古河さんのHPを減らしておいた方がいいが。
「沈めー!」
会心が出れば一発逆転も可能と、俺は潤を攻撃する。
「持ってくれ! 持ってくれ! ぐわっ!?」
俺は賭けに勝ち、会心の一撃で潤を屠る。
「なかなかの判断だな小僧。さて、俺の価値は決まったも同然だが。STが低いから、トドメをさせない可能性もある。ここは……F13スカピー!」
「何っ、スカピーだと!?」
F13スカピー。それはBB2ダブルから新しく追加された魔法使い専用の術で、相手を眠らせることができる魔法だ。魔法は数ターン後には解除されるとはいえ、その間俺は木偶の棒となり攻撃を受け続けるしかない。
「ガッハッハ! 俺の勝ちだな小僧共!!」
結果は当然、古河さんの完勝だった。
「さて、戦利品は『アニメージュ』だってことだったが……これはお前にやるよ!」
古河さんは一旦アニメージュを受け取ると、すぐさま俺に手渡した。
「えっ?」
「北川の奴は優勝賞品だとは言ったが、『お前が勝った場合は大人しくやる』とも言った。本を懸けた勝負は、テメェ等二人だけの話って解釈もできんだろ?」
「あっ?」
「ガキの本奪うほど、俺は落ちぶれちゃいねぇよ。真剣勝負できただけで十分だ。帰るぞ、渚」
「はい。それでは皆さん、また今度」
そうして古河さんは渚ちゃんとの約束を守り、颯爽と帰る。
「未成年と真剣に闘う妻子持ちオッサンとの絡み。これは……新鮮ですね。なかなかいいモノを味わわせていただきました。私たちも帰りましょう」
「はい」
美汐は美汐で満足し、鈴香ちゃんを引き連れて部屋を後にする。
「んじゃ、約束通りアニメージュはお前のモンだ。じゃあな!」
「次はゼッテェー勝つからな祐一!」
続けざまに潤と朋也も帰り、部屋にはポツンと俺一人。
(みんな帰ったな。これからどうするかな?)
なかなか充実した時間を過ごせた。今日は冬休み最後だし、午後はまったり過ごすのもいいだろう。
(しかし、パンだけだとちょっと物足りないな)
そう思い、俺はもう一品くらい買おうと街へと繰り出した。
CLANNADメインヒロインの、渚登場回です。旧作と比べて、面倒見の母親っぽい性格になってますね。
リメイク版ヒロイン初登場回は「〇〇の少女」というタイトルにしているのですが、渚は“母性”を冠付けました。
ここら辺の性格変更は、将来母親になるというのもあるのですが、作中の立場をより明確にするためでもありますね。
旧作で二話に分けていたバーコドバトルをまとめた形ですが、前後のエピソードを削ったわけではありません。
時系列の変更に伴い、次回に掲載ですね。
それと、そういやこの作品ってちゃんとした時間軸設定していたことを思い出したので、今回から前書きに掲載します。
話数は十話超えているのですが、時間的には5日しか経っていないですね。なんだかんだで、一日平均3話はありますので。