みちのくKanon―20thAnnIversary.veR― 作:衛地朱丸
旧作該当話:第壱拾参話「學舎に集いし妹達」、第壱拾四話「兄と妹」
作中時間軸:平成11年1月11日(月)
新規シーン:・やらないか
・勘のいいガキ
・L5を発症させるアレ
変更シーン:・演劇部がげんしけんに統合
削除シーン:・祐一が真琴の頼みでどら焼きを買いに行くエピソード
「う~~漫画漫画」
今、漫画を求めて全力疾走している俺は、光坂高校に通うごく一般的な男子生徒。強いて違うところをあげるとすれば、ヲタ文化に興味があるってとこかナ――。名前は木目沢ネ右一。
そんなわけで、げんしけんへの道程にある赤レンガにやって来たのだ。
「!?」
ふと見ると、ベンチに一人の若い少女が座っていた。
ウホッ! いい少女……
(ハッ)
そう思っていると、突然その少女は俺の見ている目の前で、ストールをスルスルと降ろしはじめたのだ……!
「やりますねぇ!」
「そこは『やらないか』じゃないのか?」
「そんなエロ同人展開に持って行こうとする人嫌いです」
「冗談だ」
「ですよねー!」
ベンチに座っていたのは栞だった。
「なんでこんな所に?」
「友人から祐一さんが同じ高校だとメールがあったので、チラチラ見に来たんですよ」
「友人ねぇ……。栞ちゃん。俺と君が出会ったのって、いつだっけ?」
「ええと……3日前ですね」
「友人と最初に俺のことネタにしてメールしたのは?」
「……3日前ですね」
「もひとつ質問いいかな? その友人、俺のこと、やたらと〇〇先輩と呼ぶ子じゃないか?」
「……貴方のような勘のいいニュータイプ先輩は嫌いです」
「やっぱりな♂」
最初会った時の美汐は普通の呼び方だったのに。再会後はネットミームな呼び方に変わっていた。思えば最初に俺をそう呼んだのは栞なんで、疑惑がなかったわけではない。
「栞ちゃん、光坂の生徒なら、何で私服姿なのかな?」
美汐は幽霊部員がもう一人いると言っていた。なんとなく察せられるが、一応訊いてみた。
「はい……。実は私が制服姿ではなく私服なのには重大な意味があるんです!」
「重大な意味?」
「祐一先輩、私服警官って知ってます? 私服姿で一般人の中に入り込み、犯罪の隙を窺う私服警官の存在を……」
「私服警官? ま、まさかっ……!?」
「そのまさかですっ! 私の正体は私服姿で一般生徒の規律の乱れを探る、影の風紀員なのですよ!!」
「な、なんだってーー!?」
信じられない……、まさか栞の正体が影の風紀員だったとは。しかし、これで全て合点がいく。栞は誰かを待っていたのではなく、私服姿で赤レンガから校舎内の生徒を監視していたのだ!
「冗談ですよ」
「ですよねー!」
ノリでMMRネタだと瞬時に理解したので、会話を合わせただけだ。
「けど、影の風紀員じゃないとしたら、何で私服なのかな?」
「はい。実は病気で、長い間学校を休んでいるんです。制服だとかえって目立つので、姉妹を迎えに来たという体で私服なんです」
「病気で長期欠席ねぇ。ひょっとして、体内のプリオンが暴走しちゃって狂牛病と同様の症状を患っているだとか、スーパーバグに感染しちゃったなんてことはないよね?」
「いえ。コロナウイルスに罹患してしまって」
「ただの風邪じゃないのか?」
俗に言う風邪を引き起こすウイルスの一つが、コロナだったはず。
「ご明察です。ちょっと風邪をこじらせちゃって長期間休んでいるんですよ」
機動戦艦ナデシコの漫画版世界だと、特効薬のない風邪が一番の難病だなんて設定があったけど、現在の世の中で風邪が難病だという話は聞いたことない。
恐らく他に理由があるのだろうけど、本人が頑なに拒むことを追求するのも気が引けるので、それ以上は詮索しないことにした。
「俺もこれから行こうと思ってたんだけど、一緒に行く?」
「いえ。長居をしていると見つかってしまうので、これで失礼します」
そう言い、栞は丁寧にお辞儀をして立ち上がる。確かに担任の先生とかに見つかってしまうと厄介だろうからな。
「じゃあな、栞ちゃん。機会があったらまた話そう」
「はい。またです、祐一先輩」
(そう言えば文化部長屋にあるって話だったな)
今後のために場所くらいは確かめておこうと、文化部長屋に入って第二美術室を探す。
「ここが第二美術室か」
すると、一番手前の部屋に「第二美術室」というプレートがかかっているのが確認できた。
「失礼しま~す」
ついでだから中も確かめてみようと思い、俺は一言断って部屋に入る。
「えっ!?」
誰もいないと思っていた第二美術室。しかしそこには、せっせと何かの作業に勤しむ少女の姿があった。
一体何を作っているのだろうかと、少女の手元をよく見る。少女は彫刻刀を使って何やら星形の木細工を彫っているようだった。題材は自分と同じようだから、俺と同じく個人的に伊吹先生の指導を受けている生徒だろうか。
しかし、その少女は制服姿ではなく、私服だった。それに背格好も高校生にしては小柄だ。
(ま、栞の例もあるし、諸事情で学校に来られない生徒がこっそり指導を受けているのかもしれないな)
第一学校に関係のない者が第二美術室で作業に取り込んでいるほうが不自然だし、栞みたいな立場の生徒と考える方がまだ自然だ。
「やあ、君も伊吹先生の指導を受けている生徒かい?」
「っ!?」
少女は俺の声に反応すると、まるで何者かに脅えるが如く、部屋の端っこに逃げ出した。
「おい、どうしたんだよ?」
「……っ!?」
少女に近付こうとしたら、今度は対角線上の部屋の端っこに逃げ出した。
「おいたっら……」
その後幾度となく少女に近付こうとするが、その度に少女は部屋の隅っこ、隅っこへと逃げ出していく。さながらメタルスライムを追っている勇者様一行の気分だ。
「なあ、どうしてそんなに逃げるんだ?」
このままでは埒が開かないので、俺は仕方なく離れた場所から少女に声をかけることにした。
「……どうして、どうして
「えっ!?」
開口一番風子と自ら名乗る少女は、意味不明な問い掛けをしてくる。
「いや、俺はただ伊吹せ……」
「……っ!?」。
伊吹先生の名を出そうとした瞬間、少女は再び逃げ出した。
「ま、また風子の苗字を言いましたね……? ひょっとして風子がどこの家の子か丹念に調べ上げて、風子が一人になっているところを襲おうとした誘拐犯ですか……」
「……」
何で見ず知らずの少女に誘拐犯扱いされなければならないんだ。俺は少女のあまりな言動の奇妙さに、言葉を失ってしまう。
「ふぅちゃん、調子はどうかしら?」
そんな時、伊吹先生が第二美術室に姿を現した。
「伊吹先生、いい所に……」
「おねぇちゃん……!!」
伊吹先生が現れると、風子はお姉ちゃんと言いながら伊吹先生の元へとはぐれメタルの如く駆けて行った。
「あら、祐一君。今日から指導を受けるのね?」
「おねぇちゃん! いきなりヘンな人が部屋の中に入ってきましたっ」
震えながらもビシッと俺を指差す少女。
「誰がヘンな人だ、誰が」
いやまあ、ヲタクであることは認めるけど、さすがに変人呼ばわりされていい気分はしない。
「大丈夫よ、ふぅちゃん。この人はおねぇちゃんの恩師の甥で、相沢祐一君って言うのよ。おねぇちゃんの知り合いの人だから大丈夫よ」
「そうでしたか。おねぇちゃんの知り合いなら風子も安心できそうです」
俺の素性が分かって、ようやく風子は伊吹先生の後ろから姿を現した。
「ごめんなさい、祐一君。ふぅちゃん人見知りで……」
「いえ、別に構わないですよ。いきなり声をかけた俺も悪いですし」
恐らく風子は伊吹という苗字を出されて、てっきり見ず知らずの人に自分が呼ばれたのだと勘違いしたのだろう。人見知りの性格を考えれば、それで俺を必要以上に警戒したのも頷ける。
「見たところ妹さんみたいですけど、どうしてここにいるんです?」
「ええ。この子まだ冬休み中で。家で一人にさせておくのも心配だから、第二美術室で遊ばせているのよ」
「そういうことでしたか」
見た感じ小学生高学年くらいで過保護な気もするけど。
「祐一君、申し訳ないんだけど、ふぅちゃんと一緒に教える形になるけど、構わないかしら?」
「ええ、俺は別に構いませんよ。ただ、風子ちゃんがいいかどうかですけど」
伊吹先生の妹がいるなら、一緒に教わるのを断るわけにもいかない。問題は人見知りな風子が俺と一緒にいるのを受け入れるかどうかだ。
「……。おねぇちゃんの知りあいならたぶん大丈夫です」
まだ完全に警戒が解けたわけではないようだけど、一応は受け入れてくれるようだ。げんしけんで漫画を読むつもりだったけど、せっかくだからこのまま受けることにしよう。
「おうっ、こんな所にいたのか相沢!」
作業を始めてから30分ほど経った時、第二美術室にズカズカと團長が入り込んで来た。
「どうかしたんですか、團長?」
「ああ、実はお前に見せたいものがあってな……」
「!?」
團長が俺に話しかけている最中、何者が椅子を蹴散らして逃げ出す聞こえた。
「……」
何者かが逃げ出した方向に目をやる。逃げ出した部屋の隅には、何かに脅えるように身震いする風子の姿があった。
「……今の娘、なんだ……?」
「私の妹で、風子って言うのよ、和人君」
俺に訊ねた團長に対し、伊吹先生が答えてくれた。
「なっ、伊吹先生の妹だってっ……!?」
風子の正体が分かった瞬間、團長の風子を見る目が変わった気がする。
「ゴクリ……」
生唾を飲み込む音が聞こえたと思ったら、團長は静かに風子の方へ歩き出した。
「っ!?」
團長が接近する危険を本能で察してか、風子は対角線上の部屋の隅に逃げ出した。
「お~~い? どうしてそんなに逃げるんだ~~い?」
「こ、怖い人、風子に近付くなですっ……」
どうやら風子は團長の外見を怖がり逃げ回っているようだ。
「お~~い、待てよ~~風子ちゃ~~ん♪ 待てったら~~♪」
しかし、何より気になるのは團長の言動だ。風子が伊吹先生の妹であることが判明してからの團長の様子が明らかにおかしい。
「!?」
その時俺は理解した。何故團長の態度が変わったか。そして同時に戦慄を覚えた。
「何ていう人だ……。げ、現実の妹に“萌えている”っ……!?」
そう、團長は間違いなく風子に萌えている。團長が風子を追いかける様は、我らヲタクがキャラクターに萌えている時とまったく寸分も違わぬ状態だ!
別に何かしらのキャラクターに萌えるのは不思議ではない。しかし問題なのは、團長が“現実の少女”に萌えていることだ。基本的に我々ヲタクは二次元のキャラクターに萌えているのであって、三次元の人間に萌えるということはない。いや、三次元人如きに萌えを感じるのは、ヲタクとして背徳行為に等しいっ……!! 三次元人に萌えるヲタなど、クズだっ……ヲタクのクズッ……!!
「ふぅちゃん。和人君は應援團の團長さんで、立派な人よ。だから、そんなに怖がらなくても大丈夫よ」
團長と風子のイタチごっこをこれ以上続けさせないようにと、伊吹先生が風子に話しかけた。
「おねぇちゃんの後輩ならだいじょうぶ……なわけないですっ! やっぱり怖いものは怖いですっ!!」
しかし、やはり本能的に察した危険を拭い去ることはできず、風子は更に逃げ続ける。
「團長~~、俺になんか用があったんじゃなかったんですか~~!」
このままでは双方どちらかが疲れ切るまで終わらない千日戦争(ワンサウザンドウォーズ)に突入すると思ったので、俺は團長に声をかけて呼び止めようとした。
「!! そうだった! こんな所で他の妹を追いかけ回している場合じゃなかった! 相沢、とにかく俺について来い!!」
そんなこんなで俺は何かを見せたがっている團長に引っ張られる形で第二美術室を後にした。
團長に連れられ向かったげんしけんには、既に一同が集結していた。
「で、何スか、オレたちに見せたいものって?」
「んっふっふ……てめえらがいくら俺がアピールしても、制服姿の有紀寧の可愛さを分かってくれねぇからなぁ……」
潤の質問に、團長が気味の悪い笑顔で答えた。いや、百歩譲って有紀寧ちゃんが可愛いとしても、あんな風に写真を見せびらかそうとしてまで自慢されては、誰も引くだけだと思うんだけど。
「仕方なく、有紀寧を呼び寄せたんだよ。お~~い、入って来~~い! 有紀寧~~」
「はぁい、お兄ちゃん」
團長に呼ばれて、可愛い声で有紀寧ちゃんがげんしけんに入って来た。佐祐理さんを少し幼くした感じの顔立ちに、初々しさが残る身体に着せられた大き目の中学校の制服。確かに制服姿の有紀寧ちゃんは可愛かった。
「なっ、なっ? 可愛いだろ? 抱きしめて頬ずりしたいくらい可愛いだろ? てめらには触らせてやんねぇけどな! 有紀寧を抱きしめていいのは俺だけなんだぜ! ほ~ら、ゆきねぇ、すりすりすり……」
「きゃ、くすぐったいです、お兄ちゃん」
公衆の面前であるにも関わらず、團長は言葉通り有紀寧ちゃんを抱きしめて頬ずりをした。対する有紀寧ちゃんも嫌がる様子はなく、くすぐったそうにしながらも終始笑顔だった。
兄は兄で妹を慕い、妹は妹で兄を慕う。何と理想的に仲睦まじい兄妹関係だ!
しかしである! それを見せ付けられる第三者にとっては鬱陶しいことこの上ない。現に、俺を含めた皆が白々しい顔で二人を眺めている。
「ん? なんだてめえら、これでもまだ有紀寧の可愛さが分からないってのか? そうかいそうかい……」
いや、単に團長の行き過ぎた愛情表現に白けているだけだと思うけど。
「分かったよ。制服くらいじゃ可愛さが分からねぇなんて、贅沢な奴らだぜ……。仕方ねぇ、こうなったら奥の手だ!」
そう言い残し、團長は有紀寧ちゃんを連れてげんしけんを後にした。
「……ったく、團長の実妹萌えにも困ったもんだぜ……」
團長がげんしけんから完全に立ち去ったタイミングを見計らって、潤が小声で本音を漏らした。
「ははっ、確かに。けど潤、團長はどこに向かったんだ?」
「演劇部の部室ですよ、後輩誘惑してパコろうとした先輩」
関係をまったく隠す気ないな、美汐。
「演劇部か。勝手に入っていいものなのか?」
「今は廃部になっていますので。このままだと小道具類も廃棄になり兼ねないので、演劇も視覚文化だと名目上げんしけんに統合して、管理しているんですよ」
「成程なぁ」
何年か後演劇をやりたい子が入部した時のことを考えているのか。
「それに演劇部なら、コスプレ衣装も合法的に校内に持ち込めるじゃないですか。木を隠すなら森の中ですよ」
それが本音か。
「遅いなぁ、團長」
團長が演劇部に向かってから30分は経つ。みんな漫画読んだりゲームやっていたりとそれぞれ時間を潰しているので、特に待ち飽きている様子はない。
「様子見に行くか、斉藤?」
「そうだな」
待ち兼ねた潤は斉藤を引き連れて演劇部室へと向かった。俺もついでに二人の後に続く。
「團長……? 何やってんだよ團長ー!?」
演劇部室に入り團長に声を掛けようと思った潤が慟哭する。なんと團長は、仕切りに隔てられた部室の一点をこの上なく満面の笑顔で見続けていたのだ。その身体全体から溢れ出す禍々しいオーラに、誰もが言葉を失ったのだった。
「お、お兄ちゃん……どう?」
團長が見つめていた仕切りの先から、純白のドレスに身を包んだ有紀寧ちゃんが姿を現した。
「イイねぇ! 気にいっちゃったよオレ!!」
團長はやたらハイテンションな声で妹を褒め称える。
「お兄ちゃんに褒められて、わたしも嬉しい……」
「よーーし、有紀寧、次はこの真紅のドレスだ。きっと、西洋ドールみたいな可愛さに仕上がるぞ!」
「はーーい、お兄ちゃん」
有紀寧ちゃんは團長から真紅のドレスを受け取り、また仕切りの奥で着替え始めたようだ。
「次はこの漆黒のドレスで、次はこれ……。んっふっふ、幸せだなぁ有紀寧のドレス姿が見れて。カメラ持って来りゃ良かったな~~」
「……こりゃ、時間かかりそうだな」
「だな……」
恐らく團長は演劇部にあるすべてのドレスの試着を終えるまでげんしけんに姿を現さないだろう。潤たちは呆れた顔でげんしけんに戻って行った。俺も二人には同感で、一旦げんしけんに戻ってから再び第二美術室での作業を始めることにした。
その後、18時を回っても團長は姿を現さなかったようで、みんな團長を待たずに各々帰り出した。俺も名雪の部活が終わる時間に合わせ、迎えに来た秋子さんの車で帰って行った。
「祐一~~。貸したノート返して」
夜の9時を回った頃、名雪から借りたノートを返すように催促された。
「分かった。ちょっと待ってな」
部屋に入り、俺は鞄の中を捜索する。けど、名雪に借りたはずのノートは見つからなかった。
「すまん、どうやら学校に置き忘れてきたようだ」
「う~~、困るよ~~。明日テストなんだよ~~」
無論、俺も明日テストなのは承知で、テストの出題範囲や傾向を確かめるためにノートを借りたのだが。
「仕方ない、今から学校に取りに行くか」
「学校? やめておいた方がいいよ」
すると、名雪が神妙な顔で呟く。
「何か問題でもあるのか?」
「うん。去年の十一月の頭くらいからかな? 夜中の校舎には不審者が出るから、19時までに帰宅しないと駄目になってるんだよ」
「不審者? どっかの暴走族が殴り込んでいるのか?」
「うーん。何か最近、ネットで怪しげな薬が出回っていて、光坂の生徒にも服用者がいるとかなんとか。そういうの、祐一の方が詳しそうだと思うけど」
「怪しげな薬か」
正直初耳だが興味が湧き、俺はパソコンで検索をかけてみた。
「うーん。単純に怪しい薬でも出て来ないな……」
何か他に条件を加えてみないと。
「『薬物中毒』、『高校生』……。んんっ?」
様々な語彙を検索して辿り着いたのは、匿名掲示板のオカルト板だった。
「合成麻薬『H173』……?」
興味本位にスレッドを覗いてみる。合成麻薬『H173』。それは、肉体のあらゆる能力を飛躍的に向上させる、神秘の薬。特徴的なのは、薬物検査に一切引っかからないことだ。
薬物中毒者には夢のような麻薬で、愛用者も増えている。ただ、中毒症状は半端なく、誇大妄想や自傷などを行うようになり、最後は喉を激しく掻きむしって死んでしまうとある。
(喉!?)
既知の症例だと思い、スレッドを追う。
「やっぱりか……」
俺の目論んだ通り、H173の正体は、あのカルト教団アークが地下鉄同時多発暴徒化事件で散布した細菌兵器。闇ルートに流れたのを薬として密売してるのではないかとの推察だった。
薬ではなく細菌ならば、薬物反応に出ないのも腑に落ちる。
もちろん、H173が名雪が言っていた怪しい薬だという確証はどこにもない。
けど……、
「……というわけだ、頼む潤! 学校まで乗せて行ってくれ」
俺は携帯で連絡した。これはあくまで名雪のノートを取りに行くため。決して怪しげな薬の真相を突き止めたいからではないって、心に言い聞かせながら……。
冒頭がいつものノリでクッソ汚くなってますが。この時代、ハガレンは連載前だし、2ちゃんねるすらないんですよね。
真琴のエピソードは、古河さんの店に行くためのだったのですが、改訂後は既に行ってるので、削っても問題ないかなと。
さて、名雪が行った「十一月の頭」の下りは、発端となった事件は既に作中で述べられていますね。その結果何が起きたのかも。
そしてそれの副次的事象として起きていることで、夜間の校内立ち入り禁止となっているわけです。
そんなこんなで、次回は満を持しての舞の登場回! 根幹の設定を大幅に変えていますので、お楽しみに。