みちのくKanon―20thAnnIversary.veR― 作:衛地朱丸
旧作該当話:第壱拾五話「雪の舞い降りる宵闇の學舎で……」
作中時間軸:平成11年1月11日(月)
新規シーン:・回想で舞が綿流し祭の奉納演舞を舞うシーン
変更シーン:・舞が魔物を討つ者から鬼を滅する者に
・祐一を襲撃するのが、怪現象からL5発症者に
削除シーン:・探し物をしているあゆとの会話
・真琴に買って来たどら焼きを渡すシーン
・バイクに乗っている時の潤との会話
・伊吹先生の能力者設定
「……今からか? やめた方がいいと思うが……」
携帯越しに聞こえる潤の声は消極的だった。
「怪しげな薬打った奴が徘徊してるって噂か?」
「!? 名雪から聞いたのか?」
潤は若干驚いた声色になりながらも、会話を続ける。
「ああ」
「知っていて、何で行く?」
「噂は噂だろう? そんな眉唾話より、テスト勉強の方が大事だ」
「はぁ。わーったよ。今日は元々オレが当番だったし、迎えに行くぜ」
最終的に潤は折れて承諾してくれた。
「サンキュー!」
「もうこんなに雪が……」
出掛ける支度を整え、潤が来るのを家の外で待ち続ける。
家の外はいつの間にか雪が降り始め、既に根雪の上に新雪が降り積もっていた。
「待たせたな、祐一」
エンジン音が止まり、潤がバイクから降りた。
「悪いな潤、こんな雪の中学校まで付き合ってもらって」
「今回だけだからな。吹雪いて来そうだから、早く行こうぜ」
「ああ」
俺は潤から渡されたヘルメットを被り、助手席に座る。間もなく、、豪快なエンジン音を立ててバイクは走り始めた。
「ところで、当番ってなんだ?」
潤の背中に掴まりながら訊ねる。
「見回りだよ。噂の奴に備えてな」
「應援團はそんなことまでするのか?」
「應援團は、文武両道に特に優れた者しかなることができない。言わば、学園の柱だからな」
「柱ねぇ」
単に応援するだけの存在かと思っていたけど、光坂において精神的象徴なんだろうな。
「着いたぜ」
潤の運転するバイクに乗り十数分。俺たちは光坂高校へと着いた。学校に着いた頃には、家を出る時より若干雪が激しくなった気がする。
「オレは1階の見回りしているから。ノートを取ったら、とっとと昇降口に戻ってろ」
「分かった」
口酸っぱく忠告する潤と別れ、俺は二年生の教室がある2階へと上る。
「それにしても、夜の校舎は何かが出そうな雰囲気だな」
学校といえばトイレの花子さんやら動く二宮金治像、笑うベートーヴェンの肖像画など、とにかく怪談のネタが尽きない。特に雪が舞い降りる今日みたいな日は、雪女がひょっと顔を出しそうな雰囲気だ。
「ま、実際出るわけないがな」
どうにもこうにも霊の存在を信じられない俺は、自らの下らない妄想を自嘲しながら教室へと向かって行った。
「ええと、俺の机はどこだっけ?」
いざ教室に着いたものの、転校初日で机の配置を覚え切っていない身としては、暗くなった教室は昼間とは別空間。自分の机がどこにあるかさえ分からない。電気を点ければ話しが早いのだが、潤と一緒に来たとはいえ、夜の校舎で電気を点けるのは気が引ける。
「目を暗闇に慣れさせるしかないな。集中、集中、全集中――」
目元に意識を集中させ、あたかも自分を闇と同化させるように呼吸を整える。
「よーし! 慣れて来た!!」
ようやく目が慣れて来て、机の配置が分かるほどになった。
「あったあった!」
無事にノートを回収し、ミッションコンプリート。後は昇降口に戻るだけだけど。
「2階は問題なさそうだし、3階に上がってみるか」
俺は敢えて潤との約束を破った。万が一見つかっても、見回りの手助けをしたいだけだと言い訳すればいいと、安易に考えながら。
(あれっ?)
何だろう? 3階に上った辺りから、妙に空気が重くなったような気がする。さながらドラゴンボールで言う、邪悪な気を感知したような。
「さっき意識を集中したことで、俺にも気を読む能力が備わったり……なんちゃってな!」
そんな自嘲をしつつ、3年生の教室の方へと向かう。
「ん?」
すると、ある教室から明かりが漏れ出ているのに気付いた。俺みたいに忘れ物をした人がいるのだろうか?
(なんだぁ? さっきより重く……)
直感的にヤバいと思った。けれど好奇心が恐怖心に勝り、俺は一歩を踏み出す。
「ハ……ハハ……冴える、冴えるぞ……! 頭が冴えるうううっ! 今まで解けなかった問題がスラスラと……。ハ……ハハハハ……東大主席合格も夢じゃないぞーー!! ハハハハハハーー!!」
(なんだコイツは!?)
教室の真ん中にいたのは、一人灯りの中で奇声を上げながら机に向かっている学生だった。受験が近く、放課後残ってまで勉強をしている……と言うのには、あまりに異質な光景だった。
(噂はマジだったのか!?)
本能的に理解した。目の前の奴は、H173の中毒者だ!?
「んん~~! なんだぁ? 虫が紛れ込んでいるぞ~~?」
その生徒は俺に気付き、顔を向けて来る。
「なっ!?」
俺は絶句した。その生徒は焦点の定まっていない目をしているだけではなく、喉に引っ掻いたような後があったのだ。
「邪魔邪魔邪魔~~! 俺の勉強の邪魔をするなー! お邪魔虫がァァァ!!」
その生徒は鉛筆を持ちながら俺の方に急接近する。
(早い!?)
明らかに常人ではない速度で、あっという間に距離を詰められる。
「ああ~~! 痒い痒い! 痒い痒い痒い痒いいいいい!! お邪魔虫のせいで、また喉が~~!!」
生徒は俺に馬乗りになりながら左手で喉を掻き、鉛筆を持った右手を俺の喉元に突き刺そうとする。
「お前を刺せば、俺の痒みが~~! グゲゲゲゲゲゲ!!」
(タガが外れてやがる!?)
相手はまるで狂戦士だ! 理性を代償に、常人離れした頭脳と肉体を手に入れたという。
「クケケケケケ! 死ね死ね死ねー!!」
「ぐっ……おおおー! やらせるかー!!」
ここで死ぬわけにはいかないと、俺は踏ん張って両手で押し返そうとする。
「うおっ!?」
「えっ!?」
瞬間、信じられないことが起こった。その生徒は教室の奥まで吹っ飛ばされたのだ。
「今の……俺が……?」
なんだこの力は? 火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか。
(いや! 今はそれよりも!!)
逃げるのが先決だと、急いで廊下へと出る。
「携帯で潤に連絡を!!」
俺は逃げ走りながらも、履歴からかけようとする。
「痛てぇじゃねーか! この野郎ーー!!」
しかし生徒は意識を取り戻し、俺を強襲しようとする。
(やられる!?)
もう駄目かと思った瞬間、俺は人の気配を感じた。
(えっ――!?)
気付けば自分の側には、雪明かりによって照らされたポニーテールの少女が刀を持って立っていた。
(誰だ?)
分からない。けど俺は、その少女に妙な懐かしさを抱いた。
「全集中・奉納演舞壱の型……」
少女は呼吸を整え、剣を構えながら生徒へと近付く。
「ガアアア!!」
「炎舞!!」
一瞬の出来事だった。まるで演舞を舞うが如く無駄のない洗練された動作で、少女は生徒を斬り付ける。
「アッ……」
生徒は意識を失い、その場へと倒れ込む。
「殺したのか?」
「うん。悪鬼の元を。命までは奪っていない」
凛とした声で呟き、少女は鞘に納める。
「悪鬼って? 君は?」
分からないことだらけだ。だからせめて、彼女が何者かだけでも訊きたかった。
「私は鬼を滅する者だから……」
「鬼を滅する者……?」
そう呟くと少女は、雪が舞い降りる宵闇の校舎の奥へと姿を消して行った。
「祐一―! デカイ音したが無事か!?」
しばらくすると潤が血相を変えて3階に上がって来た。
「あっ、ああ」
眼前で起きたことが現実か受け止め切れていない。しかし離れた先には、確かに例の生徒が倒れていた。
「祐一! お前がやったのか!?」
その生徒の姿を見て、潤が震えた声で訊ねる。
「いや……刀を持ったポニーテールの少女が」
「!!……ったく、オレらに任せておけって言ってるのに。相変わらず“お姫様”は……」
潤はホッとしたような困惑したような声で呟く。
「潤、こいつはネットで噂になってる合成麻薬の中毒者なのか? さっきの少女は一体……?」
「……祐一。今日遭ったことは他言無用だ」
「……。それが、お前の答えか?」
「……。ああ……」
何も答えない潤。それだけ事は重大なのだろう。話せない状況なら仕方ない。その後俺たちは無言のまま帰路に就いた。
「ただいま……」
「お帰り、祐一。ノートは見つかった?」
帰宅すると、出迎えてくれた名雪が当然の如くノートのことを訊いてきた。
「ああ」
俺は名雪にノートを手渡すと、そのまま部屋に戻ろうとする。
「どうしたの祐一? すごく疲れた顔をしてるけど?」
「雪降ってる中再登校したら誰だって疲れるだろ? 俺はもう寝るが、お前はテスト勉強しっかりやれよ。せっかく取って来たんだから」
「うっ、うん。お休み祐一」
名雪はおどけながらも頷き、俺の背を見送る。
「ふう。今日は本当に色々あったな……」
風呂からあがり布団に籠り、今日一日の出来事を振り返る。
朝の潤との寸劇に、栞との再会、伊吹先生の特別講習、そして、夜の校舎の事件……。幸村先生に石橋先生、伊吹先生にその妹の風子、應援團の團長にその妹の有紀寧、生徒会長の久瀬、そして深夜の校舎でのあの少女。こう振り返ってみると、今日一日だけで随分と多くの人々と出会ったものだ。
その中でも一際印象深いのは、やはりあのポニーテールの少女。
(鬼を滅する者か……)
彼女の言い分だと、あの生徒は鬼に支配されていて、その根源を断ち切った……ということなのだろう。
(潤は彼女を“お姫様”だと言っていた。つまりは、本来なら守られる対象ってことか?)
気にはなるが、あの様子だと潤は絶対に口を開かないだろう。もし彼女に再会することがあれば聞き出そう。そう思いながら俺は眠りへと入っていった。
「なあ、祐一。もしこの世に超能力があったとしたら、お前はどう思う?」
「ちょうのうりょく?」
まいとしぼくはお母さんにつれてかれて、春風おじさんのおうちにあそびに行ってました。ある夏の日に、とつぜん春風おじさんにそんなことをきかれたんだ。
「そう、例えば手を触れずに物を動かしたり、手をかざすだけで傷口が治ったりする力だ。もしそんな力があったら、お前はどう思う?」
「う~~ん。おもしろいと思う」
そうぼくはこたえた。だって春風おじさんが言ったことがホントにできるなら、それはすごくおもしろくてたのしいことだと思うんだもの。
「そうか。ならば彼女に会わせても大丈夫だな。祐一、これからおじさんと出かけよう」
「どこ行くの?」
「超能力者のところだ」
そう言う春風おじさんに、ぼくは春風おじさんが先生をやっている学校につれてかれたんだ。
「あら、おはようございます水瀬先生」
「おはよう、伊吹君。毎日彼女の相手をしてもらってすまない」
「いえいえ。妹がもう一人できたみたいでとっても楽しいです。ところでこの子は?」
「妹の息子で祐一と言う。彼女には同世代の理解者が欲しいと思ってね。祐一ならば彼女の力を理解し友達になってくれるだろう」
「まあ、それはいいことだと思います」
「さあ祐一、伊吹君にご挨拶しなさい」
「はぁい。こんにちは、はじめまして。ぼくは相沢祐一って言います」
ぼくは春風おじさんに言われたとおりに、制服をきた女の人にあいさつしたんだ。
「あら、元気で可愛い子ね。私は伊吹公子って言うの。よろしくね、祐一君」
「ねえねえ、お姉ちゃんが超能力者なの?」
「いいえ。案内するわ」
そうしてお姉ちゃんはぼくを原っぱのほうにつれてったんだ。
「わぁ……」
そこでは1人の女の子がおどってたんだ。
「きれい……」
なんだろう? まるで女神さまのようで、ぼくはすっかり、むちゅうになってしまったんだ。
「真琴ちゃーーん、あなたのお友達を連れてきたわよ~~」
「お友達……?」
お姉ちゃんが呼びかけると、女の子はおどりをやめて、ぼくのほうを見たんだ。
「お姉ちゃん、この子が?」
「ええそうよ。真琴ちゃん、さっきお姉ちゃんに見せたのを、この子にも見せてあげて」
「うん、分かった……。でもその前に、君は何て言うの?」
「ぼくは、相沢祐一。君は?」
「私は沢渡真琴……。じゃあ、祐一くん。今から私のフシギな人形劇をお見せします」
「人形劇?」
そう言うと、真琴ちゃんは地面にかわいいお人形さんをおいたんだ。
「いい? このふつうのお人形さんに手をかざすと……」
前の更新から数ヶ月空きましたが、4月20日がスイッチ版Kanon発売日だということで、記念に公開いたしました。
このシリーズは舞が登場することでガラッと世界観が変わるのですが。改訂に際し、舞の設定自体も大きく変更しましたね。
従来は原作に近く、舞自身の能力とか力だったのですが、L5発症者に。雛見沢の鬼がL5発症者の形容なので、それを滅する者に。
もちろん、鬼滅の刃の影響が大きいです(笑)。台詞も鬼滅を意識したものに変えている部分があり、そもそも祐一と潤の中の人が柱ですし。
さて、これでメインヒロイン全員が出揃ったわけですが。同人誌の執筆に移る時期ですので、続きは冬コミ終了後になる予定です。
スローペースですが、Kanon発売30周年までには書き切りたいですね。