みちのくKanon―20thAnnIversary.veR―   作:衛地朱丸

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変更点等は下記の通りです。
旧作該当話:第壱拾五話「雪の舞い降りる宵闇の學舎で……」
作中時間軸:平成11年1月11日(月)
新規シーン:・回想で舞が綿流し祭の奉納演舞を舞うシーン
変更シーン:・舞が魔物を討つ者から鬼を滅する者に
      ・祐一を襲撃するのが、怪現象からL5発症者に
削除シーン:・探し物をしているあゆとの会話
      ・真琴に買って来たどら焼きを渡すシーン
      ・バイクに乗っている時の潤との会話
      ・伊吹先生の能力者設定


第十七話:鬼滅の少女

「……今からか? やめた方がいいと思うが……」

 携帯越しに聞こえる潤の声は消極的だった。

「怪しげな薬打った奴が徘徊してるって噂か?」

「!? 名雪から聞いたのか?」

 潤は若干驚いた声色になりながらも、会話を続ける。

「ああ」

「知っていて、何で行く?」

「噂は噂だろう? そんな眉唾話より、テスト勉強の方が大事だ」

「はぁ。わーったよ。今日は元々オレが当番だったし、迎えに行くぜ」

 最終的に潤は折れて承諾してくれた。

「サンキュー!」

 

 

「もうこんなに雪が……」

 出掛ける支度を整え、潤が来るのを家の外で待ち続ける。

 家の外はいつの間にか雪が降り始め、既に根雪の上に新雪が降り積もっていた。

「待たせたな、祐一」

 エンジン音が止まり、潤がバイクから降りた。

「悪いな潤、こんな雪の中学校まで付き合ってもらって」

「今回だけだからな。吹雪いて来そうだから、早く行こうぜ」

「ああ」

 俺は潤から渡されたヘルメットを被り、助手席に座る。間もなく、、豪快なエンジン音を立ててバイクは走り始めた。

「ところで、当番ってなんだ?」

 潤の背中に掴まりながら訊ねる。

「見回りだよ。噂の奴に備えてな」

「應援團はそんなことまでするのか?」

「應援團は、文武両道に特に優れた者しかなることができない。言わば、学園の柱だからな」

「柱ねぇ」

 単に応援するだけの存在かと思っていたけど、光坂において精神的象徴なんだろうな。

「着いたぜ」

 潤の運転するバイクに乗り十数分。俺たちは光坂高校へと着いた。学校に着いた頃には、家を出る時より若干雪が激しくなった気がする。

「オレは1階の見回りしているから。ノートを取ったら、とっとと昇降口に戻ってろ」

「分かった」

 口酸っぱく忠告する潤と別れ、俺は二年生の教室がある2階へと上る。

「それにしても、夜の校舎は何かが出そうな雰囲気だな」

 学校といえばトイレの花子さんやら動く二宮金治像、笑うベートーヴェンの肖像画など、とにかく怪談のネタが尽きない。特に雪が舞い降りる今日みたいな日は、雪女がひょっと顔を出しそうな雰囲気だ。

「ま、実際出るわけないがな」

 どうにもこうにも霊の存在を信じられない俺は、自らの下らない妄想を自嘲しながら教室へと向かって行った。

「ええと、俺の机はどこだっけ?」

 いざ教室に着いたものの、転校初日で机の配置を覚え切っていない身としては、暗くなった教室は昼間とは別空間。自分の机がどこにあるかさえ分からない。電気を点ければ話しが早いのだが、潤と一緒に来たとはいえ、夜の校舎で電気を点けるのは気が引ける。

「目を暗闇に慣れさせるしかないな。集中、集中、全集中――」

 目元に意識を集中させ、あたかも自分を闇と同化させるように呼吸を整える。

「よーし! 慣れて来た!!」

 ようやく目が慣れて来て、机の配置が分かるほどになった。

「あったあった!」

 無事にノートを回収し、ミッションコンプリート。後は昇降口に戻るだけだけど。

「2階は問題なさそうだし、3階に上がってみるか」

 俺は敢えて潤との約束を破った。万が一見つかっても、見回りの手助けをしたいだけだと言い訳すればいいと、安易に考えながら。

 

 

(あれっ?)

 何だろう? 3階に上った辺りから、妙に空気が重くなったような気がする。さながらドラゴンボールで言う、邪悪な気を感知したような。

「さっき意識を集中したことで、俺にも気を読む能力が備わったり……なんちゃってな!」

 そんな自嘲をしつつ、3年生の教室の方へと向かう。

「ん?」

 すると、ある教室から明かりが漏れ出ているのに気付いた。俺みたいに忘れ物をした人がいるのだろうか?

(なんだぁ? さっきより重く……)

 直感的にヤバいと思った。けれど好奇心が恐怖心に勝り、俺は一歩を踏み出す。

「ハ……ハハ……冴える、冴えるぞ……! 頭が冴えるうううっ! 今まで解けなかった問題がスラスラと……。ハ……ハハハハ……東大主席合格も夢じゃないぞーー!! ハハハハハハーー!!」

(なんだコイツは!?)

 教室の真ん中にいたのは、一人灯りの中で奇声を上げながら机に向かっている学生だった。受験が近く、放課後残ってまで勉強をしている……と言うのには、あまりに異質な光景だった。

(噂はマジだったのか!?)

 本能的に理解した。目の前の奴は、H173の中毒者だ!?

「んん~~! なんだぁ? 虫が紛れ込んでいるぞ~~?」

 その生徒は俺に気付き、顔を向けて来る。

「なっ!?」

 俺は絶句した。その生徒は焦点の定まっていない目をしているだけではなく、喉に引っ掻いたような後があったのだ。

「邪魔邪魔邪魔~~! 俺の勉強の邪魔をするなー! お邪魔虫がァァァ!!」

 その生徒は鉛筆を持ちながら俺の方に急接近する。

(早い!?)

 明らかに常人ではない速度で、あっという間に距離を詰められる。

「ああ~~! 痒い痒い! 痒い痒い痒い痒いいいいい!! お邪魔虫のせいで、また喉が~~!!」

 生徒は俺に馬乗りになりながら左手で喉を掻き、鉛筆を持った右手を俺の喉元に突き刺そうとする。

「お前を刺せば、俺の痒みが~~! グゲゲゲゲゲゲ!!」

(タガが外れてやがる!?)

 相手はまるで狂戦士だ! 理性を代償に、常人離れした頭脳と肉体を手に入れたという。

「クケケケケケ! 死ね死ね死ねー!!」

「ぐっ……おおおー! やらせるかー!!」

 ここで死ぬわけにはいかないと、俺は踏ん張って両手で押し返そうとする。

「うおっ!?」

「えっ!?」

 瞬間、信じられないことが起こった。その生徒は教室の奥まで吹っ飛ばされたのだ。

「今の……俺が……?」

 なんだこの力は? 火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか。

(いや! 今はそれよりも!!)

 逃げるのが先決だと、急いで廊下へと出る。

「携帯で潤に連絡を!!」

 俺は逃げ走りながらも、履歴からかけようとする。

「痛てぇじゃねーか! この野郎ーー!!」

 しかし生徒は意識を取り戻し、俺を強襲しようとする。

(やられる!?)

 もう駄目かと思った瞬間、俺は人の気配を感じた。

(えっ――!?)

 気付けば自分の側には、雪明かりによって照らされたポニーテールの少女が刀を持って立っていた。

(誰だ?)

 分からない。けど俺は、その少女に妙な懐かしさを抱いた。

「全集中・奉納演舞壱の型……」

 少女は呼吸を整え、剣を構えながら生徒へと近付く。

「ガアアア!!」

「炎舞!!」

 一瞬の出来事だった。まるで演舞を舞うが如く無駄のない洗練された動作で、少女は生徒を斬り付ける。

「アッ……」

 生徒は意識を失い、その場へと倒れ込む。

「殺したのか?」

「うん。悪鬼の元を。命までは奪っていない」

 凛とした声で呟き、少女は鞘に納める。

「悪鬼って? 君は?」

 分からないことだらけだ。だからせめて、彼女が何者かだけでも訊きたかった。

「私は鬼を滅する者だから……」

「鬼を滅する者……?」

 そう呟くと少女は、雪が舞い降りる宵闇の校舎の奥へと姿を消して行った。

 

 

「祐一―! デカイ音したが無事か!?」

 しばらくすると潤が血相を変えて3階に上がって来た。

「あっ、ああ」

 眼前で起きたことが現実か受け止め切れていない。しかし離れた先には、確かに例の生徒が倒れていた。

「祐一! お前がやったのか!?」

 その生徒の姿を見て、潤が震えた声で訊ねる。

「いや……刀を持ったポニーテールの少女が」

「!!……ったく、オレらに任せておけって言ってるのに。相変わらず“お姫様”は……」

 潤はホッとしたような困惑したような声で呟く。

「潤、こいつはネットで噂になってる合成麻薬の中毒者なのか? さっきの少女は一体……?」

「……祐一。今日遭ったことは他言無用だ」

「……。それが、お前の答えか?」

「……。ああ……」

 何も答えない潤。それだけ事は重大なのだろう。話せない状況なら仕方ない。その後俺たちは無言のまま帰路に就いた。

 

 

「ただいま……」

「お帰り、祐一。ノートは見つかった?」

 帰宅すると、出迎えてくれた名雪が当然の如くノートのことを訊いてきた。

「ああ」

 俺は名雪にノートを手渡すと、そのまま部屋に戻ろうとする。

「どうしたの祐一? すごく疲れた顔をしてるけど?」

「雪降ってる中再登校したら誰だって疲れるだろ? 俺はもう寝るが、お前はテスト勉強しっかりやれよ。せっかく取って来たんだから」

「うっ、うん。お休み祐一」

 名雪はおどけながらも頷き、俺の背を見送る。

「ふう。今日は本当に色々あったな……」

 風呂からあがり布団に籠り、今日一日の出来事を振り返る。

 朝の潤との寸劇に、栞との再会、伊吹先生の特別講習、そして、夜の校舎の事件……。幸村先生に石橋先生、伊吹先生にその妹の風子、應援團の團長にその妹の有紀寧、生徒会長の久瀬、そして深夜の校舎でのあの少女。こう振り返ってみると、今日一日だけで随分と多くの人々と出会ったものだ。

 その中でも一際印象深いのは、やはりあのポニーテールの少女。

(鬼を滅する者か……)

 彼女の言い分だと、あの生徒は鬼に支配されていて、その根源を断ち切った……ということなのだろう。

(潤は彼女を“お姫様”だと言っていた。つまりは、本来なら守られる対象ってことか?)

 気にはなるが、あの様子だと潤は絶対に口を開かないだろう。もし彼女に再会することがあれば聞き出そう。そう思いながら俺は眠りへと入っていった。

 

 

「なあ、祐一。もしこの世に超能力があったとしたら、お前はどう思う?」

「ちょうのうりょく?」

 まいとしぼくはお母さんにつれてかれて、春風おじさんのおうちにあそびに行ってました。ある夏の日に、とつぜん春風おじさんにそんなことをきかれたんだ。

「そう、例えば手を触れずに物を動かしたり、手をかざすだけで傷口が治ったりする力だ。もしそんな力があったら、お前はどう思う?」

「う~~ん。おもしろいと思う」

 そうぼくはこたえた。だって春風おじさんが言ったことがホントにできるなら、それはすごくおもしろくてたのしいことだと思うんだもの。

「そうか。ならば彼女に会わせても大丈夫だな。祐一、これからおじさんと出かけよう」

「どこ行くの?」

「超能力者のところだ」

 そう言う春風おじさんに、ぼくは春風おじさんが先生をやっている学校につれてかれたんだ。

「あら、おはようございます水瀬先生」

「おはよう、伊吹君。毎日彼女の相手をしてもらってすまない」

「いえいえ。妹がもう一人できたみたいでとっても楽しいです。ところでこの子は?」

「妹の息子で祐一と言う。彼女には同世代の理解者が欲しいと思ってね。祐一ならば彼女の力を理解し友達になってくれるだろう」

「まあ、それはいいことだと思います」

「さあ祐一、伊吹君にご挨拶しなさい」

「はぁい。こんにちは、はじめまして。ぼくは相沢祐一って言います」

 ぼくは春風おじさんに言われたとおりに、制服をきた女の人にあいさつしたんだ。

「あら、元気で可愛い子ね。私は伊吹公子って言うの。よろしくね、祐一君」

「ねえねえ、お姉ちゃんが超能力者なの?」

「いいえ。案内するわ」

 そうしてお姉ちゃんはぼくを原っぱのほうにつれてったんだ。

「わぁ……」

 そこでは1人の女の子がおどってたんだ。

「きれい……」

 なんだろう? まるで女神さまのようで、ぼくはすっかり、むちゅうになってしまったんだ。

「真琴ちゃーーん、あなたのお友達を連れてきたわよ~~」

「お友達……?」

 お姉ちゃんが呼びかけると、女の子はおどりをやめて、ぼくのほうを見たんだ。

「お姉ちゃん、この子が?」

「ええそうよ。真琴ちゃん、さっきお姉ちゃんに見せたのを、この子にも見せてあげて」

「うん、分かった……。でもその前に、君は何て言うの?」

「ぼくは、相沢祐一。君は?」

「私は沢渡真琴……。じゃあ、祐一くん。今から私のフシギな人形劇をお見せします」

「人形劇?」

 そう言うと、真琴ちゃんは地面にかわいいお人形さんをおいたんだ。

「いい? このふつうのお人形さんに手をかざすと……」




前の更新から数ヶ月空きましたが、4月20日がスイッチ版Kanon発売日だということで、記念に公開いたしました。
このシリーズは舞が登場することでガラッと世界観が変わるのですが。改訂に際し、舞の設定自体も大きく変更しましたね。
従来は原作に近く、舞自身の能力とか力だったのですが、L5発症者に。雛見沢の鬼がL5発症者の形容なので、それを滅する者に。
もちろん、鬼滅の刃の影響が大きいです(笑)。台詞も鬼滅を意識したものに変えている部分があり、そもそも祐一と潤の中の人が柱ですし。
さて、これでメインヒロイン全員が出揃ったわけですが。同人誌の執筆に移る時期ですので、続きは冬コミ終了後になる予定です。
スローペースですが、Kanon発売30周年までには書き切りたいですね。
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