みちのくKanon―20thAnnIversary.veR―   作:衛地朱丸

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変更点等は下記の通りです。
旧作該当話:第壱話「北東北の街へ」
新規シーン:智和、もっとちゃんと歌いなさい、名雪に反省を促すダンス等
削除シーン:靖国神社への言及
変更シーン:名雪の幼馴染みをオリキャラから岡崎朋也に


第二話:雪の少女

「あ゛あ゛あ゛~~!! 寒い゛ 寒い゛! 凍え死んじまう~~!!」

 名雪を待ち侘びて1時間は経過しただろうか。防寒着を貫通する冬風に新幹線で温存した体温はとっくに消失。耳と頬はヒリヒリし、思考までおかしくなりそうだ。

「ストーブであったまりたい! ホットコーヒー飲みだい゛!!」

 早い話駅の中に避難すれば万事解決なのだが。しかし、ここでおめおめと退散するのは負けた気になる。退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! 帝王に逃走はないのだーー!!

「そうだ! 歌だ! 歌を歌えば身体も!! ヤックデカルチャー!! 俺の歌を聴けー!!」

 こうなったら一か八かだ! やああってやるぜ!! バァァァニング……ラァァァヴ!!

「雪の~進軍~♪ 氷をふんで~ ♪ど~れが河やら道さえ知れず~♪ 馬は斃れる♪ 捨ててもおけず♪ 此~処は何~処ぞ皆敵の国♪ パンツァー・フォー!!」

 さながら八甲田山を進軍する第五連隊のように軽快に歌う。日露戦争時代に戦車は存在しないが、この際細けぇことはいいんだよ!!

「よし! よーし! 僅かだがあったまって来たぞ!! えーと。他に歌、歌……」

 ああ畜生! 咄嗟に思い浮かばねぇ! こうなったら定番のアレだ、アレ!

「ドゥルルルドゥルルルドゥルルル♪ ドゥルルルドゥルルルドゥルルル♪ ドゥルルルドゥルルルドゥルルル♪ ドゥルルルドゥルルルドゥルルル♪ ペペペペペペペペペペペペ♪ チャラララララ♪ ダンッダンッパパッ♪ こんなこといいな♪ できたらいいな♪ あんな夢こんな夢♪ いっぱいあるけど♪」

 日本誕生でのび太がラーメンのスープ捨てるの勿体無いって嘆く気持ちが今ならよく分かるぞ! 将来の成人病より、今でしょ! いのちだいじに!!

「ああ、駄目だ……余計にエネルギー使っちまった……」

 しかし火照ったのは僅か数分。HPは黙っているよりガリガリと削られ、風前の灯火だ。

「ゆういち……ゆういち……」

 それから更に一時間。寒さで気が動転して来たのか、俺の名を呼ぶ声が聞こえる。志半ばで斃れたクルセイダースのみんなが俺を迎えに来たのだろうか。

「ゆういち……祐一ったら……」

 ジョジョに大きくなるスターダストの声。アヴドゥル、花京院、イギー、今終わるよ……。

……にしても、スタンド使いの声にしては随分と可愛い声だな。もしかしてこの声は……

「ようやく来たか……。危うく彼岸に旅立つ所だったぞ……」

「良かった、わたしの声が届いたんだね。ごめんね、だいぶ待ったでしょ?」

 声の正体は従姉妹の名雪だった。

「俺が誰だか分かるのか?」

「うんっ! 祐一でしょ」

「7年振りだってのによく」

「分かるよ。どんなに年を重ねて雰囲気が変わったとしても、ね……」

 俺自身は会うのが7年振りだという理由で送られてきた写真で、成長した名雪の容姿は確認済みだ。だから、目の前に立っているのが名雪だと即座に確認できた。しかし、こちらから俺の成長した姿を写した写真は送らなかったってのに。

「はいこれ。遅れたお詫び」

 そう言って名雪が取り出したのは缶コーヒーだった。

「7年振りの再会だっていうのに、遅れた詫びが缶コーヒー一本とはな。随分と貧相な詫びだな」

「ごめんね。他に用意するものがなくて。不満?」

「いや。今の俺にとっては瀕死時の仙豆だ!」

「例えがよく分からないんだけど……」

「とにかくこの上なくありがたいってことだよ!」

 あれほど願ったコーヒーを俺は一気に飲み干す。

「かぁーっ! 生き返るぅっ!!」

「祐一、わたしの名前、覚えてる?」

「アルテイシア」

「違うよ~」

 無論覚えているのだが、大遅刻の報復として、敢えて見当違いな名前を語った。

「クワトロ・バジーナ。マフティー・ナビーユ・エリン。やってみせろよ、マフティー! なんとでもなるはずだ!! ガンダムだと!?」

「わたし、女の子……。何言ってるか全然理解できないし、いきなり変な踊り踊らないでよ~~」

 うっせー! こっちは凍死する直前で、たかがコーヒー一本じゃあったまり切らないんだよ!!

「よし! これでお前ん家まで行く熱量は確保できたな。とっとと案内してくれ……名雪!」

「あっ……」

 わたしの名前、ちゃんと覚えてくれてたんだね……と言わんばかりの笑顔で名雪が微笑み出した。

 忘れる筈がないさ。この雪のように美しく、雪のような温かみを持った少女の名を。

「うんっ!!」

 立ち上がり雪を払え終えた俺を名雪が手招いた。

「あっ!?」

 立ち上がった瞬間、冷たい風が俺の身体を遮った。

「あ……ゆ……?」

 自分が口から出した言葉の意味が理解できなかった。あゆ。この言葉が何を指すのか喉元まで出かかっているのに、答えが分からない。

「どうしたの、祐一?」

「いや……何でもない」

 寒さが極まっていたので、焼き立ての鮎の塩焼きでも食べたいとでも本能的に思ったのだろう。そんな投げやりな答えで無理矢理自分を納得させようとした。

「あっ……」

 ふと駅舎の方へ目を向ける。するとその後方にある山が見えて来た。

(何だ!? この感じは……)

 その瞬間、俺の心の中をある心象が遮った。それは悲哀や悲愴と呼ばれる感情。何故あの山を見た瞬間そのような感情を抱いたのか、自分自身のことながら説明が付かない。

 ただ、あゆという言葉。そしてあの山。この接点すらない2つのキーワードが、俺の心にある溶かされた記憶を再び形創る……そんな気がしてならない……。

 

 

「いらっしゃい祐一さん。7年振りですね」

「こちらこそお久し振りです、秋子(あきこ)さん。これからしばらくの間お世話になるでしょうが、どうか宜しくお願い致します」

 名雪の案内で居候先である水瀬(みなせ)家に到着し、俺は玄関先で出迎えてくれた名雪の母である秋子さんに挨拶をする。

「あらあら。そんなに他人行儀する必要はないわ。お義姉さんからも家族同然のように家事なり掃除なりビシバシやらせるようにと言われてますし」

「相変わらず母さんは厳しいな」

 秋子さんは母さんの兄の配偶者で、俺の母さんより十歳以上年下だ。なんでも伯父さんと結婚したのは高校を卒業した直後だったという話だ。

「では、お言葉に甘えて。申し訳ありませんがお風呂に入らせてもらえないでしょうか? どうも長い時間吹雪に打たれて体全体が冷え切ってしまいまして……」

「了承。今から汲みますから、それまでコタツで身体を温めていてくださいね」

 駄目元で風呂に入りたいと言ったつもりが、あっさりと了承された。思えば秋子さんは昔から色々と心の広い人だった気がする。

「あったけぇ、あったけぇ……。流石は冬の駄目人間製造機。帝都はエアコン暮らしだったからな」

「祐一、帝都って何?」

 暫くすると名雪もあったまりに来て、何気なく俺に話しかける。

「そんなことも知らんのか? 帝都っていうのは東京の通称だぞ」

「いつの時代の話? 今時東京のことを『帝都』って呼ぶ人なんか誰もいないと思うよ……」

「そうか? サクラファンは普通に呼ぶと思うぞ」

「『サクラ』って言われても何を指しているか分からないよ~」

「分からないのか!? セガサターンの大人気ゲーム、『サクラ大戦』だぞ!!」

「あっ、それなら知ってるよ~」

「持ってるのか?」

「ううん。ともちゃんがこの間それの2買ったって言ってたんだよ」

「ともちゃん? 誰だそれ?」

 聞き慣れない名前に、俺は思わず首を傾げる。

「お隣に住んでいる年下の男の子だよ。祐一も何度か遊んだことがあるよ」

「年下の幼馴染みねぇ……」

 そういえば7年前来た時、年下のガキと遊んだ気がするな。

「あれっ? そういえばもう一人くらい……」

 男だか女だかも覚えていないが、一緒に遊んでいた子がいた気がする。

「祐一さん、お風呂汲み終わりましたよ」

 そうこうしている内に、秋子さんの声が聞こえた。風呂が汲み終わったとのことなので、俺は名雪に案内されて水瀬家の風呂場へと向かった。

「バスタオルはここに置いておきましたから」

「色々とどうもありがとうございます」

 秋子さんにペコリとお辞儀をして風呂場に入った。

「ふう、極楽、極楽……」

 東京からこの地への長い旅の疲れ。名雪に待たされ過ぎて冷え切ってしまった身体の全てを洗い流すかのように、俺はゆったりとした気分で風呂に浸かった。

(何故なんだろうな……何故7年もここに来なかったんだろうな……)

 温かい家庭に家族。7年振りに来たというのに名雪と秋子さんからにはそんな印象を受ける。それだけここは温もりを感じられる場所なのだろう。それなのに何故俺は7年も来たくなかったのか?

 分からない……。ただ推察できるのは、その温かみを消すくらい冷たく哀しい出来事があったのではないかというくらいだ。

 

 

「祐一、お夕飯の準備終わったよ」

 風呂からあがると名雪に声を掛けられ、俺は水瀬家のキッチンに案内された。

「祐一さん、お風呂はどうでしたか?」

「気持ち良かったです。お陰で旅の疲れも取れましたし、冷え切った体も温まりました」

「それは良かったわね。今日の夕食は祐一さんの居候記念に腕に寄りをかけて作りましたから、遠慮なく召し上がってくださいね」

「ではお言葉に甘えて」

 椅子に腰掛け、俺は目の前に広がっている盛大な夕食を口にし始めた。

「祐一さん、お味はいかがです?」

「とてつもなく美味しいです。あまりの美味しさに口から光線を出して大阪城を破壊するくらいに」

「だから例えがよく……」

 常人に味っ子ネタは通じないか。

「? 秋子さんどうかしたんですか?」

 夕食を食べている最中、秋子さんが何処か寂しげな顔をした。その顔が気になった俺は、軽く声を掛けてみた。

「いえ……明日はもう1月7日だと思いまして……」

「1月7日……?」

 そう言われて何か特別な日だったかと考えてみる。

「1月7日か……。そういえば昭和が……」

 そう、1月7日は10年前、激動の時代”昭和”が終わった日だ。もっとも、この日を意識するか否かは個人によって異なるだろうし、秋子さんがそれを意識しているという保証もない。

 ただ、自分自身1月7日は自分にとって何物にも変えられないくらい、昭和が終わった日というのより意味のある重大な日だった気がする。

 

 

「食った、食った。後は歯を磨いて寝るだけだな」

 夕食を取り終えた俺は、名雪と共にキッチンを後にした。

「祐一、もう寝るの?」

「ああ。こっちに来たばかりだし、風呂で疲れが完全に取れたわけじゃないからな。名雪、悪いが洗面所に案内してくれないか?」

「分かったよ」

 名雪に案内され、俺は水瀬家の洗面所へと向かった。

「ここだよ祐一」

「サンキュー」

 洗面所に案内され、俺は早速歯磨きを始める。

「とほろでぇなふき……」

「喋るなら歯を磨いてからの方がいいと思うよ……」

「ほぉうなは。ところで名雪、明日って俺に関することで何か重要なことがあったけ? どうも大切な何かを忘れている気がするんだが」

「ないよ」

「そうか。お休み名雪」

「うん、お休み祐一」

 やたら素っ気ない返答が気にはなったけど、俺は名雪にお休みの挨拶をして、2階の一室へと向かい階段を昇って行った。

「うん……。何も……何もなかった、はず……。あれっ……何か……引っかかる……わたしも、大切な……」

 

 

(ゆういちさん……ゆういちさん……)

(ん……)

 深い眠りに就いていると、突然頭の中に声が響いてきた。

(ゆういちさん……ようやく帰って来ましたね……)

(えっ……!? 誰なんです? どうして俺のことを……)

 頭の中に響いてくる声は、母親のように優しく、でも何処か寂しげな声だった。

(娘が……私の娘が貴方の帰りを7年間ずっと待っていましたよ……)

(娘……? 7年間……? 待っていた……!?)

 頭の整理が付かない。この女性は一体何を言っているのだろう……?

(忘れてしまったのですね……私の娘のことを……。無理もないわね……あの悲劇は貴方には心が張り裂けるくらい堪え難い悲劇だったのですもの……)

(知っているんですか!? 俺の忘れた記憶を……)

(この街で過ごし、この街を歩けばきっと思い出しますわ……。娘のことを頼みます……)

(……)

 娘のことを頼みます……。その言葉を最後に母親らしき女性の声は響かなくなった。

 娘とはいったい誰なのだろう? その答えが見出せぬまま、俺は再び深い眠りへといざなわれる。




二話ですが、実質旧作一話ですね。旧一話を分割したわけですが、長さは同じくらいですねー。
1999年には存在しない作品のネタが多々ありますが……
ガルパンは存在しないが雪の進軍は存在する
銀魂は存在しないがどらえもんのうたは存在する
閃光のハサウェイはアニメ化されてないが、小説は存在する
という感じで。作品名は出さないけど、ネタ化はするといった感じです。
当時存在しないから、歌いながらダンス踊らないんですよね。ホントは歌わせたかったけどw
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