みちのくKanon―20thAnnIversary.veR―   作:衛地朱丸

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変更点等は下記の通りです。
旧作該当話:第参話「あゆとの再會」
新規シーン:・水瀬家に祐一の冬コミ戦利品が届く
      ・あゆの名前の意味
削除シーン:・帰宅後から夕食のシーン
変更シーン:あゆの母親の名前を神夜から雪風に


第四話:風の少女

「ん?」

 帰宅すると玄関に見覚えのない靴が置いてあった。客人が来ているのだろうか。

「……今日で丁度7年になりますね……」

「……ええ。時々見舞いに行っているのですが、あの娘はまだ……」

「……あの人がいればなんとかなったかもしれませんが……」

 ダイニングから聞こえて来る話し声。一つは秋子さんの声で、もう一つはおしとやかで気品のある女性の声だった。

「祐一お帰り~~」

 俺が帰って来たのに反応してか、名雪が2階から降りて来た。

「名雪。誰か来てるのか?」

「うん、お母さんの知り合い」

「ふ~ん」

 秋子さんの知り合いがどんな人か気にはなったが、整理の続きなどをしたいので、俺はその足で自室へと向かった。

「さて、次は何を運んで来るかな?」

 昨日は生活に欠かせないストーブや寝具などを運び、今日の午前中は名雪に協力してもらってタンスを運んだ。生活に必要なものはあらかた運んだので、次は既に運んだCD以外の娯楽や趣味に関するものを運ぼうと思った。

「さてと、本棚を運びたいところだが、客が来てるなら大きな音は出せないな……」

 しかし漫画などは読める状態にしておきたいので、とりあえず重い荷物が入っている小さい段ボールから開けることにした。

「さてと、このダンボールには何が入っているのかな?」

 書籍類を詰めたダンボール箱は全部で10個程あるが、側面に書籍と雑に書いただけなので、開けてみるまで何が入っているかは分からない。

「『ドラえもん』に『まんゆうき』に『幕張』……おっ、これは『MMR』!」

 所蔵していた漫画本は全て持って来たのだが、このダンボールに入っていた漫画は自分が好きな漫画ではあったが、久しく読んでいない漫画ばかりだった。

「しっかし、ついに1999年が来たな」

 思えば初めて『MMR』を読んだ当時は小学生だったこともあり、来るべき1999年の到来に恐怖していたものだ。今はそれなりに冷静に構えられるようになったが、心の何処かでは何かが起きるのではないかという期待感を持ち続けている。

「そういえば……MMRといえば……」

 MMRで思い出したが、昨日はマガジンの発売日だった。引っ越し後のてんやわんやですっかり忘れていた。すぐにでも買いに行こうかと思ったが、今は開放が先だ。

「祐一に荷物届いたよ~~」

 そんな矢先下から名雪の声が聞こえる。

「来たか!」

 俺はいても立ってもいられなくなり、作業を中断して降りる。

「祐一、別に何か届けたの」

「ああ。冬コミの戦利品だ」

 何せ去年の冬コミ時には既に荷物は引っ越し業者に預けた後で、ビッグサイトから水瀬家に直接送るしかなった。

 健全、18禁含めて50冊ほどゲットし、未読だ。

「冬コミ? 戦利品?」

「ここいらじゃ手に入らない希少本だよ。んじゃ」

 早く読みたくて仕方なく、俺は速攻で部屋に戻ろうとする。

「ではまた~~」

 階段を半分くらい昇った時、玄関から声が聞こえる。秋子さんの知り合いなのだから大人の女性かと思ったが、大きなリボンが特徴の髪の長い俺と年が同じか少し上の女性だった。

 後ろ姿じゃなく顔が気にはなったけど、三次元より二次元だと戦利品の確認を優先する。

 戦利品の内訳は、健全32冊、18禁20冊だ。その内40冊がTo Heartだ。

「3月にはPSで出るんだよなー。どんな声で喋るのか楽しみだぜ!」

 PC版は18禁だが声無しだからな。PS版は一般向けだがCGのクオリティが大幅アップし、ボイス付きだから買いの一択しかない。

「あかり役が川澄綾子さんで、マルチ役が堀江由衣さん。どっちも新人だな」

 川澄さんは星方武侠アウトロースターのメルフィナ役。堀江さんは鉄コミュニケイションのハルカ役がパッと思い付く役だな。

「そろそろ行くか」

 同人誌を2時間ほど読みふけってから、俺は再び商店街へと赴いた。

 

 

「あれは……」

 コンビニでマガジンを買おうとしたら、その前に立ち尽くしている背中に羽の生えたあの少女の姿が見えた。よく見ると特徴的な羽はリュックに付着していたものであり、少女は大きな紙袋を大事そうに抱え、どこかもの哀しそうな雰囲気で俯いていた。

「なんだ、まだ待っていたのか?」

「あっ……」

 俺が呼び掛けると、まるで待っていた人に会えたかのような笑顔で少女は近付いて来る。辺りは夕暮れ、黄昏と闇とが互いに干渉し合っている時間帯。この少女はそんな時間まで来るとも限らない大好きな人を待ち続けていたのか。そう思うと自然に心が苦しくなる。

「よくこんな時間まで待っていられるな。呆れるを越して感心するよ……」

「平気だよ。もう何年も待ち続けていたんだから。だからいくらでも待っていられるよ」

 そう無邪気な笑顔で返す少女。でも、一見元気に見える笑顔の裏には、深い孤独感が垣間見える。会えない淋しさで今にでも泣き出さんとする自分を必死に笑顔で支えているようで、余計に俺の心を苦しめる。

「そうか。ところでその袋の中は……」

「たい焼きだよ。もう冷たくなっておいしくなくなっちゃってると思うけど……」

 返答は聞かずとも分かっていた。紙袋の中に手付かずのたい焼きが残っていたことぐらい、この少女の性格から容易に想像出来た。

 大好きな人と一緒に食べたい。そんな素朴な願いが込められ冷たく冷え切ったたい焼き。まるで大好きな人に未だ会えずにいる少女の心を反映しているかのようだった。

「やれやれ、そんなになるまで食べられなかったらたい焼きが可哀想だぞ」

「うん、そうだね……」

「何なら俺が1つくらい食べてやろうか? いくらなんでもそんなに冷え切ったのを一人じゃ食べられないだろ」

「それもそうだね。じゃあ特別にキミに1つあげるよ!」

 淋しさを抱えた笑顔にほんのりと温かみが増した。俺は少女にたい焼きを貰い、一緒に食べ始めた。

「うぐぅ、たいやきはたいきやだけどあんまりおいしくない……」

「そりゃそうだ。大体たい焼きってのは……」

「焼き立てが一番だよねっ!」

「えっ、よく俺の言おうとしていることが分かったな……」

 たい焼きは焼き立てが一番。一見素っ気無い常識的な言葉に聞こえる。でもなんだろう、この懐かしさは?

「ボクの言葉じゃないけどね。ボクの大好きな人が、ボクに初めてたい焼きを買ってくれたときに言った言葉なんだ。それ以来ボクにとってたい焼きは大好きな人といっしょに食べる大切な食べ物になったんだよ」

「その大好きな人の名は……」

 思わず俺はそんなことを訊ねてしまった。少女の言動は、まるで俺の凍った記憶を少しずつ溶かし出しているかのようだった。

「祐一くん、相沢祐一くんって人だよ!」

 少女の口から語られる俺の名……。その瞬間ヒューと冷たい北風が二人の間を吹き抜けた。

「あ……ゆ……?」

「えっ!?」

「あゆ、月宮つきみやあゆだろお前!!」

「えっ、どうしてボクの名前を……」

 知らないはずはない。何故なら俺は……

「当然だ! 相沢祐一ってのは俺の名前なんだから……」

「キミが祐一くん? キミがボクの、ボクの……」

 ドサッとたい焼きが入った紙袋が落ちる音が聞こえた。次の瞬間、あゆは俺に抱き付いていた。

「お、おい……」

 その動作に俺は少なからず途惑いを感じてしまう。いきなり抱き付かれたからでもあったが、何か違う他の途惑いも抱いた。

「あったかい……。とってもなつかしい温かみ……。お帰り、祐一くん……」

 俺を見つめる少女の顔は、凍っていた時を洗い流すかのように流れる涙に溢れた、この上ない笑顔だった。

「ああ、帰って来たぞ。俺は再びこの街に……」

 そう言い、俺も優しく包み込むようにあゆを抱き締めた。けど俺はその再会を素直に喜べずにいた。今目の前にあゆは、俺の心の奥底にあった幼き頃のあゆの姿を紛れもなく投影していた。でも、何かが引っ掛かる。再会を素直に喜べない何かが……。

「あゆ、帰らなくていいのか? もうこんな時間だぞ? 家の人も心配しているだろうし、俺はしばらくこの街にいるからいつでもまた会えるし」

「うん、そうだね……」

 そう頷き、あゆは俺から離れ、足元に落とした紙袋を抱え直した。

「じゃあね祐一くん、また今度!」

 笑顔いっぱいの顔で手を振り、あゆは俺の前から立ち去った。その瞬間強い北風が吹いた。気が付いた時にはあゆの姿は既になかった。

「ああ、また今度な……」

 あゆだってそんなに子供ではないんだ、まだ家へ帰す時間ではないだろう。そう思いながらも俺は、あゆをまるで追い返すかのように家へ帰るのを勧めてしまった。

 わずかに感じる心の違和感、それが結果的にあゆを避けるような形で別れる結果になってしまった。この違和感が何であるかが分かるまで、俺はあゆを素直に受け入れられない。そんな気がしてならない。

 

 

 その日の夜、俺は夢を見た。夢の情景…、それは氷に閉ざされていた在りし日の思い出……。そう――これは7年前のあの時の……

 

「祐一、買い物つきあって」

「うんいいよっ」

 その日ぼくは名雪に買い物にさそわれて、いっしょにお店屋さんに行くことになったんだ。でも家の外に出て体にあびた風はとっても冷たかったんだ。

「寒い……。や~めた!」

「まだ外に出たばかりだよ~」

「寒い、寒いよ~、こんな寒い日に外に出ろなんて強制労働だ~、シベリア抑留だ~、国際司法裁判所でうったえてやる~」

「小学生のいうセリフじゃないよ~~。ただついてくるだけでいいから~~」

「わ、分かったよ。ついて行くよ、いっしょに行くだけでいいんだろっ!」

「うんっ」

 ぼくは寒かったから家の外に出たくなかったんだ。でも名雪がついてくるだけでいいからって言うから、ぼくはしぶしぶ名雪といっしょに買い物に行ったんだ。

「じゃあぼくはここで待ってるから」

「祐一、お店の中に入らないの?」

「だってついてくだけだってしか約束してないもんね」

「でも、お店の中の方があったかいよ」

「ぼくは約束にはうるさいんだよ。買い物について行くだけだって約束したら、ついて行くだけ。お店の中に入るなんて一言も約束してないもんね~~」

「う~~分かったよ……。ちゃんとここで待っててね」

「はいはい、分かりました~」

 その時ぼくはいちおうそのお店の前で待っているって行ったんだ。でも……

(待っていろたって、ぼくはそういうセーカクじゃないんだけどな~~。そうだっ! 名雪には悪いけど向いの酒店でカードダスでも買ってよ~~とっ)

 そう思ってぼくは名雪が店に入ってすぐ待っているって約束をやぶって向かいのお店に行ったんだ。でも、名雪の買い物より早く終わるだろうって、買ってすぐに名雪と約束した場所にもどれば約束をやぶったことにはならないと思ってたんだ。

「この町でカードダスが置いてあるのはここだけなんだよな~~。ホントッ、フベンな町だよな~。あっ、ラッキー、キラだ!!」

「……う、ぐっ……」

 キラが当たってラッキーと思ってたら、急にだれかに服を引っ張られた。

「えぐ……えぐぅ……」

 後ろをふり向くと、同い年くらいの女の子が泣いていたんだ。

「な、おい、どうして泣いているんだっ? あっ、ひょっとしてこのキラがほしかったのか。でもいくら泣いたってやるもんか、このキラはぼくのもんだぞ~」

「うぐぅ……ちがう……」

 キラをぼくにとられたのがくやしくて泣いているんじゃなくて一安心だよ。でも、じゃあ一体どうしてこの女の子は泣いてるんだろう?

「そうか、それならどうして泣いてるんだ?」

「うぐぅ……、お母さん、お母さん……」

「お母さん、もしかしたらお母さんとはぐれたのか……」

 お母さんとはぐれただけで泣くなんて子供だなぁって思った。でもぼくもお母さんとはぐれると不安になることはあるから、人のことは言えないか。

「うぐぅ、それもちがう……」

 だけどその女の子はお母さんとはぐれたわけじゃないって言ったんだ。じゃあ本当にどうして泣いてるんだろう……?

「えぐ……うぐぅ……」

 その女の子はわけを全然話さないで、ただ泣いているだけだった。

(こまったな~~、これじゃあまるでぼくがいじめているみたいじゃないか~~)

 そんなことを考えていたら、くぅ~~とおなかの鳴る音がしたんだ。

「ひょっとしておなかが空いてるの?」

 気まずいふんいきを変えるぜっこうのチャンスだと思って、ぼくは女の子におなかが空いているか聞いてみたんだ。そしてら女の子は首をこくりこくりってたてにふったんだ。

「分かった。何が食べたい? この町に売っているのならなんでも買ってきてやるぞ」

「……たいやき……」

「たいやき、たいやきが食べたいんだな? ようし待ってろ、今買ってきてやるからっ」

 そう言って僕は近くのお店にたいやきを買いに行ったんだ。何か大切なことがあった気がしたけど、気にしないでその女の子をとにかく喜ばせたいと思って買いに行ったんだ。

 

 

「はあ、はあ、走って買いにいっちゃったからつかれちゃった。はいっ、たいやき」

 なかなか息が落ちつかなかったけど、ぼくはその女の子の喜ぶ顔が早く見たくって、息を整えるのをがまんしてたいやきをわたしたんだ。でも女の子はたいやきを口にしなかったんだ。

「どうして食べようとしないの? たいやきは焼き立てが一番おいしんだぞ」

「……お母さんが、知らない人から物をもらっちゃダメだって言ってたから……」

 知らない人? そう言えばまだ自己紹介してなかった。それじゃ知らない人って言われても仕方ないよね……。

「じゃあ自己紹介すれば問題ないね」

「うん……」

「えっと、ぼくは祐一、相沢祐一。君はなんていう名前なの?」

「あゆ、月宮あゆ……」

「あゆちゃんか、なんだかお魚みたいな名前だね」

「うぐぅ、ちがうよ……。ボクのあゆはお魚のあゆじゃないよ……。ボクは風の子、月宮雪風の子、あゆだよ……」

「風の子……?」

 風の子のあゆ? そう言われてもぼくにはなんのことだかさっぱり分からなかった。

「うん。春に東からふく風。雪風や 温もり交じり 東風(あゆ)となり……。お母さんが付けてくれた、大切な名前……」

「ええっと……と、とにかく、これでもう知っている仲だぞ! これでぼくからたいやきをもらっても大じょうぶだね!」

「うん……」

 そうしてあゆちゃんはようやくたいやきを口にしたんだ。

「おいしい?」

「しょぱい……」

「それはあゆちゃんの涙の味だよ」

「でも、おいしい……」

 おいしいと言われて人安心。それにしてもおいしいなら自分の分も買ってくるんだったな~~。でも、残りのお金はカードダス使いたかったし、ま、いいか。

「半分あげる……」

 あゆちゃんがたいやきを食べてるのをじっと見てたら、あゆちゃんにたいやきをあげるって言われたんだ。

「いいよ、あゆちゃんのために買ってきたたいやきだし」

「でもさっきから食べたそうにボクのことを見てたよ……」

「ぎくっ!」

 う~ん、やっぱり食べたいと思ってたのバレちゃったか……。

「図星だよ……。うん、でもあゆちゃんがくれるっていうんなら、すなおにもらうよ」

 そうしてぼくはあゆちゃんから半分個になったたいやきをもらったんだ。そのたいやきは本当においしかったんだ。

「ごちそうさまっ、たいやきも食べ終わったし、ぼく、そろそろ行くから」

「んぐっ……」

 そしたらあゆちゃんがまた僕の服を引っ張ってきたんだ。

「何?」

「また、たいやき食べたい…」

「そんなに気に入ったの? 今日はもう買ってあげられないけど、また今度いっしょに食べよっか」

「うん……」

「でも、場所とか決めてないと会えないな……。そうだっ、明日の今と同じ時間くらいに駅のベンチで待ち合わせってのはどう?」

「うんっ……」

「じゃあ決まり! 明日駅のベンチで会おうね。じゃあね、あゆちゃん」

「んぐっ……」

 待ち合わせ場所を決めて帰ろうとしたら、またまたあゆちゃんがぼくの服を引っぱってきたんだ。

「何? まだ何かあるの?」

「約束……ちゃんとくるって指切り……」

「別に指切りなんかしなくたってちゃんと来るけど、あゆちゃんが指切りしたいんなら……」

 そうしてぼくも指を出してあゆちゃんと指切りをしたんだ。

「指切った!」

「うん。じゃあね祐一くん、ばいばい……」

 そうしてあゆちゃんは手をふって帰って行ったんだ。

「さてと、ぼくもそろそろ帰るかな……って」

 そしたら今までで一番強い勢いでだれかに服を引っ張られたんだ。

「あゆちゃんは今帰ったばっかだし……。だれ?」

 あゆちゃんは帰ったから一体だれなんだろうと後ろの方を見てみたんだ。そしたら後ろにいたのは泣き出しそうな顔の名雪だったんだ……。

「うそつき……」

「あっ……」

 何か約束してたなぁって思ってたら、名雪と店の前で待ってるって約束してたんだった……。あゆちゃんを喜ばせるのにせいいっぱいですっかり忘れてた……。

 でもよかった~、今のシーンをあゆちゃんに見られていなくて。ぼくがあゆちゃんに約束を守らない人だって思われなくて、本当によかったよ……。




今回新規シーンはあまりないですね。旧作であゆが自分のことを風の子と言ってましたが、名前の由来等を言ってなかったので、そこを加筆した感じです。
あとそれにこじ付けて、あゆの母親の名前を風に関連した名前にしました。
夕食のシーンはあまり重要じゃないので、話をスムーズにするため削った感じですね。
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