みちのくKanon―20thAnnIversary.veR― 作:衛地朱丸
旧作該当話:第四話「二人の少女との出逢い」
新規シーン:・作者がウマ娘にハマった結果、何の脈絡もなく名雪の後輩としてサイレ
ンススズカっぽいキャラが登場
削除シーン:・起床から朝食までのシーン
変更シーン:・祐一の父の名前を隆一から夏雲に、所属政党を新自由党から立憲自由党
に
・祐一の引っ越しの理由が東京での一人暮らしを母親に反対されたから、
父親が釜石に引っ越しするのに反対したからに変更
・北川のバイクに乗ってるのがオリキャラから岡崎に
・栞と祐一の会話がイキ杉田ホモ和
・後半の佐祐理さんとの出会いシーンを分割
「祐一、わたし今日友達と一緒に街にお買い物に行くんだけど、良かったら祐一も一緒に行かない?」
翌日。朝刊に目を通していると、名雪が声を掛けてきた。
「街って、あんな狭い商店街にか?」
「ううん、違うよ。これからわたしが行こうとしている所は……」
名雪の話だとその街というのは昨日行った商店街のことではなく、川の西側にある市街地を指しているようだ。
「悪いけど、今日は他に行く所があるから」
「それなら別に構わないけど。祐一はどこに行くつもりなの?」
「ボスの所に挨拶回りさ」
「ボス?」
「お前だって知ってるだろ? 俺の引っ越し理由」
「あー」
名雪が乾いた声で相槌を打つ。
俺の父相沢
と言っても、議員活動そのものを止めたわけではない。数年後の参議院選を見定め、故郷である釜石市に引っ越し、市議会議員を務めながら地元の基盤を固めるよう党首から要請があったのだ。
釜石は水瀬市の東、沿岸沿いの街だ。正直そんな新幹線の通ってない僻地だと東京に行くのが大変だと愚痴ったら、だったら伯父の家ならどうだという話になったのである。
ともあれ、この水瀬市が党首の本拠地。本人は東京暮らしだが、ご子息が実家で一人暮らしをしていると聞く。今後の関係を見据え、形式上の挨拶はしておかなくてはと思った次第だ。
「そっか。行く方向が同じなら、後で合流出来るね」
「出来たならな」
名雪は携帯もポケベルすら持っていない。もし持ってたのなら待ち合わせに2時間の大遅刻なんて失態は演じなかったはずだ。
「先輩、こんにちは……」
そんな時、玄関の方から物静かな女性の声が聞こえる。
「あっ、来たみたい」
「友達か?」
「ううん。部活の後輩」
「後輩ねぇ」
ちょうど俺も出かけるところだし、どんな子か顔を見ておこうと、玄関の外に出る。
「先輩、行きましょう……」
玄関の外で待ち受けていたのは、スラッとした長身で、緑がかったロングヘアのおしとやかな雰囲気の少女だった。これから出かけるというのに何故だかトレーニングウェアで息も多少荒かった。
「わー。走って来たんだー」
「はい。走るの、好き……」
はいっ!? そこまでしてわざわざ水瀬家まで来る!? 街で待ち合せれば良かったんじゃ……。
「先輩、その人?」
「親戚の祐一だよ」
「祐一です。よろしく。君は?」
「わたし、
「スズカ!?」
なんか、すごく聞き覚えのある名前のような。
「鈴香ちゃん日本人とのハーフの帰国子女で、12月に越して来たばかりなんだよ」
成程な。だから髪の色が日本人離れしていて、言葉もどこか片言なわけか。
「先輩、一緒に走り……」
「うん! それじゃね、祐一」
そんなこんなで名雪は後輩と共に走り去って行った。コートは羽織ってないとはいえ普段着で走るのか。後輩に合わせてトレーニングウェア着りゃいいのに。そこは譲れない乙女心って奴か。
「さてと俺は……」
歩いていくのもダルイので、とりあえず国道に出てバス停を探すことにした。
「あったあった。次に来るのは……2時間後!?」
時刻表を見ると、日に四本しか走っていないようだ。田舎のローカル路線がここまで廃れているとは。たまげたなぁ。
「仕方ない。歩くか」
観念して俺は徒歩で向かうことにした。幸い党首の家は川を渡った国道沿い。一本道で迷うことはないと聞いた。
「かったるい。なんかこう、ビューっと飛ばせる便利な乗り物は!!」
バス停から10分弱。ようやく川が見えて来た。この川を渡ってもまだ30分ほどかかるのだから先が思いやられる。
「ここから一気に飛ばすぜ、上級大尉!」
「氷床の上をだと!? 正気かガンダム!?」
「危険を顧みず前進するのが漢ってモンだろ! 行くぜ! ゴッドフィィィィィルド・ダァァァァァシュッ!!」
「南無三!? 抱き締めたいな、ガンダム!!」
橋を渡ろうとすると、バイクに乗った二人組みの男が横切って行った。顔はよく見えなかったが、Gガンダムの技を叫んでいたことから、ただのガノタだろう。
「羨ましいなー」
バスの本数の少なさを鑑みるに、春先には免許取るのも一考だなと思いつつ、俺は街を目指す。
「祐一く~ん」
市街地へと入り、目的地まであと少しの所で、後ろの方から馴染のある声が聞こえてきた。この陽気で無邪気な声は間違いなくあゆのもの。
あゆは俺の名前を叫びながら大きな紙袋を抱えて走って来る。その走り方はさながら俺に抱き付かんとするように見える。
「見える!」
俺は衝突直前でニュータイプの如く反射的に後ろに避けた。
「えっ? わぁぁぁ~~!?」
勢いの付いたあゆは止まることを知らず、そのまま信号を渡った先まで走り抜けてしまった。幸い信号が青に変わった直後だったので、不幸にも黒塗りの高級車に追突するなどという悲惨なことにはならなかったが、例え信号が赤だったとしても反射的にあゆを避けた気がする。
何故だろう? 何故あゆの愛情を素直に受け取ることが出来ず、寧ろそれを拒否しようとするのだろう?
「きゃっ!」
「げえっ!」
あろうことか勢いの付いたあゆは、先を歩いていた人の背中に思いっ切り当たってしまった。不意の奇襲攻撃を食らってしまった歩行者は驚きの声をあげ、あゆのウェイブライダー突撃に巻き込まれる形で地面に倒れ込んでしまった。
「大丈夫か?」
赤に変わりそうな交差点を大急ぎで渡り、俺は事故現場へと駆け付けた。
「うぐぅ~、祐一くんひどいよ~」
「君! 大丈夫か?」
「えっ、は、はい……」
返事の仕方からしてあゆの方は大丈夫だと思い、俺は巻き込まれた人の安否を気に掛けた。不幸にも黒塗りのたい焼き女に追突された人は、ショートカットでストールを身に付けた少女だった。
「それなら良かった。あゆ! ちゃんと前を見て走らなきゃ駄目だぞ。この女の子に謝って免許証返してもらうんだぞ」
「うぐぅ~、元はといえば祐一くんがボクをよけたせいだよ~」
「俺は奇襲攻撃を掛けられ、ニュータイプ的直感で避けたまでだ。それを俺のせいにするなんざ冤罪も甚だしいぞ」
「うぐぅ~、“えんざい”って何~?」
「無実の罪を着せられるって意味だ。まったく、そんな意味も知らないで俺に罪を擦り付けようなどとは、土下座して犬の真似だな」
「うぐぅ……」
「あの、お二人のせいじゃありません。私が疲れからか不幸にも追突しそうにならなかったら、このようなことにはなりませんでした」
あゆと容疑の可否について論じていたら、意外にも被害者である少女があゆを庇いすべての責任を負う。
「あ、いや、そう言われると困るな……。どう見ても責任があるのはこっちだし、君が謝る必要はないって」
「でも……」
「うん。ボクも祐一くんと同じ気持ちだよ。ボクがもう少し周まわりに気をつかってればぶつからなかったし」
「偉いぞあゆ。ちゃんと自分の非の打ち所を認められたな。これで一歩大人に近付いたな」
「うぐぅ! ボクそんなに子供じゃないよ~~」
「大好きな人に周りを気にせず抱き付こうって行動が子供な証拠だ。人気のない公園のベンチならともかく、街中で突然抱き付くなんて恥ずかしいだろうが! 少しは抱き付かれる俺の身になってみろ」
「うぐぅ……」
しかし、第三者の居る場で自らをあゆにとっての「大好きな人」と形容するのに何の抵抗感を抱かないのだから、俺もあゆと変わらないかもしれない。
「あ、あの、私は悪いことではないと思います。自分の気持ちを周りを気にしないで思いっきりぶつけられる。そういうのってなんだか羨ましいです……」
「……。そっ、そうだ、あゆお前が抱えている袋の中身ってたい焼きだろ? お詫びという事でこの娘に何個かあげるってのはどうだ?」
少女の台詞が妙に恥ずかしくて、俺は咄嗟に話題を変えた。
「うん、名案だよ祐一くん」
「あ、あのっ……」
「決定だ。しっかし、こんな道端で食べるわけには行かないな……。ねえ君、悪いけどこの辺りで座って食べられるような所ってないかな?」
「はい、この先の公園で宜しければ……」
「じゃあそこで」
少女の返事を待たないで、俺は強引に話を進めた。単にお詫びをしたいという気持ちもあったが、何より直感的にこの少女から寂しげな雰囲気を感じたからだ。
何故そう思ったかは自分でも分からない、ただ、どこか寂しげのあるこの少女を見ると自然と放っておけなくなる。それはまるで何かの積年の念を払い去りたいかの如くに……。
ストールを羽織った少女に導かれ、俺は見知らぬ公園へと足を運ぶこととなった。二車線道路を南の方へと進み、途中から坂道へ入る。その坂道を登ってしばらくすると少女に右折するようにと指示された。
二車線道路から一車線の小道に入り、民家の間を歩く。その道を歩いていると正面に樹林が見え、その樹林を囲むかのように道路が走っていた。少女が言うにはこの樹林が目指す公園であり、登坂になっている左の道の方へ進めば公園の入り口が見えて来るとのことだった。
「こ↑こ↓」
「はぇ~~、すっごい大きい……」
少女に案内されるがままに樹林の間を分け隔てた小さな隙間から公園の中へと入る。雪が降り積もった木々の間を歩いて行くと開けた場所に出た。右手側に規格化された並木道が見え、左手側には冬の寒さで凍り雪が降り積もった池。その奥には野球場が見える。正面奥には体育館らしき建物が確認出来た。
「座って、どうぞ」
並木道に少し寄った所に、屋根の付いた小さな休憩所を指差す少女。その中心には丸太を切り抜いたような特徴的なテーブルがあり、その周りを囲むように低めの丸太状の椅子が設置されていた。
その休憩所は屋根付きとはいえ簡素な作りであり、椅子の上には雪が積もっていたが、手で払い除ければ難なく座れる程度の積雪量だった。
「こう寒いと何か飲み物か欲しいな」
少女から自販機の場所を聞き、俺は暖かい飲み物を買いに行く。あゆがたい焼きを差し出すというのに俺が無償で済ますのも悪い気がし、少女はそこまでしてもらわなくても良いと言ったが、俺は他の二人分の飲み物代を自前で払うことにした。
「お待たせ」
三人分の飲み物を抱え、俺は休憩所へ戻った。
「アイスティーしかなかったんだけど、いいかな?」
「そんな睡眠薬入ってそうな飲み物渡す人は嫌いです」
「冗談冗談。あったかいミルクティーだって」
本気で嫌われそうになったので、訂正してちゃんと手渡す。
「祐一くん、祐一くん、この娘
飲み物類をテーブルに置き椅子の雪を払っている最中、あゆが少女の名前を口にした。
「栞?」
「はい。申し遅れました。
物静かながらもはっきりとした口で少女は自らの名前を語った。
「栞ちゃんか。じゃあまず、年齢を教えてくれるかな?」
「24歳、学生です」
「あっ(察し)、ふーん」
「冗談です。15歳です」
「だよな。俺は相沢祐一。永遠の17歳だ」
「17歳と114514日ですね。分かりました」
「そんなデーモン小暮のような年の取り方はしてないぞ。俺より年下みたいだから栞ちゃんでいいかな?」
「構いません。私は野獣祐一先輩と呼ばせてもらいます」
「野獣は外してくれ」
「失礼しました。ではサイクロップス祐一先輩で」
「普通に祐一先輩でいい」
「そうですね。祐一先輩」
危うく一生ネットの晒し者になるような呼び方されるようだった。しかしこの子、免許証返してもらうの一言だけで察するとは。やりますねぇ!
「ボクは月宮あゆ。祐一くんの恋人だよ」
「誰がお前の恋人だ!」
激しいツッコミと共に、あゆの頭を軽く平手チョップした。初対面の人にいきなり衝撃的な告白をしないでもらいたい。
「うぐぅ~」
「ふふっ……。でも私の目にはお二人は恋人同士に映りましたよ」
「そうか? どう見ても出来の悪い妹とその妹に苦労を重ねている兄にしか見えなかったと思うんだけどな」
「ボク、祐一くんと同い年なんだけど……」
「ファッ!? 俺はてっきり2、3歳年下だと思ってたんだが」
「うぐぅ……」
「冗談だって」
あゆが同級生だってことくらい百も承知だ。ただ、今俺の目の前にいるあゆは年相応よりよっぽど幼く見える。そう、まるであの時から時間が経っていないかのように……。
「そうですね、まるで兄妹のように親しい昔からの恋人という感じですね。そういう風に仲が良いの、本当に羨ましいです」
「昔からの恋人か。当たらずとも遠からずかな。確かに俺とあゆは昔からの仲だけど、お互い会ったのは7年振りだしな」
「そうだったんですか。なんだかドラマみたいですね、7年振りに再会した男女が再び恋に落ちるみたいな……」
「それはちがうよ栞ちゃん。だってボクは祐一くんと会ってない7年間、ずっとずっと祐一くんのこと想ってたし、ずっとずっと大好きだったもん!」
ずっとずっと想ってて、ずっとずっと大好きだった。そうあゆの口から聞かされると心が痛くなる。俺はあゆのことを忘れていたってのに。
いや、違う……。忘れていたんじゃない、忘れたんだ! ただ忘れていただけならあゆの純粋で無邪気な愛を素直に受け止めようとするだろう。だが俺はそれを受け止めようとせず、寧ろできることなら避けようとする。
それは俺があゆの存在を記憶の中からかき消したからではないだろうか? かき消したからこそ、再び現れたことに一種の嫌悪感を感じているのではないのだろうか?
「そういえばあゆ、たい焼きはどうしたんだ?」
毎度のように脇に抱えているのかと思っていたが、よくよく見ると、紙袋はどこかへと消失していた。
「冷めるといけないと思って、ふところであっためてたんだよ」
とあゆはコートの脇からたい焼きの入った紙袋を取り出した。
「豊臣秀吉か! まあ、この寒さじゃ確かにすぐに冷たくなるだろうしな。いい気配りだぞあゆ」
「わっ、祐一くんくすぐったいよ」
子供を誉めるかの如く、俺はあゆの頭をくしゃくしゃと撫でた。当のあゆはくすぐったいと言いながらもどこか嬉しそうだった。
不思議なものだ。あゆの愛情を真っ直ぐ受け止めるのには戸惑うのに、こうやって無邪気にからかい遊ぶことには、寧ろ好感さえ持つ。近過ぎず、かといって遠過ぎず、それこそ古くからの幼なじみのような感覚であゆと接するのが、自分にとって一番好感が持てる距離な気がする。
「はいっ、栞ちゃん」
あゆは紙袋から取り出したたい焼きを、まずは栞に渡した。
「ありがとうございます」
そのたい焼きを栞は大事そうに両手で受け取った。
「はい、祐一くん」
次にあゆは俺に渡し、最後に自分の分を紙袋から取り出した。
「それじゃ、いただきま~す」
あゆの合図と共に三人同じタイミングでたい焼きを口にした。
「何だか生暖かいたい焼きだな……」
人肌で温めていたせいか、そのたい焼きは焼き立てというよりはしばらく保温していたような感じだった。
「はぐはぐ」
そんな俺に気にすることなく、あゆは至福の笑みを浮かべてひたすらたい焼きをむさぼり食っていた。
「どう、栞ちゃん?」
そんなあゆを尻目に、俺は栞にたい焼きの感想を訊いてみた。
「……」
けど栞はたい焼きを口にしたまま沈黙を続けていた。
「どうしたの? ひょっとして期待した程美味しくなくてがっかりしちゃったとか……」
「いえ、美味しいです……すごく……」
ゆっくりと低い声で喋り始める栞。その声は何処か涙ぐんでいた。
「生暖かくて、人の温もりが伝わってくるみたいで、すごく……すごく美味しいです……」
抱えていた何かがたい焼きの温もりと共に崩れ落ち、栞の顔はくしゃくしゃに泣き崩れていた。その涙を堪えることなく、栞は一口一口大事そうにたい焼きを口の中へと運んだ。
栞がどんな辛いものを抱えていたか、それは俺には分からない。けど、この一件でその辛さを少しでも拭い去ることが出来たんじゃないか。他人事ながらついそう思ってしまう。
「今日は楽しいひと時を過ごせました。本当にありがとうございました」
たい焼きを食べ終えた後、栞は俺達にぺこりとお辞儀をし、公園を出た南側の坂道の方へと過ぎ去って行った。
「さてと、俺はこれから行く所があるんだけど、あゆはどうする?」
「うん、ボクちょっと栞ちゃんのこと気になったから後をおうね。じゃあね祐一くん、また今度」
そう言い終え、あゆは栞の過ぎ去った方角へと駆け抜けて行った。あゆも俺同様に栞の抱えていた何かに気付いたのだろうか?
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『栞との会話を校訂してたら、いつの間にか語録塗れになっていた』
な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
おれも何を書いてるのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
睡眠薬だとかケツ筋ビートだとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ
何か栞ファンには申し訳ない内容になってしまいました。いやでも、原点でも栞が休憩所を「ここです」と指差したり、祐一が飲み物買って来たり栞に年齢聞いたり17歳と自己紹介してたりと、話の流れ自体は変えてないんですよねー。
まさかこんなに違和感なく変えられるとは。たまげたなぁ。
あとサイレンススズカっぽいキャラは、名雪の陸上部の後輩です。一応作中には関わるキャラになりますので、今後にご期待いただければと。
次回は分割した佐祐理さんの話ですけど、こちらも色々と追加予定です。