みちのくKanon―20thAnnIversary.veR―   作:衛地朱丸

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変更点等は下記の通りです。
旧作該当話:第四話「二人の少女との出逢い」
新規シーン:・詩音の追加と佐祐理さんと詩音の会話シーン
変更シーン:・佐祐理さんの父の名前を一郎から一雄に
      ・祐一たちの通う高校を水瀬高校から光坂高校に


第六話:笑顔の少女

「ここかぁ。ここが立憲自由党の総本部かぁ……」

 元の交差点に戻りしばらく歩くと、「立憲自由党岩手県第四総支部」という看板が見えて来た。看板の先には事務所らしき建物が見え、その裏には古い木造家屋が佇んでいる。

「こんにちはー」

 家のベルを鳴らして反応を待つ。刹那、全身に走る緊張感。何せあの強面顔の倉田一雄(くらたかずお)のご子息なのだ。きっとドズル・ザビだとかバスク・オムのようなお方に違いない。

「はーい、どちら様でしょうかー?」

「はえっ!?」

 軒先から現れた人物にしばし言葉を失う。なんとご子息は女性だったのだ! それもおしとやかで気品溢れる声、高嶺の花のように美しい顔立ち。例えるならミネバ・ザビのようなお方に映った。

「あのー。どうかされましたか?」

「えっ……あ、あのっ、なっ、なんと言いますかその……おっ、いえっ、わたくし相沢夏雲の息子、祐一と申しまして。引っ越しのご挨拶にと伺った次第でして……」

 緊張のあまり言葉にならない言葉を喋ってしまう。それにしてもこの女性、何処かで見たような。

「あははーっ。お話は聞いております。わざわざご足労頂いてありがとうございますー。そんなに緊張なさらないで、家の中でお茶でもどうですか?」

「お茶ですか?」

「はい。先方の方がおりますが、きっとお話が弾むと思いますよー」

 先客がいるのか。日を改めようとも思ったけど、このお嬢さんから誘って来たのだ。無下には出来まい。

「それではお言葉に甘えまして」

 そうして俺は笑顔の少女に案内され、倉田家の敷居を跨ぐ。

佐祐理(さゆり)さん、今来たのは?」

「あーっ!?」

 客間に案内され待ち構えていた先客に俺は大声で叫ぶ。

「おやおや。誰かと思えば新幹線で会った」

「無断撮影のカメラマン!?」

 あの詩音とかいう女性だ。どうしてここに!?

「えー、えーと。佐祐理さん? 詩音さんとはどういった関係で?」

 詩音さんが口にした名前で訊ねる。

「あははーっ。詩音さんは鹿骨市に居を構える園崎家の頭首でしてー。ご親戚の方々には議員活動で多大なるご尽力を頂いておりますのでー」

「鹿骨市? 園崎家?」

 名前や肩書を言われてもイマイチピンと来ない。

「伝わってないみたいですね。では話題を変えましょう。雛見沢大災害って聞いたことあります?」

「あっ!?」

 知っている! 歴史の教科書で読んだことある。昭和58年に猛毒の火山性ガスで村人が全滅した凄惨な事件だ。

「園崎家というのは、事件の起きた雛見沢を事実上仕切っていた家です。本家は事件で壊滅しましたが、幸い私は興宮に住んでいて難を逃れたんです」

「ということは、ご家族は」

「ええ。父母は無事でしたが、祖母が……」

 静かに頷く詩音さん。出会った当初は軽薄な人だと思っていたけど、背負っているものの重さに言葉がない。

「でも、出会った時はフリーのカメラマンって」

「ああ。頭首ですけど、カメラマンなのは事実ですよ。園崎本家は無くなっても父の実家は健在で太いので、気軽に全国津々浦々旅をしているんですよ」

 軽快な笑みを浮かべながら語る詩音さん。全国を歩ているのは、傷心を癒やすためなんだろうな。7年間この街を訪れるのを拒み続けていた俺には、なんとなくだけど理解出来る。

「祐一さん。こちらでの生活は慣れましたか?」

「いやー。正直都会と何もかも違って戸惑いの連続ですね。雪が降ると交通手段が限られるのが特に」

 積雪のある地面だと自転車も乗れないからな。公共交通手段が乏しく無免許な高校生には過ごし難いことこの上ない。

「あら? この程度の雪で根を上げているようではまだまだですね。雛見沢なんて合掌造りの民家が立ち並んでいたくらいでしたので」

「あの白川郷の! そりゃ大変だ」

「祐一さん。高校はどちらに通われるんです?」

「はい。光坂高校に」

「あははーっ! 佐祐理と同じですねー。学年は?」

「二年です」

「それだと佐祐理が先輩になりますねー」

 佐祐理さん、三年生か。自分の名前を呼ぶところはちょっと子供っぽいかなって思うけど、この容姿で年上のお姉さんなのは嬉しい限りだ。

「おっと。もうこんな時間か」

 ふと腕時計を見たらあと十数分で正午になるところだった。

「お昼も近いんで、そろそろおいとまします」

 帰るにはちょうどいい時間だと思い、俺は佐祐理さんに案内されて玄関へと向かった。

「今日は貴重なお時間をいただき、どうもありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそー。お暇な時はまたいつでもいらして下さいねー」

 軒先まで見送ってくれた佐祐理さんに深々とお辞儀をし、倉田廷を後にする。色々と話したいこともあるし、何より佐祐理さんは魅力ある女性だ。佐祐理さんの言葉に甘えて、機会があればまた来ることにしよう。

「ふう、たい焼きや茶菓子を食べたとはいえ、そろそろ昼飯にしたいところだな……」

 そう思い、どこか飯にあり付ける所はないかと、俺は未だ知らぬ市街地へと溶け込んで行った。

 

 

「帰られましたね」

「わざわざ挨拶に来るだなんて、律儀な子ですね。お父上のお力を借りた甲斐がありました」

「いえ。それにしても、『祐一さんを水瀬市に引っ越しさせるために、夏雲さんを出戻りさせる』なんて回りくどいことをする必要があったのでしょうか?」

「ええ。“奴等”の目を欺くには可能な限り自然体を装いたいので。それに彼は、舞花ちゃんの“打算のない最初の友人”ですので」

「はぇ。佐祐理では力不足でしょうか?」

「いえいえ。佐祐理さんも公私共に感謝していますよ。同級生の同性の友人は必要ですので。ただ、彼にしか出来ないこともあるので」

「あはは……」

「さて、私もそろそろ失礼しますね。“川澄(かわすみ)川澄ご夫妻は”よく面倒を見ているようですし、一安心です。“前の夫妻”のような大失態を演じる心配は微塵もありませんね」

「これからどちらに向かわれるのですか?」

「そうですね。“奴等”の動向に注意しながら、当てもない旅路です。何せ、“梨花(りか)ちゃんの生まれ変わり”は何処にいるか分からないんですから……」




分割した後半ですので、今回は短めです。新規シーンは、旧作と祐一の引っ越しの真の意図が異なるというところですね。
そして詩音の口から語られた梨花ちゃんの名前。作品の根幹に関わるので詳しくは述べませんが、「ひぐらし本編と違い、梨花ちゃんが同じ時間を繰り返しているわけではない」とだけ言っておきます。
次回はオリキャラ削除の関係で、人物構成は大幅に変わりますね。旧作ではほぼ出番のなかったKanonのキャラが早々に登場予定です。お楽しみに。
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