みちのくKanon―20thAnnIversary.veR―   作:衛地朱丸

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変更点等は下記の通りです。
旧作該当話:第五話「キングオブハートと名雪の幼馴染み」
新規シーン:・祐一VS朋也ジョジョ格ゲー対決
      ・美汐登場
削除シーン:・鑑賞会後から夢の話まで
変更シーン:・香里の自己紹介がクッソ汚くなった
      ・チェンゲの話題が声優から今川監督降板の推測に変更
      ・鑑賞会での上映MADが、ライダー神風等から美汐が作ったMADに


第七話:ヲタ友達

「なんだか、腹が減って来たな……」

 倉田廷を後にした俺は、市街地で飯所を探し回る。先程あゆがたい焼きを抱えて走ってきたのだから、何かしらの飲食店があるのだろう。そう思い、俺はあゆが特攻して来た交差点に入る。

 交差点の先には何軒かの飲屋があった。

「こういう店で孤独のグルメ決め込むのもいいが、真っ昼間とはいえ未成年が居酒屋に入るのはなー。仕方ない。他を探すとしよう」

 しばらく歩くと広い場所に出た。周囲を見回すと、右手に在来線の駅が見えて来た。

「この際駅そばでも構わないか……」

 下手に飲食店を探すよりは確実だろうと思い、駅の中へ入ろうとした。

「祐一~~」

 駅の方へ足を向けたら、背中から名雪の声が聞こえて来た。

「こんな所で会えるなんて、奇遇だね」

「ああ。人数が倍になってるな」

 名雪は軒先で出会った鈴香ちゃんの他に、長いウェーブのかかった少女と、対照的にショートカットな少女を引き連れていた。

「紹介するよ。わたしの友達の美坂香里(みさかかおり)だよ」

「話は名雪から聞いているわ。よろしく、相沢君」

 まずウェーブのかかった少女の方から自己紹介して来る。

「ああ。こちらこそ、美坂さん」

「香里でいいわよ」

「じゃあ俺のことも祐一で」

「分かったわ、YUICくん」

「名前の頭文字だけで呼ぶのはやめてくれ」

「仕方ないわね。AIZWくん」

「苗字もだ。普通に相沢でいい」

 なんだこのやり取り。妙に既視感があるような。

「それでこっちが香里の後輩で鈴香ちゃんのお友達の天野美汐(あまのみしお)ちゃん」

「美汐です。よろしくお願いします、相沢先輩」

 良かった。こっちは普通の対応だ。

「しっかし、名雪とは微妙な関係なんだな」

「はい。美坂先輩とはとある組織とか所謂秘密結社的な繋がりで。水瀬先輩とは同じ部活ではありませんが……。師匠の師は我が師も同然の論理で行けば、広義の友達ですね」

 なあっ!? 落ち着いた物腰から白鳥座論法だと!? まっ、まさかこの娘!?

「腐ってませんよ。念のため」

 心を読まれた!? ま、さ、か、ニュータイプ!?

……まあ、同士なのには違いないようだな。

「ところで名雪。この辺に美味い飯が食える店はないか?」

「この辺に、美味いラーメン屋の屋台、来てるらしいわよ」

 名雪に聞いたつもりが香里が答えた。

「今は夜中じゃないぞ」

「ご明察。残念ながら昼はやってないのよね」

「屋台じゃないけど、安くて美味しいラーメン屋さんなら、駅裏にあるよ」

 このままクッソ汚い会話になりそうなところに、ようやく名雪が口を開いてくれた。

「駅裏か。どうやって行くんだ?」

「駅のお手洗いの脇に地下通路への階段があるから。そこを通ってしばらく歩くと見えてくるよ」

「サンキュー。じゃあ、また後で」

 俺は名雪に軽い礼を言い、駅裏にあるラーメン屋に向かって行った。

 

 

 名雪の話に従い歩いていると、いかにも老舗という感じのラーメン屋が見えて来た。

「いいねぇ。こういう味のある店! ゴローちゃんポイント高いぞー!!」

 暖簾を潜り、壁に掛かっているメニュー表に目をやる。一番安い支邦そばが350円だった。普通ラーメンといえば最低でも400円はするのだから、確かにこれは安い。

「おっ! 空いてんじゃん!! 隣いいっスか?」

 注文して数分後。そのための拳、そのための右手なノリの軽快な声が聞こえて来た。

「ああ、別に構わない」

 声の主はスポーツでもやっているかのようなガッシリとした身体の男。年は俺と同じくらいだろう。店は混んでいるようだから相席も仕方ないだろうと、俺は快く承諾した。

「ありがとナス! 朋也(ともや)~~いいってよ~~」

「感謝するぞ、ガンダム!」

 野獣のような体躯の男に呼ばれて入って来たのは、いかにも中坊な……って、この呼び方、どこかで。

「いやぁ。こ↑こ↓老舗の名店でさー。昼時は混んでて座れんのよ。いやぁ。お宅さんのお陰で助かったぜ」

 ガンダムと呼ばれていた青年は初対面であるにも関わらず、やたらと気軽に俺に話しかけて来る。

「おっ! 来た来た!」

 注文した志那そばは、黄色の中太麺で醤油の色がやや濃かった。具材はメンマに焼豚にノリとオーソドックスな醤油ラーメンだが、分厚い焼豚が2枚入っているのが特徴だ。

「いただき~~す」

 両手を合わせて早速食す。

(んんっ! これはコシのある麺に濃厚スープが実に良く沁み込んでいる! そして肉厚の焼豚!! シンプルながら王道で覇道の中華そば!! うおォン! 俺はまるで人間製麺工場だ!!)

「ふ~~食った、食った」

 満腹満腹。名雪の言ったとおり、確かに安くて美味いラーメンだったぜ。

「ところで朋也。チェンゲの最新巻はもう見たか?」

「応! レンタルでバッチリ見たぜ北兄ぃ!!」

 二人組はラーメンをすすりながらOVAゲッターの話を始める。

「いやぁ、たまげたぜ! 重量子爆弾を阻止したかどうか気になってたらよ。いきなり13年経っててあっけらんかんとしたぜ」

「それはまだいい。けどなんか、作画のクオリティって言うか演出が落ちてなかったか?」

「その辺に関しちゃ、あるウワサがあるぜ」

 ヲタ心がくすぐられ、二人の会話に入る。

「おっ! 兄ちゃんもアニメいけるクチか。ウワサってなんよ?」

 早速北兄ぃと呼ばれた方が食い付いてくる。

「お前ら、チェンゲの企画が発表された時、なんて触れ込みだったか覚えてるか?」

「うーんと、確か“今川監督がメガホンを取る”だったかな?」

「そう! あのGガンにジャイアントロボの今川監督だ!! さぞやダイナミックなアニメが始まるに違いないと胸躍らせたもんだ!! そしてリリースされたチェンゲは期待以上のクオリティだった! しかし! オープニングを見た時妙な違和感がなかったか?」

『今川監督の名前がない!』

「そう! あれだけ前評判で聞いた今川監督の名前がどこにも。それどころか監督の名前すら!!」

 普通アニメのオープニングとなれば、スタッフクレジットの最後に監督の名前が威風堂々と乗るが、チェンゲにはなかった。

「そして時間が飛んだ4話からはOPが変わったんだが。クレジットはちゃんと見たか?」

「そういや、川越なんとかって聞いたことない監督の名前が……」

「それ! 今川監督が3話で予算使い切って監督降ろされたってウワサだぜ!!」

 真相は分からないが、今川監督のクレジットがなく4話から違う監督になったのは事実なんだから、信憑性が高いと俺は思う。

「いやー。なかなか面白い話だったぜ! オレは北川潤って言うんだ。アンタは?」

「俺は相沢祐一だ。ヨロシクな、潤」

「応! 祐一!!」

 すんなりと俺の名前を呼んでくれる潤。さっきまでロクでもない自己紹介が続いただけに、こうすんなりと名前を呼んでくれるのは素直に嬉しい。

「相沢祐一……」

 俺が名前を語り終えると、朋也が少し黙り込んだ。

「一つ聞いていいか? ひょっとしてアンタ、最近引っ越して来なかったか?」

「よく知ってるな。つい3日前、東京から越して来たばかりだ」

「やっぱりか! テメェがなゆねぇの……会いたかった、会いたかったぞガンダム!!」

 俺の正体を察した朋也は豹変し、ガタッと椅子から立ち上がり身構える。

「なゆねぇ? ひょっとして名雪の?」

「そうだ! なゆねぇの幼馴染みの岡崎朋也だ!!」

 俺に敵意剥き出しで自己紹介する朋也。

「そうか。お前が“ともちゃん”。女のあだ名かと思ったが、なんだ男か」

 無論男だというのは知っていたのだが、敢えて挑発した。

「ともちゃんが男のあだ名で何故悪い! 俺は男だよ!!」

 案の定朋也の怒りは頂点に達し、所構わず殴りかかって来る。

「お二人さん、ストーップ!!」

 そんな時、潤が俺たちの間に入り朋也の拳を受け止める。

「止めんな北兄ぃ!」

「男は拳で語り合う者。ぶつかることで深く結び付く友情って言葉もある。だが、実際に殴り合うのは良くねぇ。ましてやここは店ン中だ。店員にも他のお客さんにも迷惑がかかる」

「だったらどうしろってんだよ!!」

「決まってんだろ? ガンダムファイトだよ!!」

 

 

 潤がガンダムファイトだって言うから何が始まるかと思いきや、連行されたのは駅西の近くのデパート「ダイブツ」のゲームコーナーだった。

「成程。格ゲーで勝負決めようってワケか!」

「正解だ祐一。ここはスト2に餓狼伝説、鉄拳と格ゲーのラインナップはそこそこ充実してる。何にする?」

「口火を切ったのは俺だ。テメェに選ばせてやるぜ祐一」

 ダイブツに移動する間やや怒りが収まった朋也は、俺に選択権を譲る。

「そうだな。これだ!」

 俺が指差した筐体。それは……

「『ジョジョ』か。随分マニアックなトコ突いてくるな」

 昨月稼働開始したばかりの、待望のジョジョの格ゲーだ。

「2、3回しか遊んだことねェが……いいぜ! 受けて立ってやる!!」

 左手を右拳で叩きながら頷く朋也。

「キャラは先に選ばせてやるぜ祐一」

 年下の癖に呼び捨てで上から目線なのは少々鼻に付くが、ここはお言葉に甘えるとしよう。

「選ぶ? までもないな! 俺の魂のキャラは既に決まっているッ!」

 俺は迷わず一瞬でキャラを選ぶ。それは……

「ジョセフ・ジョースター? そんな弱っちいジジイ選ぶなんて変わった奴」

「ジジイ? 少年、ジョジョは何部から読んでる?」

「三部だ。読み始めたのが連載途中で、コミックスも何巻かは持ってるが、一、二部は読んでねー」

 ジョセフをジジイ呼ばわりしてるからもしやと思ったが、やっぱりか。

「未読か」

「だってスタンド出てくんのは三部からだろ? 波紋なんて興味ねーし」

「成程成程。ジョジョと言ったらスタンドバトルが魅力。波紋編に手を出さんというのも理解はできる。が! 一、二部を読んでねぇとはニワカだな」

「なっ!?」

「いいかぁ? ジョセフはなぁ、ジョジョ唯一の波紋とスタンド両方使える人間なんだよ! 異なる能力を使えるキャラつー魅力が分からねぇとは。マンモス哀れな奴」

「んだとっ! だったら俺はジョセフを倒したコイツを選ぶぜ!」

 朋也は怒り心頭にディオを選ぶ。

「よし! ギッタギッタのボッコボッコしてやるぜ!!」

 開始早々息巻く朋也だったが。

「震えるぞハート! 燃え尽きるほどヒート! 刻むぞ血液のビート! 山吹色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)!!」

「なっ!?」

 初手で朋也が散々見下していた波紋を浴びさせ動揺させる。

「オラオラオラオラオラー!!」

 その後はコンボ技を駆使し一方的にハメる。

「なっ!? テメェッ、祐一ッ!!」

「次にお前は『このゲームやり込んでるな』と言う」

「このゲームやり込んでるな! ハッ!?」

 気付いた時には時既に遅し。一ラウンド目は俺のパーフェクト勝ち。

「当然だろ? 勝負持ち込まれてわざわざ慣れてねぇゲーム選ぶわけないだろ? マヌケめ」

「吐き気をもよおす『邪悪』とはッ! なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ……!! 中坊相手に全力でボコりに来るとはッ! ゆるさねえッ!」

「おー。迫真の台詞だなー。いつか五部の格ゲーが出たら、ブチャラティが魂のキャラになりそうだな、少年」

 自分から喧嘩吹っ掛けておいて負けたら俺を非難する。行動がただのガキだ。まっ、リア厨ならこんなモンだろ。

「倍返ししてやる!」

 ガチギレで2ラウンド目に突入するが、怒りに身を任せて熟練者相手にどうこうできるはずもなく。あっさりと俺の二連勝で幕を閉じた。

「クソッ! 次だ次! 次は俺の得意のゲームで……」

「そこまでだ、朋也」

 リベンジを誓う朋也だったが、潤が止めに入る。

「止めんな北兄ぃ!」

「怒りに捕らわれたお前じゃこの先どう足掻いたって勝ち目はねぇ。それに、そろそろ時間だ」

「時間?」

「ああ。実は格ゲー勝負はついでだ。本来の目的は別にある」

 

 

 潤に連れて来られたのは、ゲームコーナーに設けられたビデオ鑑賞コーナーだった。

「遅いぞ、北川!」

「いやあ、すまない斉藤(さいとう)。ちょっと男の勝負に付き合っててな」

 コーナーには人だかりができていて、その中の潤より体格のいい男が声をかけて来る。

「男の勝負? 誰と誰で、どっちが攻めで受けですか?」

「君は!」

 腐った質問をして来たのは、名雪の友人の友人は親友も同然な美汐だった。

「やっぱり腐ってるじゃないか!」

「腐ってませんよ? 男同士の絡みに攻めと受け以外の関係が存在するのでしょうか?」

「それは偏見だぞ」

「攻め? 受け? 野球の、攻撃と守備?」

 ぎこちない声で質問するのは、名雪と一緒にいた鈴香ちゃんだった。そういや美汐ちゃんを鈴香ちゃんの友達だって紹介してたな。

「名雪たちとは別れたのか?」

「はい。そもそもの私の目的は鈴香くんと鑑賞会に参加することでしたので。始まるまで先輩方に付き合っていただけで」

「くん?」

 腐女子って同性の友達をくん付けで呼ぶものなのか?

「鑑賞会って何を見るんだ、潤?」

「百聞は一見に如かず。始めてくれ斉藤」

「応!」

 満を持して斉藤がデッキにビデオテープを挿入する。画面に流れて来たのは……。

『もし~も日本が弱ければ~♪ ロシアは、たちまち攻めて来る~♪ 家は焼け~♪ 畑はコルホーズ~♪ キミはシベリア送りだろう~♪ イエイッ! 日本は~♪ オォ~♪ 僕らの国だ~♪ 赤い敵から守り抜くんだ~♪ カミカゼ! スキヤキ! ゲイシャ! ハラキリ! テンプラ! フジヤマ! 俺たちの日の丸が燃えている~♪ GLOW THE SUN! RISING THE SUN! 愛國戰隊~♪ 大日本~♪』

「愛國戰隊大日本だと!?」

 言わずと知れたダイコンフィルムの、最も知名度が高いと言っても過言ではない作品。俺自身名前は知っているが、実際に見るのは初めてだ。

「スゲェ……これがアマチュアってマジかよ!? 信じらんねェ……」

 ついさっきまで俺とやり合ってた朋也が興奮して画面に食い付く。無理もない。パソコンが今以上に高価でCGすらない時代に、プロと寸分たがわない特撮を作り出したのだ。これが在りし日の庵野監督の作品だとは恐れ入る。

「まさかこんな片田舎でダイコン拝むことになるとは……」

「俺たちオタク同士は隔週で鑑賞会やっててな。前々から朋也も参加したいって行ってたから連れて来たんだよ」

「成程な」

「次は私ですね」

 斉藤に続き美汐ちゃんが流し始めたのは……。

「こっ! これは!?」

 それは、古今東西のアニメ作品の女装シーンを切り貼りし、Brand New Heartを流したMADムービーだった。

 曲が王道のギャルゲーだけに、登場人物が可愛い美少女と錯覚してしまうほどの魔性を秘めている!?

「これはもしも、攻略キャラが女装男子ばかりの乙女ゲーがあったらいいな、という私の願望を具現化したものです」

(腐ってないってそういう意味!?)

 恋愛対象はあくまで異性。しかし、女装限定とは。確かに腐ってはいないが、別次元の深淵を覗いた気がするぜ……。

 

 

「祐一、これから俺たち商店街のおもちゃ屋行くんだけど、どうする?」

「おもちゃ屋か。興味はあるが、そろそろバスの時間だしな」

 鑑賞会後潤に誘われたが、ラーメン屋行く前通りかかった駅前のバス停の時刻が迫っていたので断った。

「そっか。じゃあまた今度な」

 街の中へと消えて行く潤たち。越して来たばかりで趣味の分かる友と出会えたのは、僥倖と言わざるを得ない。残りの高校生活も充実に過ごせそうだと期待に胸を膨らませつつ、俺は家路へと就いた。




同人関連が一段落したので、久々の投稿です。と言いましてもまだ作業が残っておりますので、週一ペースで更新できたらいいなと。
さて、今回で一番大きな変更は美汐の登場ですね。何せ旧作だと栞のクラスメイトという設定でちょっとだけ出番があった程度で、物語に全くといっていいほど絡んでなかったので。
それが旧作のオリキャラの代替として、真琴や舞より出番が早いという大幅改変です。
そして登場したのはいいのですが、女装男子好きという拗らせた性癖設定が付与さえました。
ここら辺の理由は後々判明しますが、一応今話でも推測できるようにはなってますね。

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