つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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ちょい短め。


第八話 魔法少女の土地調査

 神浜市は人口三百万に上る大都市だ。

 

 元々歴史ある都市であったが、近年の復興計画によって急速に開発が進み、今や首都圏と遜色ない都市機能を構えている。

 

 しかし発展の裏に闇はあり。

 

 急激な近代化は繁栄を呼ぶが、その一方で人の心が乱れやすくなる。

 経済の発展により人口が増え、人口が増えたことで人間同士の問題が大きくなる。

 

 元々あった住人の東西間での溝はさらに深まり、その心の闇に引き寄せられて魔女が集まる。

 そうして魔女は人間を凶行に駆り立て、さらに人は絶望と穢れを自然と生み出していく。そんな負の循環が出来上がっていた。

 

 殺人、強盗、自殺、放火。

 

 発展の進む新西区、中央区。繁華街を有する栄区ではこれらの事件が起こらない日のほうが珍しく、物騒な事件には事欠かない。

 

 そしてそれらの事件が起こると言うことは、必然的にそれらが行われる物件がある。

 

 それが廃墟ならまだいい。

 

 だが住宅街のど真ん中や、マンションの一室などで事件が発生した場合、その物件は事故物件扱いになり、必然的に入居者が現れなくなる。

 故にか、ここ最近ではそうした()()()()の物件を調査する業者の需要が高まっており、個人事業者も多く出始めている。

 

 かくいう父も、その一人。

 

 風水などの知識を建築デザインに活用していた父は、以前からそうした曰く付きの土地なんかを建て替える際の相談などの案件を持ち込まれることが多かった。その上、私が魔術師だった前世を呼び起こしたせいでそうしたオカルト方面の知識を万全に活用できるようになった父は魔女が原因と思われる事故物件についても的確に対処し、業界内での評判をさらに高めていた。

 

 ゆえに今回、神浜でこうした事業に乗り出したのもその延長と言える。

 だが、魔女を祓うということは魔法少女の獲物を横取りするのと同義。

 

 現地の魔法少女たちとの不必要な衝突が懸念されたが、

 

 

「じゃあ魔法少女をバイトで雇って魔女は狩ってもらえばいい」

 

 

 と、父はそこで発想の逆転を行った。

 魔法少女に自分の事業を手伝わせるという発想は父でなければ考えつかないだろう。基本的に魔法少女の存在は社会と隔絶しているし、知ればもっと別の方向に利用しようとする人間のほうが多いはずだ。言い方は悪いが、魔法少女とは社会にとってはその基盤を揺るがしかねないほどの爆弾なのである。

 

 

 話がズレたので戻そう。

 

 つまるところ、我が父・琴織渡は、この魔法少女が飽和する神浜という地において、画期的なビジネスを始めたのである。

 

 

 

 

 

「うわあ、綺麗に焼け落ちちゃってまあ」

 

 

 新西区の住宅街。

 私たちの目の前には、かろうじて家があったと分かる程度の真っ黒な木片が突き刺さった土地があった。

 

 一週間ほど前、この場所で火事があった。

 

 発火時刻は午後十時頃。すでに一家は就寝時刻だったのか、全員が死亡。焼け跡からは血が乾いた包丁が発見され、殺人兼自殺の可能性が高いと警察は判断し、捜査は打ち切り。最終的に焼け跡の土地は親類に存続されることになった。

 

 親類としてはそんな曰く付きの土地を抱えたくもなく、一度更地にして売りに出すことを決意。だがその前に変なものがついていないか、あるいは何かよからぬものが埋まっていたりしていないかなどを調べてほしいと父に依頼が来たのである。

 

 もっと専門の業者を呼べよとつっこみたくなるが、そういう専門業者はもっと都心の、地価が高いところの依頼に引っ張りだこで、住宅地にまで手が回らない状態なのである。つまりうちみたいな個人事業者のほうにそういう依頼が回ってくるほどには神浜では事故物件の発生何て日常茶飯事だということだ。今更ながら、ヤバい街に引っ越してしまったかもしれないと顔を引き攣らせたのはナイショである。

 

 

「……で、ここ本当に出るんですか?」

 

 

 私は隣で資料を見ている父に問いかける。

 

 

「さあね。だが経験上、この手の怪事件には魔女が絡んでいることが多い。周囲の状況もそれに一致する。実はな、二週間前には三つ先の十字路で交通事故が起きている。さらに先週の月曜にはそこの道路で暴行事件が発生し、三日前には二ブロックとなりのアパートに住む独身男性が自殺したらしい」

「物騒すぎませんかね!? 呪われてるんですかここ!?」

「そりゃ魔女が居ついているなら呪われてるだろう」

「そうですけど……」

 

 

 ――魔女によって事故物件が発生した場合、魔女はその周辺に留まることが多い。

 魔女が住宅地で被害を出したと言う事は、そのあたり近辺が魔女の餌場として定められている可能性が高いからだ。

 魔女は人間の多い場所に集まる傾向があり、人里離れた場所では魔女を見かけることが少ない。奴らはだいたい、人の集まるところにしか顔を出さないのだ。

 

 だから、自分の住む地域で怪事件が多発した場合、魔女がその場所に出没していることになる。今回の事故物件もその一つだろうと父は推測していた。

 

 

「まあ、魔女の仕業としてもだ。他の魔法少女が既に討伐している可能性はあるがな。その場合、危険手当はなしだが、使い魔でもよし。とにかくこの辺り一帯を捜索して、しばらく近寄れないようにするのが一連の作業だ。さっそく探してもらいたい」

「わかりましたー」

「よろしくお願いします」

 

 

 私が返事をするのと同時、隣の小柄な少女が父に向けてお辞儀をした。彼女の名前は都ひなの。南凪自由学園の高等部二年に属する、中央区の魔法少女だ。

 

 このバイトに参加しているのは私だけではない。

 

 何せ魔法少女を雇うという今までに例のない試みだ。本当にそれがアルバイトとして成立するのかを判断するために、やちよさんは現地の魔法少女の中から一人、体験役を選出することにした。

 やちよさんやみふゆさんでは実力があり過ぎるが故に問題にならない。かと言って多くの魔法少女は中学生であり、アルバイトをさせるには色々な問題がある。

 そういうわけで選ばれたのが、前回の騒動の現場となった中央区のまとめ役であり、四年間という長い期間を魔法少女として生きてきたベテランである都さんだった。

 

 都さん曰く、「自分は今回の一件で何もできなかった。だからこれぐらいはやってみせないと魔法少女の先輩として名折れだ」と強い意気込みで、その目にはベテランの魔法少女特有の使命感が燃えていた。

 

 たかがアルバイトに何を、と言うかもしれないが。魔法少女と魔女が関わるからには、ちゃんとした検証が必要なのである。

 

 

「では」

 

 

 眼鏡を外して幽界眼を発動する。

 

 ――視界正常。

 

 土地の中心に魂魄の残滓は見られず、魔女の痕跡は発見できない。

 

 周囲を見渡すが、同様に痕跡を発見はできない。

 

 では、ソウルジェムによる魔力探知ならばどうか。

 

 ……

 

 ……

 

 …………微弱だが、反応があった。

 

 

「いました」

「どっちだ?」

「十時の方向。ちょうど、向こう側の道路あたりでしょう」

「よし、行ってこい。こっちは物理的に怪しいものがないか調べておく」

「わかりました。行きましょう、都さん」

「おお。……話には聞いていたが、実際に見るとすごいな」

 

 

 都さんの感嘆を耳に、私は歩き出す。

 角を曲がり、住宅を挟んだ先の道路にたどり着く。

 反応を頼りに探っていくと、住宅と住宅の間に結界の入り口が存在した。

 

 

「あったあった。都さん、入れますか?」

「問題ないぞ」

 

 

 小学生と見紛う背丈の都さんはブロック塀の合間にするっと入り込んだ。私もぐいっと身体を滑り込ませ、なんとかして結界に潜り込む。

 中には使い魔が数匹。

 速攻で変身し、槍で二匹まとめて叩き潰す。

 

 

「喰らえっ!」

 

 

 都さんの投げたフラスコが爆発し、残った使い魔がまとめて吹き飛ばされる。都さんは魔力を通した物質を爆発物に変換するという、どこぞのボマーか殺人鬼かを彷彿とさせる固有魔法を持つ。これがなかなか強力で、彼女が持つ高い科学知識も合わさって戦闘能力はベテランと呼ばれるに相応しいもの。

 あっという間に掃討は完了し、結界も消滅する。

 

 

「雑魚でも五千円貰えるから儲けものですねー」

「おう。他にいないか探しにいくぞ」

「はーい」

 

 

 調査範囲内で魔女、あるいは使い魔との戦闘が発生した場合、五千円~一万円の危険手当が貰える。大体グリーフシードを金銭で融通する場合の相場と同じぐらいだ。不覚を取って怪我、最悪命を落とす可能性を考慮すれば少ないぐらいだが、あまり金額が高いと今度は別の問題が発生するのでこれぐらいに収めているのだと父は言った。その代わり、時給のほうで嵩増しするらしい。

 

 ちなみに時給1500円。大体一回が三時間ぐらいなので、命がかかっている割にはぶっちゃけ安い。また、複数の魔女と遭遇したとしても二回分の報酬があるわけではなく一万円で頭打ち。相当にぼったくりな仕事だとは思うが、基本無給な魔法少女にとっては破格なアルバイトだろう。

 

 ただし、他の魔法少女のテリトリーと衝突した場合、もめ事に発展することが懸念事項だった。父が先日にやちよさん達と交渉していたのはそのことだ。元々は私が神浜中で活動しても問題ないぐらいにまで実力を示してからの予定だったが、鏡の魔女事件の功績を用いて少々早めに乗り出した形である。人生塞翁が馬。何事もチャンスに変えるのが世渡りの秘訣である。

 

 

「終わりましたよ」

「ああ。この辺りに魔女はもういなさそうだ」

 

 

 そのまま半径500メートルぐらいの範囲を見回り、魔女の結界が存在しないことを確認した私たちは、父の下に戻って報告する。

 

 

「ご苦労様。こちらの調査も終わったよ。後は業者を呼んでお祓いをして、魔女を近寄れなくしたら完了だ」

「うん? お祓いって魔女に対して効果あるのか?」

 

 

 父の言葉に都さんが尋ねる。

 まあ、魔法少女の考えからして、いくら神職とはいえ一般の業者がやることに意味がないと感じるのは最もである。

 

 

「気休め程度だがね、一応は効くさ。神職の人間がやるならばそれなりの効果があるし、より専門的に神秘の術を修めた陰陽師や魔術師ならば完全に追い払うだけの術も行使できる。最も、真に効果を発揮するならばそうした効果の魔法を使う魔法少女か、霊能に通じた真の聖職者が必要だがね。聖堂騎士が問答無用でグリーフシードを消し去れるのは、信仰から生じた奇蹟を行使しているからだ。

 つばめには信仰とは特定の人間たちによって共有される希望だという話は前にもしたね。人間が日々を生きるための教範、悪を咎める戒律、未来を信じるための希望。それらを纏めたものが信仰であり、コミュニティの間で共有されることで宗教となる。一人ひとりの信仰は魔法少女の希望と比べれば微々たるものではあるが、宗教の規模であればその集合無意識下に蓄えられる希望の総量は決して見劣らない。(はらえ)、聖別、経などはこれらの信仰を起動させる魔術なんだ。魔女にとっては毒となる希望以外にも、生前の信仰を揺さぶられることによる拒否感が働きその場から退散させる。実際、そうした祭儀場や格の高い寺院、霊堂には魔女の類は寄り付きにくいし、その反面荒廃した寺院などはかえって魔女の温床となる。

 ここも同じだよ。本来、建設には地鎮祭や祈祷を欠かしてはいけないのに、神浜の急速な近代化はそういうのをおざなりにしていった。その結果、この街は本来の在り方を損ない魔女の住み着きやすい土地となった。人の欲望こそが、魔女という絶望を惹きつけるのさ」

「……なるほど。なんとなくだがわかった」

 

 

 父の解説をぽかんと口を開けて聞いていた都さんだが、一応言っていることはわかったようで頷いている。

 つまるところ。人間が長い歴史の中で醸造してきた「信仰」は、魔法少女と同じく「希望」を帯びる。それらはしかるべき手段で用いることによって、魔女に対抗するための手段となるわけだ。

 

 

「つまり、やるだけやって損はないということだな?」

「理解が速くて助かる。――さて、君たちが担当する業務はこれで終了だ。給料は5日後に所定の口座に振り込んでおこう。それで、どうだったかな都君。これ、他の子でもできそうかい?」

「ああ。少なくとも使い魔だけなら問題はなさそうだ。だが、仮に魔女がいた場合、そいつがその日雇った子が手に負えないほどの魔女だったらどうなる?」

「確かにそこが問題だ。魔法少女の実力が不安定かつ魔女がいるかも場合による以上、その辺りのバランスが曖昧にあることは否定できない。魔法少女としての実力がどれくらいかは事前に申告させて吟味するが……それでも無理だと判断した場合は即時撤退を推奨。撤退の後、速やかに実力者に居場所を伝える。報酬も変わらず。途中で討伐に参加した魔法少女にもある程度の報酬を支払う。というのはどうだ?」

「貴方が巻き込まれた場合は?」

「問題ないと答えよう。魔女から逃げる術はいくつか用意があるのでね。仮に無理だった場合はそうだな、魔女の被害にあった死体が二人になるか……魔女が死ぬかのどっちかだろう」

 

 

 最後に父はニヤリと笑う。都さんはそこから何かを感じたのか一瞬身を震わせる。……多分だがこの親父、最悪の場合は自重を捨てるつもりだ。

 

 

「魔法少女は魔女退治に金銭の報酬が付き、危険な魔女の存在が共有されることで柔軟な活動が可能になる。対して私たちは土地と言う財産を食いつぶす魔女という害獣を駆除できる。いいことずくめだな」

「そうだな。これにひとまず問題はなさそうだってのは理解できたよ」

「これでも真剣に魔女については考えてきたつもりでね。自分が関わってきた建築物の中にも魔女の被害を受けたものがあると考えたら、どうにか対策の一つか二つはできないかと思ってしまうのだよ」

「ああ。そうか。そうだよな……」

 

 

 父とて、何も金になると判断したからこの事業を始めただけではない。自分が関わる業界にも魔女と言う存在の悪影響があり、それらが巡り巡って土地や建物の評判を落とすことに繋がるのを憂いているのだ。多分。

 

 

 まあ、そんな大人な事情はさておき。

 

 

 私にとって重要なのはそう、給料である! 

 たった一日で一万円の小遣い! 

 

 

 父の見立てでは月に二度ぐらいは依頼があるだろうという話だ。その上でヘルプに入るのが大体私だろうと加味すれば、月に二万は堅い! 

 二万も小遣いが増えるということは、それだけ趣味に没頭できると言うこと。

 今まで手が出せなかったあれやこれやを買いあさる事も夢ではない……! 

 あ、やばい笑いを堪えられない。

 

 

「うへ、うへへへ……」

「……つばめ。その笑い方はやめなさい」

 

 

 おっと。これは失礼。

 

 

「今回は試験運用だったから言っておくが、君を関わらせるのは最終手段のつもりだ」

「……え?」

「当たり前だろう? これは私が魔法少女とコネクションを築くための手段でもあるんだ。君ばかりを矢面に立たせるわけにもいかない。付け加えると、この手の仕事はない方が良い。つばめには未然に防ぐ意味合いも兼ねて魔女を積極的に狩ってくるようにしてもらうからそのつもりで」

「え、え? ちょ、嘘ですよね!?」

 

 

 そんなっ。折角臨時収入を定期的に確保できるチャンスなのに!? 

 

 

「大体、つばめには普段から多めに小遣いをあげているはずだが?」

「足りませんよ! その気になれば一瞬で溶けますからね!? オタク舐めるな!」

「いや、無駄遣いだろ?」

「……仕方ない。では月々二千円プラスだ。これでいいか?」

「父さん大好き!!」

「はは。私も愛してるとも」

「こっちも大概親バカだったか……」

 

 

 目の前で繰り広げられる親子のコントに都ひなのは呆れるばかりであった。

 

 

 

 ――こうして、神浜の魔法少女たちの間では、魔法少女専用アルバイトの噂が囁かれるようになったとさ。




〇事故物件
神浜は物騒な事件が多いのでこの手の訳アリが多い。
魔女がらみの物件も決して少なくはないだろう。

〇都ひなの
見た目は小学生、頭脳は高校生な魔法少女。
多分年長組では一番頼りになる。

〇信仰と希望
本作の根幹設定の一つ。
魔法少女の力は「希望」に属するものであるなら、人間が誰しも抱く「信仰」もまた一種の「希望」であるはずだ。例えそれが微々たるものであったとしても、宗教、価値観の域にまで達したならば、それは決して魔法少女の希望、魔女の絶望にも劣らないだろう。

〇結局これ何なの?
今後のシナリオフックに使えればいいなという願いを込めた設定のばら撒き。
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