つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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第九話 月下、華と鳥

 私の父が没して一週間。

 遺産の引継ぎも終わり、居合の師でもある叔父上の家への引っ越しも済ませ、私の生活にはいくばくかの落ち着きが戻りました。

 

 ですが、私の心には炎が燻り続けている。

 それは父の遺言が関係しているのでしょう。

 

 

 ――一門を取り戻せ。

 

 

 父は病床に伏せながら私にその言葉を繰り返し言い続けました。

 私の家系は華道の名家、その名を『華心流』。

 それは生まれてからずっと花と共にあった私にとっての日課であり、誇りであり、生きがいでした。

 

 だが、父が病を患い、家元が高弟に渡ったことで、その総ては踏みにじられた。

 見た目の派手さを重視したことで一門は大きくなりましたが、技法も伝統も無視して得られた栄光などただの張りぼて。それは私の人生の何もかもを無駄と断じられたような屈辱でした。

 

 

 

 それは父に植え付けられた思いだけではない。

 私自身の、自分自身を穢されたに等しい所業に対する、純然たる怒り。

 

 私は父の遺言に従い、一門を取り戻すための復讐を決意しました。

 

 だが、私は未だ学生の身。

 いくら宗家の跡取りとはいえ、いまや華心流を牛耳る高弟たちに意見を通すだけの力は持たず。それどころか下手に手を出せば彼らの怒りを買うだけ。宗家の娘として見逃されたような状態である私の立場は地に落ち、今度こそ何もかもを失うでしょう。

 

 

 どのようにして一門を取り戻すかの手段を講じることができず、ただ日々が無為に過ぎていく。

 

 ある夜、無力な自分に嫌気が差した私はあてもなく街を散歩することにしました。

 もう九月の半ばに差し掛かろうと言うのに、未だ収まらぬ真夏のような気温が昼間を満たしていたが、夜はむしろ肌寒く感じるほどに冷え切っていてどうにもちぐはぐだった。まるで、今の私のようだ。

 

 見慣れたはずの街を歩く。普段は落ち着いた様子で静かな活気を持った参京区は、まるで嘘のように静まり返り、見知らぬ街に迷い込んだかのようでした。

 

 明かりは落ち、時折目にするコンビニの光が不自然に浮かび上がる。

 遠くを見れば、こことは対照的に光を放つ中央区の姿。

 空を見上げれば、夜の空を青く映し出す満月。

 

 そこで不意に、旧くより月はこの世と異界を繋げる穴とされてきたことを思い出す。

 それほどまでに今日の月は妖しく輝き、私の目を放さなかった。

 

 

 ――ああ。今夜は何かが起こりそうだ。

 

 

 柄にもなく誌的な表現を思い浮かべながら、夜の街を歩き続ける。

 

 

 そんな私の予感は、さほど時間をおかずに的中することとなった。

 

 

「やあ、常盤ななか。君を探していたよ」

「……あなたは?」

「ボクの名前はキュゥべえ。ボクと契約して、魔法少女になってほしいんだ」

 

 

 

 ――キュゥべえと名乗ったその生き物は、様々なことを私に教えました。

 

 

 人を喰らう怪物である魔女なる存在。そしてそれを倒す魔法少女。何でも一つ願いを叶え、その対価として戦いに身を投じる少女たち。

 そして、魔法少女になる資格が私にはある。キュゥべえはそう告げました。

 

 魔法少女になる資格がある。それはつまり願いを一つ叶えることができるということ。

 もしその言葉が本当ならば願っても無い話だ。

 何でも願いが叶うと言う事は、すなわち一門を取り戻すための復讐の手段を得ることができるということ。

 

 直接一門を取り戻すことを願う。という考えもよぎったが、それはないと他ならぬ自分で否定する。

 誰かに願って終わる復讐などではない。

 これは、私が私自身の手で成し遂げなければいけない復讐だ。

 

 ゆえに願うとするならば、今の自分では不可能である復讐のための力を用意してもらうこと。

 

 その力を以って自分は復讐を行う。

 

 どちらにせよ同じことかもしれない。だが、自分の手が及ばぬところで用意された党首の椅子など欲しくもない。どのような経緯であれ、自分のこの手で一門を取り戻す瞬間を目にしなければならないという我儘が、私の中で燃え盛っている。この思いだけは、誰の手にも委ねたくはなかった。

 

 

 

 ――だが、この生き物の言う事を信用してもいいのだろうか。

 そんな一抹の不安も同時に存在する。

 目の前で人語を話す人ならざる生き物と言う時点で、既にこれまでの常識を逸脱しているのだから、魔法についても本当なのだろう。しかしそれを鵜呑みにしてはいけないと、警告するような声が自分の中から響いてくる。

 

 そうして私が思案していると、背後から声がした。

 

 

「――常盤ななかさん。でしたっけ?」

「――っ!?」

「おや、琴織つばめ。久しぶりだね」

 

 

 突然背後から掛けられた声に振り向けば、そこには私と同じ参京院の制服を着た女性がいました。黒紫の髪を後ろに纏めて垂らし、銀色の眼鏡を付けた女子生徒。少なくとも、私にはその方に見覚えがありませんでした。

 

 

「相変わらず営業に励んでいるようですねキュゥべえ。今夜はどんな言葉で誑かしているんですか?」

「人聞きの悪いことを言わないでほしいな。僕はただ素質のある子に公正な取引を持ち掛けているだけさ」

「……どうだか」

「あの、あなたは誰ですか? 私と同じ参京院学園の生徒のようですが……」

 

 

 キュゥべえと親し気に、いえ、どちらかと言えば嫌悪感をむき出しにして話すその人は、私の言葉にハッとした様子で眼鏡の位置を直し、私の顔を見て名乗りました。

 

 

「おっと、これは失礼しました。初めまして。私は琴織つばめ。あなたと同じ参京院に通う、高等部一年生です。あなたは常盤ななかさんで合ってますね? 父が読んでいた新聞で顔を見た程度なので確証が持てず……」

「ええ。その通りですが……」

「良かった。これで間違えていたら恥ずかしいというレベルではありません。突然声をかけてすみませんね。貴女がキュゥべえと話しているのを見たらつい無視できずに」

 

 

 琴織つばめ、と名乗ったその女子生徒は私に対して礼儀正しく挨拶をしました。確かに、私は何度か華心流の跡取りとして取材を受けている。つばめさんが一方的に知っているのはおかしな話ではありません。しかし、キュゥべえと話す私を見て話しかけてきたと言う事は、もしや……? 

 

 

「彼女は二年前にボクと契約した魔法少女だ。元々は七枝という別の街で活動していたけど、最近になって神浜に移ってきたんだ」

「ま、編入生ってやつですね」

 

 

 高等部から参京院に編入する生徒はある程度はいます。彼女もその一人だと言う事は、遠い場所からわざわざ我が参京院を選んできたと言う事。これでも自分の所属する学校に誇りある身としては嬉しく思いました。

 そしてつばめさんは魔法少女だとキュゥべえさんは言いました。それも、二年も前に契約したと。魔女が人を惑わし、捕食する怪物という話を踏まえれば、命をかけた戦いを二年もの間繰り広げてきたということになる。確かに、居合の段位を修めた私には、彼女の佇まいがただ者でないと言う事が理解できる。

 

 

「一応聞いておきますけど、どれくらいまでそこのナマモノから話を聞いていますか?」

「キュゥべえさんの事ですか? この世には魔女という災厄を振りまく存在がいること。それを倒す魔法少女なるものがいること。そして魔法少女になる代わりに、願いを一つ叶えることができるということです」

「成る程。そこまで聞いているなら特に言う事はないですね」

「――つばめさん。あなたは、魔法少女なのですよね?」

「はい。なんならその証拠に変身して見せましょうか」

 

 

 そう言った瞬間、つばめさんの姿は参京院の制服姿から、紫を基調としたセーラー服の上にマントを羽織り、大きな槍を手にした姿へと変化していました。早着替えなんてものではない。少なくとも、あの巨大な槍をどこかに隠し持っておくなど人間の技では不可能。私はこの時点で、魔法というものの存在を確信するに至りました。

 

 

「なるほど。これまでのすべて、まやかしの類でないことは分かりました」

「もしかして疑っていたのかい?」

「そりゃ普通疑いますよ。私だって最初は契約とかするつもりはなかったですし」

「大体の子は二つ返事で了承するけどね。現に君の友人だって――」

 

 

 ぶおん。と風切り音が鳴った。

 

 

「――それ以上先は、言葉を選べ。ここで無為に残機を減らしたいか?」

「……やれやれ。君は相変わらずだね」

 

 

 冷え切った声のつばめさんは、侮蔑と敵意に満ちた目でキュゥべえさんの喉元に大槍の切っ先を突き付けていました。あと少しでも動かせば、その小さな身体を容易く両断できるでしょう。だというのに、キュゥべえは動揺することなく淡々と話し続けている。その冷静さは、まるで感情が存在しないかのようだ。

 

 

 余人であれば腰を抜かすには十分な光景。私はそれを、何も言わずに見つめていました。

 

 

「ほら、彼女が驚いているじゃないか」

「――っと。これはいけない。すみませんななかさん。いきなり衝撃的な光景を見せてしまいましたね。元々部外者だというのにしゃしゃり出るどころか物騒な真似までしてしまいました」

「――いえ、お構いなく。ところでキュゥべえさん、どのような願いも一つ叶える、というのは本当ですね?」

「ああ。君の因果なら大体の願いは叶うはずさ」

「そうですか。ではつばめさん、一つお聞きしてよろしいでしょうか?」

「……なんでしょうか?」

 

 

 首を傾げた彼女に、私は問いました。

 

 

「あなたは、私の契約を止めますか?」

 

 

 先ほどのキュゥべえの発言と、つばめさんの態度。それはつまり、彼女の魔法少女の契約が不本意、あるいはそうせざるを得ない状況だったということ。友人、という言葉からも、つばめさんには魔法少女の友人がいて、彼女はその契約に何かしらの不満を抱き続けている。

 

 そこから読み取れるものはただ一つ、

 つばめさんは、私が魔法少女の契約を結ぶことに抵抗感を感じている。

 恐らく彼女は、これ以上魔法少女が増えることを快く思ってはいない。

 魔法少女が決して楽なものではない。それどころか、命の危険が常に付きまとうものであると、私はこれまでの情報からそう理解した。であれば、彼女はついさっき知り合ったばかりとはいえど同じ年代の少女を死地に送るような真似を好まないのは当然とも言える。

 

 

 ですが、返ってきた答えは予想とは逆のものでした。

 

 

「――いえ。止めませんよ」

「それは何故ですか?」

「どのような経緯、願いであれ、それは本人の決断だからです。魔法少女がろくでもない生き方であるのは確かですが、それに乗るかどうかはその人次第。相手の身上を知らない以上、その願いを否定する資格など誰にもありませんよ。私は個人的な思想として、不可抗力な状況での契約を迫るコレを軽蔑しているだけ。選択する自由があるのなら、私は助言程度にしてその人に任せますよ」

 

 

 本当に悲しい事ですが、とつばめさんは首を横に振りました。

 

 

 ――そんな表情をするなんて、どうやら本当に私の身を案じているようですね。

 

 

 こんな、会ったばかりでよく知らない赤の他人を心配する彼女は、とても良い人なのだと思いました。

 だからこそ、私はその気持ちを無下にしたくはありませんでした。

 

 

「……私は実家の栄光を奪った者達への復讐の手段を願うつもりです。ですがその前に、つばめさん、あなたの本心を聞かせてはもらえないでしょうか」

「いいんですか? 決心が鈍るかもしれませんよ?」

「はい。わざわざおせっかいを焼きに来たあなたの言葉を、私は聞きたいのです」

「ありがとうございます。では、一つだけ言わせてもらいましょう」

 

 

「――悪いことは言わない。いますぐに止めろ。

 あなたが歩もうとするその道は地獄だ。

 契約をしたが最後、あなたは命を懸けた終わりない戦いに身を投じることとなる。

 どれだけ人の生に憧れようと、二度と平穏な日々が戻ることは無い。

 あなたに待つ結末は、誰にも顧みられることのない死か、人としての尊厳すら奪われる最期だ。

 あの愚かしくも悔いはない日から二年間、魔法少女として生きてきたこの私が断言する」

 

 

「……今ならまだ間に合いますよ常盤ななかさん。あなたの生きる道が他にあるのなら、一目散に引き返すことをお勧めします」

 

 

 そう、懇願にも近い目でつばめさんは言いました。

 その言葉には、一切の嘘偽りはない。

 

 

 ああ。なんと嬉しい事なのでしょう。

 願いとは名ばかりの、父の呪いを聞き続けたこの私には、その言葉は強く染み入りました。

 

 ですが、私にはもう復讐という道しかない。

 生きる道を奪われた私は、父の誇りを、家の歴史を、人生の価値を取り戻さなくてはいけない。そのためならば、どのような修羅の道を進むことになろうと構わない。

 

 誰に言われたからではない。

 それが私自身が選んだ、私の人生なのですから。

 

 

「本当にありがとうございます。私も、覚悟が決まりました」

 

 

 キュウべえさんに向き直り、願いを告げる。

 

 

「キュウべえさん。私は――復讐を完遂するための力を望みます。そのためならば、私は魔法少女となりましょう」

「いいだろう。契約は成立した。さあ、この魔法少女の証、ソウルジェムを受け取るといい」

 

 

 抑揚のない声でキュウべえが告げる。

 目の前に光が満ち――その一瞬後、私の手には卵型の赤い宝石が収まっていました。

 

 

「これは」

「――ソウルジェム。それが、魔法少女が魔法を使うために必要なものさ」

「ソウルジェム……」

 

 

 手のひらから伝わる温もりと、脈打つような力。

 

 ――成程、これが魔力とやらの輝き。

 

 私は確かめるようにソウルジェムを握りしめる。

 これが、私の得た新たなる力だという実感を込めて。

 

 

「――あーあ。結局止められませんでしたね。私」

「……つばめさん」

「そんなガチの決意見せられたら引き留めようとするほうが悪く感じちゃうじゃないですか。私、こういうのに弱いんですよね」

 

 

 わざとらしく肩を竦めながら、つばめさんは苦笑する。

 

 

「さて、それじゃあ私からもう一言。

 

 ――ようこそ。この血と欲望に塗れた魔法少女の世界へ。

 

 今日はこれから魔女退治なんですが、ついてきますか新人さん? せっかくですから、魔法少女のイロハを教えて差し上げますよ」

 

 

 月明かりが照らす中、不敵にほほ笑んで手を差し伸べる彼女。

 ――それはまるで、御伽噺のようで。

 

 

「……ええ。それではご教授お願いしますね、つばめさん」

 

 

 これから待つ様々な運命に思いを馳せながら、私はその手をつかみ取りました。

 

 

 

 ◇

 

 

 

【速報】夜のパトロールに出かけていたら今まさに契約しようとしている少女と出会ってしまった件について。

 

 

 いや、なんでこんな夜中に出歩いてるんでしょうかあの生徒は。

 

 紅い髪の色と横顔。あれは確か中等部二年の常盤ななかさんだ。うちの学校ではそれなりに有名人らしく、華道の名門の娘さんと高い腕前を持ち、その見事な腕前は地域の新聞やニュースにも取り上げられたほどだと同級生から聞いたことがある。それに、この前父が呼んでいる朝刊に彼女の顔が載っていた気がするなと思い出す。

 

 そんな文武両道、才色兼備な彼女が、今目の前で白いナマモノ……キュウべえと会話している。あれだけの注目を浴びている人物すらも、魔法少女としての運命を背負うのだろうか。そうまでして、叶えたい願いがあるのだろうか。そんなことを考えたら、自然と身体が動いていた。

 

 

「――常盤ななかさん。でしたっけ?」

 

 

 いきなり声をかけられた彼女は驚いた様子で振り向いた。月明かりを照り返す紅い髪が流れる。

 穏やかな顔立ちながら、凛とした眼差し。髪の色と同じ紅い瞳がこちらを見つめる。

 

 

 ――やっべ。めっちゃ美人。

 

 

 自分にそっちの気はないとはいえ、これは一瞬見惚れるほどの美人だ。

 こっちを少し怪しんで見るその表情も、彼女のような美しい顔でされると悪い感情が浮かんでこないどころかなんかゾワゾワする。

 思わず引き攣りそうになる口をこらえながら、一度感情を整理するために私は彼女から目を逸らし、今まさに営業をしていた白い異星生命体に声をかける。

 

 いつものようにキュゥべえを冷やかしてから、私はななかさんに挨拶する。

 そのまま魔法少女についてどれだけ知っているかを聞いてみると、まあ大体ナマモノがいうであろう当たり障りのない事実は一通り知っている模様。

 

 私も魔法少女なのかを聞かれたので、変身して見せれば、ななかさんは驚いた表情をしました。どうやらキュゥべえに話を聞いても、まだ信用しきってはいなかった様子。願いが叶う、という魅力的な条件でありながらそれを疑うことができるとは、かなりの慧眼をお持ちのようだ。

 

 

 私が彼女の思慮深さに感じ入っていると、あの白い外来種が何かほざきやがったので、槍を突き付けて黙らせる。……あんな願いをわざわざ叶えてもらったのは美緒の軽率ですが、それはそれ。そんな時に契約を持ち掛けてきたコイツにする配慮など微塵も存在しない。

 

 割とカッとなった私は人前だというのを忘れていて、こっちをじっと見つめるななかさんに気が付いた。

 やってしまった。と後悔する前に、ななかさんは私に問いかけてきた。あなたは私の契約を止めるのか、と。

 

 

 ……どうだろうか。

 

 

 魔法少女の真実を知っている身からすれば、確かに魔法少女になろうとするのは受け入れられない。それは自分の青春と寿命を捧げるに等しい行いだからだ。

 だが、魔法少女の契約で叶えられる願いは個人差があれど確かに万能だ。現実を歪められるほどの大きな力。を行使する代償としては、人間一人の命など安いものなのだろう。

 

 故に私は、他人の契約を否定しない。

 

 その願いに至るまでにどれだけの苦悩や挫折があったかを知らない以上、物知り面で契約を否定させるのはその人の人生を軽率に値踏みするのと同じだ。とはいえ、不可抗力の状態で白いのが契約を迫るようならば、そうではない状況になるまで助け舟を出すだろうし、軽い願いぐらいなら相談にも乗るぐらいはする。例えば『目を良くしたい』ぐらいの願いならば素直にコンタクトや眼鏡を勧めてみたりする。……いや本当に、私の親友はなんでそう短絡的だったのかと今でも呆れている。

 

 だが、もしそれがどうやっても手の届かないような願いであれば、私はそれを否定しきれない。他ならぬ私が、世の理を捻じ曲げ文字通りの奇蹟を起こしてしまったからには、どれだけクソったれな運命が待っていようと、他人の選択を一方的に否定してはいけないと思っている。

 

 

 そんなことを要約して伝えると、ななかさんは少し考えるように黙った後、決意の籠った目で私に告げてきました。

 

 

 自分は復讐のための力を願う。その前にあなたの本音を聞かせてほしい。と。

 

 

 ――なるほど。

 

 

 どうやら、覚悟は堅いようだ。

 彼女の言う復讐、とやらがどういうものかを聞くつもりはない。

 

 

 確かに、ここでソウルジェムや魔女化のあれこれを言って引き留めることは出来るのだろう。あまりにも衝撃的すぎる真実は、魔法少女に対しての忌避感を与えるには十分だ。

 

 だが、それを言うのは気が引けた。

 それを言ってしまえば、彼女の意志を尊重しないのと同じだと思ったし、何より、それを伝えたところでその覚悟は変わらないだろうと確信させるだけの決意を彼女の目から感じ取った。

 

 

 我ながら、ずるいやつだと自嘲する。

 

 自分の時はソウルジェムの事も魔女化の事も音子さんからは伝えられなかった。それは私が契約に消極的だったからと、既に魔法少女だった友人の前だったからというのもある。結局、私は選択の自由なんてほぼない状態で契約を結ぶ羽目になったのだけど。

 

 それに比べれば、目の前の彼女は恵まれている。

 

 復讐が目的だとななかさんは言った。だがそれは、キュウべえに願わずとも選ぶことのできる道でもある。でも、それはきっと生涯を捧げなければ成し遂げられないだろう未来だ。

 

 だから、私は盛大に恰好つけて言ってやる。

 

 

 ――生きるか死ぬか。平穏か戦いか。どちらの道を選ぶのか。

 

 

 その選択を、彼女に委ねた。

 

 

 ……ななかさんは、後者を選んだ。

 

 

 彼女の青白い(無色の)魂に色が付き、形を成す。

 ――紅色の、鮮やかな椿の花。

 瑞々しさを感じさせる、生命力に満ちた美しい輝き。

 物質として形を成した魂の器が、彼女の手の中に現れる。

 

 

 今この時、私は一人の魔法少女の誕生に立ち会った。

 であれば、次は先達として彼女を導くとしよう。

 

 

 都合よく魔女が活動を始めたらしく、ソウルジェムに反応があった。

 私はななかさんに手を差し伸べる。決断的な彼女のことだ。きっと強い魔法少女になるだろう。

 

 

「今日はこれから魔女退治なんですが、ついてきますか新人さん? せっかくですから、魔法少女のイロハを教えて差し上げますよ」

「……ええ。それではご教授お願いしますね、つばめさん」

 

 

 さあ、今日も魔女退治を始めようじゃないか。




〇常盤ななか
覚悟ガン決まりのヤクザ(違う)お嬢様。
作者の推し。

〇琴織つばめ
めちゃくちゃRPしてる子。
先に番外編で触れたが、つばめはななか組やアザレア組との行動が多くなる。
わざわざ参京院にした理由は大体これ。
魔法少女の契約についてはどっちつかず派。やらないほうがいいけど、やる理由もわかるので一概に否定はしない。キュゥべえは絶許。
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