つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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メインストーリーがどえらいことになってたり衝撃の真実が明かされたりしましたが、根本の設定を捏造したことで二部のプロット自体が大幅にねじ曲がっているので本作は都合のいいとこどりでやっていきます。

今回もメインはななかです。


第十話 空手少女・その魂の在処

 私、常盤ななかが魔法少女としての契約を交わし、居合わせた琴織つばめさんと共に魔女退治を行うようになって数日が経ちました。

 

 

『復讐する力がほしい』その願いがどのように叶えられたのか最初は分かりませんでしたが、実際に魔女やその使い魔を目にしたとき、願いの結果を知りました。

 

 

 

 ――あれは敵だ。

 

 

 無意識。

 初めて見る存在だというのに、私の脳裏にはあの異形が敵であるということを、道理を無視して私は直感しました。そして、この『敵を知る力』こそが、自分が願いで得た力であると悟りました。

 

 

 魔女との戦いが終わった後、つばめさんにも尋ねてみました。

 最初、魔女を見て敵だと直感したかと。

 

 

「――いえ。そのようなことは在りませんでしたね。私は契約前に使い魔を見ていますが、あの時は身の危険が迫っていて敵だとか考える暇もありませんでしたが、契約後に魔女を見ても怪物だとしか思いませんでした。それに願いで得た力もこの魂を認識する眼です。そう考えれば、ななかさんの能力は敵を判別する第六感……辺りでしょうかね。大体の魔法少女は能力がどのようなものか無意識に理解できるようですし、多分それで合っているかと」

 

 

 つばめさんはそう答えました。

 やはり、私が得た能力は「敵を見定める力」と考えていいでしょう。

 

 ……華心流は高弟たちによって奪われ、歪み、貶められた。

 

 それは紛れもない事実。彼らから華心流を奪還することが、私の復讐。

 しかし、実際に誰がそのような方針を決めたのかは分からない。

 現在の家元は高弟の中でも特に父に認められていた者だったが、その彼はむしろ本来の華心流に忠実な、侘び寂びと華の調和を解する男だった。

 だというのに、彼が家元となった途端に華心流は見た目の派手さだけを追求するようになった。

 

 本心を隠していた? 

 だとしても不可解だ。

 そのような心が見透かせぬほどに父は愚かではない。むしろ彼の誠実さは私ですら好ましかった。だからこそ、華心流が堕落した時に父はあれほどに憔悴したのだ。

 

 

 だから、私は復讐心の裏に考えがあった。

 

 この事態は誰かが裏を引いていたのではないか? 

 いきなり方針が真逆になるなど、おかしいことではないのか?

 

 その疑問を父にぶつければ、もしかしたら、という前置きのもと、父は言いました。

 

 

 ――奴は誑かされたのだ、と

 

 

 それが目先の栄光を求めた何者か、あるいは傀儡にして自分が利益を得ようと考えた何者かがいることを示していたのか、ただ単純に欲望に駆られたのかは最早わからない。

 ですが、裏で糸を引く真の復讐相手が別にいる可能性を、私は考えるようになった。

 

 

 そうして魔法少女となり、私はその考えが間違っていなかったことを知った。

 

 

 華道の稽古にて顔を会わせる高弟たち。

 魔法少女となって初めて彼らを見たその時。

 

 ――私の脳裏には何も響いてこなかった。

 

 彼らは正真正銘、魔に誑かされただけの犠牲者の一人でしかなかった。

 

 

 私の復讐すべき相手は、魔女。

 

 そう確信し、魔法少女として戦う事が自らの運命であると悟った私は、その後もつばめさんと共に魔女退治に勤しみ、その中でまたある発見をすることになりました。

 

 

 それはとある使い魔と相対した時のこと。

 

 

「うわ……数多い。さて、今回は私が先に斬り込むのでななかさんは……ななかさん?」

「――敵だ」

「はい?」

 

 

 それまでよりもはるかに群れるような使い魔を見て、私の脳裏によりいっそう強い言葉が響きました。

 

 

 ――あれこそが敵だ。

 

 

 その意味が何を示したのか。

 考える必要もない。

 

 魔女とはいえ、全てが同じ個体ではない。

 ならば、自分の家に災厄を齎した魔女はただ一体。

 

 それが強く反応したということは、つまり……!

 

 

「この使い魔を率いる魔女こそが、私の――」

 

 

 復讐するべき、相手だ――!

 

 

 

 

 

「もう。ななかさんが突っ込んでいくから何事かと思いましたよ」

「すみません。まさか私の魔法があれほど強く反応したのは初めてのことでして……」

 

 

 使い魔を掃討し終え、つばめがホッとしたように息を吐いた。

 当初の取り決めとは異なり単身突っ込んでいったななかを追いかけ、今までよりも血気迫る表情で使い魔を斬り伏せていくななかに少々面食らいながらも、つばめはフォローを全うした。

 ななかは申し訳なさそうに謝罪する。明らかに自分の落ち度なので態度がしおらしい。普段は凛としているが、こういう時は可愛いなとつばめはにやけそうになるのを堪える。

 

 

「だからあんなに殺気立ってたんですねえ。――それで、あれがあなたの?」

「ええ。私の一門を奪った魔女です」

 

 

 確信を以って断じる。

 あの使い魔の親元である魔女こそが、自分の追い求める復讐相手。

 必ず倒す。ななかの目に決意が宿った。

 

 

「成る程。でもあの結界に魔女はいなかった。……あの規模、おそらくその魔女は街にかなり根を張っていますね。この神浜のいたるところに使い魔が放たれているとなれば、長丁場を覚悟する必要があるでしょう」

「ふむ。ではどのように?」

「今まで通り、地道に事に当たりましょう。身近なところから怪しい事件がないか、調べていくしかないかと。流石にこれを放ってはおけません。その復讐、本格的に私も協力させてもらいましょう」

 

 

 神浜は広い街だ。魔女のひしめく中から特定の魔女を探し出すと言うのは中々に難しい。だが、魔女には好む絶望、犯行手口とでも言おうか、引き起こす事件の傾向が存在する。

 殺人、失踪、自殺、窃盗。そうした事件をプロファイリングしていけば、ある程度の絞り込みも出来る筈だ。そのためにも、まずは事件を片っ端から調べていく必要がある。

 今回の使い魔と同じ魔力を探知していけば、その傾向も掴めるだろうとつばめは語った。

 

 

「わかりました。ありがとうございます、つばめさん……!」

「いえいえ。困ったときはお互い様。一人きりの戦いとか、やり遂げる前に心が折れちゃいますよ」

 

 いつもと変わらない様子で、つばめは不敵に笑って見せた。

 

 

 

 

 

 

 そして、また少し日が経ち。

 常盤ななかは使い魔を追っていた。

 

 彼女が相対した魔女の手下。

 その中でもななかが復讐相手と確信した個体である。

 

 かなりの規模を持つというつばめの見立てに違わず、この使い魔たちも神浜のいたるところに存在していた。

 

 今回もまたその使い魔と遭遇したのだが、魔法少女が近づいていると感づいたのか、ななか達がその結界を感知した時には既に逃走を始めていた。

 

 逃げ足の速い使い魔を追うべく、ななか達は追跡を開始する。

 

 つばめとは別行動をとり、二手に分かれて使い魔を追い込んでいる。

 

 そして現在、ななかは使い魔の魔力痕跡がある廃墟へと足を踏み入れていた。

 

 そこに使い魔の姿はない。だが、痕跡は先ほどよりも濃く残っている。

 どちらの方角に逃げたのか、ななかが探知しようと辺りに注意を向ける。

 

 そこで、彼女は地面にあるものが落ちていることに気が付いた。

 

 

「ソウルジェム……!?」

 

 

 卵型の銀色の宝石。細かい装飾は違えど、それはななかの持つものと同じ、ソウルジェムであった。

 ソウルジェムは魔法少女にとって必要なアイテム。変身、探知、魔法の行使と、魔法少女が戦うに当たってなくてはならない代物だ。それがこのような場所に落ちているということは、恐らく他の魔法少女が落としてしまい、やむなくその場を離れなければいけない事情があったと言う事。

 

 仮にソウルジェムを無くした状態で使い魔や魔女に遭遇したらどうなるかは考えるまでもない。早急に届けるべきだ。

 

 だが今は使い魔を探すことが最優先。取り逃がせば次はいつ遭遇できるかがわからない。ソウルジェムは後で拾いに行こう。もしかしたら、取りに戻ってくるかもしれない。

 しかしもう一人の魔法少女にはこのことを報告しておいた方が良いだろう。あちら側でソウルジェムを探している魔法少女と出会っているかもしれない。

 そう判断したななかはつばめに念話を繋げる。

 

 

『どうしましたかななかさん?』

『使い魔を追っている途中、ソウルジェムを発見しました。おそらく誰かが落としていったものと思われます』

『……は?』

 

 

 つばめの信じられない、と言うような返事が聞こえる。確かに、ソウルジェムは普段は指輪として装着されているし、変身後もアクセサリーとして肌身離さず身についている。わざわざ卵型の宝石状に戻して手に持ったりしなければ、ソウルジェムを落とすなどありえないだろう。

 

 

『持ち主を探すべきところですが、今は使い魔が優先です。つばめさん、そちらは……?』

『――今すぐその周辺を捜索してください。使い魔なんかよりも最優先です』

『え? ですが……』

『早く探す! 手遅れになる前に!!』

「は、はい!」

 

 

 普段は礼儀正しく、しかしどこか掴みどころのないつばめが、珍しく声を荒げる。

 その剣幕に押され、ななかもつい首を縦に振ってしまう。だが、つばめが焦るということは、よっぽどのことなのだろう。使い魔についても気がかりだが、ここは彼女の指示に従うことにした。

 

 

 幸い、その魔法少女はすぐに見つかった。

 廃墟のすぐそばの建設放棄地。

 空き地となったその場所で、ななかは一人の少女が倒れていたのを見つけた。

 

 

 自分たちと同じ参京院の制服。

 銀色の髪を短く切ったその少女は、ななかが体を揺すっても微動だにしない。

 声をかけても同じ。まさかとは思いながら、ななかは少女の胸に手を当てた。

 

 ――鼓動は感じられなかった。

 

 

「……そんな」

 

 

 目の前の少女が既に死体であることを確認したななかは、つばめが焦っていた意味を理解した。

 

 自分が追っていた使い魔がいたであろう場所にソウルジェムが落ちていた意味。それを理解できないほどななかは愚かではない。恐らくは、使い魔と交戦する中でソウルジェムを落としてしまい、一度体勢を立て直すためにあの場から離れた。しかし、追ってきた使い魔からの攻撃を受けてしまい、抵抗もできずにそのまま……。

 周囲に使い魔の気配はない。恐らく、もうどこかへ去ってしまったのだろう。

 

 確かに使い魔を倒すことは大事だ。だが、その過程で人の命を見捨てては何の意味もない。

 自分がこの少女を探す判断を咄嗟に下していれば、いやもっと早くに自分がソウルジェムに気づいていれば……。

 

 ギリ。と目の前の犠牲者に無力感を感じるななか。

 そこに、先ほど念話を繋げた先輩魔法少女が到着し、ななかに声をかける。 

 

 

「ああいましたいました。ななかさん、その子がもしや?」

「ええ。ですが、一足遅かったようで……」

「そうですね。まあ大体こうなってるとは思いました」

「……つばめさん?」

 

 

 探すように言った魔法少女が死んでいたと言うのに、さほど重要そうでもないようなつばめの口ぶりをななかは訝しんだ。

 だがつばめはななかに構わず、少女の遺体に触れて検分し始める。

 

 

「よし。そう時間は経っていない。ななかさん、拾ったソウルジェム、こっちにください」

「何をする気ですか?」

「まあ、見ててくださいよ」

 

 

 何か策があるのか?

 怪しみながらもななかは自分よりも経験のある魔法少女に銀色のソウルジェムを渡す。

 つばめは受け取り、そのまま流れるように横たわる少女の手にソウルジェムを握らせた。

 

 すると、ななかにとって信じがたい出来事が起こった。

 

 

「――ぷはっ!」

 

 

 少女が息を吹き返したのだ。

 止まっていた呼吸が再開し、今にも目を覚ましそうだ。

 

 

「……これは!?」

「――こういう事です。もう少し黙っておくつもりでしたが……こんな形で明らかになるとは」

「……どういうことか、説明を要求します」

「ええ。ですがその前に、彼女を起こしましょう」

 

 

 

 

 

 ――不覚を取ったな、とボクは思った。

 

 魔法少女になって行方不明をなっていた後輩たちを助けてから数日。

 ボクは神浜で起こる事件の裏に潜む魔女を探す日々が続いていた。

 

 そしてそれは今回も同じだと思ってた。

 結界の中で使い魔を見つけたボクは、これまでと同じくソウルジェムを取り出して変身しようとしたんだ。

 

 でも、その時の使い魔は賢かったのか、変身前のボクに攻撃を放ってきた。

 なんとか躱すことには成功したけど、運悪く手に持っていたソウルジェムを落としてしまったんだ。

 

 拾おうにも使い魔の攻撃が次から次に……!

 ここは仕方ないと一度撤退することにした。

 

 逃げて、身を潜めて、隙を伺って、ソウルジェムを取りに戻って……

 

 

 そこで、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

「お嬢さん。起きてくださいよ」

「ううん」

 

 

 ――何か、聞こえる。

 体が揺さぶられる。

 詰まっていた息を吐き出し、新鮮な空気を身体が自動的に取り入れる。

 

 何だろう?

 まだはっきりとしてない意識で目を開けると、視界いっぱいに女の子の顔が飛び込んできたんだ。

 

 

「……誰?」

「誰って、死神ですよぉ。ここは三途の川。あなた死んじゃったんですよ」

「――え、え!?」

 

 

 その言葉に慌ててがばりと起き上がる。

 死んじゃった? 嘘、もしかしてあの時?

 

 周囲を見渡せば、気を失う前にやってきた空き地。

 空には星と月が輝いている。

 

 目の前の少女は眼鏡をかけ、紫がかった黒い髪を一本の三つ編みにしていた。大人しい、というよりは冷静で落ち着いているような雰囲気を感じさせる子だった。その後ろには同じく眼鏡をかけ、紅い髪をした綺麗な顔の女の子が立っていた。二人とも、ボクと同じ参京院の制服を着ている。黒い髪の子のほうは高等部の制服。紅い髪の子はボクと同じ中等部だ。

 

 ――よかった。ちゃんと生きている。

 

 

「ま、嘘ですけど。おはようございます」

「……おはようございます?」

「感謝しなさいよ。あなたソウルジェム落っことして意識無くしてたんですから。そこのななかさんが拾ってなかったら死体と間違われてもおかしくありませんでしたよ?」

「え。あ、え……?」

 

 

 言われて、ボクは手の中にソウルジェムが握られていることに気が付いた。

 もしかして、拾ってきてくれたの?

 

 

「はい。私が拾いました。あなたので合ってたようですね。良かった……」

「あ、ありがとう! ところで君たち、誰……?」

「私ですか? 私は常盤ななか。あなたと同じ魔法少女です。そしてこちらが……」

「琴織つばめですよ。同じく魔法少女。それであなたの名前は?」

「ボク? ボクは志伸あきら。君たちはどうして……」

「まあ、多分君と同じだと思いますよ?」

 

 

 常盤ななかと琴織つばめ。この二人の魔法少女も、ボクが追っていたのと同じ使い魔を探していたらしい。その途中で、ボクが落としたソウルジェムを見つけ、急いで探してくれたんだって。

 つばめさんからはソウルジェムを落とすとか迂闊すぎると言われてしまった。確かに、そもそも遭遇してから変身してたら遅いよね……うう、なんだか恥ずかしいな。

 

 

「とにかくありがとう! よーし、これで変身して……!」

 

 

 でもよかった。これでまたあの使い魔を追いかけることができる!

 

 

「ちょっと待ってください」

 

 

 ボクはお礼を彼女たちにお礼を言い、変身しようとした。でもその時、ななかに呼び止められたんだ。

 

 

「ここは引き上げましょう」

「えー! なんで!? これからじゃないか戦いは!」

「あなたは今そこで倒れていたんですよ? 万全とはいえない状態だと思いますけど……?」

 

 うぐ……。そう言われるとぐうの音も出ない。ちょっと逃げた程度で倒れるなんて、もしかして気づかないうちに疲れが溜まっていたのかな? ここ最近、夜は魔女退治に神浜中を走り回って寝る時間もちょっと少なくなっていたし、授業中とかちょっと眠気が酷かったからなあ……。

 

 

「なので、撤収です。いいですね?」

「え、あう。はい……」

 

 

 妙な迫力に気圧されて、そのまま頷いてしまった。つばめさんは何がおかしいのか、終始ボクたちのやり取りをにやにやと眺めているだけだ。

 でも確かにななかのいう通りだ。今日はこのまま帰って、しばらく身体を休めよう。

 

 

 

 

 後日、ななかがキュウべえから話を聞いたところによると、ボクが倒れていたのは魔力が不足していたからだって。貧血みたいなものなのかなあ? とにかく、今度は気をつけなくちゃ!

 

 そうして気合をいれていると、ボクはななかに呼び出された。

 一緒に魔女を倒しにいくのかな? と思っていたら、いきなりななかはボクに戦えと言い出したんだ。

 

 どういう訳かわからなくて理由を訊いたら、ななかはボクが弱いからと言ったんだ!

 

 

「あんな所で倒れて醜態を晒して……。どうせ魔女に討ち取られてしまうのが関の山でしょう。ですので、ここで負けたら素直に学生生活に戻るのがよろしいかと」

「うわ、めっちゃ煽ってるよ……」

 

 

 つばめさんの引いたような声が聞こえる。でもそんなのはどうでもいい。大事なのは、ボクが弱いと言われたことだ。仮にも空手家として、その言葉を黙って聞き逃せるほど、

 

 

「人間ができちゃいないんだよね! いいよ、実力で分からせてあげるよ!」

「ええ。こちらはいつでも……」

「ではこの立ち合い、私が見届けるとしましょう。では、お互いに……」

 

 

 つばめさんがボクとななかの間に立つ。

 一歩引いたつばめが槍を構え、振り上げた瞬間。

 ボクたちは変身し、互いの武器を交わしたんだ!

 

 

「「勝負!」」

 

 

 

 それから、ボクとななかの戦いは苛烈を極めた。

 

 ななかの繰り出す刀を避けて、ボクは拳や蹴りで反撃する。

 ななかが防御に回ったら、今度は攻撃に回る暇がないぐらいの速度で攻撃していく。

 拳と足というリーチの不利はあったけど、魔法少女になって強くなった身体能力はボクの身体を思うように動かしてくれた。

 そうして攻め続けて、ななかの体勢が崩れた。

 

 このまま決める……と意気こんだ時だった。

 

 ななかが唐突に変身を解いて、そこまでだと決闘を打ち切ったんだ。

 いやいや、いまから決着がつくって言うのに、そこで中断ってないよね。

 

 

「いいんです。あなたの実力は分かりましたから。ですよね、つばめさん?」

「ええ。あきらさんの実力、文句ないものです」

 

 

 え、え?

 

 ななかさんとつばめさんがお互いに頷き合っている。実力が分かった?

 もしかしてボク、試されてたってコト?

 

 どうやらななかが言うには、魔女を倒すために一緒にチームを組みたいけど、その前にボクの実力を計りたかったらしい。確かに、ボクは倒れているところを助けてもらったのが初対面だから、情けないと思われていたのは仕方がない。

 

 

 でも、ボクとななか達はまだ知り合ったばかりだし、いきなりチームって言われてもなあ……。と、ちょっと渋ったのがまずかった。

 

 

「あきらさん。私困っているんです! 本当に、あきらさんがいないと魔女と戦えないぐらいに困っているんです!」

「え、ええ!?」

「私聞きました。あきらさんは困っている人を見捨てないって!」

「う、うわ……。いやでも、仲間ならもうつばめさんがいるじゃないか!?」

 

 

 有無を言わせないように頼み込んでくるななか。

 この唐突な展開についていけないボクは、横で眺めていたつばめさんについ助け舟を求めてしまった。

 すると……、

 

 

「ええ~~~~? もしかしてあきらさん断っちゃうんですか~~~~? あなた確か参京のトラブルシューターとか言われてましたよね~~~~?」

 

 

 助け舟どころか、やってきたのは援護射撃だった。

 ななかの熱心な頼み込みをカバーするように、つばめさんはねちっこい感じにボクを煽ってくる。ぐ、ぐぐ……!

 

 

「お願いします!」

「あきらさんならできる! 私たちと一緒に頑張りましょう!」

「ズ、ズルいよそんなのは~~~!?」

 

 

 ……と、丸め込まれて、ボクはななか達とチームを組むことになった。

 

 ボクたちとは違う何かを見つめているななかと、それを後ろから見守るようなつばめさん。

 

 

 そんな二人との出会いは、こんな感じだった。

 

 

 

 

 

 

 ……時は少し遡る。

 

 深夜の廃神社。

 

 ななかとつばめは向き合っていた。

 

 

「さて、色々と聞きたいことはありますが……先日のアレ。一体どういうことですか」

 

 

 アレとは。なんて聞く必要もない。ななかが聞きたいのは当然、先ほどの志伸あきらの件についてだ。

 倒れている彼女を発見したときは明らかに死体だった。だというのにソウルジェムを手に戻した途端息を吹き返した。その処置を淡々と実行した様子からつばめはそのことを当たり前のように知っていた。彼女が一体、ソウルジェムについて何を知っているのか、ななかは問い詰めずにはいられなかった。

 

 

「……まあ、お察しの通りだとは思いますが。ソウルジェムとは名前の通りの意味なんですよ」

 

 

 つばめは少し逡巡する素振りを見せた後、口を開いた。

 ソウルジェム。ソウル、ジェム。魂の、宝石。

 ――少し考えれば、その答えは単純だった。

 

 

「ソウルジェムが……私たちの……命……!」

「クソったれな事実でしょう? あの白いの、聞かれない限りは答えないんですよ。……ま、私もだんまり決め込んでたのは同じですが」

 

 

 つばめはキュウべえへの不満を吐き捨てた後、自嘲するように呟いた。

 

 

「……なぜ言わなかったのですか?」

「言って止まるとも思えなかったからです。ソウルジェムが壊れて死ぬのと、心臓や頭ぶっ潰されて死ぬの、結論だけ考えればどの道同じこと。仮に伝えたとして、あなたは契約を躊躇いましたか?」

「……いいえ。恐らく、私はそれでも契約をしたでしょう」

「そう言う事です。キュゥべえの言い分はまた違いますがね。私の場合は、この事実を伝えるかどうかで日和っただけです。……軽蔑しましたか?」

 

 

 仕方がない。とつばめの表情が物語る。

 確かに、知っていながら告げなかったのは不義理と言えるだろう。それを伏せて契約を認めたと言うのであれば、騙されたと言う資格がななかにはある。

 だが、その事実を知ったとして、容易く他人に言えるものでもない。

 他ならぬつばめ自身もまた、当人の捉え方とは別に、この事実を深く受け止めていた。だからこそ、今まで黙っていたのだ。

 

 

「いいえ。このような事実です、おいそれと他人に話せないのは当然でしょう。私はあなたに一度契約を止められました。その上で覚悟を決めた以上、あなたを糾弾するつもりはありません。……ですが、キュゥべえはまた別のようですね」

「――どういうことかな。ソウルジェムは君たちが魔女と戦う上で最適な形なんだけどね」

 

 

 ななかの糾弾に抗議するように、どこからともなくキュウべえが現れる。

 

 

「君たち人間は手足が損傷しただけでも満足に戦えなくなる。けれど魔法少女として魂をソウルジェムに変換したならば、ソウルジェムが破壊されない限り肉体を回復して戦うことができる。それともだ常盤ななか、キミも魂の在処とやらに拘るのかい?」

 

「……!」

 

 

 この時、ななかは直感した。

 

 

 ――キュウべえは敵だ。

 

 

 つばめが全力で止めたのも今なら本当の意味で腑に落ちる。彼女は、キュウべえのこのような一面、いや本性を、二年も前に見ていたのだ。

 ただの宝石に、自らの魂を移し替える。

 健常な人間であれば躊躇うだろう真実を、この生命体は何の感情も見せることなく言ってのけた。少なくとも、人から見て正常な存在ではあるまい。

 

 

「……いいえ。私はすべてを受け入れます。あなたに聞くことはもうありません」

「そうかい。ならボクが言う事は何もない。魔女を退治することが魔法少女の宿命だ。それさえ全うしてくれるのなら何でもいいさ」

 

 

 言外に失せろ、というのが伝わったのか、キュウべえは瞬く間にどこかへと消え去った。

 

 

「……ふう。つばめさんがあれだけ邪見に扱っていた理由がわかった気がします」

「でしょう?」

「あなたも、あの真実を受け止められたのですか?」

 

「う~ん。そうと言えばそうなんでしょう。私の場合、最初からなんとなくそうなんじゃないかっていう予想を立てていたから受け止められる準備ができていた、というのはあるでしょうね」

 

「そうですか……。つばめさん」

 

「はい」

 

「まだ、キュウべえが黙っていることはありますか?」

「ある」

 

 

 即答だった。

 

 

「……成る程。あれはとことん私の敵のようですね」

 

「おや、聞かないんですか?」

 

 

 そう答えたと言うことは、つまりつばめもその『隠し事』について知っていると言う事だ。キュウべえが黙っているあらゆることを、つばめはこの際すべて伝えるつもりでいたのだが……。

 

 

「ええ。あなたが黙っていると言う事はよっぽどのこと。それだけの事実を受け止めるのであれば、私もまた、相応の時というものがある。これは、私の納得の問題です」

 

 

 ななかもそれなりに動揺してはいるのだ。だが所謂見栄を張っており、魔法少女の先達たるつばめと互いに遠慮なく付き合えるだけの度量を身につけられたと、ななか自身が判断できた時に改めてその真実を聞こうと決心していた。

 

 

「はいはい。……それで、あきらさんにはどう説明します?」

 

「流石にあきらさんにそのまま伝えるのはよくないでしょう。魔力が切れた、とでも説明しておきます」

 

「まあ、それなら納得も行きやすいでしょうね」

 

「それでですねつばめさん。私、あきらさんとチームを組もうと考えているんです」

 

「……ほう?」

 

「あきらさんだけではありません。他にも仲間を募り、力を合わせて魔女を倒すべきだと思いました」

 

「それは善い判断ですね。それでまずあきらさんですか……。確かに、あの竹を割ったような性格は魔法少女として組むのにはいいですね(あと顔がいいのが二人になる)」

 

「ええ。それと、彼女が追っていた使い魔もまた、私の復讐相手に連なる存在。同じ目標を追う者として、手を組むのにこれほどふさわしいものはないかと」

 

「……驚いた。そこまで考えてるんですね」

 

「ふふ。少しは見直してくれましたか?」

 

「何を今更、ななかさんの腕前には、私はいつも驚かされてますよ」

 

「あら、お上手ですこと」




◯常盤ななか
「真の復讐相手」を見定めたいという考えが能力に昇華したようだが、なぜそう思ったのかを考えると、やはり高弟たちの方針転換は目に見えて不自然だったのだろう。それこそ、魔に誑かされたように。

〇琴織つばめ
彼女を作るに当たって、主要なモデルは「シオン・エルトナム(メルブラ)」と「フィルギア(忍殺)」。礼儀正しく飄々としながらも、容赦なく敵を屠るキャラになった。

〇志伸あきら
ボクっ子空手少女。
後輩女子に告白された伝説がある。
ソウルジェムを落っことしたり、武器にソウルジェムがついていたりととにかく危なかっしい。
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