つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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第十二話 純美雨 結束の掟

 あきらさん、かこちゃんの二人を仲間に加え入れた私たちは、次に魔女の影響があると思わしき場所を調査していた。

 その中でななかさんが目を付けたのは、水徳商店街と同じように土地買収騒動が起こっている南凪区の商店街だった。南凪区は神浜の港湾地帯であり、国内有数の遊園地を彷彿とさせるアミューズメント施設のミナギーランドや、年に数回行われる同人誌即売会の会場になる展示場が存在する観光地域として有名だ。

 

 そのためかあそこは神浜市の中では東西のどちらにも属さぬエリアとして、住民の対立関係から外れたエリアとなっている。それは魔法少女の世界でも同じで、中央区とはまた別に、どちらの派閥にも属さぬ空白地帯として扱われている。

 

 つまり、それは個々人の縄張り意識が高いと言う事。私以外の三人はまだ魔法少女になり立てで個々の縄張り意識が低く、不用意な行動が余計なトラブルに発展する可能性を考慮する必要があった。

 そう言う事もあって、ある程度現地の調査を行うべく私は行動を起こした。

 

 

「南凪区の魔法少女について知りたいだと?」

 

「ええ。あなたならよく知ってるでしょう?」

 

 

 私はひなのさんを呼び出し、話を聞いていた。

 ひなのさんは中央区の魔法少女ではあるが、彼女の通う学校は南凪自由学園。区を跨いだ行動範囲を持ち、四年のベテラン経歴を持つひなのさんならば南凪の魔法少女にも詳しい筈だと思ったからだ。

 

 

「一応聞いておくが、何のために南凪まで行く? あそこは西も東も関係のない空白地帯だが、別にグリーフシードに困っているわけでもないだろ?」

 

「私たちが追っている魔女の痕跡が南凪にあるからですよ。神浜中で問題になっている土地騒動……あれの裏に魔女がいます」

 

「成る程な。そういうことならば情報を提供してやる。南凪区にいる魔法少女はそう多くない。そういう問題に関わりそうなのは、純美雨(ちゅんめいゆい)っていう魔法少女だな。活動経歴はアタシより一つ短い三年で、一応南凪の魔法少女の代表みたいな感じだな。地元の『蒼海幇(そうかいへい)』って組織の一員で、アイツは神浜全体の事にはあんまり関わろうとしてこないが、地元が巻き込まれたなら話は別だろうよ」

 

「……マフィアか何かですか?」

 

「アタシも最初はそう思ったけどな。本人曰く一応綺麗な組織だとよ。昔はだいぶそっち側にだったらしいけど、今はむしろそういうのを追い出す側らしい。街の人たちからも大事にされてて、気の良い奴だよ」

 

 

 組織の名前が何となくそれっぽいので聞いてみたら、ひなのさんは否定してきた。魔法少女はその強化された身体能力や魔法の便利さから、そうしたアングラ寄りの組織と結びついていることがたまにあると音子さんから聞いたことがある。七枝にはいなかったけど、神浜は大きな街だしいるかもしれないと思い、興味本位で聞いてみる。

 

 

「ところでこの街にそういう系の連中と関わっている子とかいるんですかね?」

 

「工匠区に一人いると十七夜に聞いたことはあるが、実際に会ったことはないな。まあそいつ自体他の魔法少女とは関わらないようにしてるって話だ。下手に関わるのはやめたほうがいいだろうな」

 

「そうですね」

 

「ま、アタシが知ってるのはこれぐらいだな。美雨に会いたいなら、紹介の一つぐらいならしてやるが……」

 

「そうしてくれるのはありがたいんですけど、今の活動の主体はななかさんなんで、そっちの意見を聞いてからですね」

 

「常盤ななか……だったか。最近契約したばかりなんだってな。どうなんだ、お前から見て」

 

 

 ななかさんの事が話題に出ると、ひなのさんがそんなことを質問してきた。

 

 

「ん~中々筋はいいですね。武術を学んでいるだけあって武器の扱いもちゃんとしていますし、何より戦いに迷いがない。中々見ない逸材だと思いますよ」

 

 

 いくら魔法の力を使い、武器を振り回しているとはいえ、魔法少女は元々は荒事とは無縁の普通の女の子。多少喧嘩で殴り合ったぐらいはあっても、殺し合いを経験している子はほとんどおらず、魔女退治も慣れるまではかなり臆病な子も多い。怪物相手とはいえ、武器を持って殺す気の一撃を生きている存在に振るうなど、平和ボケした日本の女子ではまず無理だ。

 

 しかし明日香さんやななかさん、あきらくんなど武道を経験している子は、試合形式とはいえど相手に力を振るうことに対しての慣れが存在しており、その経験は魔女退治にもちゃんと反映される。魔法少女の実力は素質と願いによって大きく変化するとキュゥべえは言うが、それと同時に技量や素の身体能力も重要になる。魔法少女は魔力で肉体を強化するが、決して皆同等に強化されるわけではない。強い魔力で大きく強化している子もいるが、そうでなくとも強化前の下地が整っていれば強化後の数値もまた大きくことなるのは当然だ。2の身体能力を5倍するのと、5の身体能力を5倍にするのでは15もの違いが出てくるわけだ。

 

 そして強化された肉体を操るのは、当然本人が持つ技量だ。魔法少女はそれぞれ固有の武器を持つが、契約した瞬間にその武器の達人になるわけではない。彼女たちは皆、魔女との戦いや訓練を通じてその技を磨いていく。やちよさんやみふゆさんは6年間と言う長い経験で培ってきた技量を以って神浜の顔役として君臨し続けたと言っても過言ではないだろう。

 

 というかぶっちゃけ魔女に物理攻撃が通用するんだから、剣の達人に魔力を付与した刀握らせれば使い魔ぐらいなら倒してしまえる。粛清機関が魔法少女でないにも関わらず魔女狩りを行えるのはつまりはそういう理屈なわけで。福詠神父をはじめ、聖堂騎士と呼ばれる者は修行に次ぐ修行で魔女狩りの技術を身に着けた達人たち。生粋の戦闘者なのである。

 

 何が言いたいのかと言えば、戦闘行為への適正、願いの元になる因果力、固有魔法への理解、その他もろもろをひっくるめて魔法少女の才能であり、ななかさんはそのいずれにおいても高い水準にあるということだ。固有魔法も直接戦闘に帰依するものでないにしても、中々に応用や発展の余地がありいずれは「化ける」だろう。

 

 

「ほう。ベタ褒めするじゃないか」

 

「まあね。私のような平凡に比べればあれは天才、秀才の域です」

 

「……それ、ボケで言ってるのか?」

 

「いやですね、冗談に決まってるじゃないですか」

 

「それはそれで鼻に付く物言いだな……」

 

 

 いくら自分がクラスの中では目立たない位置にいるからと言って、魔法少女としての境遇まで普通とは思っていない。むしろ自分ほどぶっ飛んだ経歴の持ち主もそうそういないと自負している。まあ所謂ラノベの俺普通の学生ですよジョークだ。

 

 

「とにかくうちの後輩は期待の新人ですよってことだけ。もしかしたらですが、参京の代表にまで上り詰めるかもしれません」

 

「オマエじゃなくてか?」

 

「私はどこまで行っても外様ですよ。あなた達が昔から悩まされてきた東西の軋轢とやらも割とどうでもいいですし、多分その辺りに馴染むことはずっとないと思います」

 

「はっきり言うな……。まあ、アタシとしてはそうして馬鹿らしいと言ってくれるほうが気持ちはいい。この街は少し……というかかなり歪んでる。それこそ、魔法少女の世界にまで持ち込まれるぐらいには深い歪みがな。だからこそ、外から来たオマエみたいな存在がそうして意見を言ってくれるのは安心できる」

 

「私は正直、自分と周りの人たちを巻き込まないならお好きにどうぞってだけですよ。そんなクソ事情にわざわざ関わりたくないだけなんで」

 

 

 東と西のテリトリー関係はそういうものかと納得した。むしろ勢力関係の把握としてはわかりやすいまであった。だが、そこに差別感情だとかを持ち込まれるのは面倒なのである。私はどちらかに肩入れすると言うよりは、両方の間をうまく渡り歩いていきたい。周りの異変に素早く対処できるように、それぞれの情報を得られる都合の良い立場でありたいだけ。父もそういう狙いがあるからこそ、魔法少女限定のアルバイトなんて受け入れ始めたのだ。

 

 

「それでいいんだ。この街の問題なんてクソったれの一言で済むんだからな。だからこそ、オマエがこの前の問題を横から掻っ攫っていったのは痛快だった。いつものようにやちよさんたちが解決するかと思ったが、一番の決め手が新参者のオマエだったと言う話は、中央区の魔法少女の間じゃあ噂話だよ」

 

「……なんかこそばゆいですね。使い魔一匹ぶちのめしただけなんですが」

 

「魔法少女に化ける使い魔なんて発送自体、誰も思いつかなかったからな。蓋を開けたら単純な理屈だったのに、そんなものはないと思い込んでいた。つくづく常識なんてものがない奴らだと改めて実感したよ」

「そうですねえ。この調子だと、()()()()()()()()()なんてのもどこかにいるかもしれませんね」

()()()()()みたいにか? ゾッとしないなそりゃ」

 

 

 そんな感じで雑談も混ぜながらひなのさんから情報を得ることができた。

 

 で、そのことを要約してななかさんに伝える。

 

 

「成る程。ありがとうございます、流石はつばめさんですね」

「それほどでも。それでどうします? ひなのさんの紹介なら話はスムーズに済むと思いますが」

「……いえ。その純美雨という魔法少女。彼女も件の魔女の被害者であるなら、私たちとも利害が一致します。ここは、私たちだけで行きましょう」

 

「え、それなら猶更紹介を受けた方が……」

 

「美雨さんの人となりや実力のほどもこの目で確かめておきたいのです。……一つ考えたのですが、用心棒、というのはどうでしょうか?」

「……なんですと?」

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって南凪区。

 夜の商店街。その一角にて剣戟の音が響き渡る。 

 正確には、拳と拳のぶつかり合う音、なのだが。

 

 

「おーやってますねー」

「あきらさんを相手に一歩も退かず……なるほど、噂に違わぬ実力者のようです」

 

 

 ななかさんと一緒に、あきらさんが美雨さんと戦っている様子を裏路地から眺めている。

 

 どうしてこんな状況になったかと言うと、元々ななかさんは神浜で問題となっている地上げ業者に仲介人になりすますことで接触し、魔女に対する情報を得ようとしていた。そしてその捜査の手は南凪区に登ることとなり、その下調べの中で私の伝手、つまりひなのさんから美雨さんの情報が得られた。それを聞いたななかさんは、何をどういう訳が実力を拝見したいと言い、用心棒としてかこちゃんを送りこむことにした。私たちはその背後からかこちゃんを支援しつつ、魔女に繋がる情報を集めるという計画だった。

 

 それで、かこちゃんが潜りこんだ先は商店街の茶館。そこは蒼海幇の人間が会合に使っている店で、美雨さんもその中の常連だった。どうやらこの店主は、まとまった金と新しい店が欲しいらしく、地上げ屋に対して蒼海幇の情報を売り、的確に彼女たちのパトロールを妨害できるように支援していたらしい。当然そんな真似をしていればよほどうまくない限りはボロがでるわけで、案の定美雨さんに見つかって制裁を受けようとしていた。

 そこにかこちゃんが用心棒として現れ、店主を気絶させた上で美雨さんと戦う。とはいえ、まるっきり勝負にならずあきらくんにバトンタッチ。功夫と空手、異種格闘技戦のゴングが鳴った。

 

 以上が、ここまでの経緯である。

 

 ……しかし、ななかさんがここまで奇天烈なことを言い出すとは。

 

 というか、何をどうやったら魔法少女とはいえ一介の中学生が裏社会の人間と接触できるんだろうか。私の父もそういう連中との付き合いはきっぱり断っている側だし、提供してもらった情報もどういう組織が関わっているかをリストアップしただけだ。それをななかさんがどう活用するのか疑問に思っていたが、まさかこんな大胆な行動に出るとは思っても見なかった。かこちゃんを用心棒としてすんなり受け入れたあの茶店の店主もそうだが、割とこの世界には魔術組織以外にも魔法少女のことを知ってる者は多いのかもしれない。

 

 ちなみにだが、はっきり言って今回私が出る幕はない。美雨さんと会話するなら無害オーラ持ちのかこちゃんが適任で、実力のほどを見るなら格闘術に長けたあきらさんのほうが向いている。そのため私はこうして、後詰めとして控えるに留まっていた。

 

 

「かこちゃん大丈夫? どこか深い傷とかない?」

「ありがとうございます。大丈夫です!」

 

 

 心配するときらっきらの笑顔を向けて来るかこちゃん。やばい。この子健気すぎる。お姉さん世話を焼きたくなっちゃうじゃないかもう。ほれほれ撫でり撫でり。

 

 

「よーしよしよし。遠慮せずに頼っていいですからね」

「わ、ひゃあっ!? あの、ななかさん行っちゃいましたよ……?」

「え、マジ?」

 

 

 なんて遊んでいたら、どうやらななかさんが二人を止めに入っていた。

 出遅れないよう、私たちも彼女の後を追う。

 

 

「私たちも行きますよかこちゃん」

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 今日は全くもって奇妙な連中が現れるな、と美雨は思った。

 

 蒼海幇の情報を地上げ業者に流していた馴染みの茶館の店主を追い詰めたと思ったら、店主が用心棒を差し向けてきた。

 

 それまではいい。

 

 問題はその用心棒が、自分よりも年下の少女であったと言うことだ。

 緑の髪をした可愛らしい少女。とてもではないが荒事などできるわけがない人畜無害な大人しい雰囲気なのに、店主はなぜか自信満々。仲介人から紹介を受けていて実力は折り紙付きだと得意げに語るが、明らかに騙されている。

 

 だからといって、地上げに加担している以上容赦をするつもりはない。

 

 勇猛果敢に突撃してくるその少女を正面から受け止める。

 すると、美雨の脳内に少女の声が響く。美雨は知っている。これは魔法少女同士が使う念話だ。それを使えると言う事は、つまりこの少女もまた魔法少女。

 

 どういうわけかと聞こうとする美雨だが、その少女は踵を返し店主を当身で昏倒させた。大体の事はわかったという少女だが、美雨にはますます意味が分からない。

 

 魔法少女として戦ってほしいという少女だが、その前に美雨の身の上話を聞いて来た。どういう経緯で魔法少女になったのか、ということを。

 なぜそんな事を話さなくてはいけないのかと思ったが、目の前の少女の一生懸命に向き合おうとする様子を見ていると、どういう訳だかつい話してやってもいいかという気持ちになってしまい、つい自分が契約をするきっかけとなった3年前の事件について話してやることにした。

 

 

 殺人事件。嵌められた蒼海幇。組織と香港に住む父の危機。そこに現れたキュゥべえ。「組織を守りたい」という自分の願い。

 

 ひとしきり聞いた少女は感心した素振りを見せたが、やはり美雨と戦う意志は変わりないらしい。仕方がないので美雨は相手をしてやることにした。どういう理由かはまだ不明だが、それは彼女をひとしきりあしらってからでも問題は無い。

 

 魔法少女だったとはいえ、少女はあまり戦闘向きではないのか戦闘は終始美雨が押していた。

 

 

「こ、これは私じゃとても相手にならないですね」

「自分から仕掛けておいてなんて言い草ネ……!」

「申し訳ないです……でも、代わりが来ますんで……!」

「……代わり?」

 

 

 そそくさと路地裏に引っ込んでいった緑髪の少女と入れ替わるようにして出てきたのは、銀髪の少女。彼女もまた魔法少女であった。

 

 

「ボクの名前は志伸あきら! かこに代わって立ち会わせてもらうよ……!」

 

 

 志伸あきら。と名乗った魔法少女は、空手による格闘術で美雨と打ち合った。美雨もまた、中国拳法の「蒼碧拳」で迎え撃ち、両者互いに一歩も退かぬ戦いが繰り広げられた。

 

 そうして、お互い有効打を決められず次の一手で決着をつけようとしていた。

 

 

「それまで!」

 

 

 突如として、凛とした声が響いた。

 

 

「誰ネ……!?」

「はぁ……疲れた。止めるの遅くない?」

 

 

 辺りを見回す美雨と、何やら肩を落とすあきら。どうやら今の声の主はあきらの関係者のようだ。

 

 

「失礼しました……。つい見とれまして……!」

 

 

 二人の腕前を讃える言葉と共に現れたのは、紅色の髪と同じ色合いの衣装を身に纏った少女。彼女ももれなく魔法少女であった。

 

 

「ふぃー……。追い付いた」

「す、すみません!」

「お前は……!」

「あ、さっきぶりですね……! 私は夏目かこです」

 

 

 さらに後ろからやってきた二人の魔法少女。片方は先ほど用心棒として現れた緑髪の少女。そして次に紫の色合いを感じさせる黒、どことなくカラスを思わせる色合いの髪をした少女がいた。美雨は一目見て、おそらくはこの濡羽の魔法少女が最も強いと直感した。殺気はないが、仮に美雨が襲い掛かろうとすればいつでも迎撃できるような警戒心を読み取ったのだ。

 

 

「いやあ、見てましたよ貴方とあきらさんの立ち合い。ひなのさんが言っていた通り、三年も続けてるというだけの実力者だ」

「……都だと?」

「申し遅れました。私は琴織つばめ、事前に都ひなのさんからあなたの話は聞いてました」

 

 

 濡羽の少女が出したその名前は知っている。中央から南凪に通う都ひなのと、南凪から中央に通う美雨。二人は行動範囲が重複する魔法少女であり、美雨が契約したてのころから魔法少女としても学生としても一年上の先輩であるひなのとは魔女退治を共にすることが多く、お互い気苦労の知れた仲である。

 だが、それ以上に美雨を驚かせたのは、濡羽の少女の名前であった。

 

 

「琴織つばめ……、お前が……!?」

「おや、知っているのですか?」

「都が言ってたヨ。中央区の鏡の魔女の事件、解決したのが琴織つばめだと」

 

 

 先日のことだ。美雨は久しぶりにひなのと会って近況報告をしていた。久しぶりということもあって話が弾み、その中には六月の折に起こった中央区の諍いも含まれていた。東西の魔法少女が中央区を取り合い、その中で起こった襲撃事件。両陣営からの板挟みとなっていた中央の魔法少女たちの相談役だったひなのが当時の事件を語る心境は察するに余りあるかと思われたが、その陰鬱な内容に比べて彼女が語る口はなんだか愉快そうであった。

 訝しんだ美雨が尋ねると、ひなのは「最近外からやってきた参京区の魔法少女が解決したんだよ。アタシたちの事情とかおかまいなしにな」と、得意げにその魔法少女の事を話した。それが琴織つばめである。

 

 あの都がここまで褒めるとはどういう魔法少女なのか。話を聞いて以来、美雨もつばめに対する興味が湧いていた。それが今、目の前に魔法少女たちを伴い、この地上げ騒動に関わってきていたことには少なからず衝撃を受けていた。

 

 

「だから違うって言ってるのに……」

「……まあ、つばめさんのご活躍は後で聞くとして。美雨さん、私たちがこのような芝居を打った理由をお話いたします」

 

 

 常盤ななか、と名乗ったその少女は自分たちの事情を話した。自分たちが追う魔女のこと、その過程でこの辺りで発生していた地上げ騒動の裏に魔女の影響があること。しかし、普通の魔女が起こした事件とは少し特殊な状況のため、仲介業者を装って、かこを送り込み他の三人で情報を集めていたと言うこと。美雨が魔法少女であることは最初からわかってはいたが、状況の把握や美雨の実力を拝見したいということでこの大掛かりな芝居を打ったという。

 

 

「単刀直入にいいます。今回の事件に絡む魔女、一緒に追いませんか?」

「……共闘……カ……」

 

 

 魔女を追っているだけならば、わざわざこんな真似をする理由はない。素直に事情を話して協力関係を結びに来た方が手っ取り早い筈。仮にひなのを通じて合っていれば、美雨も比較的好意的に応じていた。だというのに、こうしてわざわざ力を試す真似をした。それはつまり、それだけ強力な魔女が後ろにいるということ。直接実力を見なければ、仲間には勧誘できないということだ。

 

 ななかの勧誘に対し、美雨は……

 

 

 

 

 

 

「まあ、考えておくヨ」

 

 

 少し悩んだ末、美雨は答えを保留にした。

 確かに、この一件に魔女が絡んでいるなら彼女が手を貸さない理由はない。だが、それとは別に彼女には先にやるべきことがあった。

 ななかは連絡先を交換した。また近いうちに連絡すると言って、彼女達は去って行った。

 

 

「……」

 

 

 ななか達が去った後、美雨は気絶して道端に転がっている茶館の店主を見る。彼には魔女の口づけはない。つまり彼は自分の意志で地上げに加担した裏切り者だ。

 魔女を退治する前に、彼を蒼海幇の前に突き出す必要がある。それが、街の人間たちを安心させるために彼女がやらなければいけないことであり、蒼海幇の皆を納得させるために必要なことだ。

 

 

「ま、先に裏切ったのはそちらヨ」

 

 

 店主を肩に担ぎ、帰路に就く。

 金と店目当てに蒼海幇を売ろうとした男だ。それなりに世話にはなったし、むしろ好感的なほうだったが裏切った以上哀れみや情けの心はない。仮に他所の地上げ屋ならば追い払うだけで終わりだが、組織に近い人間が犯人となれば話が別だ。組織の中に裏切者がいるのではとピリピリしていた者達もこれで溜飲を下げるだろう。彼の処遇は長老たちが決めるはずだ。これまで築いてきた組織のイメージもあるから命までは取らないだろうが……。

 

 

 純美雨は夜の街を歩く。

 

 

 地上げ屋。魔女。常盤ななか。

 

 

 色々と不明瞭なことだらけではあったが、確かなことが一つ、

 

 

「はあ……次からの会合、良い店あるといいネ」

 

 

 美雨のお気に入りの店が、明日から一つ消えることだ。

 

 




〇純美雨
チャイナガール。
「事実の偽装」とかいうチートじみた固有魔法だが、ボスでもないのにこれはまずいと思ったのか2部になってナーフされた。本作は修正パッチは適用されておりません。
3年前の契約についての言及が魔法少女ストーリーなのでこっちは変わらず。

〇琴織つばめ
本人の知らない所で名前が知れ渡っているやつ。

〇魔法少女の強さについて
素質+技量+(素の身体能力×身体強化)
つまりノーカラテ・ノーニンジャ。

鶴乃ちゃんが契約したてから強かったのは素質以外にも運動神経抜群だったから説を提唱しています。
みふゆさんも衰えたとか言いながらめちゃくちゃ強いので、原作からしてそういう世界。



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