チームを結成することになって最初の週末。
私たちは今度はつばめさんに呼び出されて、彼女の家に集まっていました。
つばめさんの家兼、父君の職場であるビルの二階。
応接室として使われている部屋の一角は、現在は私たち五人以外はいません。
あきらさん、かこさん、美雨さんと共にソファに腰掛ける中、つばめさんは一人ホワイトボードを背に、何故か変身した姿で立っています。
「よし、皆さん集まりましたね。飲み物、ノート、ペン。大丈夫ですね?」
「はい」
「準備万端です!」
「無問題ネ」
「言われた通り持ってきたけど、何が始まるの?」
「それはもちろん、授業ですよ。と言う訳で、第一回魔法少女講座。始めさせてもらいますよ。と、その前にまずはこんなことを始めた理由の説明からですね」
そう言ってつばめさんは前置きを語り始めます。
「うっかり魔力を切らしてしまった。戦った魔女が予想以上に強くて手も足も出なかった……。そんな
確かに、チームを組むことになったとはいえ、私たちとつばめさん、美雨さんとの間には魔法少女としての経験という大きな差が存在します。行動を共にする以上は、そうした差は時に命取りとなる。であれば、知識を共有するぐらいの事は必要不可欠。何も知らない私たちに教えてくれるというのであれば、喜んで学ばせてもらいましょう。
「いや、私は三年目ヨ。魔法少女でいうなら私のほうが先輩ネ」
「まあまあお気になさらず。おさらいと思って聞いておいてください。なんなら、捕捉とかお願いするかもしれませんので」
「む、そうか」
「ま、というわけで。まず初めに何を説明するかといえばこれ。『魔法少女と魔女』です!」
そうしてホワイトボードに『魔法少女と魔女の関係。初級編』と記されます。
基本中の基本でありながら、実はこのことすらロクに知らない魔法少女は多い、とつばめさんは言いました。
魔法少女と魔女。魔女は災厄を振りまく存在であり、魔法少女はそれを退治するもの。そういう関係だとキュゥべえからはじめに聞きましたが、今思えばそれ以外のことをまるっきり知らないことに気が付きました。そういうものであるという認識が最初に刷り込まれる以上、深く掘り下げる機会もなく知識がそこで止まっていたということでしょう。
『魔法少女』という表題が追記され、つばめさんは話を切り出しました。
「まずは魔法少女について。魔法少女とはキュゥべえに願いをかなえてもらい、ソウルジェムを手にすることで魔法を行使する力を得た少女たちのことを表します。魔法少女はその力を使うことでソウルジェムに穢れを蓄積し、その輝きを濁らせていきます。というかぶっちゃけると魔力は魂から生じる生命力を変換しているものなので普通に暮らしているだけでもソウルジェムはじわじわと濁っていきます。なので、魔女を倒し、核であるグリーフシードを奪って穢れを移す必要があるわけです」
ふむふむ。どうしてソウルジェムが濁っていくのか。なぜグリーフシードを使って浄化する必要があるのか。キュゥべえに最初に説明されたときはそういうものだと納得していましたが、こうして詳しく原理を説明されると改めて納得がいきます。それと同時に、キュゥべえが殆ど詳しい情報を言っていなかった事を理解する。
「はい、つばめさん。質問があります!」
「お、あきらさん。なんでしょう。あと私の事は先生と呼びなさい!」
「はい先生! ソウルジェムが濁るとどうなるんですか?」
「はっきり言うと行使できる魔力が減ります。ソウルジェムが穢れで満ちる=魔力が底をつくわけですので、もし魔女との戦闘中にそうなった場合はほぼ死にます。そうでない場合もソウルジェムが濁り切ったら大変です。魔力管理には細心の注意を払いましょう。穢れは精神に悪影響を与え、ストレスは穢れを増幅させます。なのでいつの間にかごっそり減ってるなんてことも割とあります。ひどい話ですね」
あきらさんの質問に対してつばめさんは迷うことなく答えました。……ですが、途中で明らかに言葉を濁しましたね。平常時、というよりはソウルジェムが濁り切った場合に実際どうなるのかを具体的に仰りませんでした。恐らくは、ソウルジェムが私たちの魂である、という部分に抵触することなのでしょうね。
「うわあ。想像以上に大変なんだなあ……」
「ええ。
……なるほど。
つばめさんはソウルジェムについての知識をほとんど知っている。ソウルジェムが魂であることを踏まえても、わざわざ強調してまで言うほどですからよほど重要なことなのでしょう。あの遠回しな発言は恐らくは私のみに意図が伝わるようにしていますね。
かこさんとあきらさんはソウルジェムが魂であることを知りませんし、三年の経験がある美雨さんも知っていると仮定するには早計です。ここで詳細を問い詰めるのはやめておきましょう。
「とまあ、魔法少女はグリーフシードは必要不可欠なわけですが、それはもちろん他の魔法少女も同じ。魔女は害虫めいて勝手に湧いてきますが数には限りがあります。なので、それぞれが得られるグリーフシードをなるべく公平にするために魔法少女はグループあるいは個人の縄張りを保有しています。この神浜は分かりやすく大雑把に東・西・中央で別れて、後は細かくグループ分けされている感じですね。貴方がたは新米なので大目に見られていますが、そのうちまとめ役の人たちへ挨拶に行った方が良いでしょう」
「西のリーダー・七海やちよと梓みふゆ。東のリーダー・和泉十七夜。中央のリーダー・都ひなの。この四人が神浜の代表ネ」
「皆さん最低でも二年以上、やちよさんとみふゆさんは六年と、私よりも遥かに長い期間を魔法少女として戦ってきています。そしてその分、実力もずば抜けている」
七海やちよ。梓みふゆ。
その二人の名前は聞いたことがあります。七海やちよさんは有名なファッションモデルとして雑誌に何度も特集が組まれるほどの芸能人。梓みふゆさんは水名区にある歴史ある呉服屋の跡取り娘。何度か華道の展示会で顔を合わせたことがあります。あの方も魔法少女であったとは……やはり魔法少女というものは想定以上に多いようですね。
「まとめますと、『ソウルジェムは力の源、絶対に無くすなかれ』『魔法少女にはグリーフシードが必要』『グリーフシードを落とす魔女は有限なので魔法少女同士で分け合うことも大事』『ただし魔女を見たら即殺の心構えであれ』が魔法少女の基本事項ですね。ここまではいいですか?」
「「はい!」」
「ええ。色々と身になります」
これまでに魔法少女として活動する中で自然と理解してきましたが、やはりこうして説明の場を設けられるというのは非常に助かります。特にあきらさんはソウルジェムを落とした前科がありますので、ちゃんとした知識を身に着けてもらえるのはありがたいことです。
「それは重畳。では次の内容に移りますね」
つばめさんはそれまでに書いた内容を消し、『魔女について』と表題を改めました。
「簡潔に言いましょう。魔女とは、
「――」
その瞬間。私の脳内で知識のピースが組み合わさった。
ソウルジェムは魔法少女の魂。そして、魔女は穢れに満ちた魂を持つ。であれば、ソウルジェムが穢れに満ちた時、その魂は魔女へと変貌する――?
問いただす様につばめさんを見れば、彼女はわずかに口の端を歪めてみせました。……間違いない。つばめさんは私にだけ分かるように魔女と魔法少女の関係について伝えようとしました。その目論見は、成功と言っていいでしょうね。
(だが、一体何を考えて?)
私はすでに自らが人から外れた存在になったという覚悟がある。だから魔法少女が魔女になるという事実も多少の衝撃はあれどそういうものなのかと納得できた。それはつばめさんも同様なのでしょう。ですが、どうして今このタイミングで?
疑問が積もる中、つばめさんは説明を続けます。
「魔女は人の絶望を始め、怒り、嫉妬などの悪意を糧にします。これは人を直接自分の結界に引きずり込む以外にも魔女の口づけで操って悪事や自殺に追い込んだりと様々な形で絶望を回収し、自らを形勢する呪いを強化していきます。魔女は外敵から身を護るために自分だけの空間――結界を形成し、その中に閉じこもります。現実世界に魔女が姿を現さないのはこのためですね。それと基本的に魔女の姿は一般人には見えません。霊感が強い人ならば視認できますが、基本的に魔女が襲ってくるのを未然に防ぐのは専門職でもない限り難しいです」
「そうやって聞くとなんだか悪霊みたいですね……」
「いいところに気が付きましたねかこちゃん。その通りで魔女は悪霊としての性質も持っていて、神聖な場所とかにはあまり入ってこないんですよ。逆に墓場とか事故が起きた場所とかにはよくいますね。交通事故の多発する交差点とかは魔女が多く、また神隠しだの失踪だのが多発している場所も魔女が関与していることが多いですね」
つまり、魔女を探すのであれば人の密集する場所、あるいは人がいなくなってもおかしくはなさそうな場所を探すのがいいということ。この辺りはつばめさんと魔女退治をしていた時に自然と覚えてきたことですね。あまり魔女探しに慣れていないかこさんがノートに書きこんでいます。
「とはいえ、どれほど強い能力、
「親玉より子分が積極的に動く。組織の常ネ」
魔女の手足となって動くのが使い魔。故に魔女の活動を抑制し、炙りだしたいのであれば使い魔を積極的に狩るのが重要だとつばめさんは前に言った。そして使い魔は魔女が倒された後も残り続ける。だからこそ魔女の被害を無くしたいのであれば使い魔を駆除しなくてはいけないというわけですか。
「使い魔は捕食した人間の魂や霊力を親元に送ると同時に、その一部を自分のものにして力を増していきます。これが数回……ざっと四、五人ほど犠牲にすると使い魔はグリーフシードを生成できるだけの呪いを蓄え、親と同型の魔女へと成長します。そうして親元から独立した子の魔女がまた使い魔を生み出し、人間を狩って自らの勢力を広げていく。これが魔女という怪物のライフサイクルです」
「なんだかゾンビとか吸血鬼みたいだね……」
ゾンビ。確かに、魔法少女が魔女に成るのであれば、魔女は魔法少女の死体とも言える。それが人を喰らって同族を増やしていくという点で見れば、なるほど確かにゾンビという例えは間違っていない。
「そうして魔女は人を襲い、魔法少女は魔女を狩る。これが私たちの在り方です。
――では、もう少し詳しく行きましょうか」
『魔女』という表題の下、上から順に「上級」「中級」「下級」と文字が書かれる。
「大雑把に魔女といってもその姿、強さは千差万別。意気揚々と挑んだ魔女がとても敵わないぐらいに強く、返り討ちにあってしまうこともある。そのため、私たち人間は魔女がどれだけの強さ、被害規模であるかを判別するために階級付けを行っています。これら三つの区分は魔女が持つ呪いの大きさによって評価されます。
まずは『下級』。これは
次に『中級』。ある程度犠牲を積み重ね、魔力と呪いを蓄積した魔女が分類されます。ここまでくると被害が突発的なテロに集団自殺など分かりやすく社会の異常として見えてきます。私たちが追う『飛蝗』もこの分類ですね。また、今年の六月ごろには鏡の魔女という魔法少女のコピーを生成する魔女が出現し、東西で大混乱一歩手前にまでなりました。基本的に市街地で確認される魔女は中級以下なので、私たちが戦うにしても大体はこのラインまでです」
『下級』の横に『弱いが、油断はできない』。中級の横には『強い、チームを組んで戦うべし』と記さる。なるほど、段位と同じく実力の指標にはなるが必ずしもその通りに当てはまるわけではないということですね。
「そして『上級』。これは私もまだ一度しか遭遇したことがありません。ですが、その強さ・厄介さ・被害規模は中級以下とは比べ物にはなりません。犠牲にした人間のみならず、土地に根差した怨念をも吸い上げて成長した蟲毒の魔女、あれは一つの街を壊滅させるには十分でした。なんとか倒すことには成功しましたが、十回は死にかけましたし先輩方の助けがなければ死んでいたでしょう」
そう語るつばめさんの目は真剣そのもの。この数か月で実力を理解してきたが未だ底知れない部分もある彼女がそういうとは、一体どれだけ強力な魔女だったのか。
「そして、その上級の中でも最上級に位置する存在は『災厄』と呼ばれてます。これは歴史にも名が残り、キュゥべえですら警戒する文字通りの災厄です。例えば、世界を徘徊し、
「えー!? なんだかとても気になる単語が出てきたんだけど!?」
「黄道の十二体って何ですか!?」
「そこまでヨ! 二人がこれ以上を知るには時期がまだ熟していないネ!」
美雨さんの援護で
「魔法少女としての振舞いかた……?」
「あなた達なら多分大丈夫だと思いますが、それでも言っておくことが大事となる情報です。まず、私たちが扱う魔法について。これは控え目に言って強力無比です。肉体を強化して身体能力を魔女と渡り合えるだけの超人になるのは序の口。自分を人から見えなくしたり、普通なら壊せない物を壊したりとだいたいのことはできる。そして一般人からは魔法の痕跡何てわかりはしない。……なら、本当に何をやってもいい。そう考えられませんか?」
「確かに、魔法なら犯罪やってもバレない。そゆことカ」
「ちょ、そんなわけないだろう!」
「はいはいストップ。別に好きにやれなんて言いませんしやってはいけません。ですが、そういう風に考える魔法少女もいると言う事です」
「……ええ。人を越えた力を身に着けたのなら、そのように振舞う方もいるでしょうね」
魔法少女の一般社会に対する道徳。つばめさんが言いたいことはそう言う事でしょう。人であれば当たり前でありながら、しかし容易く踏み外してしまう者がいる。それをわざわざ言うという事は、つばめさんは実際にそう言った魔法少女と出会ったことがあるのでしょう。そしてそれはこの神浜においても他人事ではない。私たちは未だ会ってはいませんが、悪意を持った魔法少女というのは確かに存在するはず。
「本当にそんな人がいるんですか……?」
「魔法がなくとも悪事を働く女の子なんてありふれていますし、願いの時点で誰かを不幸にすることを願った魔法少女もいます。そのあたりあの白いナマモノは見境ありません。あれは魔法少女の素質だけで契約を持ちかけ、当人のモラルについては殆ど考慮しません。皆さんは魔法少女を正義の味方だと思っている可能性があったので、一応その辺結構世知辛い事は早めに伝えておかねばと思いました」
キュゥべえが魔法少女にする相手の善悪を考慮しない。そのことを聞き、私はあれが私にとっての敵のみならずもっと多くの……それこそ、人類の潜在的な敵である可能性を考えた。
善悪を問わないと言うのならば、つまり魔法少女として契約するのならばどんな悪事を願われようと叶えるということ。それが社会にどれだけの影響を与えられるかなど、想像するに難くはない。
しかし、それはつまり魔法少女同士で戦う……それこそあきらさんや美雨さんを相手にした腕試しの域ではなく殺し合いの領域になるということだ。もしそのような相手に出会った時には戦わざるを得ないのでしょうが……そうならないことを願いたいばかりです。
「でも、だからって魔法で好き放題して迷惑をかけるなんて許せない」
「いい正義感ですねあきらさん。ではここで一つ、あるお話を致しましょう」
――魔法少女に伝わる
魔法で
「陰陽師、エクソシスト、錬金術師。私たち魔法少女以外にも、人のまま神秘の技を操る者が存在します。そして世間からそうした魔の存在を隠匿し、社会に対して悪影響を与える者を処断する者たちも当然存在する。その中でも世界で最大規模を誇るのが粛清機関。通称『教会』。西欧の普遍的宗教を中心として世界に勢力を伸ばす、異端狩りの集団です」
「粛清、機関……?」
「ざっくりいうと魔法警察です。魔法を犯罪に使ったりしてるとどこからか嗅ぎつけてブッ殺しに来ます。これを担当する対魔女・魔法少女の戦闘員は、聖堂騎士と呼ばれる何百年に渡って魔女狩りの技術を磨いて来たプロフェッショナルです。先ほど説明した魔女階級も彼らが考案したもの。組織として魔女を狩る人々が効率的に戦力を割り当てるための基準というわけです」
「聖堂騎士……正義の味方みたいな?」
あきらさんが興味津々といった様子で聞く。確かに話を聞く限りでは、悪を倒すための組織と捉えられるでしょう。
ですが――
「それはちょっと違うかもしれませんね。どちらかと言えば処刑人、あるいは秘密軍隊の類でしょう」
「お、言い得て妙ですねななかさん。その通り、粛清機関の聖堂騎士は私たち魔法少女が人の道を踏み外した時の
あきらさんの疑問をやんわりと否定する。
異端狩り。つまりは中世にあった魔女狩りをそのまま
「そいつら知ってるネ。昔会った魔法少女、聖堂騎士名乗たヨ」
「お、流石に知ってますか美雨さんは」
「圧倒的な強さだたネ。一撃で魔女を粉砕するあの鉄拳は今でも忘れられないヨ」
「……」
つばめさんはなにやら目を逸らし、ダラダラと汗を流している。
何らかのトラウマにでもひっかかったのでしょうか。
「――と、話を戻します。粛清機関を始め、異端の管理を目的とする組織は概ね魔女をグリーフシードごと完全に消滅させます。そのためグリーフシードを糧とする魔法少女とは粛清対象でなくとも度々衝突が発生しかねません。そのため、魔女の相手は極力現地の魔法少女に任せるようにする。というのが彼らの方針です。なのでここ日本の各地にも教会の構成員が潜み、現地の魔法少女を監督しています。当然、この神浜にもいますよ」
「そうなんですね……」
「なので後日、みんなで水名教会まで挨拶に行きましょう。神浜には監督官が何名かいるようですが、その中でも元締めとして活動しているのがあそこに属する神父です」
「……あの、もしかしてその人って」
「紺染神父ですね。あの人、魔法少女一人ぐらいなら軽く捻ると思うので間違っても歯向かってはいけませんよ」
「えー!? あの神父さんそんなに強いの!?」
「神父の功夫よく練られてるヨ、あきらも一度手合わせしてみるといいネ」
あきらさんの驚く声が響く。
水名教会……私も何度か行った事があります。あれは観光地でもありますが、それ以上に神浜が発展する前、大正のころから存在する文化財のようなもの。まさかあそこが魔法少女と関わりのある場所だとは思いもしませんでした。
「まあ、私たち魔法少女の身の振り方とかも知ってもらえたところで、今日の内容を終わりとさせていただきます。皆さん、ご清聴ありがとうございました」
ぺこり。とつばめさんは一礼して今回の講義を締めました。
――そして、皆さんが帰宅した後、私はつばめさんと二人で部屋に残っていました。
「教えてくださいつばめさん。どうして私にだけ、ソウルジェムの真実について教えたのですか?」
真っ直ぐに問いかける。
あの時、ソウルジェムについて話そうとするつばめさんに対して私は待ってほしいと言った。それは偏に私が未熟であると感じたから。私よりも多くの戦いを得てきたこの人の世話になりっぱなしになるではなく、自分の手で復讐を成すために少しでも追い付く必要があるというささやかな対抗心からだ。
だからこそ、このような場を設けてまで彼女がその事実を私に告げたのかが分からなかった。
「……ななかさんは既にソウルジェムが魔法少女の魂であることを知っていて、そしてキュゥべえを信用していない。聡明なあなたのことだ。わざとらしく仄めかさずとも、魔女化の真実にはいずれたどり着いたでしょう」
「では、なぜ?」
「実のところ、私はずっとななかさんを見てきました。あきらさんの実力を見定め、かこちゃんの決意を受け止め、美雨さんに認められるだけの策を練り実行に移す、そしてそのすべてを私に頼り切ることなくやり遂げて見せた。ならばもう十分です。
――こう見えて私、上に立つ人間にはこだわりがあるんですよ」
そう言って不敵に笑うつばめさんからは、途方もない修羅場を越えてきたと確信させるだけの貫禄がありました。そんな彼女に試され、その結果としてどうやら信頼を勝ち取った。……ならば、私もそれに応えないといけませんね。
「では、僭越ながらあなたを率いてみせるとしましょうか。未熟者ですが、よろしくお願いしますね、つばめさん」
「ええ、精々この私を上手く使ってみることですね。ななかさん」
「ああ。そう言えば私の呼び方についてなのですが、年上なのですし無理に敬語でなくてかまいませんよ」
「えー……じゃあななかちゃんで」
「……ふふ。ななかちゃん、ですか。なんだか新鮮ですね」
そこまで親し気な呼び方をされるのも、小学生の時以来でしょうか。とはいえ、あの時からも私は周りの人たちから畏まった話し方をされることが多かったので、もしかしたら年の近い人からちゃん付けで呼ばれた記憶はなかったかもしれませんね。
「ところで、なぜあのように仄めかす形だったのです? 後で呼び止めて伝えればよかったのでは?」
「ああ、それですか。ただの遊び心ですよ。匂わせぶりな台詞とか暗喩めいた言い回しとか、一度やってみたかったんです」
「……」
「あっやめてそんなゴミを見るような目で見つめないでなんか癖になるからっ」
……訂正しましょう。
この人、かなり意地が悪いです。
〇琴織つばめ
今回描写した設定ですが、つばめちゃんの主観が大分入っているので全部がその通りとは限りません。
〇ななか一派とつばめちゃんの関係図(ロイス)
ダブルクロス風に現在の感情を図式化しました。〇がついている方が表に出ている感情です。
つばめ → ななか 〇有意 劣等感(期待と同時に自分よりも強い心に劣等感がある)
つばめ ← ななか 〇尊敬 憤懣(尊敬できるけどたまにウザい)
つばめ → あきら 〇好意 疎外感(顔がめっちゃいいけど体育会系のノリが微妙に合わない)
つばめ ← あきら 〇連帯感 不信(仲間として信頼してるけどななか以上に言動が読めない)
つばめ → かこ 〇庇護 不安(守護らねば……)
つばめ ← かこ 〇友情 悔悟(後悔はなくとも、忠告してもらったのに契約したことを若干負い目に感じている)
つばめ → 美雨 〇感服 隔意(中国人ということで趣味が合わない可能性を感じている)
つばめ ← 美雨 〇感服 不信感(何だか底知れないものを感じるネ)