twitterで上記のハッシュタグにて私の作品の裏設定が吐き出されております。
年が明けてしまいましたね。
こっちはこっちでゆるゆるとやっていきます。
十月。
秋だと言うのに一向に日差しの鋭さは収まるところを知らない昼間。
暇つぶしに水徳商店街をぶらりぶらりと歩いていると、街の一角に見慣れないものを見つけた。
「……なにこれ?」
『エミリーのお悩み相談室』
ポップで可愛い字でそう書かれた看板がある雑ビルの前に掲げられていた。
私の記憶が正しければ確かここは商店街の寄り合い所だ。少なくとも一週間前まではこんなものはなかった筈だ。
そこには多くの人が――特に私たちと同年代である中高生の少女が多く集まっており、かなりの盛況なのが一目瞭然だ。
「占い師……あるいはどこかのメンタリストでも来ましたか?」
人が多くて中の様子を見ることはできないが、大体女の子が集まってくる露店など知れている。特にお悩み相談などと謳って、実際は怪しいアクセとか占いとかでぼったくるのだが、そう言うのに限って悩み多き女の子たちはこぞって集まるのである。生憎私はそういう女の子全開なコミュニティとは距離を置いているのであまりそう言う話題は入ってこないのだが、まあここもその手の類だろう。
用もないのでそのまま通り過ぎようとする。
――と、その中に見覚えのある顔を見つけた。
青みがかった髪、生真面目そうな顔、紫を基調とした古めかしいセーラー服。そしてあの凶悪なまでの胸部装甲は……
「……明日香さん?」
「おや、つばめさん。お久しぶりです!」
そう、私が神浜で出会った魔法少女の中でもいきなり襲い掛かられると言う衝撃的な出会いを果たした魔法少女である竜城明日香その人である。
武道系な彼女はあまりこういう所とは縁のない人だと勝手に思ってはいたが、意外と年相応な少女な一面もあるのだなと思った私は、久しぶりに顔を見たこともあってつい声をかけてしまった。
「はいお久しぶりです。……あの、ここは一体?」
「おや、知らないのですか? ここはですね……」
「明日香、知り合い?」
明日香さんが説明を始めようとすると、ちょい後ろにいた黒髪ロングの女の子が口を開いた。ここ結構人多くて若干離れてたから気づかなかった……。
「おっと、あなたは……?」
「明日香、この人がもしかしてつばめさん?」
「ほう、私のことをご存知ですか」
このぱっつん頭の子も私を知っているようだ。
美雨といい、いつの間にやら魔法少女たちの間で名前が知れ渡ってることが最近になって分かり始めた。あまり尾ひれがつくのは困るが、適度に名前が知れてくれているなら最初の頃に地道に方々を駆け巡った甲斐があるというものだ。
「明日香やあきらがよく話してたからね。よく知ってるよ」
「む、あきらさんということはあなたはささらさんですか?」
「うん。私が美凪ささら、魔法少女の騎士だよ」
前にあきらくんから聞いたことがある。騎士を名乗り、人助けを重点的に行う魔法少女がいると。
それを聞いて『教会』の人間が私の頭に思い浮かんだが、よくよく聞いてみれば全然違った。それでまあ、このささらさんは「騎士」という存在に憧れを持っているらしく、魔法少女になったことでそのように振舞うことができるようになって全力で騎士RPをしているんだとかなんだとか。契約の動機も「人助け」というあたり、お人よし度はあきらくんといい勝負してますね。
「ほう、騎士とはまたご立派な……」
「そんな大げさなものじゃないよ。私がやりたいから勝手に名乗ってるだけだし」
「でも人に名乗れるってことは相当の自信があるってことでしょう」
「え、そう? そうかな……」
「しかし騎士ですか。私も好きですよ騎士道とか」
「え、ホント!?」
「ええ。アーサー王やシャルルマーニュとかの伝説も読んでます」
まあ、その辺の神話とかに興味持ったのは名前だけ借りた関係ない創作なのだけども。円卓ってメジャーだから色んなアニメとか漫画でも名前が使われてて、意外とモチーフを探してみるのも面白い。ファンサイトで元ネタ解説してくれる人、感謝です。
「円卓! 王道ついてるじゃん! 好きな騎士とかいる?」
「ガウェインですね。日中の能力三倍とか絶妙にチートなのがむしろ気に入ってます。ささらさんは?」
「みんな好き! でもその中で言うならランスロット卿かな。円卓はみんなかっこいい騎士たちだけど、その中でもランスロットは清廉潔白な騎士の鑑って感じで好きなの」
「でもアーサー王の奥さんと不倫したり非武装の相手をぶっ殺したりしましたよね」
「そう。王女様と不倫した挙句、国の反乱に加わるとか騎士としてあるまじきことでしょ? でも忠義と愛の葛藤の果てに愛した人を選んだ決心と、その後の国を滅ぼすきっかけになってしまったことに対する後悔がまた憎みきれないんだよ。そして兄弟を殺されたガウェイン卿との一騎打ちも憎しみを越えてお互いに譲れないものがあったことを考えると本当の騎士道って何なんだろうって悩んだりもしたけど今では騎士道は人それぞれなんだって気づいてからは騎士への憧れがより一層強くなってあ、でも場合によっては円卓ってメンバーとか人数が変わるんだけど私はやっぱり一番メジャーな十二人がベストだと思うんだけど」
「さ、ささらさん! お話はその辺りにして……」
「……あ! ごめん。騎士について話せる機会なんてめったにないからつい……」
うーんこの面倒くさいオタク感よ。
「てか、かなり詳しいですね」
「勿論。私の憧れは小さい頃に読んだ絵本の騎士だけど、他の伝説の騎士だってちゃんと勉強してるんだ」
「漫画やアニメも?」
「バッチリ!」
自信たっぷりに頷くささらさん。見るからに運動系って感じで私のようなサブカル女子とは縁のない人でもある程度話が通じるのだからいい時代になったものだと心から思う。
「っと、そうだ。ここって一体なんですか。先週までなかったですよね?」
「ん? 知ってて来たんじゃないんだ」
「ええまあ……お昼ご飯がてらにぶらぶらしてただけですので。それで、なんですここ?」
「よくぞ聞いてくれました! ここは悩める方々の助けとなる場所なのです!」
「うんお悩み相談室って書いてありますね。いや知りたいのはなんでこんなに人気なのかってことですよ。そういうので有名な人とかが来てるんですか?」
「いやそういうのじゃないんだけどね。う~ん、これはもう見てもらったほうがいいかな」
「せっかくなのでつばめさんもどうぞ!
「え、いや、その私は……」
「まあまあ。丁度行列も空いてきたし」
「いやだから行ったところで何も悩みなんて……!」
そのまま押し切られてしまい、あれよあれよと建物の中へ。
部屋の中は簡素ながらもファンシーな装飾が施されていた。確かに、ここなら女の子は緊張せずに悩みを話すこともできるだろう。
「あきら、調子はどう?」
「……え?」
まさかあきらさんも関わってるのここ?
いやまあお悩み相談とかそういうのやりそうな人だけども。もしやあきらさんがエミリーと名乗ってお悩み相談を行っていたりするのか。
なんだその面白い展開は。俄然興味が湧いて来た。
「うん、順調だよってつばめさん?」
「こんにちはよろしく~。またけったいなことに首突っ込んでますね。頼みごとを受けるんじゃなくてとうとう自分から悩みを聞くことにしたんですか?」
「い、いや違うからね? 確かにボクはここの手伝いをしているけど悩みを聞いてるのは衣美里って女のこだよ」
「あきらさんがエミリーって名乗ってるとかではなく?」
「違うよ!? なんでボクがわざわざ偽名名乗らなきゃいけないのさ?」
「いやほらあきらさん可愛いもの好きじゃないですか。だからこうして女の子向けの相談所って体でがっつり趣味に走った可能性がですね」
「あー。あきらっちイケメンだけどバリかわ趣味だもんね」
「ええ。読んでる漫画とかもガッツリ少女系が多めですよ」
「わー、わー! それ以上はストップ!」
「えー? あーしあきらっちの趣味もっと知りたいんだけどなー」
「まあ、本人が嫌がってる以上はやめましょうか……ところであなたは何者?」
いつの間にかしれっと会話に混ざり込んでいた人物に声をかける。
「あーし、
「うおっと……琴織つばめです。あなたがエミリーでいいんですか?」
「イエッス! あーしがエミリーだよ!」
なんだこの陽のオーラは。金髪ツインテールの見るからにギャルギャルしい年下女子である彼女が、どうやらこの子が相談室の主のようだ。
「なるほど。それでエミリーさんはここで人の悩みを聞いていると」
「うん。あーしとおしゃべりしてると悩みがパーって晴れる感じ。 それでー……えーとうーんと、つばめ……つばっち……つばつば……なんかちが~う」
なんかブツブツ言ってる。もしかしてそれ、私のあだ名ですか。
「ばめばめ……つばみん……んん!? ばみ……バーミー!」
「ば、バーミー!?」
「うん。これが一番ビビッと来た! バーミー!」
「お、おう……」
なんとハジけた娘なのでしょう。そんなハッちゃけたあだ名、美緒ですらつけなかったというのに。
でも特に嫌な気はしない。むず痒くはあるけれど、あだ名らしいあだ名を持ってこなかったのでこういうのは初体験だ。HNはほら、自分から名乗る偽名みたいなものだしノーカンで。
「んでんで、あきらっちの趣味は可愛い系だけど~バーミーの趣味も少女漫画なわけ?」
「少女系もある程度は読みますけど……大体全部ですね」
「全部!?」
「はい。少年少女、バトル恋愛日常ミステリ。細かい好き嫌いはあったりするけど割となんでもいけちゃうつばめちゃんです」
「物知りじゃんすごーい! おすすめとかあったりする?」
「ほーう、どのジャンルに興味がおありですか?」
この手の類との接し方は私の人生において経験が少なく、手探りで行くしかない。
こういう時は処世術として身に着けた飄々としたRPで対処する。自分の趣味を過剰にさらけ出さず、しかしムダ知識を差し込んで話のネタを提供すべし。何、メジャーどころから話を持ってくれば問題はない。それに今回は周囲に騎士オタクのささらさんと少女趣味のあきらくんがいるおかげでこの程度では引かれることもあるまい。
相手に選択権を与えながら、それとなく自分の好みを盛り込んでいく。父が使う営業テクニックだが、これが意外と日常会話やオタ活の布教にも活用できる。押し付けるのではなく、相手が自発的に選ぶようにするのがコツらしい。
しかし意外とギャルとも話できるんだな私……。いや、この子が相手の話をちゃんと聞いて返事をしてくれてるのもあるだろう。ここにいる全員が魔法少女だから心理的にオープンになっているのもある。だがこうして話してみてわかる。この子、人から話を聞き出す天才だ。明日香さんとささらさんがエミリーを相談所に据えたというのも納得できる。
そうして衣美里さん、もといエミリーと談笑し、時にあきらくんにデッドボールを投げながら会話に花を咲かせていると、部屋の外から声が聞こえてきた。
「すいませーん。ここでお悩み相談してるって聞いたんですけどー」
「あっ、閉めるの忘れてた……」
「いえいえお構いなく。入れてやってください」
そもそも私は客ではない。悩み相談に来た人の時間を潰してしまうのはもったいないので、邪魔にならないようにとっととお暇して――って、あの顔は。
「おや、鶴乃さん」
「あっ! 私のライバル!」
「いつからあなたのライバルになったんですか私は」
決闘中華ガールの由比鶴乃が私を見て叫びを上げる。
どうにも最初の決闘以降、鶴乃さんは私をライバル視しているらしい。なんでそんなことになっているのかてんで想像が……つくわ。クソみたいなだまし討ちをはじめとして決闘を挑まれるたびにあの手この手でハメ戦法使って勝ち越していたらそりゃ敵愾心を持たれるに決まってる。凝りもせずに度々私に戦いを挑んでくるガッツは嫌いじゃないですけどね。
「知り合い?」
「腐れ縁ですね。最強の魔法少女になるとか言って一時期は決闘をいたるところに申し込んでいましたね」
「あ、魔法少女なんだ」
というか魔法少女の密度多いなこの空間。
エミリー、鶴乃さん、あきらくん、ささらさん、明日香さん、私と六人もの魔法少女がこの小部屋にいるのか。
魔法少女同士は惹かれ合う……みたいなのではないと信じたい。
「もしかして、アドバイザーってつばめのこと!?」
「違いますよ。エミリーはこっちです」
「こんちゃッス!」
「ええと、エミリー、先生?」
「ちょっと、先生はマジ勘弁ね! エミリーでいいよ」
「じゃあ……エミリー」
「呼び捨てでいけちゃうんだ……」
「まあ、鶴乃さんですし。ここで立ち聞きするのもアレですし、私はここで失礼しましょうか」
「ん? バーミーは鶴ピーのマブダチっしょ? なら一緒に話聞こーよ!」
「鶴ピー!?」
秒であだ名付けたなこの子。恐るべし。
何故私が鶴乃さんの悩みを聞かなきゃならんのだ。どうせ店の味が50点なのを悩んでるとかそういうところだろう。
とはいえ、ここで断るのも何だか後味が悪い。仕方がないので共に話を聞くとしよう。
「というかここで何するの? 私はレナからビシっとしたアドバイスを貰えるって聞いて来たんだけど」
「かなり雑に言えば本音トークですね。この子滅茶苦茶トークスキル高いんですよ。だから気兼ねなく悩みを洗いざらい吐き出すことができて気分が晴れるとかそういうところですね」
「はあ……」
「ま、あなたの事だからメル君のように神託めいた言葉でも欲しかったのかもしれませんが……ここは一つ、リラックスして悩みを聞いてもらうというのはどうですか?」
「うーん。つばめがそういうなら……」
そうして鶴乃さんは悩みを打ち明けた。
「私……腕を上げたいの!」
「はあ。料理の相談ならウォールナッツの料理教室に行くのを勧めますよ? 西洋料理店ですが、まなかちゃんの技は見ておいて損はないかと」
「
「どゆこと?」
「彼女の実家、
「なる」
「あー……そっか」
「何を! どう! 納得したのかな!?」
この辺りの面々にはもうそれだけで通じてしまうぐらいには50点ぶりが伝わっていることに鶴乃さんは納得がいかない様子。でも奇抜なメニューを考えたりとかの前に普通に料理の腕を上げる努力をしろとは思う。別に私は50点でもいいですけどね。値段と釣り合っているし、店選びに困ったらあそこいけばいいとは思っているので。
「大丈夫ですよ鶴乃さん! あれだけ見事に50点としかいいようのない料理を提供できるのはむしろ誇るべきことかと」
「そんな綺麗に50点なの? 逆に興味湧いて来たかも」
「だから店の話は横に置いといて! あ、来るならサービスするよ」
面白いぐらいに追撃が飛んでくる。鶴乃さんのツッコミも加速する。そこで宣伝を忘れないあたり抜け目がない。
「ん-、要は鶴ぴーは強くなりたいってことっしょ?」
「うん」
「だったらズバリ……修行っしょ!」
「修行?」
「ああ、確かに何事も修行パートはありますね」
「修行パート?」
「イエス。古今東西、主人公は修行をするもの。漫画はもちろん、神話の英雄とて修行や試練を乗り越えることで大きな力を授かっています。であるからには魔法少女もまた、地道な修行によって新しい力を手にするべきなのです」
「そーそー! バーミーわかってるぅ!」
「でも、レナたちと訓練は散々やったし……」
「道理で私のトークに大量の愚痴が並べられてるわけですよ。大体、あなたは人との組手ばかりやってますが、一人でのトレーニングとかもやってるんですか?」
「むっ。ちゃんとやってるよ! つばめの戦い方もちゃんと学んでるんだから、これまでのように行くとは思わないでね!」
「そういう生意気言ってるとまた完封しますよ? あなたに通じそうなハメパターンはあと20種類は用意してますからね?」
「ぐぐぐぐぐ……」
ふふふ。あの程度で私のクソ戦法の引き出しが尽きたと思うなら甘い甘い。
初手金縛りなんぞ序の口。床落としに始まる地形破壊。魔法少女相手だからできるブービートラップなど多くの害悪戦法の用意がこちらにはあるのだ。
「でもどんな修行するの? いわゆる「油風呂」とか?」
『見晒せえええ! これが魔法少女の根性じゃーっ!』
「それ修行じゃなくて拷問だよね?」
ささらさん、意外とマニアックなところ突いてきますね。
「じゃあ魔女の攻撃に耐える訓練なら鉄球とか丸太を手で押し返したりするとかどうかな!?」
「うーん、私の師匠は2tのパンチを耐えられるようになれと言ってきたので文字通りパンチ力が足りませんかねえ」
「なにそれこわい」
経験談を語ったらドン引きされた。私でもアレはどうかと思う。コンクリートを拳で綺麗にぶち抜いて見せるとか、一般的な魔法少女というものの定義を越えている気がする。
「では、座禅を組んで滝に打たれるというのはどうでしょう。丸太も流せば技の練習にもなって一石二鳥です!」
「なんで丸太引っ張ったの?」
「ほほう……精神修行ですか。魔法少女には効果いいかもしれませんね」
「でも明日香、この辺りに滝ってあったかな?」
「……あぁっ!」
どうやら失念していたようだ。
鶴乃さんの頭も冷えるだろうし丁度いいと思ったのだけど。
「なんとお恥ずかしい……もはや生きておられません、自害しますー!」
「ちょ、こんなところでやめなって!」
「また始まったよ……」
はいはい。いつものいつもの。
明日香さんはおっちょこちょいというかそそっかしいというか。とにかく間違った方向につっ走る傾向があり、その度にこうして自害を敢行しようとすることが判明した。彼女と関わって二回に一回は自害が始まり、驚いたのも最初の数回だけ。どうせ魔法少女が腹掻っ捌いた程度では死なないので、今ではすっかり見慣れてしまった光景である。
「あーもう。話がぐだぐだだよ!」
そんなこんなで話が脱線し始めたので鶴乃さんも我慢の限界の様子。
このあたりでエミリーの出番だろう……。そんなことを思っていたからかエミリーが実際に口を開いた。
「じゃあバーミーが鶴ピーの修行してみたらどう?」
「え?」
え、何でそうなる?
「いやさ、バーミーってば鶴ピーのことよく見てるし。どんな修行をすればいいのかもバッチリわかってるくね?」
「なるほど……それは確かに!」
冗談じゃない。
私が誰かに修行をつけるとか無理に決まっている。
ななかちゃん達には先輩魔法少女として面倒を見てはいますが、それとこれとは話が別だ。
「いやいやいや。何でですか。そういうのは空手やってるあきらさんとかの方が適任でしょう。参京のトラブルシューターなんて異名もつくぐらいだし……」
「どうなの?」
「つばめさんの方が強いよ」
「あきらくーん!?」
畜生、裏切られた。おのれ反逆者め。心の中で
こうなっては無下に断ることができなくなってしまった。今後の事を考えればここで素っ気ない態度を取るのは色々と印象が悪くなる。
とはいえ、これも考えようかもしれない。
ここで鶴乃さんを鍛えて満足させれば、私に腕試しを挑んでくることも少なくなるかもしれない。それに彼女にはなんだかんだ光るものを感じており、どれだけ伸びるのかを見てみたくもある。
「はぁ、仕方ありません。私なんかでよければ、手ほどきぐらいはしてあげますが」
「オッケーだって! やったじゃん鶴ピー!」
「というか。鶴乃さんはそれでいいんですか?」
「うん。最強への道のりだもん。多少の屈辱は受け入れるつもりだよ!」
あっこれめっちゃ根に持たれてるやつですわ。
流石におちょくりが過ぎたと反省する。
お詫びに修行自体はちゃんと全うなものをやるから許してほしい。
と、肝心の本人意思は確認できた。
後は、視界の横で何やら興味深そうに私を見ているあきらくんに声をかける。
「あきらさんもやってみますか?」
「え、ボクが?」
「いやさっきからなんか参加したそうにそわそわしてましたし」
「めっちゃ興味深々って感じだったよね」
「うっ……。そうだよ。つばめさんっていつもアドバイスはくれるけど直接鍛えてくれることってないから気になったんだよ」
「まあ、あきらさんは基礎が大体出来上がってますからね。でも今回のはやるだけやって無駄にはならないと思いますのでどうぞ」
「やった!」
喜びの感情を顔に出すあきらくん可愛い。普段はイケメンなのに笑った顔は可愛いとか最強か?
と、いうわけで。
鶴乃さんとあきらくんを相手に修行をつけることになった。
「で、どんな修行やるの?」
「ええ。やはりこうした修行というものは実績のあるものを行うのが良いかと。
――つまりは、王道に倣います」
『映画には人生の大事なことが詰まっている』。
いい格言ですね。
◇
最初は走り込み。
河原で後ろから自転車で追随するつばめに追い付かれないように十週。
「王道って、本当に普通だ……」
「ペースを乱さず、一定のリズムで走ることです」
「はいッ!」
――その次は基本的な打ち込み千本。
「稲妻を喰らい、雷(いかずち)を握り潰すように打つべしッ!」
「言ってること全然わかんないけど、やるッ!」
――またある時は、逆さづりになって下の桶に満たした水を御猪口で上の桶に移し替える上体起こし、すなわち重りをつけた状態で行う魔力による身体強化を前提としたトレーニングを行い。
「どうしました、そんなんじゃ日が暮れますよ?」
「うおおおおーっ!」
「……ところで、この訓練ってアレだよね?」
「さて何のことやら……はんちも~♪」
「隠す気がないッ!?」
すっとぼけながら鼻歌混じりに歌い、サビの部分に突入する。ぶっちゃけ最初と此処ぐらいしか覚えていなかったりする。
「「「メンチ!」」」
ほら、やっぱりみんな好きじゃん。
――またある時は、中腰になりながら、頭と真っ直ぐ突き出した両手の甲の上、膝の上に水を満たした小皿を置いてこぼさないようにするトレーニングを行う。特別講師の美雨さんも呼んでいっそう本格的だ。
「
「ぐぅ……、けっこうキツイ……」
「ぬおおおっ……」
「ほら、バランスが崩れてますよッ!」
――またある時は、目隠しをした状態でピッチングマシンから放たれる野球ボールをひたすら躱したりした。
「よッ、ほッ、はッ!」
「甘いっ! 魔女の攻撃はこんなものじゃないですよ!」
余談だが、これよりもひどい修行を私は過去に体験している。
あの丸太を振り子にして避けるタイプの訓練といえば伝わるだろう。
と、そんなこんなで一通り映画でやっていた感じの修行を終えた私たち。
澄んだ青色だった空は、薄い橙色へとすっかり染まっていた。
「さて、これで修行は終わりです。お疲れさまでした」
「ふぃ~、疲れた~。流石にもう動けないよ」
「疲れたよ~。でもこれで強くなれたんだよね?」
「さて、それはあなた次第としか。今回やったのは基礎の鍛え直しだけですので」
実際のところ、これら一連のジ○ッキー映画な訓練の目的は身体の動かし方、力の籠め方といった基礎的な部分を徹底的に鍛えるためのもの。本来ならもっと時間をかけて行う訓練もあるのだが、そこまでスケジュールを割くつもりはないので、今日は手っ取り早く体力を使える基礎トレのみに済ませたのである。
「え~~!?」
「そりゃ一朝一夕で強くなれるわけないでしょうが。今日はあなたが焦っている感じでしたので、とにかくトレーニングを繰り返したにすぎません」
「だ、騙されたーッ!?」
「騙したとは人聞きの悪い。要するにこれは精神修行です」
「ほよ?」
「鶴乃さん。あなたは今回、身体を徹底的に動かしてみてどうでした?」
「そんなの、そんなの……あれ? なんだかすっきりしてる……」
そう。鶴乃さんは相談所に来た時の何だか思い悩む様子から一転して、憑き物が取れたような顔をしている。大方、彼女はももこさん達と訓練してもその強さから大体は勝ってきたのだろう。常に勝ってばかりの組手などマンネリが生じて当たり前。それが手ごたえの無さに繋がって知らず知らずのうちに不満を抱いていたのだろう(もっとも、一番不満なのは訓練に突き合わされ続けたももこさん達だろうが)。ならばここは、相手のいないトレーニングをさせることでその思いを発散させてしまおうという魂胆である。
「『鍛錬とは誰かを越えるためではなく、自らの在り方を見つめること』……私の先輩の受け売りですがね。魔法少女たるもの、一番大事なのは理不尽に負けない心です」
「理不尽に負けない……」
魔法少女の天敵は何か。災厄と呼ばれるほどの魔女か? それとも魔法少女を徹底的に排斥する人間たちか?
それらはすべて正しい。なぜならば、私たちを殺す要因のすべては「理不尽」だからだ。
日常の中にも潜む自分の力ではどうあがいても立ち向かえない状況。それが私たちの心に絶望を生み、いつの日か魔女へと堕とす。
やちよさんが6年もの月日を魔法少女として生き抜いたのも、仲間の死などの理不尽を乗り越えられるだけの心の強さがあったからだ。彼女を師匠と仰ぐ鶴乃さんも、身に着けるべきは実力よりもまずその心の強さなのだ。
「おお……。それならなんだか強くなったような気がしてきた!」
「ええ。満足したなら何より」
「つばめさん、悪い顔してるよ……」
む、それは人聞きの悪いことをあきらくん。私はエミリーたちから請け負った相談の役目を全うしたにすぎません。肝心なのは根本的な解決ではなく、本人の満足なのですからこれでいいのです。
――まあ、それはそれとして。
折角なので、鶴乃さんには私の疑問というか忠告をぶつけることにする。
「あと、これは完全におせっかいですが鶴乃さん」
「ん?」
「初めて会った時から思っていましたけど、あなた何だか生き急いでいませんか? 戦いに全力、店の手伝いにも全力、挙句の果てには人とじゃれ合うにも全力。……そんなんじゃいつか息切れどころか心根果てて二度と立ち上がれなくなりますよ」
私の言葉に鶴乃さんは、少し逡巡した後に俯き、
「……わかんないよ。つばめには」
と、か細い声で呟いた。
顔を伏せたその表情は私からは見えることはなかった。
……強くなりたいという彼女の思いは、店の評判に対しての不満ぐらいに思っていたけれど、もしかすればそれ以上に根が深い問題かもしれない。
「でも、ありがとう。……ねえ、もし辛かったら頼ってもいい?」
「まあ、それぐらいなら」
一応、友達だ。珍しい鶴乃さんの弱音ということもあり、その頼みを首肯する。
「うん。忘れちゃダメだからね!」
そうして再び顔を上げた鶴乃さんの笑顔は、いつもより嬉しそうだった。
〇琴織つばめ
バーミー。なんだかんだと付き合いがいい。
オタク知識は浅く広く。時にニッチに。
〇美凪ささら
騎士に憧れてる魔法少女。ささらん。
本作では騎士物語フリークに。
〇木崎衣美里
エミリー。最強コミュ力の持ち主。
流行り物以外は詳しくない。勧められたらなんでも見てみるタイプ。
〇由比鶴乃
つばめのことは数少ない同年代魔法少女兼ライバルみたいな気安い関係。
今回の話は彼女のMSSから。
好きなジャンルはアクション。
●????
『由比鶴乃の弱音』を獲得しました。