つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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ターニングポイント。


第十七話 メルの最も幸運な一日

『最新型のセンサー、専用の通知システムであなたの暮らしを守ります。平和と勝利のビクトリーアームズ』

『皆さんの平和を勝ち取ります! ビクトリーアームズ!』

 

 

 朝。

 すっかり見慣れた警備会社のコマーシャルを背景に、牛乳でふやかしたシリアルを口に運ぶ。

 

 ビクトリー・グループ。通称・(ヴィクトリー)社という世界的に有名な複合企業体は、特に重工業分野では世界でも随一の規模を持ち、日本においては勝鬨重工(かちどきじゅうこう)と言う名前で支社が置かれている。

 そしてその技術力を生かした警備会社ビクトリーアームズは最新鋭の警備システムやよく訓練された警備員などが評判で、国内有数のシェアを誇っている。仕事で関わる物件の三つに一つはビクトリーアームズのサービスが入っているというのを以前父が言っていたことを思い出す。

 昨今はテロや暴動なんかで乱れがちな中で、こうして人々の生活を護っている存在がいるのというのは魔法少女の身であっても安心感を覚える。

 

 まあ、いくら魔法少女とは言え、一学生の身分に過ぎない私にはそう言った社会の事情はあまり興味が無く、この後に再開するニュース番組の方が本命だったりする。

 

 

『それでは土御門アナの十二支十二星座占いのお時間です』

「お、始まった始まった」

 

 

 コマーシャルが明け、ある意味朝のメインイベントが始まった。

 十二星座占いに干支を掛け合わせて百四十四通りの運勢を出すというニュースとしては尺を取り過ぎていながらも的確に当たる独特の占いが学生の間でウケ、現在大人気の占いコーナーだ。

 土御門恋春アナウンサーもこれまた美人であり、そっち方面での人気も多いとか。確かにこの朗らかな笑顔は朝の時点で疲れているリーマンたちの清涼剤になるだろう。

 

 

『ではまず最下位の方から発表しましょう。今日一番ついていないひとは……牡牛座のあなたです。今日の運勢はよくありません。ちょっとした油断が思わぬ危険を招いてしまうかも』

「おおっと、君じゃないかつばめ」

「うっさい」

 

 

 揶揄うような父の声を黙らせる。

 しかし朝から運勢悪いとかテンション下がるなあ。

 でもまあ、ここからさらに干支で分けられるわけだし、もしかしたら最悪の中の最善という可能性はある。

 

 

『その中でも最も危ないのは……でました! 酉年のあなたです!』

「え」

 

 

 ちょっと。私、酉年なんですが?

 

 

『今日のあなたは何もかもが挙動不審。人に隠したいと思っていることが周囲に知られてしまうかも』

 

 

 そら挙動不審になるわ。そんな予報されたら!!

 

 

『ですがここで、幸運を掴むためのアドバイス! その不幸は何かを隠したいという思いが呼び寄せているのかもしれません。だからいっそのこと堂々と胸を張って一日を過ごすことをお勧めします』

「だってさ。今日はオープンに過ごしてみるのはどうかな?」

「何言ってんですか。人にバレても困る事なんて私にはありませんよ」

 

 

 私はクラスでこそ目立たない人間を装って入るが、別に人に知られたくないことがあるわけではない。オタ趣味だって昨今では市民権を得ており、よほど鬱陶しく布教するなどの真似をしない限りは一昔前のように後ろ指を差されたりクラスのさらし者になることはまずないだろう。

 もし懸念するべきことと言えば魔法少女のことだろうが。こっちはそもそも一般人に露呈することを考える時点でナンセンス。それに学校にはななかちゃん達を始めとして何人かの魔法少女がいることを知っている。いざという時は彼女達の力を借りればいい。

 あと思い当たることと言えば……まあこれはよっぽどのことがない限り心配しなくてもいい。魔法少女の仲間であろうとも知ることは少ない。それこそ七枝にいた時の仲間達と父ぐらいのもの。気にする必要はない筈だ。

 

 

 ……なーんて楽観視していたからだろうか。

 

 

 今日はまさしく、人生でもかなり悪い日だと後になって断言できるのであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 昼休み。

 今日はあきらくんやななかちゃんと一緒にお昼ご飯としゃれ込んでいた。

 

 あきらくんの弁当は体育系らしく、ダイエットなんて知った事じゃねえ! と言わんばかりにカロリーとタンパク質を大量に摂取できる唐揚げ大量なお弁当。

 ななかちゃんの弁当は、中身は普通だが、よく見れば綺麗にカットされたおかずが丁寧に盛られているという、こちらも個性あふれる弁当だ。

 

 

「あきらさんの弁当はいつも豪快ですね、一ついただいてもよろしいですか?」

「うんいいよ。ななかの弁当も丁寧でつい眺めちゃうよ」

「ありがとうございます。お返しに、好きな品を一つどうですか?」

「じゃあ……この春巻きもらおうかな」

「はい、どうぞ。……ふふ、お互いのおかずを交換するとは、意外と楽しいものですね」

 

 

 いい顔といい顔が近い。

 いいのだろうか、私なんかがこんな素晴らしい光景を間近で見てしまって。これなら私も弁当を作ってくるべきだったか……?

 そんな事を考えながらパン屋で買ったカツサンドとトマトサンドをもっしゃもっしゃと貪っていると、ブルブルと携帯が震え出した。

 

 

 発信先を確認すると、そこには『安名メル』の四文字。

 彼女が電話をかけてくるとは珍しい。

 ななかちゃんたちに断りを入れてから、電話に出る。

 

 

「もしもし」

『聞いてくださいよつばめさん!!』

「どうしたんですかメルくん。そんなに不機嫌そうな声して」

『つばめさんは朝のニュースを見ましたか? あの十二支十二星座占い』

 

 

 その言葉に今朝の占い結果が思い出される。

 

 

「……ええ、一応見ましたけど。それで?」

『ボクの占いだと今日は人生一番のラッキーデイって出たんですよ! なのにあのアナウンサー、今日は一番運勢が悪いって言ったんですよ!!』

「なんですと?」

 

 

 今、この子なんと言ったか?

 

 

『ボクが生涯の占いライバルと定めた相手が正反対の結果を出した。これはもうボクに対する挑戦状と受け取りました!』

「なんでそうなる」

 

 

 確かにあの土御門アナは占い本も出版しているほどの有名人だし、筋金入りの占い好きなメルくんが対抗意識を燃やすのは当然かもしれない。

 

 

「……というか、メルくんも牡牛座だったんですか」

『そうですよ。……って、というとつばめさんも?』

「牡牛座ですが」

『これは何という偶然! やはりここはつばめさんを占うと致しましょう!』

「おいこら」

『ホントはみかづき荘の皆さんの占いをしようとしたんですが七海先輩から占いが禁止されてますし、十七夜さんにも話を持ち掛けたら断られたです。ちょうど側にいた八雲先輩も十七夜さんにブロックされたです』

「そりゃそうでしょうよ……」

 

 

 メルくんの占いが因果改竄レベルで当たるのが知られている以上、そうそう占ってもらおうとする人間はいない。そのことを身を以って知っているみかづき荘の面々や十七夜さんが乗るわけがないし、友人をその被害に合わせることもない。

 

 

「てかその流れでよく私に許可貰えると思いましたね?」

『えへへ。実をいうと電話をかける前にもう占っちゃっているのです』

「……は?」

 

 

 いつの間にか今日一日の大博打の切符を切られていたという事実に、私は聞き返す事しかできなかった。

 

 

「いやいやいや何を勝手に占っているんですかあなたは」

『ちなみに結果は『すべてが人に受け入れられる日。むしろ積極的に動くべし』。うーん、土御門アナと結果が半分合っているのが釈然としませんが、良い結果なのは確かです!』

「え、いやそれ……いや、いいのか?」

 

 

 確かに朝の占いでは胸を張って堂々とするといいとは言っていた。でもそれは悪い結果を覆すアドバイスという点であって、それがメルくんの占いと同じということは、悪い結果のほうもつられて導かれると言う事では……?

 

 

『とにかく良かったですねつばめさん! あ、そろそろ次の授業の準備があるのでそれでは!』

「あ、ちょっと待ちなさい!」

 

 

 一方的に通話を切ろうとするメルくんを流石に止める。占いの結果はこの際いいとして、事後承諾で行われたことだけは抗議せねばならない。

 だが止めるも虚しく、帰ってきたのはツーツーという無慈悲な切断音であった。

 

 

「おのれ……好き放題やりやがって、今度プリン奢らせたる……」

 

 

 個人的にメルくんは可愛い後輩として見ているので、ひどい仕返しをするつもりはない。趣味や話が合うのもそうだけど、子犬みたいに懐いてくるのでつい可愛がりたくなってしまうのだ。

 

 

「どうかしたの?」

 

 

 通話での声の荒げようからか、あきらくんが不安そうな表情で聞いてくる。

 

 

「やちよさんとこのメルくんでした。何でも今朝のニュースの占いが不満で、私の運勢を占ったのでわざわざ知らせに来たみたいです」

「なにそれ?」

「占いですか……それで、どのような結果でしたか?」

「なんでも受け入れられるから積極的に行動しろとのこと。対抗心バリバリの癖に土御門アナと結局同じこと言ってるじゃないですか」

「土御門アナ?」

「知らないのななか? 朝の『おめざめテレビ』の看板アナウンサーだよ。占いコーナーで実際に占いも担当してて、的中率すごいらしいよ?」

「私、『GOODMORNING!!』派でして……。ですが、そんなに評判が良いと言うのなら明日にでも見てみましょうか」

 

 

 そんな、他愛のない話がだらだらと続くも、ここで話題は重要な方向へと舵を切る。

 

 

「ところで、例の通達についてなのですが」

「ああ。教会からの勧告ですか」

 

 

 それは今朝の話。

 魔法少女専用のメッセージグループからある連絡が回ってきた。

 何人かのグループを跨いできたそのメッセージの最初の送り主は、水名教会の紺染神父だった。

 

 

『一週間前に存在が確認された大東区の魔女について。幾度となく魔法少女諸君の手を逃れたこの魔女は工匠区、中央区、水名区への移動が確認されており、現在は新西区に潜伏中と判明。その規模、その脅威性より階梯を(中の上)、驚異性のある中級魔女として認定。現時刻を以って、我ら粛清機関は担当区域に属する魔法少女へと警告を通達する』

 

 

 粛清機関は監督下の都市に工作員、諜報員を潜り込ませて魔女の発生状況を監視しており、もし強力な魔女が発生した際には周囲の魔法少女へと勧告を行っている。これは弱い魔法少女が無謀にも挑んで戦死しないための警告であると同時に、地域の代表者などに討伐部隊を組ませるための催促でもある。勿論、これらを達成したところで教会の構成員でない魔法少女たちへの報酬など精々が多少の報奨金といくつかのグリーフシード程度で、命の危険には見合っていない。

 

 だが、魔法少女たちにはこれを無視することができない理由があった。

 

 と言うのもこの勧告、実際は言外に『仮にお前たちが討伐しないのならば自分たちの精鋭を派遣して全て掻っ攫うぞ』と言っているのだ。そうして派遣される聖堂騎士は魔女を狩るプロフェッショナルであり、その街に強力な魔女の兆しが無くなると判断するまで、魔女を端から端まで根絶やしにする。当然魔法少女にとっては死活問題だ。ある程度の話が付けられることもあるが、運悪く殲滅主義の聖堂騎士が派遣されれば目も当てられない状態になる。

 まあ、大きな街でなければそもそも教会の構成員がいないし、中級以上の魔女が発生するような状況も大体はここ神浜や首都のような都市圏であり、ほとんどの魔法少女には関係のない話ではある。

 

 

 

 ……で、そんな状況が今この神浜に起こっているというわけだ。

 

 

 

 地区を跨ぎ、神浜の外に出ようとする強力な魔女の出没は各地に震撼を生み、ひなのさんからも注意するように個別に連絡が来ていた。自分を含め腕に覚えのある魔法少女たちが戦ったが手も足も出ず、早々に退却を選ぶほどの強さなのだと。

 確かに、中級魔女の中でも上位ということは、上級魔女に成りあがる可能性のある魔女と言う事。練度の高い神浜の魔法少女が取り逃がし、他の街に流れてしまえば最早太刀打ちできないレベルにまで成長してしまうだろう。

 

 

「ま、私たちは静観ですかね。やちよさんのチームが今日討伐に向かうらしいですし、あの人たちならまあ何とかなるでしょう。担当地区から出てまで倒しに行く必要はないかと」

「七海やちよさんのところですか」

「確かに、あの人たちのチームなら大丈夫かな。鶴乃ちゃんもいるし」

「強さは一級ですからねー」

 

 

 本当に、あの猪突猛進な性格を何とかしてくれればいいんですがね。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そのまま時は過ぎて放課後。

 

 部活を終え、日が沈みかけた橙色の街並みを歩きながら家に帰っている最中の事だった。

 

 

「……今度は鶴乃さんからですか」

 

 

 音楽を聴いている最中にかかってきた着信の名前を見て、妙な偶然もある事だなと思う。

 イヤホンを外し、着信に出る。

 

 

「もしもし」

『……あ! つばめ、丁度よかった! ちょっと頼みごとがあるんだけど』

「なんですか? というかあなた、やちよさん達と魔女狩りに行ったんじゃないんですか?」

『そう! そのことなんだよ! 実は今日お店の手伝いがあるの忘れちゃってて、私だけ抜けてきちゃったの。だから……つばめに代わりに行ってくれないかなって』

「私ですか」

『うん。つばめなら私と同じぐらい強いし、みんなと一緒に戦ったことがあるから大丈夫かなって』

 

 

 なるほど。確かに筋は通っている。

 それに私個人なら鏡の魔女の一件で、ある程度はテリトリー侵犯を行っても文句は言われない権利を得ているため角も立ちにくい。

 考えれば考えるほど私以外に適任がいない。

 

 

『……私からも頼む。やちよ達が苦戦してる。このままじゃあ危ないかも』

「ひゃっ!?」

 

 

 うわっと。

 いきなりやってこないでくださいよかなえ(故)さん。

 

 しかし、普段は干渉しないように努めてくれている彼女が助けを求めて来るとは。

 

 

 ――今日一番ツイていないのは、牡牛座のあなたです。

 

 ――あのアナウンサー、今日は一番運勢が悪いって言ったんですよ!!

 

 背中がゾワリとする。

 頭から血の気が引き、思考が純化して一つの事しか考えられなくなる。

 

 まさか。

 ……まさか。

 

 ただの杞憂だと考えたい。

 だが、この感覚を気のせいと断じるには、状況があまりにも出来過ぎていた。

 

 

『どうしたの?』

「――ッ」

 

 

 スピーカーの向こうから飛んできた言葉で、我に返る。

 

 

「虫が飛んできただけですよ。――まあいいですよ、それで場所は?」

『ありがとう! 結界は新西第一公園!』

「わかりました、それでは」

 

 

 通話を切り、そのまま地図アプリで場所を調べる。

 新西第一公園――ふむ、この道のりなら途中は電車に乗った方が速く着くか。

 先ほどから妙な胸騒ぎがする。

 出来ることなら、何ごともなく倒していてくれればいいが。

 

 

『いきなりごめん。でも本当に危ないんだ……!』

「かなえさんがそう言うならかなりの強敵ってことですよね、急ぎましょう」

『うん……! ……彼女を、頼むよ

 

 

 私はまず最寄りの電車に間に合うべく、強化した脚力で駆けだした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ボク、安名メルは占いが大好きです。

 どれくらい好きかというと、本の占いでは満足できずに『ボクのオリジナルのメソッドで絶対に当たる占い師になりたい』とキュゥべえと契約を交わして魔法少女になるぐらいには好きです。

 

 それからというもの、ボクのタロットカードを使った占いは百発百中!

 本当に願いが叶ったんだと、しばらくは浮かれて魔女退治も苦にはなりませんでした。

 

 

 ……ですが、この願いによる産物がどれほど恐ろしいものかをこの後知ることになります。

 

 

 それは七海先輩たちと出会い、みかづき荘に通うようになってからのことです。

 

 どんなに突拍子もない内容でも、占いで出れば現実になる。

 例えば『悲惨、特に食事に注意、腹痛になる恐れあり』という結果が出れば紆余曲折あって鶴乃さんが腹痛になり、『水難の兆しあり』となれば鶴乃さんが奇行に走った結果みかづき荘のお風呂が壊れました。……思い返してみれば鶴乃さんばかりひどい目にあってますね。ですがいい結果もちゃんと的中してますので、きっと鶴乃さんの幸運値(LUK)と干渉しあってますねこれ。

 

 そんなことは置いといて、奇妙なレベルで的中し続けるボクの占いを見て、七海先輩は『占いの的中』ではなく、『未来誘導』こそがボクの魔法なのだと判断しました。

 そして、ボクはみかづき荘にて占い禁止令を発行されたのです……。

 

 まあ、その後もこっそりと占いをして、たびたび注意されたのです。

 

 

 そんなこんなで、危うく神浜が分断されかかった鏡の魔女の一件も過去の記憶となった秋の終わり。

 

 

 学校に行く準備をしていたボクは、つけっぱなしになっていたから流れて来るニュースのあるコーナーに釘付けになっていました。

 それは土御門アナの十二支十二星座占いというもので、その的中率は九割もあるという美人アナウンサーとしてクラスでも話題の存在でした。ここ最近はその話題で持ちきりで、それまで占い師ポジションを築き上げてきたボクが彼女にライバル意識を抱くのは当然とも言えました。

 

 一言一句逃さない勢いで、画面へと視線を注ぐ。

 そして土御門アナが告げた最下位は……なんとボクの牡牛座!

 

 

『――反対にラッキーなのは亥年のあなた! 最悪の中にこそ最善あり! どんな困難でも思い切って行動すれば、今日が人生最高の一日となること間違いなしでしょう』

 

 

 干支では最下位ではなくむしろ良いほうでしたが、それでも悪い結果なのは変わりありません。つい我慢できず、ボクは家を出る前にこっそりと自分の運勢を占ったのです。

 

 その結果、今日のボクの運勢はラッキーデイ!

 

 ふふん。何が凄腕占いアナウンサーですか、ボクの占い結果と真逆じゃないですか。

 

 

 根拠もなく勝ち誇り、完全に調子に乗ったボクは昼休みに知り合いの誰かを占うことにしました。

 

 

 とはいえ、みかづき荘の皆さんを占って今日の魔女退治に悪い影響が起きそうな結果が出るのはちょっと怖いので、十七夜さんのを占おうと昼休みに会いに行きました。断られました。

 ならばと、ちょうど十七夜さんと仲のいい八雲先輩が珍しく登校していたので占いを持ち掛けてみましたが、十七夜さんに阻止されました。

 

 クラスメイトの誰かを占うのは面白みがないので、ボクは半年前に知り合ったつばめさんを占うことにしました。魔法少女としての経験に優れ、占いを含むオカルト系の知識も豊富で、発言にところどころオタク臭さがあるつばめさんとは、それなりに気が合っているのです。

 そんなつばめさんですが、先に連絡すると絶対に断ってくると思ったので無断で占いました。ちょっと悪いなと思いながらも、以前にボクの魔法の対策を考えていたことを覚えていたので、最悪何とかしてくれるでしょうと身勝手な思いで占いを敢行しました。

 

 

 結果は、『すべてが人に受け入れられる日。むしろ積極的に動くべし』。

 朝の占いの後ろ半分と同じなのが何だか悔しいですが、悪い結果が出ていない以上は大成功といっていいでしょう!

 

 で、そのことを電話で伝えたんですが……うーん。これ、完全に怒ってましたね。

 後日会った時には何かお詫びをしたほうがいいかもしれません。

 

 

 

 そんなこんなで放課後を迎え、ボクはみかづき荘へと向かいました。

 機嫌が良すぎて占いをしたことがバレて怒られたり、鶴乃さんが家の都合で離脱してしまったりとアクシデントがありましたが、それ以外はいつものように意気込んで魔女の結界へと乗り込みました。

 

 ですが、流石は大東区から新西区まで流れ、教会が脅威だと認めた魔女。

 結界の森林を縦横無尽に駆け回る蜘蛛やノミの使い魔に決して少なくない手傷を負わされながらたどり着いた最深部にて待ち構えていたその実力は、ボクがこれまでに相手にしてきた魔女の中で一番だと断言できました。

 

 ボクたちが援護し、七海先輩が本命の攻撃を仕掛けますが、魔女の巨大な腕に阻まれて大きなダメージを与えることが未だにできていない。それどころか、隙を見つけては何本もある巨大な腕のいくつかでボクたちに攻撃を仕掛けてきました。

 魔女の攻撃は強烈で、何とか攻撃を防いでいきますが、飛び掛かってきた使い魔に邪魔をされてボクは大きな傷を負ってしまいました。

 

 

「ぐあっ……!」

「メルッ!」

 

 

 脇腹が大きくえぐれ、血が噴き出す。

 急いで回復しようとしましたが、この激戦で消耗した魔力は大きく、回復が得意ではないボクでは傷を癒すことができませんでした。

 

 

「……二人とも、ここは私が囮になるから二人は魔女の後ろからお願い」

「わかりましたッ!」

「ああ!」

 

 

 駄目です七海先輩。その作戦じゃ、七海先輩に全ての攻撃が集中するじゃないですか。

 

 七海先輩が魔女の正面に躍り出る。

 案の定、魔女は殆どの腕を使って七海先輩を押さえつける。

 その間にみふゆさんとももこさんが回り込みますが、魔女は二人に目もくれず残った二つの腕を振り上げます。

 

 

 駄目だ。駄目だ。

 いくら七海先輩でも、動きを封じられた状態であれを受けたら……!

 

 ボクは最後の力を振り絞り、七海先輩の元へと駆け出す。

 多分、ボクはこれで本当におしまいになるけど、尊敬する先輩を護って死ねるのならこれ以上のラッキーはありません。

 

 

「――ッ!? メル、駄目よッ!」

 

 

 聞く耳持たずに七海先輩を飛び越す。

 ボクは魔女の攻撃を受け止めるべく、残った魔力を振り絞って――!

 

 

「――骨・喰・噛・砕!

 

 

 その前に、死神の一撃が魔女の腕を切り飛ばしました。

 朦朧とする視界に、濡れ羽色の髪が見える。

 

 

 ――ああ、今日は本当にラッキーデイですね。つばめさん。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 批評家の魔女が放った攻撃を、メルが最後の力で防ごうとする。

 だがその前に、彼方より飛来した斬撃がその一撃を薙ぎ払った。

 

 

「――間一髪、というところですか」

「「「琴織(つばめ)さん!?」」」

 

 

 思いがけない人物の乱入に、メルを除く三人は驚愕の声を挙げる。

 あれから結界へと駆けつけ、限界まで強化した脚力で木々を飛び渡りながら突っ込んできたつばめは、そのまま落下するメルを受け止めながら着地した。

 

 

「鶴乃さんからの救援要請ですよ。あとかなえさんの

「鶴乃さん……!」

「あの子ったら……もう……!」

 

 

 ぼそりと呟いた最後の方は、やちよ達には聞こえてはいなかった。

 

 魔女は先ほどの不意打ちを受け、大きく怯んでいる。

 その隙につばめはメルの容態を確認する。

 

 

「さて……メルくん、大丈夫ですか?」

「つばめさん……」

「喋れる気力はありますね。ですが魔力が尽きかけている。これは危険ですね」

「ええ。さっきは畳みかけるつもりだったけど、こうなった以上一度撤退するべきだわ。駆けつけてきたところで悪いけど、一緒に足止めをお願いできるかしら?」

 

 

 やちよはつばめに助力を願う。

 一人増えた、という話ではない。つばめに関して言えば並みの魔法少女三人分以上の仕事はしてくれる。その固有魔法による防御無視の魔女特攻と各種妨害に優れた魔術の数々があれば、やちよと組めば魔女の討伐も十分に適うだろう。

 だが、今ここには深手を負ったメルがいる。つばめが取り出したグリーフシードで魔力を回復させ、なんとか立てるまでには持ち直したものの、これ以上無理をさせるわけにはいかない。先ほどは功を焦っていたが、つばめの乱入によって一度落ち着いた思考は撤退を選択した。

 

 

 だが、帰ってきた返事は予想外のものだった。

 

 

「そうですね。ここは私に任せて撤退をお願いします」

「……え?」

「聞こえませんでしたか? 殿は私が代わってあげますから、やちよさん達はメルくん担いでとっとと逃げてください」

「無茶よ! いくらあなたでもあの魔女は強すぎる」

 

 

 つい先ほど自分がやろうとしていたことを棚に上げ、やちよはつばめに食い下がる。

 確かに、つばめの力ならあの魔女にも十分に攻撃が通る。それでも、これだけ大量の使い魔がいる中一人きりで戦うなどできるわけがない。さきほどの自分のように魔女か使い魔、どちらかの攻撃を捌き切れずに押しつぶされるのがオチだ。

 

 

「でもあなた達ギリギリじゃないですか。メルくんとかほら、魔力が回復したとはいえほぼ戦闘不能。ここは余裕のある私がばっちり退路を確保して、あなた達は全力で結界から逃げてください」

 

 

 そこで立ち直った魔女が腕の一つを振り上げ、先ほど攻撃を加えたつばめにノミを振り下ろす。

 

 

「甘い」

 

 

 だが、その攻撃はつばめに届く少し前に出現した力場によって阻まれる。

 鳥を抽象化した紋章が描かれた魔力障壁は、魔女の一撃を完全に防ぎきって砕け散った。

 

 

「――と、このように得意ではありませんが障壁もある程度は使えます。なので、どうか撤退を。つーかこれ以上は無理やりにでも蹴り出します」

「……ごめんなさい。このお礼は必ず」

「いいからさっさと行く!」

 

 

 その発破で覚悟が決まり、やちよは振り返って三人に呼び掛ける。

 

 

「みんな聞いていたわね!? 琴織さんが引きつけている間に逃げるわよ!」

「分かりました!」

「ああ! つばめさん、後で駅ビルの限定スイーツ奢るよ!」

「うう……先輩、つばめさん……」

「喋らないで、さあ行くわよ!」

 

 

 ……しかし、因果とはかくも残酷なことか。

 

 

「駄目だやちよさん! 使い魔が!!」

「何だって!?」

 

 

 つばめは後ろのやちよ達を慌てて振り返る。

 

 ももこの言う通り、結界の外へ向かう方角にはいつの間にか発生していた蜘蛛の如き姿の使い魔が大量に陣取っていた。先ほど突っ込んできたつばめに刺激されたのか、侵入者を逃がさないように動いているのだろう。

 

 このままではつばめが一人殿を引き受けたところで、使い魔の大群がやちよ達に襲い掛かる。

 それでも彼女たちならば問題なく対処できるが、問題は今戦闘不能のメルを庇いながらそれができるかと言うこと。メルの魔力は慣れない高速治癒で刻一刻と消耗しており、このままでは最悪の事態を招く。

 

 

『人に隠したいと思っていることが周囲に知られてしまうかも』

『その不幸は何かを隠したいという思いが呼び寄せているのかもしれません。だからいっそのこと堂々と胸を張って一日を過ごすことをお勧めします』

「……仕方ない、か。ああもう、マジであの占い的中率高すぎでしょう」

 

 

 琴織つばめは腹をくくった。

 

 自分のあまり明かしたくない、ともすれば大問題になりかねない秘密をさらけ出すことになるが、やちよとみふゆは魔法少女の経験が豊富で、ももこもメルも、素直で友達を思いやれる素晴らしい人間だ。だから()()の意味を理解しても、ある程度の話は分かってくれと信じることにした。

 

 

「ごめんなさい。折角あなたが来てくれたのに、私たちが判断できなかったから……」

「構いませんよ。ですが予定変更、あの魔女はここでブッ殺します」

 

 

 つばめが言い終わると同時、やちよの元に何かが投げつけられる。

 それは穢れを溜め込んでいないグリーフシード。それも三つもだ。

 

 

「ちょっと、これ……」

「最近余ってましたので使ってください。友達の命と比べれば安いものです」

「でも、それじゃああなたの分が……!」

 

 

 最近の神浜では魔女の数が減ってきており、見つけたとしてもグリーフシードを落とさない魔女である場合も多い。そんな中で、グリーフシードの予備を三つも確保できた苦労がどれほどのものかやちよには分かっていた。

 だが、それでもつばめは自分よりも仲間の回復を選んだ。

 

 

「問題ありませんよ。私に限ればね」

 

 

 そこで、やちよはふと気が付いた。

 今はネクタイブローチとなっているつばめのソウルジェム。銀色の装飾が施されたそれに濁りは見られない。不自然なほどに綺麗な黒紫の宝石。

 ……そう思えば、やちよの脳裏に記憶が蘇る。

 

 何度かつばめとともに魔女退治を起こった時、いつも彼女は他者にグリーフシードを優先させ、自分は最後の余剰分を受け取るという形だった。

 

 

『安全な場所で回復させますね』

 

 

 つばめはいつもそう言ってグリーフシードをしまい込んでいた。

 注意深い子だな、とやちよはいつも思っていたのだが、今思えばそれすらも完全な違和感として感じられた。

 

 そうだ。

 はたして、彼女がソウルジェムの回復を自分たちに見える形で行っていたことがあっただろうか……?

 

 

「サービスです。皆さんには今から私の真の切り札を見せてあげます、他の人たちにはナイショですよ?」

 

 

 琴織つばめは批評家の魔女を真っ直ぐに見据え、自らのソウルジェムに手をかざす。

 

 

 そして――

 

 

「――異形顕現

 

 

 そう告げた瞬間。

 穢れを思わせる漆黒の魔力が、魔女の結界内に吹き荒れた。




○粛清機関
 魔法少女に魔女狩りの権限を委託しているという名目で、各地の魔女の情報を魔法少女に流している。なお、それでも討伐できないなら所属している魔法少女や戦闘員が派遣され、ついでに他の魔女も殲滅させられるので魔法少女にとっては最終手段となる。
 ちなみに聖堂騎士の実力はピンキリ。耐久力は人間なので再生能力持ちでもない限りあっさり死ぬことがある。


○安名メル
 現在高一のつばめが酉年なので、中二のメルは逆算して亥年。当然オリジナル設定なので真に受けないように。
 果たして占いが結果を導いたのか、はたまた運命に占いが導かれたのか。


○由比鶴乃
 彼女がいた場合、結界内の木々を焼き払いながら使い魔を一掃できたと思われるので、原作ではかなりの不運を引き当ててしまっていたことになる。


○琴織つばめ
 割れているはずのソウルジェム。
 決してグリーフシードを切らさないでいられた意味。
 その真相の一端が、次回明かされる。

次回、『異形顕現』
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