スターウォーズだってエピソード4から公開したし、ままええやろ。
第一話 新たなはじまり
「それでは行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい」
父に挨拶をして、新しい家を出る。
階段を下りて道に出て、少し歩けば駅に着く。
そのまま改札をくぐり、電車に揺られること数駅。
神浜市は大都市だから、比較的短い距離でも駅が存在する。地方民だった身からすれば頻繁に停車するのはなんだか落ち着かないが、何キロも駅が存在しないとか、三十分に一回しかないとかに比べれば随分と便利なのだろう。
そうして目的の駅で下りれば、道は自分と同じ臙脂色の制服を着た学生の姿で溢れかえっている。彼らと同じ道を進んでいけば、寺っぽいような屋敷っぽいような、そんな感じの和風な正門が見えてきた。
――参京院教育学園。
それが私、
ようやく、というべきか。これから、というべきか。
新しい学生生活に期待を込めて、私は最初の一歩を踏み出した。
私が魔法少女となって、もう二年が経つ。
あの日の夜から非日常へと身を投じることとなった私は紆余曲折ありながらも、多くの戦いを乗り越えてきた。そうした非日常的な日常の傍ら、学生の宿痾たる高校受験に対しても私は臆することなく立ち向かった。
七枝市は地方都市ともいえない、駅前が精々賑わっている程度の普通の街。
いわゆる進学校と謳われる有名な学校は存在せず、高学歴を狙う学生は近隣の大都市へ通う必要があった。
そういうわけで私が選んだのがこの参京院教育学園。文武両道を謳う小中高一貫の神浜では珍しくもないタイプの学校で、私は高等部の編入試験を受け、無事合格した。
元々偏差値の高めな学校ということで候補には挙がっており、かつ父が請け負う物件に神浜の物件が多くなってきたため社屋兼住処を移す意味合いも兼ねて私はこの学校を選んだ。仏教系の学校という事だが、宗教に関しては煩わしいとかの感情は無く、むしろ趣味の創作のアイデアの元になったりするので特に抵抗感はなかった。知り合いのシスターからは若干残念そうな顔をされたが、正直そっちは日本人的に合わねぇんだ。
正直言って受験は辛かった。魔法少女稼業については緩くやって時間を見つけたりしていたので問題は無かったが、それ以外の趣味に割く時間がほとんどなかったのは精神衛生的にヤバかった。元々偏差値自体は高いほうなので、徹夜する羽目にならなかったのは救いだったか。
という訳で、晴れて参京院生となった私は、生まれてから15年もの間お世話になった七枝市とサヨナラバイバイ、俺はこいつと旅に出る。と神浜に引っ越したのだった。
……え、
彼女はダメだ。受験勉強の面倒を見てはやりましたが、ハッキリ言ってこの戦いにはついていけない。合格率Cという微妙な数値を見せた彼女は、泣く泣く地元の高校に進学することになったのでした。
さらば親友、生きてまた会おう……! まあ、ときどき遊びに来ると言っていたのでそのあたりは心配してませんが。
実際、私たちが二人ともいなくなると残りの魔法少女ではカバーしきれなくなるなって不味かったので結果オーライ。私たちに魔法少女のイロハを教えてくれた先輩が留まっていればよかったのですが、あの人は各地を転々とせざるを得ないので、引き留めようにも難しかったのです……。
そう言う事情があって、私はここ神浜市で新生活をスタートしたのであった。まる。
◇
とまあ、神浜で高校デビューだと意気込んでみたは良いものの。
なんだかんだで私はこれまでと同じくいたって平凡な学生生活を過ごし始めていた。
参京院は進学校なので編入生は少ないとはいえ珍しいというわけでもなく、好奇の視線で見られたのも最初の数日間だけ。
皆が慣れた頃には、私はクラスに溶け込み今までのように一般文学少女Aの立ち位置を確立しつつあった。転校生も大体主役になれるのは最初の一週間だけというし、ことさら都会なら転校でスター気どりなどよほどの美少女でもなければまず無理である。私は可愛いけどね。
けれど、中学時代とは明確に異なる点が一つ。
「へー、皆さん中々に良い作品を書いているんですねー」
「ええ。初等部からずっと書き続けて賞を何度も取っている子もいるわ」
なんとこの学校、文学部があるのだ。
新学期が始まって一週間経った頃、私たちも参京院での生活に慣れてきただろうと言うことで、学生全員が部活道あるいは委員会への参加を義務付けているこの学校において、編入生もまた所属する部活を選ぶ時が来たのである。
そんなことをこの勤勉な学校に似合わない気だるげにくたびれた担任に告げられたHRの終わり、私は一目散に文芸部の部室へと乗り込み、こうして過去に部員の方々が書いた作品を読ませていただいていた。
そもそもこの学校への進学を決めた最後の要因は、文学部の存在だ。幼い頃から、父は仕事で私と接することのできない間を補うように多くの本を私にくれた。
故に私は多くの時間を本と接して生きてきた。それが影響して小学生のころは休み時間と放課後はほぼ図書室の虫だったし、中学時代はいくつか自作の小説を書いてみたことだってある。今となっては黒歴史バリバリなわけだが、とにかく私の生涯は読書で象られていると言って過言じゃない。
「え、嘘。これあのアニメの創作? こんなのまであっていいんです?」
「頒布物にしなければ問題ないよ。最近はそう言うのにも対応するべきだからね」
しかもその上で流行りのアニメなんかも履修していたおかげで、俗にいうライトノベルやネット小説もえり好みせずに摂取している。というか最近はこっちの方に趣味が傾きかけている。つまりサブカルチャー万歳。
そんな私を優しく受け入れるかのように、この文芸部はなんとラノベも文芸としてカテゴライズしていたのだ。
サブカル趣味が大分市民権を得てきてなお「ラノベ? アナタは文学のなんたるかをわかっていまセーン!」と言われがちなこの現代。全方位オタクな私にとって、本を読み、作品を作り、同好の志を得られるここの文学部の環境はまさに
そんな鼻息荒く部活見学に勤しむ私を有望だと見たのか、部長さんも懇切丁寧に接してくれている。これはもう……入部確定だ。
「それでどうかな? うちはいつでも新人を歓迎しているけど」
「はい! 不肖この琴織つばめ、未熟ながらもあなた達と一緒に文学ライフを満喫したいです!」
「お、おお。中々元気ある新人だこと……」
テンションが上がり切っている私はそのまま謎めいた言動で入部届を部長へと差し出した。なおこの時の私が、完全に黒歴史を作っていたと後になって思い返して悶絶する羽目になるのは余談である。
「こんなに気合入ってる子も中々いないよね。君も何か書いたりするの?」
「はい。とは言っても見様見真似ですけど……」
「そんなの皆一緒だよ。好きな作品の影響を受けてるどころか、ほとんど同じなんて日常茶飯事よ」
「あ、ははは……」
そんなこんなで部員の皆さんと世間話をしていると、部室の扉が開かれる音がした。
「あれ、静海さん。珍しいね」
「ええ、流石に今は大事な時期だもの。気は乗らないけど、顔を会わせないわけにはいかないわ」
「相変わらず人見知りだねえ」
部長さんの呆れたような声と、知らない人の会話が耳に届く。
珍しい……幽霊部員というものだろうか。文化系の部活動には大体一人はいる、所属だけの実効帰宅部のアレ。大体は帰宅部になるのは嫌だからとか、部活動よりも集まった面子で遊びに行く方が楽しいとかいう部員数を水増しするために黙認されることも多い。部活所属が義務であるこの参京院なら、確かにそういうのが一人二人はいてもおかしくはない。
そんなことを考えていると、
「ああ、紹介するよ。彼女は静海このはさん。家の事情であまり部室にいることはないけど、仲良くしてほしいな。静海さん。彼女は今年から編入してきた琴織さん。ちょうど静海さんと同じ高等部一年だよ」
「……静海このはよ。よろしく」
紹介されたのは銀色のハーフアップヘアの同級生。見覚えがないので、違うクラスに所属している人だろう。固い表情をほんの少しだけ緩めてこちらに挨拶する彼女は、冷静な印象をひとに抱かせる。
……だが、私には分かる。あれは確実に私を警戒している目だ。処世術の一環として笑顔を覚えているが、おそらく対人関係に対してかなり抵抗があるのかほとんど機能していない。幸いなのは、その顔の良さと堂々とした佇まいでオドオドした印象がないことだ。そのおかげであのツンツンした視線もクールな性格の要素として受け取られる。私がそれを看破できたのは、ひとえに隠れオタクの必須技能である上っ面を装う力を持っていたからにすぎない。
私も積極的で社交性がある振りをすることは多いが、根本的にはインドア派の引きこもりオタク。ただし集団からはぐれものにされるのが嫌なので上辺だけは社交的の殻を被る。エミュレート対象はお気楽全開の陽キャガールが親友なので問題ない。そう言う訳なので無意識に人の顔は伺いがちだし、同じく殻を被っているような人は何となくわかる。
静海さんの場合は、そもそも人と関わりたくないが故の防衛として堂々としているのだろうか。何にせよ、当たり障りのない接し方で行こう。
「はい。琴織つばめです。これからよろしくお願いします。静海さん」
「ええ、よろしく。……それじゃあ、私は向こうで読んでるから。あまり邪魔しないでね」
静海さんは窓際の方へ行き、黙々と本を読み始めた。めったに来ないうえに部員との交流も少ない。だがその佇まいは非常に絵になる。時折吹くそよ風に揺られながら夕焼けをバックに本を読む静海さんの姿はまさに深窓の令嬢。高貴な雰囲気を醸し出していることや家の事情があると言う事から、上流階級の出身なのかもしれない。そういう理由ならばああして部室に来るだけでも許されるのだろう。
「静海さんは滅多にこないけど、来るときはああやって窓際で本を読むんだ」
「そうなんですか」
「ああ。あまり騒がしくすると邪魔になるからね。というか、ここではいつも騒がしくするのは厳禁だけどね」
「わかりました。……しかし、映えますね」
「おや、わかるかい?」
「はい」
私に対して積極的にプレゼンしてきた部長もまた、同じ意見の様子。ここのトップはかなりの猛者である。
私と部長は顔を会わせ、互いにサムズアップを交わした。
◇
はてさて。
楽しい部活動も一先ず終わり、本日は下校となる。
私は部活初日から終了ギリギリまで居座ったが、静海さんはいつの間にか帰っていた。部長曰く、珍しく来る日も一時間ぐらいで帰ってしまう。だそうな。
家の事情があると言っていたし、彼女が家事を担当しているとか部活以外の習い事があるとかそんな感じだろう。私も父子家庭なので家庭以外に割く時間がないという事情の半分ぐらいはわかる。今では父が私のプライベートを尊重してヘルパーを雇ったのでそういう家事のしがらみは少なくなったが、毎日いるわけではなく週二日の家事当番は消え去っていない。だから、静海さんが色々と忙しくて部活動に参加できないという事情に私が深入りするつもりはないのであった。
「……さて、そろそろやるか」
これまでは引っ越し後の環境に慣れるとか、周囲の地理を覚える必要があるとかで自重していたが、この町で学生生活を送る以上は、そろそろ自分という存在を周りに知らしめていく必要がある。
つまり、魔法少女としての活動を開始する。
駅までの道を歩きながら、私はそっと耳の上に手をかけ、そっと
正直言ってこれからやることに眼鏡を外す意味は全くない。というかわざわざ眼鏡を外すなど愚の骨頂だと言わせてもらう。だが分かりやすいスイッチというものは重要だし、ぶっちゃけて言えば私の眼鏡は殆ど伊達だ。これも魔法少女となったが故の弊害……否、恩恵だ。目の筋肉の硬直を魔法で癒したことで回復した視力だが、それ以外にも眼鏡には外からの情報に対するフィルターの役目があると私は思っている。だから眼鏡キャラが本気を出す際に眼鏡を外すなど解釈違いにもほどがあって(ry
──と、思考が逸れた。
つまりは私が眼鏡を外すと言うのは、単純にそうした方が分かりやすいからである。
眼鏡の脱着を合図に、私の
周囲の人間の体の中心、そこに青白い光が映る。見たところ、周囲にその光を持たない少女はいない。それは私の周囲に同業者が居合わせていないことを意味しており、肝心なデビュー戦であるこの時には都合が良かった。
しかし、学校には何人かいるだろうと目してはいたのだが、いまのところ高等部で魔法少女は見かけていない。中等部には恐らくいると思うのだが、校舎が分かれている関係上中々確認しに行く時間もない。ちなみに部活中はそういうのは考慮していないので、見落としの可能性は十分ある。
そんなことを考えながら、私は周囲の人たちを観察する。
「──いた」
駅へ向かう人の中。その中にふらふらとおぼつかない足取りで歩く、くたびれたうちの男子学生。そんなものはこの周りならば見慣れた光景だろう。
だが、よく観察すればその足取りが駅などでは無く、道を外れた路地裏の方へと進んでいくのが分かる。そして何より、彼の胴体の中心に青白い光とは別に、首筋に黒い染みがこびり付いているのが、私の視界にはっきりと映った。
――魔女の口づけ。
慮外の怪物たる魔女が人に刻み付け、自分の結界に誘導したり自殺などに追い込んで絶望や怨念を回収するための捕食機構。刻み付けられたものは朦朧とした感覚に陥り、白昼夢のような状態で魔女の言いなりとなる。端から見れば疲労で注意力が散漫になっているようにも見えるので、魔女の存在を知らない一般人には判別することはできない。
速足でその学生の後を追う。入り組んだ路地は見失いそうになるが、私の視界には依然として青白い光と黒い染みが映っている。むしろ周囲に人がいなくなったことで分かりやすいまであった。
「捕まえました」
直ぐに追い付いて男子学生の肩を掴む。
当然彼は抵抗しようするが、その前に首筋についた
すると男子学生は力を失ってふらっと倒れる。すぐさま受け止めれば、気を失っているだけだと判明する。
見上げれば、五階建ての集合住宅。放置していれば、おそらくは屋上まで登って行ったかもしれない。その後は──言うまでもないだろう。
「危なかったですね……」
全く、新学期早々嫌なニュースが持ち込まれるなど最悪にもほどがある。
ひとまず男子学生をその辺に座らせる。これで当面は大丈夫だが、放置しておけばまたすぐに魅入られるだろう。そうなれば元の木阿弥。それどころか得物を奪われたことで別の人間が被害に遭いこれ以上の惨事につながる可能性がある。だからこうして見つけた以上は、ここで原因を断つ。
彼が魔女の口づけを受けてこの辺りに迷い込んだと言う事は、元凶の魔女はすぐ近くにいる可能性が高い。ぐるりと周囲を見渡せば──あった。
──虚空に浮かぶ黒い染み。
現実の狭間に潜む魔女の結界。その入り口は確かにあった。
「さてさて、初陣ですね。緊張します」
黒い染みに手を伸ばせば、入り口がこじ開けられる。
これが私たちの魔女狩りの常套手段。結界に引きこもりながら現実を蝕む魔女の棲みかにはこちらから乗り込んでいく。一般人はいつのまにか誘導されたり、魔女の移動に伴って移動する結界に呑み込まれたりする。今回は前者のケースで、この場合は魔女或いは使い魔が人間を優先的に捕食するタイプであることが多い。もしかしたら他にも飲み込まれている人がいるかもしれないので手早く済ませたほうがいい。
私は入り口を開けた結界へと足を進める。
「……しかし、なんだか懐かしいですね」
ふと、昔の事を思い出した。
それは魔法少女になる前のこと。
路地裏に入っていった
あの時の魔法少女は親友で、今は私。
さしずめ迷い込もうとしていた私は、あの学生ということか。
「原点回帰。ですね」
なんて、一人笑ってみせる。
虚空に手をかざせば、ズシリと重いものを握った感触。
身に着けていた臙脂色の制服は、紫を基調としたボーイスカウトめいた服装に変化し、その上から同じく紫のケープマントがはためく。ただしズボンでは無くスカートとニーソックス。頭にはベレー帽が被さって、私は魔法少女としての姿に変身した。
「それじゃ、上げていきましょう!」
そうして私は、魔女の結界に足を踏み入れた。
〇言い訳
元々マギレコ二次創作用に作った設定から魔法少女ストーリーを考えたのが第一部なので、神浜編のほうが書きやすいというのが本音。そのため第一部は第二部の進行具合によって情報を開示していく形となる。具体的には七枝編(エピソード1)と神浜編(エピソード2)で二年の月日が経過している。つばめちゃんは14歳→16歳というわけだ。
ちなみに本話はマギレコ本編から1年ほど前。つまりまだ契約していないキャラも多い時期である。
〇琴織つばめ
みくらさんタイプの文学系少女。ただし色々手遅れ。
〇静海このは
文学部周りは完全に捏造設定。
でも家族以外に時間を取りたがらない彼女が所属するとしたら、こういう幽霊部員ポジに収まるかと考察する。
まだ契約していない。
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(一人称パートについて)どっちが見たい?
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先にEP1を書くんだよ