つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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みふゆさん視点

感想貰えるとここどうなってんのって箇所とか説明できるし何より作者のモチベが上がります。


第十九話 みかづき荘の顛末

 情報を飲み込むのに時間がかかる。

 

 

 私たちを助けるために、魔女のような呪いと異形を行使したつばめさんの正体。

 

 魔法少女であって魔法少女ではない。

 魔女であって魔女ではない。

 生きても死んでもいない存在がつばめさんだとキュゥべえは告げました。

 

 

「理解が追い付いていないようだね。それはボクたちも同じだったよ。このような形で魔女となる運命を逃れる魔法少女が現れるのは想定になかった。彼女の置かれた状況がイレギュラーなものであったことは確かだけど、因果そのものはそう注目するほどではなかったからね」

「そう言うのはどうでもいいわ。結局、琴織さんは魔女ではないのね?」

「少なくともボクたちの定義する魔女の在り方からは外れているね。世界に災厄を撒かず、肉体へと戻った魂はグリーフシードではない。そんな彼女の在り方は、比較的魔法少女に寄っていると見ていいだろう」

「そう……。それならいいわ」

 

 

 やっちゃんの表情がほんの少しだけ柔らかくなる。

 つばめさんの本質が人を害するものであるなら、私たちは神浜西のリーダーとして彼女を倒さなくてはいけなくなる。ワタシたちへきちんと礼を通し、神浜の問題解決に手を貸してくれた彼女と敵対するなんて状況にならなくてホッとしているのでしょう。ワタシも同じ気持ちなのでわかります。ももこさんとメルさんも、つばめさんが敵ではないと知って安心しています。

 

 ですが、それで問題はすべて解決したわけではありません。

 それどころか、私たちにとって最も重大な問題が判明してしまった。

 

 魔法少女が魔女に成る。

 それがソウルジェムが魂であるということを越えた、魔法少女の恐ろしい真実が、私たちには等しく降りかかっていた。

 

 私たちの最後は、ソウルジェムが砕けて死ぬか、濁り切って魔女になるか。

 どちらにせよ、人間としてはまともな死に方をすることができないという残酷な事実は、私たちの頭を重く殴りつける。

 

 そしてよぎるのは、今日の魔女との戦いについて。

 魔女の攻撃を一身に受けるやっちゃんを庇うために、メルさんは尽きかけていた魔力で大技を使おうとしていた。もしあのままつばめさんが来ていなければ、メルさんのソウルジェムは濁り切っていた筈。そして、メルさんは魔女に成って生涯を終えていた……。

 

 今日はたまたま幸運だっただけ。鶴乃さんがつばめさんに代理を頼んでいなければ、ワタシたちの大切な仲間は失われていたかもしれない。

 

 そうでなくとも、同じような事態がこれから先起こらないという保証はない。グリーフシードを確保できない日々が続けば、そして……ワタシがさらに弱くなってしまえば、その時はいずれ来る。今度は決して避けようのない形で、魔法少女は魔女へと変わる。

 

 

 普通の女の子になりたいと願ったワタシの末路は、普通ではない死に方だった。

 何という皮肉。

 何という因果応報。

 最近になって感じた弱体化の兆しも合わさって、ワタシは自分の進む道が崩れ、底なしの奈落へ堕ちていくような錯覚を覚えた。。

 

 

「……で、神父と琴織さんは知っていたと」

「その通り。我が娘が成した反魂の秘儀。たった一度の奇跡が起こる瞬間に立ち会ったとも」

「私は義妹を通じて知った。琴織くんのような例は今までに見たことがなく、再現性も見られないことから基本的に関係者以外にはシークレットの扱いを受けた情報だな」

「仮にボクたちが魔女に成りかけても、同じことはできないってことですか?」

「……おそらくは。試したことはないですが」

「そうよね……、流石に他の魔法少女で試すのは危険でしかないわ」

 

 

 少しだけ申し訳なさそうな顔をするつばめさん。

 やっちゃんの言う通り、つばめさんが起こしたという奇跡は土壇場で足掻いた末の結果でしかない。それでも半分は魔女と同じ存在になっているのだから、決して成功とは言えない。

 

 再現性のない一度きりの奇跡。

 いや、奇跡と呼べるものでもない運命の不具合。

 

 それが彼女にできたのだから私たちにも、といううまい話は無い。

 

 自分自身にすら何故出来たのか分かっていないのだから、他人で試すような真似をつばめさんはできない。それをするぐらいなら、メルさんを助けたようにそもそも魔女化しないように立ち回ったほうが確実だ。

 

 ええ、わかってはいます。

 でも、心の中にある淀みから「ずるい」という感情が沸き上がってしまう。

 

 

「琴織つばめの在り方は非常に興味深い。魔法少女が魔女に成るという運命を乗り越えられた者は、人類の歴史を紐解いても数えるほどしかいないんだ。出来ることならその詳細を知り、魔法少女システム(システム・マギカ)の改善に励みたいところだけど、そう上手くはいかないらしい」

 

 

 その改善、というのは要するに魔女化を免れる可能性を潰したいということなのでしょう。

 キュウべえが厚顔なのは分かっていたことですが、こうも堂々と敵対するような宣言をされるのは腹立たしい気持ちになります。

 

 

「もっとはっきり言ったらどうですか? 魔女化を覆し得た私の存在があなた達にとって邪魔だと」

「確かにボクたちにはキミという存在を許容する理由はない。むしろシステムを乱す可能性を考えれば排除する必要がある。だが、キミも知っての通り、キミへの不干渉は紺染音子(こうぞめおとこ)が『蟹座の魔女』を討伐した功績と引き換えにボクたちに契約させた。それに加えてそこの白翼にも釘を刺されている。この状況での排除のコストを考えれば、キミ一人の存在は計画の誤差にもならないと判断したから安心してくれていい」

「ちょっと待って、蟹座の魔女ってもしかして……」

 

 

 やっちゃんが驚くのも無理はありません。

 何故ならその魔女の名前は、五年前に討伐されたという災厄と呼ばれる魔女の名前でした。

 

 

「その通りだ七海くん。我が義妹(いもうと)は人類がこの2500年間でたった二人のみ成し遂げた名誉を果たし、それを後輩のために費やしたのだ。全く、権利が一任されていたとはいえ、教え子の安全を約束させるためとは、あいつらしい」

「そんなに、すごいんですか? その人が……その蟹座の魔女ってのを倒したことが」

「ええ、すごいことです! 私たち魔法少女も揃って認めざるを得ない正真正銘の偉業ですよ」

 

 

 蟹座の魔女。

 あらゆる攻撃を寄せ付けない鎧と、あらゆる武器を砕く刃を持ったその魔女は、数年前まで魔法少女の間では有名でした。

 

 ワタシたちの住む街の外、そもそも日本ですらない世界の某所にて水難を司っていた魔女。

 

 黄道十二魔女(こうどうじゅうにまじょ)という、十二星座の名を持つ十二体の災厄級魔女の一体。

 それを打ち滅ぼしたという知らせを、他ならぬキュゥべえが伝えにきたといえばその凄さは伝わるのではないでしょうか。

 

 それが丁度五年前の話。魔法少女の一般的な活動期間(契約してから死ぬまで)を考えれば、私たち以外にこのことを知っているのはひなのさんや十七夜さんぐらい。キュゥべえが警告するような存在ですら、すでに過去の存在として風化してしまうのは無常感を覚えます。

 

 ……で、そんな魔女を討伐したと言うのが、目の前にいる紺染神父の義妹さんらしく、その人が自分の功績を理由につばめさんへの不干渉をキュゥべえに約束させたということらしい。

 

 

「そうだよ。ボクたちのシステムに癒えぬ瑕疵を与えた忌まわしき十二魔女。人のカタチを被り人界を玩弄する災厄の一つを琴織つばめの師である魔法少女、紺染音子(こうぞめおとこ)は撃ち落とした。ボクたちも認めたその功績を()って、彼女は琴織つばめの身の保証を約束させたのさ」

「キュウべえがそこまで言うほどなんですか……」

「えーと……話がぶっ飛び過ぎてて分かんなくなってきたな」

「そうですよね。私も最初聞いたときなんか世界観おかしくない? って思いましたもん」

「まあ、キミたちに無理に挑んでほしいとは言わないさ。アレを倒せる魔法少女というのもそうそういないからね。ボクとしてはキミたちには順当に魔女と戦って、いずれ魔女になってくれればそれでいい」

 

 

 最早隠すことなく言われたその言葉は、魔法少女がどんな存在なのかを端的に語っていました。

 

 全てはキュゥべえの目的、宇宙の延命とやらに費やされる、ただのよく燃える薪。

 夢と希望を求めた果てに、絶望に落ちることを期待される愚かな存在。

 それが、魔法少女なのだと。

 

 

「……結局は話がそこに戻るんですね」

「それがボクたちの目的だからね。実際、魔女化の真実を知ってソウルジェムを濁らせて魔女になる子は結構多い。一つのチームが一人の魔女化で連鎖的に魔女化するなんてのもしょちゅうさ。だからキミたちも「オーケー、もう黙れ」キュッ!?」

 

 

 つばめさんが指を鳴らした瞬間、キュゥべえの身体は青白い炎に包まれ、あっという間に灰と化しました。

 

 

虚火(うつろひ)。やっぱり魔女化させるつもりで来てたんじゃねえかファッキンビースト」

「ナイスですつばめさん」

 

 

 キュゥべえへの意趣返しとしては、跡形も残さずに消し飛ばされるのは最も嫌がる事でしょう。

 ある意味一番必要だった行動にワタシもついサムズアップを返します。

 

 そうしてしばらくの間、みかづき荘は静寂で満ちました。

 秒針の音が響き渡る中、始めに沈黙を破ったのは紺染神父でした。

 

 

「さて、色々あったが今回の報酬だ。早速使い給え」

 

 

 人数分のグリーフシードがワタシたちに渡される。ソウルジェムを見れば、戦闘中に回復してある程度は輝きを保っていた筈の宝石は、その半分以上が濁っていました。

 

 ソウルジェムの穢れは悪感情でも生じ、そして穢れはさらなる悪感情を生む。

 改めて考えれば、キュゥべえがより効率的に魔女を生むことができるようになっているんだと分かってしまう。

 

 そんな思いをよそに、神父は淡々と事後処理について話していきます。

 

 

「琴織くんは今回由比くんの代理だが、今回の功績は七海くんのチームのものでいいかな?」

「構いませんよ。売名とかあまり趣味じゃないので」

「報奨金についても七海くんの元に与えることとする。振込先はいつもの口座に」

「ええ。お願いするわ」

 

 

 平静を保とうとしているのか、やっちゃんもいつもと変わらない調子で手続きを行っていますが、よく見れば無理をしているのがわかります。それでも、ああして強く振舞えるだけでやっちゃんはすごいと思います。ワタシは、何をどう話しかけていいかすらも分からなくなっているのに。

 

 

「……なあ、神父さん、ひとついいか?」

 

 

 そこに、震える声でももこさんが口を開きました。

 

 

「何だね十咎くん」

「その……アンタたちは知ってたんだよな? 魔法少女の真実ってやつを……」

 

 

 ももこさんの問いは、私たち全員の意見の代弁でした。

 そう。彼らは魔女を狩るために鍛錬と探求を続ける者たち。

 ソウルジェムのことを知っていた彼らが、さらに先の真実を知らないわけがない。

 神父は深くため息をついた後に答えました。

 

 

「その通りだ。我ら異端粛清機関は、魔法少女の発生プロセス及び、その身体特性に至るまでを研究し、構成員は末端に至るまでこれを基礎知識として修めている。インキュベーターの言う通り、魔女狩りに赴く魔法少女がこれらの真実を知って戦意を失う割合も、その場で絶望して魔女化する割合も決して低くはない。ゆえに、組織全般の方針として私たちはこれらの情報を極力秘匿すべしと結論付けた」

「……だったら! アンタたちは今までそれを黙ってアタシたちを支援すると言っていたのか!? アンタたちが滅ぼしたい魔女ってのは、アタシたち魔法少女のことなのかよ!?」

 

 

 ももこさんの慟哭が叩きつけられる。

 契約してからそろそろ半年。それまでの間に、神父たちが魔法少女にとって本当はどのような存在なのかをももこさんが知る機会は無く、それゆえに自分たちの境遇を理解してくれる大人たちという印象から裏切られたと言う気持ちは強いのでしょう。

 

 

 

 

 ――乾いた音が響く。

 

 俯いていた顔を上げれば、目に涙を溜めて手を振り抜いたやっちゃんの姿と、左の頬を赤く染めたももこさん。

 

 

「っ……!」

「ももこ、やめなさい」

「でも……っ!」

「確かに、彼らは私たちにこのことを黙っていた。例え私たちと見ているものが違っていたとしても、平和のために魔女を倒してきた事実は変わらない。……そうよね、神父?」

 

 

 ――粛清機関。

 私たち魔法少女とは違う、教会の教えにない異端を狩るもう一つの魔女狩り集団。

 魔法少女が魔女に成ると言うのなら、「魔女の殲滅」を掲げて五百年以上も前から存在し続ける彼らにとって私たち魔法少女は……。

 

 

「耳が痛い話だな。我々は異端の殲滅を掲げているが、その中身は決して一枚岩の思想ではない。魔法少女は尊き隣人であり、共に血を流す戦友と考える者もいれば、教会の保有する魔術のみが奇跡と考え、魔法少女も積極的に粛清すべしと標榜する者もいる。一時の欲望で現実を歪め、魔女となって災禍を齎す愚か者という意見も過去にはあった」

「それじゃあ、神父さんは、どうなんだよ?」

「そうだな……少なくとも私は、希望を抱き、絶望を知りながらそれでもと生きる君たちを祝福するべきだと考えている。それは、その矛盾した人の在り方の中にこそ、魂の輝きが、主が認めた人の善があると信じているからだ」

「それは、妹さんも魔法少女だからですか?」

「かもしれんな。さあ、グリーフシードを渡してくれたまえ。彼女らが再び魔女に成る前に、私の洗礼でこの煉獄から解き放つとしよう」

 

 

 私たちは、使い切ったグリーフシードを差し出しました。

 グリーフシードの処分方法はキュゥべえに渡すか、神父のように教会の人間に渡すかの二つ。

 キュゥべえはグリーフシードを回収した後どうするのかは不明でしたが、神父の目的は明白です。

 

 

「ありがとう。では、彼女たちを眠らせるとしよう。

 ――我らの前には主の御子あり。彼の者は罪を犯さず、試練を越え、我らの弱さに寄り添うもの也。我らは救いを求め、恵みの御座を目指すもの也。主よ、この魂を憐れみ給え」

 

 

 聖堂騎士はキュゥべえとは違い、回収したグリーフシードを消滅させる。

 洗礼と祝福。この二つの奇跡を以って、この世界に生まれた呪いを解呪する。

 それは魔法少女の力を奪うのではなく、魔女となった彼女たちの魂を救済するためなのだと、この時ワタシ達は理解しました。

 

 

「これで彼女たちが呪いを振りまくことは二度とない。今回の用はこれで済んだ、そろそろ失礼しよう」

 

 

 グリーフシードの完全浄化を確認した後、神父は部屋の出口へと向かい……出る直前で立ち止まりました。

 

 

「……もし君たちがこの苦しみに耐えられず、絶望に身を委ねそうになったのなら教会の門を叩け。その時は、私が責任を以って汝らの魂を洗礼し、煉獄に落ちる前に主の元へと導こう。それが、神浜の街を監督する私が君たちにできる最後の務めだ」

 

 

 その言葉を最後に、神父は姿を消しました。

 

 

 再び空間を沈黙が支配する。

 次に動いたのは琴織さんでした。

 

 

「……ふむ。インキュベーターは現れないか。どうやらこれ以上出てきてもつばめに即燃やされると判断したか。こういう場合はよく外で立ち聞きしていることもあるのだが……ああ、逃げ足が速いな。どうも最近は、遠くから様子を伺っていることが多いらしい」

 

 

 ぐるりと部屋を見渡し、窓の外を見つめてそう言いました。

 つられて窓の外を見てもそこには何もない。ただでさえ神出鬼没なキュゥべえが本気で姿を隠そうと思えば、見つけることは不可能でしょう。

 同じようにじっと外を見つめていたつばめさんは、「あー……」と少しだけ言葉を迷わせてから、意を決したように口を開きました。

 

 

「それで、皆さんどう思いましたか?」

「……何を?」

()()()()()()()()()()()。こんなことを知ってもう私をただの魔法少女とは思っていないでしょう。自分だけ運命から抜け出した卑怯者(チート野郎)か、あるいは魔女に片足突っ込んだバケモノか。一体どっちですか?」

 

 

 それは、どこか自虐的なニュアンスを含んだ問いでした。

 魔女に代わってしまうことから逃れようとして、魔法少女でも魔女でもない中途半端な存在になってしまったつばめさん。彼女と同じ境遇の魔法少女が現れることがないと言った以上、彼女は他の人とは違うと言う事を抱えて生き続けなければいけないということ。

 それは、本当に幸せなのでしょうか。ワタシのように、ズルいと思った人たちから責められる危険性を抱えながら生きていくつばめさんは、絶望から逃れられたと本当に言うのでしょうか。

 

 ……ワタシは、その答えを出すことができませんでした。

 

 

「……どっちも違うわ。それに最後のを本気で思っているなら怒るわよ」

「そうですよ! つばめさんが何だろうと、ボクにとってはつばめさんはつばめさんでしかありません!」

「ああ。アタシたちにとってつばめさんは大事な仲間で、人間だよ」

「ええ……その通りです」

 

 

 その質問をするってことは、つばめさんも他の魔法少女に対して負い目があるということ。その疎外感にやっちゃん達は寄り添おうと言った。

 でも、ワタシはそれにはっきりと答えられない。だって、ほんの少しでもズルいと思ってしまったワタシには、彼女を認める資格なんてないような気がしてしまったから。

 

 

「……ありがとうございます。でも、一応このことは秘密でお願いしますね」

「分かってるわよ」

「ところで皆さん、真面目にメンタルの方は大丈夫ですか? ほら、流れで言わなきゃいけなかったとは言え、中々ショッキングな事実じゃないですか」

 

 

 ちょっと申し訳なさそうな顔をしたつばめさんがワタシたちを案じるのを見て、なんて情けないことだと自分を責めたくなる。

 結局ワタシは、自分の心を守ろうとしか考えていない。

 つばめさんに嫉妬した自分を直視するのが嫌だから、曖昧な言葉で誤魔化しただけじゃないですか。

 

 

「正直なところ、今でも納得できてるかっていうと怪しい。今まで殺してきた魔女が元は魔法少女だったと思ったら、自分は何のために戦っているのかわからなくなってきてるよ」

「そんなの、『自分の生活を守る』でいいんじゃないですか? 魔女が人に害をばら撒いて迷惑になっているのは確かですし、周囲の人間が魔女の被害に遭って空気が悪くなるのは嫌だ。なら戦う理由はそれでいいじゃないですか。極論言えば犯罪者ぶちのめすのと魔女を退治するのも変わらないでしょう」

「結構バッサリ言うんですね……」

「私から見れば、魔女ってのは死体が動いてるようなものですからね。介錯ですよ介錯。かつての仲間がこれ以上罪を重ねる前に終わらせてあげるのは人情ってものでしょう」

 

 

 きっと多くの葛藤の末に行き着いた答えなのでしょう。軽い口調で告げられたそれには、一つの真理がこめらていた。

 もし、チームの中の誰かが魔女に成ったのなら、残った人たちでこれを討伐する。それが希望を願い、共に戦った仲間に対する最後の礼なのだと、暗に言っているようでした。

 ……もし、ワタシが魔女になってしまったら、やっちゃんはワタシを楽にしてくれるでしょうか。いや、その前にやっちゃんがワタシのソウルジェムを砕いてくれる方がいいかもしれませんね。長年の親友に、ワタシが魔女になった姿なんて見せたくはありませんから。

 

 

「うん……そうかもな。ありがとう、ちょっとだけ気が楽になった」

「そうです。例え真実を知ったとしても、ボクたちが魔女と戦うのは変わらない。ならば前向きに行くべきです!」

「ええ……私たちは、魔法少女として恥じない生き方を貫いてみせる」

 

 

 そうして素直に立ち直れたらどれほど良かったでしょうか。

 どれだけ前向きな言葉をかけられようとも、ワタシの心には未だに淀みが残り続けている。

 

 このまま弱くなり続けて。

 いずれ、あなた達に置いて行かれて。

 あなた達を憎みながら、魔女になる。

 そんな妄想が離れてくれない。

 

 

「さて、私たちもそろそろお暇しましょうか」

「ああ。流石に夜も遅い、影跳び(直通便)を使う。酔わないように気をつけなさい」

「流石にもう慣れましたよ」

 

 

 お二人は部屋の壁へ向かっていく。

 琴織さんの足元の影が、泡立つように蠢いた。

 

 

「では私からも一つ。若き魔法少女たちよ、希望を嗤い、絶望を踏破せよ。それこそが定められた運命を乗り越える第一歩だとも」

「それではまた。スイーツ奢ると言った約束、守ってくださいよ」

 

 

 ぐにゃりと影が揺らめき。

 瞬きの後には、お二人の姿はどこにもありませんでした。

 

 

 

「……ふう」

 

 

 やっちゃんがソファに沈み込む。

 疲れていることを隠しもせずにしばらく項垂れた後、再び口を開きました。

 

 

「みんな、聞いてちょうだい」

「なんですか?」

 

 

 意を決して放たれた内容は、ワタシ達のこれからを決定的に分ける言葉でした。

 

 

「……チームを解散するわ」

 

「ええっ!?」

「ちょ、それどういうことですか七海先輩!?」

「今回の一件で私は痛感したわ。私と一緒にいては、皆を危険に晒す。私の未熟な判断によってメルが危うく死にかけたのが何よりもの証拠よ」

「でも、ボクは今も生きてるじゃないですか!」

「それは琴織さんがいたからよ。仮に彼女がいなかったら、メルは私を庇って魔力を使い果たして、そのまま魔女になっていた。神父のグリーフシードも間に合っていたか怪しい……そんなもしもの話で希望を持てるほど、私は夢を見れないの」

「そんな悲観的な話のほうがよっぽどもしもだよ! なんで勝手に思い詰めているんだ!」

「考えなくちゃいけないの! 私はあなた達のリーダーなのよ? 常に最悪のことは想定しておかなきゃいけないのに、いつの間にか勘を鈍らせていた。」

「アタシ達は……やちよさんにとってお荷物なのか?」

 

 

 お荷物。

 その言葉が何よりもワタシの心に突き刺さる。

 長年一緒に戦ってきて、弱くなってきたワタシは知らず知らずのうちにやっちゃんの足を引っ張っていたのかもしれない。

 

 

「あなた達の力を疑っているわけじゃないの。単純に私がソロでやらせてもらいたいの。期待を背負い皆を護るリーダー……そんな自負によって慢心していた自分を鍛え直したいの」

 

 心の強いやっちゃんらしい言葉だ。

 ワタシなんかとは全然違う。

 

 ワタシは弱い。

 力でもなく才能でもなく、何より心が弱い。

 心が弱いからこそ、こうして魔力まで弱体化してしまう。

 

 だから、やめてください。

 

 

「でも……そんないきなりなんて」

「それに、鶴乃には何て説明するんだよ!」

「あの子にもちゃんと説明するわ。流石に、今日の事を全部伝えるのは難しいかもしれないけど。

 

 ……でも、そうね。

 今週の土曜日、皆空いてるかしら」

 

「……何を、するんですか?」

「別に、大したことじゃないわ」

 

 

 続く言葉に、ワタシは頷くしかなかった。

 

 

「最後にチームの皆で遊びに行きましょう。思い出作りに」

 

 

 だって、そんなに辛そうな顔で言われたら、何も言い返せないじゃないですか。

 




○チームみかづき荘
 メル生存ルート。
 つばめちゃん達が茶々入れたので解散の経緯が原作よりはマイルドに。

以下没案
 やちよ「みふゆは受験厳しいんだからそろそろ専念しなさい」
 みふゆ「ごふっ」


○琴織つばめ
 かなりギリのギリで間に合ったやつ。
 判断が遅かった場合メル魔女化ルートで卜者の魔女戦に突入していた。


○QB
 この世界線だとエネルギー回収計画がめちゃくちゃ遅延している。
 それもこれもQBを騙した当時の人間たちのせいであり、そうするに至ったQBの悪辣さが原因である。


○蟹座の魔女
 五年前に討伐された魔女。
 ワルプルギスにすら匹敵するとされた十二体の魔女の一体。

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