つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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お久しぶりです。
もう一つのほうが佳境に入っていたとか、新天地を探索していたとか色々ありました。
今回相当チートな暴れ方をする奴が一人います。


第二十一話 がらんどうの空

 年が明け、春も近くなり始めたころ。

 

 特に事件らしい事件もなく、女子高生と魔女退治を交互に行き来する日常を過ごしていた私はこの日、大東区まで足を運んでいた。

 

 大東区はその名の通り神浜の東側に位置する区域。

 中央区を境目として、工匠区とともに神浜の東と位置されるエリア。

 神浜で最大規模の団地や、廃棄された観覧車がたたずむ草原。どんよりとした空気の漂う住宅街など、控えめに言ってあまり治安がよろしくない場所である。

 

 そういうわけで普段ならばあまり用もなくたまにある除霊案件以外では立ち寄らない地区なのだが、本日ここにやってきた理由は、先日一緒に魔女退治を行ったメルくんに呼ばれたからだ。

 

 昨年の晩秋に起きた「批評家の魔女」(名前は後で神父から聞いた)の討伐作戦。

 魔法少女の秘密を知ることになったみかづき荘のチームは解散し、やちよさん達とは疎遠になってしまった。鶴乃さんやももこさんとは割と頻繁に顔を合わせているが、その二人もやちよさんとの距離ができてしまった。メルくんはわざわざ地区をまたいでまで来る理由が無くなり顔を合わせる機会が激減。みふゆさんに至っては完全に音信不通状態だ。多分受験に失敗したんだろう。現実とはかくも無慈悲である。

 

 そういうわけでこの前参京区と工匠区の境目で偶然出会って魔女退治をしたときは、それはそれは話が弾んだものである。

 互いの近況。推しのアニメ。十七夜さんの愚痴。最近研究中の新占いなど話題には事欠かず、近場のカフェでしゃべり倒した後の別れ際、メルくんに相談を持ち掛けられたのである。

 

 曰く、『身近な人のことで相談に乗ってほしい』とのこと。

 それも魔法少女のことで、場合によってはいろんな人に関わってくる話だという。

 可愛いメル君の頼みだ。先輩として一肌脱ぐのも悪くない……と、私はその頼みを快諾した。

 

 そして数日後の今、こうして大東区に足を踏み入れたわけである。

 

 

「あ、つばめさーん!」

「来てくれたか。琴織」

 

 

 待ち合わせ場所は鏡屋敷と呼ばれる建物。あの鏡の魔女の結界『果て無しのミラーズ』を誘導し、封じ込めた場所。

 十七夜さんにメルくんと、私が見知った大東区の魔法少女のそろい踏み。

 そして彼女たちの横には、銀髪を纏めた服の上からでもわかるぐらいに凶悪なもの(バスト)を持ったどえれえ美少女が立っていた。

 

 

「貴方が琴織さんねぇ。初めまして、私は八雲みたま。十七夜から話は聞いているわ」

「どうも。琴織つばめです」

 

 

 八雲みたまと名乗った銀髪美人も魔法少女であった。十七夜さんとは親友らしい。

 友達いたんだ、十七夜さん……。

 

 

「失礼な、自分にも友の一人二人はいるぞ」

「ちょ、勝手に心読まないでくださいよ」

「十七夜さんは変身しないと心を読めないからつばめさんがわかりやすいだけです」

「まあ、十七夜はしょうがないわよね」

「八雲!?」

 

 

 無駄話もほどほどに本題に入る。

 

 

「それで、八雲さんは一体なんの用ですか」

「その事なのだがな琴織。実際に用があるのは君ではなく君の父君のほうだ。こちら(魔術)側の人間とは言え、いきなり魔法少女ではない者に事情を語るのもどうかと思ってな。まずは身内である君に話を通すことにした」

「どういうことです?」

 

 

 私の父さんを頼るって、結構な厄ネタの気配しか感じませんが?

 ……身備えておくとして、理由(わけ)を促す。

 

 

「そう身構える必要はない。君は『ソウルジェムの調整』というものを知っているか? ソウルジェムに手を加えることで魔力効率を上げるというものなのだが」

「ソウルジェムの調整……? それはもしかして、調律師のことでしょうか」

 

 

 ソウルジェムに手を加える。という方法に聞き覚えが無いわけではない。魂魄を特殊な魔力波長で刺激して出力を向上させたり、ロスを削減する。確か音子さんがそのような手法で強化を受けていると聞いたことがある。秘中の秘、らしくあくまで外部協力者である私には教えることができなかったが機会があるなら是非受けてみるといいと言っていたのを覚えている。

 

 

「やはり知っていたか。その通り、教会の調律術に類似したものを八雲も扱うことができる」

「私たちは調整屋(ピュエラ・ケア)って呼んでるわね」

「すごいですよ八雲先輩の力、ボクのソウルジェムに触れたかと思ったらこう……ぶわーって魔力の通りが良くなりましたから!」

 

 

 なるほど。先日一緒に魔女退治したときメルくんやけにキレが良かったというか、明らかに火力が上昇していると思ったが、そういうからくりがあったわけだ。

 あれほどの強化をどんな魔法少女にも施せるというのなら、それはさぞ魔女退治の助けになること間違いなしだ。

 

 

「なるほどなるほど。でもそれがどうして私への相談になるんです?」

「ああ。そのことについては簡単だ。八雲は魔女と戦えんのだ」

「戦えない?」

「ええ。私の魔力は魔女には通用しないの。一応それでも戦う術がないわけじゃないんだけど、それも使い魔一体を倒すのが精々ね」

 

 

 魔女と戦うことができない魔力……?

 

 その言葉が気になり、幽界眼でみたまさんを見――そしてわずかに驚く。

 彼女の魂は色づいていない。人間の基本的な霊魂の色でもなく、さりとて魔女のような穢れでもない。ほとんど無力透明の魔力をみたまさんの魂は発している。

 

 何もない。本来あるべき輝きを失ったかのようながらんどう。

 それなりに多くの魔法少女と出会ってきたが、彼女のようなパターンは初めてだった。

 

 

「たまにいるらしいのよ。本来であれば持っているはずの希望の力を得られなかった魔法少女が。私もその一人よ」

 

 

 なるほどこれは確かに致命的だ。

 魔法少女として弱い、素質が低いだけなら血のにじむような努力を積めば下級魔女と戦えるだけの力を得ることができる。むしろあんなクソ修行をこなしたうえで戦えないとか勝てないとかぬかす奴がいたらそれは筋金入りの甘ったれだろう。

 

 だがみたまさんのはそれ以前の問題。

 魔法少女として魔女と戦わねばならないというのに、魔女と戦うための手札を与えられなかったということ。これは正直キュゥべえを問質すべき案件ではないだろうか。あのナマモノに抗議したところで意味がないのはわかっているが、それはそれとして始末するバリエーションは増やす。

 

 しかし、希望の力、か。

 魔法少女は「願い」から生まれるものであり、その力は「希望」の属性を帯びている。だからこそ「絶望」の具現である魔女が持つ呪いを祓うことができる。そしてこれは魔法少女に限った話でもなく、粛清機関もまた「信仰」という人々の祈りを束ねた力を以って魔と対抗している以上、この「希望」が魔女退治に欠かせないのは明らかだ。

 

 ……では、その「希望」を持たない魔法少女とは何か?

 

 浅学の身で考えるに、それは「願い」の根底が「希望」ではなかった少女のことだろう。

 誰かの不幸を望んだとして、そこには自らの境遇をよくしたい、やりかえしたいという『希望』がある。いわば復讐という形で自らの救済を望んでいることになる。

 

 だが……。何も生まず、何も救わず。

 ただただ諸共に滅びを望んだ場合は?

 その願いの中に希望を持たなかった者は、魔法少女としての力に必要なものを欠けた状態で魔法少女として生まれることになるのではないか?

 

 ――ううむ。予想はしてみたが、答えは見つからない。

 みたまさんに直接聞いてみる? できるワケがない。

 それでもしマジでヤバい願いをしていたら今後の関係に亀裂が入ることは間違いなし。

 疑問は残るが、ここはスルーして話の続きを聞くとしよう。

 

 

「これまでは自分と安名が集めてきたグリーフシードを分けていたが、自分も多忙な身だ、やはり無理が生じてきているのは否定できない」

「だから、調整屋として商売を始めようと思っていたの」

 

 

 なるほどなるほど。

 確かに魔法少女の実力を恒常的に底上げできるという探しても見つからない特技は魔法少女たちからすれば計り知れない需要がある。例えグリーフシードを対価としたとしても決して高くはない。むしろそれからの戦いがぐっと楽になるならば安いものである。

 

 

「そのためには場所を用意しなければならん。だが私たちではどこに店を構えればいいか検討が付かない」

「なので、つばめさんのお父さんにいい場所がないか紹介してもらおうと思ったんです」

 

 

 私の父は魔法少女をアルバイトとして雇い、神浜の各地で魔女退治および除霊作業を行ったりする社会の表と裏を繋ぐ人間だ。魔法少女の事情に詳しく、魔術的に有用な土地を調べるには適任といえるだろう。

 

 

「でもそれって紺染神父にでも頼めばいいんじゃないですか? 魔法少女の事情アレこれを除いても、あの人は割と話に乗ってくれるでしょうし、教会がバックにいるなら安全性も十分だと思いますが」

「その神父から断られたのだ。『我ら粛清機関は調整屋の存在を認めるが、庇護下に置くことはできない』とな。どうやら八雲に調整術を教えた連中と、粛清機関は何らかの契約を交わしているようだ」

「紺染神父には以前からお世話になっているし、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないから仕方ないわね」

「なるほど。だから父さんを頼るというわけですか」

 

 

 琴織渡は二年前から魔導を究めた魔術師だ。

 彼の持つ力は極めて強大だが、その活動内容は娘である琴織つばめのバックアップに留まっており、他の魔法少女の領分を脅かすことは基本的にはなく「中立」とやらに抵触する恐れは低い。各地で行っている魔法少女を雇った除霊活動も自分の利益と魔法少女への支援やコネクションの構築を兼ねたもの。同じく魔法少女の支援を行う調整屋と協力関係を築いておくのは今後のことを考えれば手を貸しておいて悪い話ではない。それにメルくんからの頼みでもある、できる限り力になってあげるとしよう。

 

 

「ま、そういうことならいいでしょう。というか八雲さんはそれでいいんですか?」

「構わないわ。十七夜が進めるなら悪い人じゃないでしょうしね」

 

 

 みたまさんも了承してくれたことですし……、

 

 

「だ、そうですが。どうですか、父さん?」

「――なるほど。そういう事情なら請け負おう」

「うわぁ!?」

「きゃっ!?」

 

 

 いきなり私の背後から影跳びしてきた父さんに驚く皆さん。

 実はちょっと前から念話のパスを繋いでおいたのだ。

 

 

「それでは八雲みたま様。この度ご紹介に預からせていただきました、建築デザイナー・兼不動産コンサルタントの琴織渡と申します。この度は我が事務所をご利用いただき、誠にありがとうございます。

 ――と、社交辞令は以上として君たちの前だ、ここからは素で行かせてもらうが構わないかな?」

「……ええ。そっちのほうが気楽でいいわ。よろしく頼むわね、琴織さん」

「ああ。……とはいっても、所有者がワケ分からなくなった挙句放置されている場所を紹介するわけだからな。あとでいろいろトラブルが起こってもうちの名前は出さないように。その辺バレると私たちの生活死ぬから、マジで」

「え、ええ。わかってるわ」

 

 

 念に念を押す父。

 まあそのあたりの隠蔽工作はきちんとやるつもりなので問題はないはずだ。

 仮にバレたところで、もみ消しとか暗示でどうこうするし、大丈夫大丈夫。

 

 ……大丈夫だよね?

 

 

「さて、魔法少女が工房として利用できる土地となれば限られてくるが、一応地区などの条件を聞いておきたい」

「東は難しいな。中央、あるいは西がいい。東で商売を行うのは少々面倒な事情があるからな。三芹(みせり)に話を通せばいけるやもしれんが……いや、あいつに借りを作るぐらいなら素直に別の場所を選んだほうがいいか」

「ふむ。もしや芹沢(せりざわ)か?」

「そうだ。このあたり一帯は彼らの縄張りだ。詳しいな」

「仕事柄ね。そうした連中との付き合いを避けるためにはまず、連中のことを知らなければならない」

「……それと、これは個人的な意見だが、水名は避けたほうがいいと思う」

「そうだな。いくら中立地帯とはいえ、東側の魔法少女が西側筆頭のような水名区に何度も出入りするというのは余計な問題を招くかもしれない。ならば新西区をお勧めしよう。あそこは一番開発が進んでいる地域だ、利用できる場所は多いし何よりあそこは七海くんの管轄だ。東が無理なら、西のまとめ役の目が届くところにいたほうが何かと安全だろう」

「一理あるな。八雲はどうだ?」

「そうねぇ。私もちょうどそこがいいとは思っていたわ」

「決まりだな。では――」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そういうわけで条件を絞り込んだ私たちは第一候補である土地に訪れたわけなのだが……、

 

 

「あの……父さん、何なんですか此処」

「ん? 十八年前に事故が起きて以来、所有者を転々とし続け、五年前に最後の所有者が謎の失踪を遂げたことで宙ぶらりんになっただけの物件だが?」

「十分厄いわ!」

 

 

 目の前の廃ビルを見て私は叫ぶ。

 もう建物全体に黒い怨念が染み付いている。

 そりゃこんな瘴気に満ちた場所に居れば誰だって発狂する。

 無事なのは今も平然としている父ぐらいだろう。

 

 

「無理です無理です! ボクたちでもわかるぐらいにヤバいものが漂ってきてます!」

「怨念が融合して地縛霊として完全に定着してしまっているな。下手な魔女は近づいた時点で逆に取り込まれるだろう」

「なんですかこの街、こんなのばっかりあるんですか?」

「それで、どうかね八雲くん」

「そうねぇ。中を見てみないとわからないかしら」

「こんなの外観だけでお帰り案件だよ!」

 

 

 なんでか乗り気なみたまさんである。

 あなたが良くても他の魔法少女が寄り付かんわ。

 

 

「キシャーーーーー!!」

「くたばれ骨喰!」

 

 

 足を踏み入れれば案の定悪霊が形を成して襲ってきたので、骨喰を叩きつけて強制的に成仏させる。

 反魂魔術を修めた私の一撃は、魔女以外にも幽体を現世から幽世へと退去させる特性が存在する。昔は修業と称して音子さんに任務の手伝いとして連れまわされたものである。

 

 

「あら、琴織さんったら強いのね」

Goodjob(よくやった)。私がやると建物が崩壊しかねなかったからな……さて八雲嬢、どうかな?」

「老朽化が激しいわね。天井が落ちてきたら怖いわ」

「そうか。ならば次に行こう」

 

 

 

 

 

 

「おおっと、うぃっちさぷらいずどゆう!」

 

 

 二つ目の土地にあったのは魔女の結界。

 しかも中級以上の魔女で、使い魔の数も魔女自身の力もそれなりに強い。

 ちょっと前までは魔女も少なかったというのに、ここ最近になって魔女が増えてきたばかりかその強さも平均以上の個体が現れるようになった。中級魔女なんて七枝市じゃあ半年に一体でてくる程度なのに、最近だと二週間に一体はどこかで討伐報告や救援依頼がSNSで回ってくる。控えめに言って魔境である。

 

 すっとぼけた声を上げる父をしり目に私たちは変身。各々の武器を構える。

 

 

「では彼女は私が護衛しよう」

「みんな頑張ってねぇ。私はここで応援しておくわ」

 

 

 戦闘能力のないみたまさんを置いておくのは危険……でもなかったりする。

 

 なぜなら彼女の傍には父が立ち、カバーを請け負っているからだ。ぶっちゃけこれで憂いは無くなった。心置きなく私たちは魔女に集中できる。

 眼前、鍵を揺らす使い魔の群れに突撃する。

 

 

「迅速に終わらせる。私も大判振る舞いだ」

 

 

 背後から底冷えするような魔力がほんの一瞬だけ溢れ出る。

 どうやら父も魔術を行使するようだ。

 

 

紅蓮六道(ぐれんりくどう)

 

 

 浮かび上がるは六つの炎球。

 それら一つ一つが使い魔ならば焼き尽くすに余りある熱量を持つ。

 プチ太陽めいたそれらは最前列に着弾、瞬く間に炎上して灰となるまで魔女の下僕どもを焼き尽くす。

 

 

「圧倒的だな。きみの父君は……!」

「その代わり腰が重たいですがね」

 

 

 開けた道を突っ切り、屋上の魔女は目の前に。

 頭上からバルーンが迫る。見た目はただの風船だが、その下にぶら下がるスパイク付のフックはれっきとした凶器。骨喰を振るって地面に叩き落とし、露払いを務める。その間に十七夜さんの鞭が魔女を打ち据え、メル君の竜巻がふわふわと浮かぶ体を打ち上げる。

 

 そうして体制を崩した魔女へ突撃、顎を開いた骨喰を魔女の胴体へと食い込ませる。

 我が幽幻の魔力は魔女にとっては毒。もだえ苦しむ魔女は刻一刻と魂が脅かされる感触に畏れの叫びをあげる。

 だがさすがは中級にまで成長した魔女か。

 最後の悪あがきか、魔女はその視線を私たちではなくみたまさんのほうに向け、突撃する――!

 

 

「危ない、八雲――」

 

 

 ――虚弦空絲(ジグ・ザグ)

 

 

「これは……糸?」

「エーテル繊維――魔力をよく通す糸だ。カーボンナノ並みの強度と自由度を誇る」

 

 

 地面から空中に張り巡らされた極細の糸。

 自立するだけの硬度と、自在に曲がるしなやかさを兼ね備えたそれは、魔女の体を蜘蛛の巣に掛かった蝶めいて絡めとり、絞殺せんとばかりに締め上げていた。

 

 魔術師としての父が開発した数多の魔術武装。そのうち多用されるのがエーテルワイヤー、固有名称を『虚弦空絲(ジグ・ザグ)』とする糸状の武器。魔法少女の固有武装にも引けを取らない渾身の一品である。

 

 

「ではな。紅蓮六道――」

 

 

 

 ――御供焔檻(ごくうえんかん)

 

 

 

 其れは生贄を焼き捧げる炎の儀式。

 彼の手から発せられた烈火はエーテル塊の糸を導火線として辿り、がんじがらめとなった魔女に全方位から着火し、その巨体を一瞬で灰塵と帰した。

 

 

「怪我はないかな、お嬢さん?」

「ええ。大丈夫よ……魔法少女じゃないのに、すごいのね、あなた」

「然り。魔法少女だけがこの世の神秘に非ず。……まあ、私は色々と例外に近いけどね」

 

 

 魔女の結界も消えたところで、建物の内見を行う。

 

 だがこちらもみたまさんはあまりお気に召さなかったようで、私たちは次の土地に移動するのであった。

 

 

 

 

 

 

 最後に向かったのは、新西区と水名区の境目に近い、少しさびれた地域。

「神浜ミレナ座」という既に閉まった映画館が、私たちが最後に訪れた場所であった。

 

 

「映画館……?」

「数十年前の映画ブームに乗っかって建設されたが、バブル崩壊と共に経営難に陥って閉館した。中の保存状態がどうかまでは知らんが、広さは十分。龍脈も直下とまではいかないがそれなりに近い。立地としてはそれなりだと思うが」

 

 

 中に入ってみればそこは埃被ってはいるものの、崩落や致命的な罅は見当たらず、かつ1フロアが十分すぎる広さを持っている。魔法で修復すれば再利用できそうなカウンターや椅子も放置されている。条件としてはなかなかではないだろうか。

 

 

「うん。うん……いいわね。ちょっと掃除すればすぐにでも開けそう!」

 

 

 みたまさんもお気に召したようで、ここを調整屋として利用することに決めたようだ。

 

 

「そうか。では後は開店の準備だが、そちらはどうだ?」

「家財道具なら準備済みよ」

「魔術防御の類は?」

「一応、侵入者用の術式は教わってるわ」

「そうか。では人除け・魔除けの結界を用意しよう。一般人ならこの場所を無意識に避けるようになる」

「いいのぉ?」

「構わないよ、サービスさ」

 

 

 ――と、着々と準備が進んでいく。

 ある程度は魔法でインチキを行い、目の前には綺麗さっぱりとした空間が広がっていた。

 

 

「ひとまずはこんなところね。あとは自分で用意できるわ」

「そうか。それならこれで終わりだ。ひとまずおめでとうと言っておくか」

「うむ。門出を祝うぞ、八雲」

「おめでとうございます八雲先輩!」

 

 

 皆口々に開店を言祝ぐ。私も祝いの言葉を口にしておく。

 

 

「さて、それでは今回の相談料についてなのだが。調整一回サービス、というのはどうだろうか?」

「あら、それでいいの?」

「金をとるほどのことはしていないよ。ここはひとつ、君のお手並みを拝見させてもらうとしようじゃないか。――つばめ、ソウルジェムを」

「はいはい」

 

 

 なんか私の意見が無視されている気がするが、前々から調整は受けてみたいと思っていたのでお言葉に甘えることにしよう。

 どこからか持ってきたチェアに身をゆだね、みたまさんの前にソウルジェムを置く。

 みたまさんは私のソウルジェムを手に取り、そして信じられないものを見たとばかりに瞠目した。

 はい。いつものリアクションいただきました。

 

 

「……うそ。あなたなんで生きてるの?」

「色々ありまして」

「そう」

 

 

 今さらになって気が付いたが、ソウルジェムの調整が魂への干渉だった場合、肝心の魂がソウルジェムとは別のところに紐づけられている私に対して調整は有効なのだろうか。

 

 

「それじゃあ始めるけど、あなたのソウルジェムは今までの子たちとは違うからちょっと手さぐりになってしまうわ」

「構いませんよ」

 

 

 さきほどとは打って変わっておっかなびっくりな手つきでソウルジェムに触れるみたまさん。

 

 

「あ、それと調整を行うと記憶とか願いとかも読み取っちゃうんだけどそれも大丈夫かしら?」

「別に問題は……なくもないですが、まあいいですよ」

 

 

 一目で私のソウルジェムの異常を看破してみせたみたまさんだ。魔法少女の真実についてもほとんど知っているとみてよく、ならば私にこれ以上隠す秘密もない。プライベートのあれやこれやをどうこう言う人柄ではないのはこれまでの会話で伝わってきている。ここは信頼して彼女に身をゆだねる。

 

 

「それじゃあ目を閉じてリラックスして。

 "――深く、広く、果てしなく。私は水底を覗き込む"」

 

 

 …。

 

 

 ……。

 

 

 ………。

 

 

 ……微睡む感覚から浮上する。

 

 

 体感にして数時間。

 スマホで時刻を確認すれば、ほんの数分の出来事だったらしい。

 

 

「ふぅ……ひとまず魔力の流れを改善してみたのだけどどうかしら?」

「どれどれ」

 

 

 試しに全身に魔力を通してみる。

 ――うわ。効率が二割ぐらい違う。

 あとちょっと全身に残っていた疲労も軽くなってる。

 

 

「これはすごい。音子さんが勧めるのも納得だ」

「音子さんってあなたの記憶にいた魔法少女よね。そう。あれが紺染神父の義妹さん……先生も言っていたけど、実際に見ると本当に凄い人ね」

「まあ、あの人は色々とすごい人なので」

 

 

 いろんな街で噂されてる私たちの先輩、控えめに言って暴れすぎでは?

 

 

「それより一番驚いたのは、あなた達の存在よ」

 

 

 みたまさんは私と父を交互に見る。

 ……まあ、そうだ。

 片や異界の魔術師、片や魔女と魔法少女の中間で歪んだデッドマン。

 これほどこの世界で異端な存在もそうそういないだろう。

 

 

「信じられないわね。魔女化を克服した魔法少女なんて……」

「まあ自分でもかなり危ないことしてる自覚はあります」

「ソウルジェムも結構不安定な状態よ。渡さんとの契約で魂は繋がっているけど、半分死んでいる状態というのはまさにその通りね。それにその()()()()()()()。かなり危険な代物なの、理解している?」

「半分は魔女の力ですからね。そういう危険性は承知の上ですよ」

「私としては、君の力も十分驚愕に値するがな。精々魔力のブレを治す程度だと思っていたが……そんな生優しいものじゃあない。魂の改竄……下手をすれば術者か対象者のどちらかが狂死しかねない危険性のある技だ。私でもおいそれと濫用できない技術を危なげなく使用するとは、魔法少女の特異性というべきか……」

「ふふ。あなたにそう言われるなら誇らしいわね」

 

 

 私の記憶をのぞき見したからだろう。父に対する言葉には偽りない尊敬の念が込められていた。

 

 

「ちょっと待て、今聞き捨てならない情報が聞こえた気がするのだが……」

「気のせいではありませんので心配ご無用。この場で知らないのはあなただけですよ十七夜さん」

「何? 自分だけが仲間外れとは、すこしがっかりだぞ」

「え、気にするとこそこ?」

「安名も知っているということは七海も知っているのだろう? ならあいつがチームを解散した理由としては納得がいく。このことを知って気丈に振舞えるほど図太くはないからな」

 

 

 しれっと魔女化についてバラされた十七夜さんだが、そこまでショックを受けていないようだ。心が強いなこの人。

 

 

「では、私からは開店祝いとしてこれを提供するとしよう」

 

 

 父は先ほど使っていたエーテルワイヤーをみたまさんに差し出した。

 

 

「あらぁ……いいの?」

「別に一品ものでもない。君ならこれを武器として使いこなせるだろう。パトロンとしてこれぐらいはさせてくれ給え」

「それならありがたく」

 

 

 魔力が魔女に有効ではないとはいえ、物理的な殺傷力の高いエーテルワイヤーは魔力操作に長けるみたまさんには有用な自衛手段となるだろう。

 

 ……って、

 

 

「私というものがありながらパパ活とか何考えとんのじゃこのスケベ親父ーー!」

「ごっぱー!? 誤解だ!!」

 

 

 鋭く放たれた蹴りが無防備な腰に突き刺さる。

 言い訳をする父だが、私の目はみたまさんに対して恰好つけようとしているのが丸わかりなんじゃボケェ。

 まあ、私もみたまさんに対して美人だとか推せるとか思っていたのでお互い様なんですがね。




○八雲みたま
 調整屋。17歳。
 原作のほうではまあ色々と大変なことになっている。

〇調律師
 粛清機関に所属する調整術持ちの魔法少女。

〇琴織渡
 実はみたまさんがかなり好みのタイプらしい。
 流石に色々やばいので冗談止まりだが。

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