ついにお披露目したかったキャラその一の登場です。
"粛清機関"。
この世界に存在する魔法、魔術などの『異端』を管理を目的とするこの組織は、その前身を『聖堂騎士団』という最大規模の宗教の威を借りた組織である。かつては魔法少女と魔女を社会から炙り出して力ずくで滅ぼす武装集団であったのだが、15世紀に欧州を覆った『女王の黄昏』と呼ばれる災厄級魔女の討伐を境としてある錬金術師を中心として世界各地の神秘組織との併合を行い、世界各地の魔術師と魔法少女が関わる一大組織へと変貌した。
そんな粛清機関の中において、やはりその宗教の信仰を用いて異端を狩る戦闘員は聖堂騎士と呼ばれ、世界各地の教会などを隠れ蓑として、日夜異端と渡り合っているのだ。
そしてここ、神浜の水名教会も粛清機関が抱える拠点の一つ。
「ようこそ、神の家へ。大層なもてなしはできぬが、茶ぐらいなら出そう」
「いえお構いなく。それで、話は何かしら神父?」
紺染福詠の出迎えも早々に切り上げ、七海やちよは要件を尋ねる。現在の水名教会は人払いが徹底されており、おおっぴらにそういう事情を話しても問題はない。
「西の顔役である君にはまず伝えるべきかと思ってね。ここ最近、神浜に魔女が増えていることは知っているな?」
「ええ。少し街を歩いて路地に入れば魔女が見つかるわ。強さも以前より増している」
「私も何度か見て回ったが、魔女の結界が重なるどころか、魔女同士の共食いまで始まっている。これほどまでに魔女がいるというのは異常事態と言える」
魔女から手に入るグリーフシードは魔法少女にとっては生命線。その補給に困らないというのはありがたい話だが、魔女とはそもそも人を襲う怪物。その魔女の数が増えるというのは、その犠牲になる人々が増えるということ。決して手放しに喜んでいい事態ではない。
「それともう一つ、一週間ほど前からこの街ではある存在が見られなくなった」
「……キュゥべえね」
「そうだ。だが神浜周辺の地域にいる構成員たちは問題なくインキュベーターを確認できている。どうやらインキュベーターは何らかの要因で神浜への侵入を妨げられているらしい。まあ、我々からすればそのことについては何の問題もない。魔法少女は極力増えないほうがいいというのはお互いの共通認識だろう?」
「ええ。その通りね」
身も蓋もない神父の言葉にやちよも同意する。
魔法少女の半数は初戦で敗れるか魔女化する――現実を僅かに歪めた代償として、少女がひとり失踪するというのだからなんとも世知辛い話だ。
「だが、同時期に起こっているもう一つの事態については見逃せない。私は粛清機関本部に神浜市に魔女の増加している現状を報告した。すると、今度は日本の各地にて魔女の出現数が激減しているという情報を渡された。さて、君はこの状況をどう思う?」
「……魔女が神浜に集められている?」
「数字的にも、状況的にもそう考えるのが自然だ。何者かがインキュベーターの観測の目を逃れることで大規模な魔術を試みている……その可能性は大いにある」
「魔術師が何かを起こしたってことかしら?」
「あるいは魔法少女が、だ。魔法少女が大きな野望を果たすために魔女も魔法少女も利用しようとする案件は数えきれないほど起こってきた。そのたびに我々が介入し、秩序崩壊の危機を防いできたわけだ」
魔女の身体の一部を呪物として扱う魔術の流派は多い。もとよりこの世界における魔術とは魔法少女の使う魔法を模して編み出された神秘を操る術。同じく魔女の呪いを利用した神秘も立派な魔術であり、特に黒魔術と呼ばれる分野には顕著に見られる。それらを極めた魔術師であれば、魔女そのものを操るような呪詛を行使することも不可能ではないだろう。
やちよは魔術師について詳しいわけではないが、そういった魔法少女にとってのイレギュラー的存在が神浜に入り込んでいる可能性は懸念していた。魔術師と敵対した経験はないが、聖堂騎士のように戦闘用の魔術を使う人間がいかに油断できないかは目の前の神父がよく示している。
「まあ要するに、だ。今回の異変、私のみでは手が余るということで粛清機関本部から人員が派遣されることになった。対異端狩りのエージェントである私の
神父が指差すと同時、側にある長椅子に座りながらも沈黙を保っていた人物がすくと立ち上がる。それは腰まで届く黒髪を一つに結ったシスターであった。顔つきは日本人で均整が取れている。年はやちよと変わらないか、それとも上か。
そしてその全身から微かに感じられる魔力は、
(魔法少女の聖堂騎士……神父の義妹ってことはまさか……?)
脳裏によぎるの目の前の眼帯男から飽きるほど自慢されてきた人物。その正体は推して知るべし。
シスターはやちよに向けて礼をする。その堂々たる佇まいは質素、清楚というよりは騎士然とした凛々しさを感じさせる。
「本日付で神浜の監督役、及び異端審問の任に就きました。
◇
人生、どうしようもないことは存在する。
力がない。知恵がない。お金がない。時間がない。運がない。
色んな要因での不可能があるけれど、今回はその五番目に入るだろう。
チームの大目的である「飛蝗」の調査中に見つけ出した魔女の結界。
ななかちゃんの魔法によって「飛蝗」に連なる魔女であると判明し、勇んで突入したもののこれがもうひどかった。
何がひどいって、この使い魔一体一体がかなり強い。
特に耐久力が高く、大型は全員で連携攻撃を浴びせて一体倒せるかどうか。それが何十体もいる。
また雑兵の小さい使い魔にも気を配らなければならず、一撃必殺の私でもこの物量は覆せない。
最近は遭遇する魔女の平均的な強さが上昇している気がする。これも神浜が魔女過密状態になっているが故の影響だろう。春に入ってから魔女がひしめくようになったが、一向に原因はつかめていない。
だがそんなことはどうでもいい。今はとにかくこの状況をどうにかしなくては。
しかし戦況の打開を行おうにも槍で薙ぎ払って確保できるのは自分の周囲だけ。魔力放射は威力はあるが防御は無視できない。
一発逆転の異形顕現は……実はまだななかちゃん達には知らせていない。情けないことだが、やちよさん達よりも親密な四人には、私が半魔女的存在であることを打ち明けることができなかった。特にかこちゃんとあきらくんには魔女化についても教える必要があるため、慎重に扱わなければいけないなどと言い訳して二の足を踏んでいた。
とかなんとか言い訳していたらこのザマだ。
「このっ! ――ぐおっ!?」
「回復を……きゃっ!」
「かこさん!!」
「流石に、捌ききれないヨ! ここは
「それすら許してくれますかねぇ!!」
あきらくんが押し切られ、拮抗状態が決壊する。
じわじわと狭まる包囲網。使い魔は雪崩となって私たちを押し潰す。
「"――城壁よ!"」
懐から取り出した
魔女の一撃にも耐える強度の防御結界も、この絶え間ない物量相手では少々心許無かった。
稼げた時間は十秒足らず。覚悟を決め、準備をするには充分な時間。
「こうなったら私の奥の手を出すしか……!」
ソウルジェムに手をかざし、その性質を裏から表へと切り替える。
まずは魔力を周囲にばら撒き、衝撃でこの包囲を振り払う。
「異形――」
「全員、伏せてください! つばめは気合で耐えなさい!!」
「え?」
上空から聞こえた声に耳を疑う。
というか何故私は名指し?
「"土は土に、灰は灰に、塵は塵に。汝ら虚より生まれたものよ、悉く虚に還るべし"」
そんなことを疑問に思う暇もなく。
天井が砕けたと錯覚するほどの轟音と光が上空から溢れ出た。
神聖さすら感じさせる魔力が周囲を満たして蹂躙する。
はじけ飛ぶ肉片。断末魔すら上げることなく消し飛んでいく使い魔たち。
てか、ちょっと痛い痛い痛い!! これ浄化系の魔法じゃん異形顕現中止中止!!
幸い、光は数秒で止んだ。
全身を苛むピリピリ感を堪えながら周囲を見渡す。
そこには視界を埋め尽くすほどいた使い魔の姿はなく、代わりに光の十字架がそこらかしこに屹立していた。
「……何が起こったの?」
「あれだけいた使い魔が一瞬で……」
「これは、十字架?」
「――まさか、ナ」
四人とも、突然のことに何が何だかわかっていない。
あきらくんとかこちゃんは唖然と辺りを見回すだけで。
ななかちゃんと美雨さんはこれを成し遂げた下手人について考え始める。
「うおお……日焼け止めに失敗したような痛み……」
そして私は表面に走る痛みと不安によって生まれたての小鹿のように震えていた。
先ほど聞こえた声。圧倒的な力。極めつけにはあの
いやー、なんでここにいるのかなぁ……。
「――あなた達、怪我はない?」
声のした方向に振り向けば、我らが神浜のリーダー格。
「やちよさんっ!」
「新入りの案内がてらに巡回していたけれど、様子を見に来て正解だったわね」
「今の攻撃はやちよさんが……?」
「多分、違います……」
私の予想だときっと――。
「ふむ。どうやら全員無事のようですね。しかしつばめ、あなたがついていながらこのような使い魔相手に窮地に陥るとは、少しばかり油断が過ぎたのではないですか?」
ですよねえ……。
背後から突き刺さる声の主に振り返る。
はためく群青色のコート。その上から人体の関節や胸部などの急所を覆う甲冑に、両手両足も銀色の鎧甲で覆われている。
そんな一見騎士然とした装いに身を包んだ女性は、一部の隙もない佇まいでこちらを見ていた。
「さて、色々と言いたいことはありますが、ひとまずは再会を喜ぶとしましょうか。――久しぶりですね、つばめ。息災のようでなにより」
「……はいぃ。ご無沙汰しております。
私たちはおよそ一年ぶりとなる挨拶を交わした。
そう、私はこの人を知っている。
私たちの師匠にあたる魔法少女であり、
粛清機関に属する聖堂騎士であり、
『蟹座の魔女』を討伐した『
◇
「音子、さん……ってことは、この人がもしかして?」
「是的。
あきらくんの言葉を美雨さんが肯定する。
そこでようやく音子さんのほうも美雨さんに気が付いた。
「おや、誰かと思えば美雨じゃないですか」
「久しぶりネ音子。相変わらず最強の座は健在らしいナ」
「ふふ、そういうあなたは成長したみたいですね。暫く見ていない間に背も伸びましたか?」
「そんな時間は経てないヨ。三年ぶりくらいネ」
「お茶目な挨拶ですよ。とはいえ、少し年寄りじみていたかもしれませんね」
「まあ音子さんなら魔法少女としては十分年寄……あだっ」
「失言の癖は直ってないようですね」
い"だい"。
落とされた拳骨から頭蓋骨全体に衝撃が響く。
痛みはすぐ引くのに、心の底からじんわりと申し訳ない気持ちにさせられるこの感触は間違いなく音子さんのものだ。
「――と、世間話に興じている場合ではありませんでしたね。まずはここの魔女を片付けます。皆さん、ついてきてください」
「あ、はい!」
「つばめ、討ち漏らしは任せましたよ」
「はーい」
さてさて。
しばらくぶりの音子さんとの共同戦線だ。
失望されないように、気張らなくては。
音子さんが駆けだすと同時に走り出す。
「わッ!?」
「速い……」
ななかちゃん達もそのスピードに驚きながらも追走を始める。やちよさんは殿としてわざと遅らせているのだろうが、それでも段々と距離が離されていっている。
「あそこ、使い魔が沢山!」
「一人で突っ込んでいきますよ!?」
「あー、別に大丈夫かと」
単身乗り込んでくる獲物を前に、魔女の手下たちはガチガチと歯ぎしりめいた音を鳴らす。
その数はおよそ数十体。ベテランでも攻め方を考えれる量だが、音子さんは少しも怯むことなく突進する。勿論、それは決して向こう見ずな猪突猛進ではない。
群れの先頭にいた使い魔が牙を剥きだして飛び掛かる。人の身体を容易く食い千切る鋭い牙に対し、音子さんは十字架の意匠が施された手甲に覆われた拳で迎え撃つ。
ぐしゃり、と使い魔の牙が砕け、さらには肉体もひしゃげさせて結界の壁まで吹き飛ばす。
同胞が返り討ちに遭ったことで、威嚇していた使い魔たちは堰を切ったように目の前の魔法少女に襲い掛かった。
視界を埋め尽くすように襲い掛かる使い魔。
だがその勢いはガギン! という音と共に遮られる。
「あれは……!?」
「『守護障壁』。難攻不落を誇る、音子さんが最もよく使う魔法です」
音子さんの眼前に出現した、全長二メートルほどの十字架。それは先ほど乱立していたものと全く同じく、半透明で淡い光を放っていた。
これが音子さんの使う魔法の一つ、『守護障壁』。
魔力によって構成されたその十字架は私が模倣したチャチな防壁などとは比べモノではなく、あらゆる攻撃を難なく防ぎきるだけの強度を誇る。無論ただの使い魔程度が何匹集まろうと突破は不可能で、すべての攻撃が障壁に押しとどめられていた。
音子さんはそのまま右手を引き、勢いよく前へと突き出す。
渾身の右ストレートが障壁にぶつかる。障壁は拳の威力をそのままに前方へと突き進む。
それはつまり単純にパンチの表面積が広がったということであり、そこへさらに障壁の強度分の威力が加えられるということ。
障壁は破城槌となって前方の使い魔たちに満遍なくその質量を浴びせ、彼らの脆い肉体を纏めて四散させた。
「障壁であんな使い方を!?」
「シールドバッシュとは渋いわね」
これが音子さんの戦闘スタイル。
十字架型の魔力障壁を固有魔法である『不破の加護』で強度を爆上げして攻撃を防ぎ、そして敵を粉砕する武器として扱う。そんな攻防一体の重戦車な戦い方こそが聖堂騎士・紺染音子を不落の英雄たらしめているのだ。
音子さんはそのまま次々と使い魔をその拳で殴り倒す。
背後から強襲してきた使い魔を振り向きもせずに裏拳で粉砕する。真横に突き出した肘から障壁を繰り出して破壊する。包囲するように襲ってくれば回し蹴りでまとめて打ち砕く。
魔法少女からしても驚嘆の一言に値する、人間の極みにまで鍛え抜かれたその身体能力と戦闘技術。
最強と謳われるに相応しい縦横無尽の活躍っぷりを音子さんは変わらず見せつけてくれていた。
「なんて強さなんだ……」
「噂に違わぬ強さ、というわけですね」
ななかちゃんは感心しながらも使い魔を切り捨てる。
音子さんが最前線でヘイトを稼いでくれているが、離れたところにいる使い魔はこちらを狙ってくる。
だが先ほどのような物量はない。これなら十分に倒しきれる。
そうやって問答無用で突き進むこと数分。
結界の最奥部、魔女が鎮座する場所へとたどり着く。
するとどうでしょう。魔女がこちらに振り向くと同時に、その口から巨大な魔力が投射されたではありませんか。
「konnitiha,sine!!」
侵入者を発見して即座に攻撃するとは、中々に凶悪な魔女である。
「ぬん!」
だが音子さんは止まらない。
巨大な十字盾が出現し、魔女の砲撃を正面から受け止める。
砲撃が止み、煙の晴れた先には傷一つない障壁が聳え立つ。
半透明な向こう側から、魔女が狼狽する様子が見て取れる。
その隙を逃さずに音子さんは一気に距離を詰める。
魔女も攻撃を行うが、音子さんは肉食獣のように俊敏な身のこなしで回避していき、ついには足元まで接近する。
「遅い!」
ドガン! と空気を揺るがす音が響く。
それは音子さんの繰り出した拳が命中したことを示すもの。
三倍以上はある体格差でこれだけの音。あのパンチの威力がすさまじいことが明白である。
少し遅れて揺らいだ魔女が苦悶の叫びをあげる。
主の危機にわらわらと大小入り混じった使い魔が集まり、四方八方から襲い掛かっていく。
「"主の威光を以って指し示す。此処は聖域なり!"」
音子さんは地面に拳を突き立て――直後、彼女を中心として大量の十字架が地面から飛び出した。
勢いよく出現したその障壁は使い魔を下から貫き、瞬く間に殲滅する。
「今です、行きなさい!」
「え? あっそういうことですか。皆さん、突撃ー!」
どうやら私たちに手柄を譲ってくれるらしい。
お言葉に甘えて十字架を飛び渡り、軽々と魔女に近づいていく。
皆も私に続き、最早丸裸も同然の魔女に各々攻撃を浴びせていく。
「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!」
袋叩きにされ、苦悶の叫びをあげる魔女。
その断末魔も骨喰による斬撃でかき消され――後には元の路地裏の風景が残るのみであった。
「なるほど。腕は鈍っていないようですね」
「音子さんこそ」
音子さんの側に着地する。
そしてがちん。とお互いの手の甲をぶつけて健在を確かめ合うのだった。
◇
「では改めて挨拶を。この度、粛清機関より水名教会に監督役として赴任しました。紺染音子と申します。こちらのつばめとは、以前の街でしばらくの間共に戦った仲です」
「これはご丁寧にどうも。私は常盤ななかと申します。あなたのお噂はかねがね、つばめさんから聞き及んでおりました。お会いできて光栄ですわ、紺染さん」
「志伸あきらです!」
「な……夏目かこといいます」
律儀に挨拶を返す三人を見て、音子さんは軽く笑みを浮かべる。
「不肖の弟子が世話になっているようですね、つばめがそちらに迷惑をかけていませんか?」
「あなたは私のお母さんか何かか」
「ふふっ、つばめさんにはいつも頼りにさせて貰っております。彼女の並々ならぬ経験に裏打ちされた戦闘技術と戦略眼……それを鍛え上げたのはあなたですね」
「その通り。彼女には一人でも街を守り切れるように全力で鍛え上げました」
「地獄みたいな訓練でしたよほんと……」
魔法少女だからと無茶苦茶に過ぎる修行風景が頭をよぎり、ついぼやきが口から洩れる。
少なくとも一般的な修行は走馬灯を垣間見るようなことはないはずだ。
「ええ。あれは文字通り地獄ですので」
やっぱり地獄なんじゃないか。
「しかし、美雨さんとも知り合いだったのですね」
「契約したての頃の話ネ。神父の紹介でちょとだけ面倒見てもらたヨ」
「へえー」
全国を飛び回っているだけあって音子さんは魔法少女の知り合いが多い。七枝市で共にいた二年間は意識していなかったことだが、こうして神浜でも音子さんの勇名が知れ渡っていたことや、以前に美雨さんからそれとなく知り合っていたことを聞いたことで、私の中で音子さんという人物の大きさが人回り大きくなったように思えたものだ。
「あの時は神浜の近くに用がありましたから、少しばかり対魔女用の手ほどきをしました」
「中々良い功夫を積めたヨ。今度またやってくれないカ?」
「ぼ、ボクもいいかな……?」
「では今度の週末、時間を設けましょうか」
「おおっ! つばめさんの強さの秘訣、知りたかったんだよね!」
正気かこいつら? 私の時といい、あきらくんは鶴乃さんほどじゃないけど強さに対して貪欲だね。
まあ、音子さんのシゴキは一回は受けておいて損はない。
要するに音子さん相手にスパーリングを繰り返すだけなんだけど、人間の限界レベルに鍛えている聖堂騎士が相手だ。生と死の狭間を垣間見るかもしれないが、それに見合うだけの経験を積むことはできるのも確か。体の動かし方や戦いにおける考え方などの基礎的な能力を底上げする訓練は実戦を繰り返すだけでは得られないものがある。
「しかし、つばめが神浜へ向かったことは知っていましたが、彼女と行動を共にしていたとは中々奇妙な縁を感じますね」
「まあ、そこは色々ありまして。というか音子さんはどうしてこの街へ?」
「ただの人事異動ですよ。神浜の地で魔女が急増している、というのが我々のほうでも問題視されていまして。各地の調査員だけでは人手と戦力が足りないので私がやってきました」
私の疑問に端的に答える音子さん。
春先からの魔女の増加は、大都市だしそういう時期もあるのかと思っていたが、どうやら余所から見ても異常事態だったらしい。
「この街に踏み入った時から薄々ならぬ穢れを感じてはいましたが、やはりこの街の魔女の数と強さは明らかにおかしいですね。師として先ほどは厳しく言いましたが、これだけの相手となればよく耐えたものです」
さっきの下げを撤回するその言葉に、なんだかめちゃくちゃ褒められた気分になる。
自他ともに厳しい人だけど、ちゃんと頑張りは評価してくれるんですよね。
「最も、こういった例が過去に無かったわけではありません。単純に
「そこで私たちが入った結界に遭遇した、と」
「そういうことです。ところでななかちゃん、先ほどの魔女についてだけど」
「はい。使い魔の反応から気づいてはいましたが、やはり『飛蝗』ではありませんでした」
結局、あの結界にいたのは本命の魔女ではなかった。
『飛蝗』が残すコロニーの一つを潰せたのは収穫だが、これでまた地道な捜索作業に逆戻りだ。
「『飛蝗』、とは何ですか?」
「私たち、というかななかちゃん達が追いかけている魔女がいるんですよ。色々あってそのお手伝いをいていまして」
軽く掻い摘んで事情を説明する。
「――そういうワケでして、ななかちゃんの魔法を頼りに神浜中を調べて大元の魔女を見つけ出すのが我々の目的なんです」
「成る程。そういった魔女がいるのですか……」
腕を組んで考え出す音子さん。
この話を聞いて、誰よりも先に『飛蝗』を討伐に行きたいのだろう。
自分の責務と、この地域の魔法少女たちの事情を天秤にかけて悩んでいる。
正直なところ、音子さんが倒してくれるならそれはそれでこちらとしても願ったり叶ったりだったりする。
「紺染さん、多くの魔女と戦ってきたあなたの知見を頼りにさせてもらいたい。『飛蝗』について思い当たる点などあれば聞かせてはもらえないでしょうか?」
ななかちゃんが音子さんに頭を下げる。
(勧誘はしないんだ)
(彼女ほどの戦力を私たちが独占するのは、むしろ効率が悪いと判断しました。戦力という意味では喉から手が出るほど欲しいですが、立場上一勢力に深入りする人ではないでしょう?)
(そこは、確かに)
音子さんは元々ワンマンで活動する戦闘員だ。七枝市の時はそもそも私と美緒が新米魔法少女だったから面倒見てもらって、あとは流れで組んでいただけである。
だからここはそういう魔女の存在を示唆して捜索の範囲を増やす方が得。音子さんなら単独で遭遇してもまあ何とかなるだろうし。
「ふむ。そうですね。常盤さん、質問を一つ」
「はい。何でしょう」
「あなたの魔法に引っかかった魔女はすべて同じ姿の魔女でしたか?」
「……いえ、『飛蝗』に連なる魔女の多くは同一の姿をしていましたが、何種類かの魔女から『飛蝗』に繋がる気配を感じ取りました」
ななかちゃんの言葉は真実だ。
最初に『飛蝗』の反応を示したのは屋上の魔女。チームを組んで討伐した巣の魔女も同じ。
だが、それ以降ななかちゃんの魔法で強い反応が現れた魔女は立ち耳や羊もいる。
割合としては屋上の魔女が半分以上なので気に留めていることはなかったが……こうして言葉に表してみるとその違和感は露わとなる。
「そうですか。では結論を良いましょう。
――私から言わせれば、そんなことはまずあり得ません」
音子さんは迷うことなく、ななかちゃんの魔法を否定した。
「何ですって?」
「原則、魔女の使い魔というのは親元と同型の魔女に成長します。魔女の中核を為す呪いと、その方向性を定める絶望。それは分裂したとしてもそうそう変質することはないからです。一応、例外もあるにはありますが、それでも姿かたちや性質がかけ離れるというのは奴らの生態上あり得ないことなんですよ」
「ですが、現に私の魔法はいくつかの種類の魔女から同一の反応を感じ取っていますが……まさか」
「察しが早くて助かります。事実として『飛蝗』という魔女はいるのでしょう。そういった行動パターンを持つ魔女についても記録が残っていますからね。ですが、
ごくり、と息を呑む音が聞こえる。
皆が皆、音子さんの言葉について聞き入っていた。
神浜を襲う魔女と、それを操っているかもしれない存在。
ななかちゃんや美雨さん、そしてやちよさんは顔を険しくする。対してあきらくんやかこちゃんは沈んだ顔で黙っている。
事前に予防線を張ったとはいえ、魔法少女が裏にいるかもしれないという可能性は皆の心を締めあげているのだろう。
「……とはいえ、私もそれらの事件については深く知りません。必要以上に深入りしてあなた達の邪魔をするのも忍びない。この一件はあなた達にそのまま預けておくとしましょうか」
「はい。ご協力ありがとうございます。紺染さん」
「構いませんよ。これからしばらくは肩を並べる機会もあるでしょう。あなたのように思慮深い魔法少女というのはどうにも得難い。今後とも仲良くいきましょう」
そうして、思いがけぬ再会を経た私たちの日常は過ぎていく。
――その数日後、事件は起こった。
◯
七枝市にて琴織つばめと富野美緒の師匠となった魔法少女。通称『鉄の英雄』。
師匠譲りの最強防壁を殴り飛ばすシールドバッシュ戦法の使い手。
月姫のシエル先輩と血界戦線のクラウスを足して二で割ったようなキャラ。ぶっちゃけ本作最強クラス。
ディフェンスタイプ。防御力アップ及び防御力を攻撃力に加算するスキル持ち。
【挿絵表示】
○琴織つばめ
音子の聖堂騎士流ブートキャンプがトラウマ。
修行っていうかただの苦行……。
○世界観
魔術師は魔法少女よりも数が少ないし、秘密結社作って隠れてるのであまり表に出てこない。
つばめちゃんの立ち絵もいっこ作りました。メガほむではないです。
【挿絵表示】
次回からは原作開始前編の山場。
色々と要素の盛られた散花愁章の開幕でございます。