この編はシーズン2への準備としてチャプター構成となります。
短めですが投稿をコンスタントにするための措置です。
※なんか勘違いの描写があったので修正しました。
ChapterⅠ【狂宴の幕開け】
事の発端はなんてことない。
自分の部屋でだらけていた時にかかってきた一本の電話だった。
『あきらくん』
ふむ。彼女が電話をかけてくるというのも中々ない。
一体何だろうかと着信を取る。
「はいもしもし」
『大変だよ、つばめさん!!』
「どうしたの?」
この上なく切羽詰まった声。頭の中で鳴り響くミッションアラート。
市民あきらは一体何のトラブルシューティングを請け負ったのだろうか。
『魔法少女が襲われたらしいんだ! この前の噂と同じだけど、実際にボクたちの知り合いも被害に遭ってる』
「――何ですって?」
以前の魔法少女襲撃事件。
ほとんど被害者もいないデマに多くの人が踊らされたあの一件についてはこのはさん達が真犯人を探っていたのだがやはり噂の出所を掴むことはできずじまい。もしや犯人はこのまま行方をくらませるのではないかと思い、記憶からも薄れかかっていたところにこの報せは寝耳に水だった。
「誰がやられたんですか?」
『エミリーだよ! 昨日相談所で別れて、朝起きたら倒れたところを発見されて病院に運ばれたけど目が覚めてないって聞かされたんだ』
「それは……!」
『おまけに一人だけじゃなくて、他にも被害に遭ってる子がいるらしいんだ』
「とりあえず落ち合いましょう。相談所でいいですか?」
『うん。ななか達にもそう伝えておくね』
ひとまず通話を打ち切る。
さてどうしたものかと考え始めた途端、ぽこんというポップな通知音が鳴った。
発信元はSNSアプリ、魔法少女の知り合い用トークルームから。
大方予想は着くが、エア既読スルーはよろしくないのでメッセージを見る。
都 ひなの :『衣美里が倒れて目覚めなくなった。心当たりはないか?』
美凪 ささら:『エミリーが倒れたらしいんだけど、どうなってる?』
綾野 梨花 :『これ、この前の事件と何だか似てない!?』
五十鈴 れん:『昏倒……ですね。だとすると魔法少女の仕業……?』
江利 あいみ:『こころが目覚めなくなっちゃって、まさらが見たこともないぐらいに怒ってるの! つばめさん何とかできない?』
保澄 雫 :『助けて』
多 い わ
スマホの通知が止まない。魔法少女のチームごとに通話ルームを分けているので一つのルームを既読にしても別のルームで通知がポコポコ鳴っている。まるで使い捨てのメールアドレスのように通知の数がすさまじい。
「だーっ! もう! なんで揃いもそろって私の所に連絡かけてくるんですか!?」
ざっと確認しただけでも三人以上が昏睡状態という深刻な状態。
返事をし続けている暇もない。とりあえず来れる奴は相談所に来いと書き込んでから家を出る。
家は商店街のすぐ近く。
なので相談所も走れば10分で着く。
私が相談所の前に到着した時、そこにはもう何人かが集まっていた。
「来たか」
既にいたのは都ひなの。美凪ささら。志伸あきらの三名。
少し待てば、ななかちゃんとかこちゃんも合流した。
「つばめさーん!」
「お待たせしました。美雨さんは少し手が離せないようです」
「そうですか。ではとりあえず状況の確認をしましょう。何人か被害者が出ているらしいですが、結局誰が襲われたのですか?」
「アタシは衣美里が襲われたことしか知らないな」
「うん。私も、エミリーが倒れたって聞いて居てもたってもいられなくて」
「雫ちゃんから連絡が来たってことは、多分よく一緒にいる毬子あやかさんも被害に遭ったと思った方がいいかな」
一言だけだったけど。
あの二人、控えめだけど協調性のある雫ちゃんと、積極系だけど陰の者な毬子さんでがっちりハマってたと思うから、片割れが失われそうな状況に陥ったら穏やかではいられないのだろう。
「あと江利さんから連絡が来てましたね。こころさんが襲われたらしいです」
「最低でも三人か……」
「ほぼ狂言だった前とは違い、本格的に動いていますね」
前回は事件を真実だと演出するためにももこさんだけが襲われたが、それもすぐに目が覚める軽いものだった。
だが今回は三人が同時。しかも一晩以上経過しても目が覚めていない。
以前とは様相が違うこの意味は一体何なのか。
「前回と同じ犯人が本気を出した? それとも情報に相乗りしただけの第三者の仕業か……」
「どちらにせよ、放置というわけにもいかないでしょう」
「そうだよ! 一刻も早く原因を突き止めなきゃ……!」
あきらくん燃えてますねえ。
いや、それはひなのさんもささらさんも同じか。
ささらさんはあきらくんとほぼ同じぐらいに憤っているし、ひなのさんは冷静に判断しようとしているが言葉の端々がピりついている。エミリーの突き抜けた明るさは薄暗い魔女退治の中での清涼剤の役割も果たしている。それが損なわれたとなればここまで剣呑さが露出するものか。
「私としては、被害者のどなたかの様子を見ておきたいのです」
「いい提案ですね。魔法によるものであれば、そこには何らかの痕跡が残っている可能性もある。ひなのさん、エミリー以外の被害者が現在どうなっているのかはわかりますか?」
「衣美里は里見メディカルセンターに運ばれたよ。他二人については分からないが、魔法がらみの傷病は大体あそこに担ぎ込まれるらしい」
「では病院に行ってみましょう。運が良ければ面会できるかもしれません」
◇
ChapterⅡ【復讐の影】
新西と北養の境目。
神浜で一の規模を誇る大病院、里見メディカルセンターを私たちは訪れていた。
親しいひなのさんがいたおかげか、衣美里さんの病室にはあっさり通された。
「おや、雫ちゃん」
「……あ、つばめさん」
扉を開けると、そこには先客がいた。
つい先ほど連絡があった内の一人。保澄雫。
「ここにいるということは、やはりあやかさんもこの病院に」
「うん……」
隣のベッドにはウェーブがかった長い黒髪の少女、毬子あやかが眠っていた。エミリーとは似た症状ということで纏められているのだろう。
雫ちゃんは心ここにあらずと言った様子であやかさんをじっと見つめている。
「つばめさんはどうしてここに?」
「被害者の確認です。まず原因を突き止めないことには始まりませんから」
清潔なベッドに横たわる衣美里さんは目立った外傷は見られない。
だが視界を切り替えて見てみれば、やはりというかそこには凶器の痕跡が残っていた。
「……これは」
彼女の頭には紫色をした魔力の残滓が残っており、ソウルジェムにも全く同じ色の魔力が侵食している。
あやかさんの方に視線を移せば、まったく同じ光景が見えた。
「どうですか?」
「やっぱり魔法ですね。それも脳とソウルジェムの両方に魔力が染み込んでいます。言うまでもないとは思いますが、お二人とも同一犯の仕業ですね」
「――っ!」
この魔力波長には覚えがある。
前回の事件でこのはさんに精神攻撃を仕掛けていたやつの魔力だ。
「精神干渉の魔法。それも同系統の魔法を使う衣美里さんの耐性もぶち抜くほどの威力ですか。これは相当高度な魔法を掛けられていますね」
「追跡とかはできるか?」
「無理ですね。特に術者への魔力のラインは繋がっていません」
魔法の中には対象に魔力を与え続けなければいけないものもある。それらは術者と対象が魔力のラインで結ばれており、私の魔法ならそれを追跡することも可能ではある。だが一度効果を発揮したらしばらく持続するようなタイプは仕掛ける一瞬だけしか魔力の繋がりはない。エミリーたちを襲った魔法は後者。起点さえ用意してしまえば、後は残ったまま。
「とはいえ、ずっと眠ったままというわけでもなさそうですね」
「本当!?」
雫ちゃんが身を乗り出して顔を近づけてくる。
近い……顔が近い……!
その距離は私の穢れた心には眩しすぎる……ッ!!
「ひとまず彼女たちに掛けられた魔法が精神系のものだと仮定して、おそらくは消費した魔力で持続時間が決まるタイプです。だから犯人の魔力が全部消えれば自然と効果も消えるでしょう」
というのは半分嘘。
恐らくだが、これは催眠か何かに加え、疑似的にソウルジェムと肉体のパスを妨害している。
精神を閉じ、肉体を封じる。
魔法少女の無力化という一点において、この処置は最適解と言えるだろう。
流石にそこまでの説明はソウルジェムの正体について語らなくてはいけないので伝えられないが。
「とはいえ、眠り続けろという命令は複雑に見えて実際は単純な動作だ。オンにしているよりもオフのほうが省コストなのは言うまでもありません。だから魔力の消費量は少なく、自然に解除されるのを待つのは少し時間がかかりすぎますね」
「つまり、犯人に直に解かせるということだな」
「そうなりますね。しかしそうなると犯人が誰なのかという話になりますが……」
「ねえ、あきら。昨日エミリーが会っていた人ってわかる?」
手掛かりに悩んでいると、ささらさんはそんなことをひなのさんに聞いた。
「どういうこと?」
「ああいや、魔法でこうなってるなら接触する必要があるんじゃないかなって」
「なるほど。でも昨日は結構相談所に人が来てたからなあ」
「じゃあ最後に来た人は?」
「それなら覚えてるよ。最後に来たのは葉月さんだね。最近はよく顔を出しに来るんだよ」
「……ッ!」
あきらくんの言葉に雫ちゃんが強い反応を示した。
「どうしました?」
「あやかも……昨日、その人と会ってた……」
「何ッ!?」
行動範囲が参京区だからおかしくはないだろうけど、そりゃまた奇妙な偶然があったもんだ。
「なあ、念のため他の被害者が誰と会っていたのかも調べられるか?」
「はいはい。それならここに江利さんから聞きましょう」
SNSで江利さんに、昨日こころさんが誰かと会っていたのかと尋ねる。少ししてから、答えが返ってきた。
……あーっと、これは。
「うーむ。なるほど。こころさんも葉月さんと昨日会って話をしていたみたいですね」
「……つまり、被害者の共通点は『遊佐葉月と会っていたこと』か」
「これって偶然……じゃないよね」
おやおやおや?
これはあまりよろしくない流れだな。
「あの……皆さんもしかして葉月さんが犯人だと疑ってます? それでしたら真っ先に否定させてもらいますけど。感じ取れた魔力自体、私の知っている人の色じゃなかったので……」
「おっと、そういえばお前の魔法はそういうのも分かるんだったか。いかんな。アタシとしたことが物証も揃えずに結論を出そうとするとは」
「本当便利だよね、つばめさんの魔法」
「でもそれなら、一体誰があやかを襲ったの?」
「そうなんですよねえ……」
雫ちゃん、割とキレてますね?
「これは憶測ですが、犯人は葉月さんと接触した魔法少女を狙うことで、葉月さん達に濡れ衣を着せることが目的なのではないでしょうか。ちょうど彼女たちは前回の事件でも疑いの目を向けられています」
「なるほどな。遊佐葉月のことをよく知らない人間からすれば、それだけでも犯人と疑うには充分だ」
ななかちゃんの推理にひなのさんは納得したように頷く。
頭の回転が早い人間同士、余計なギスギスとは無縁で助かる。
「恐らくですが、私たちの顔見知りの中に犯人はいないでしょう。つばめさんが感知した魔力は、以前にこのはさんを苛んだ幻覚の主と同じ魔力なのですよね?」
「その通りです。ここしばらくは捜索を続けてはいましたが、その魔力を持つ相手とは未だに出会えていません」
全く、姿を隠すのが巧いものだ。
神浜中をちょろちょろしているのだろうとは思うが、それにしてもいい加減見つけ出して留飲を下げたいところ。
多分だがこの襲撃は軽いジャブに過ぎない。何せこのはさんを暴走するまでに追い込んだ相手だ。彼女たちが追い込まれるまで徹底的にやって来るだろうという予感がある。
「うーん、そうなると私たちよりも魔法少女に顔が広い人か……」
「あ、みたまさん! あの人ならたくさんの魔法少女を知ってるかも」
「かこちゃんそれナイス」
調整屋であるみたまさんの元には神浜中の魔法少女が訪れる。その中には私たちの知らない魔法少女もいるはずだ。中立ではあるが事が事だ、協力してくれるだろう。
「それじゃあ次は美雨さんと合流して調整屋、ですね」
今後の方針も固まったところで病室を出る。
都さんとささらさんはエミリーの様子を見ておきたいということでここで別れることになった。
帰り際にひとまず葉月さんは容疑者ではない、ということを念入りに言っておく。これで他の誰かがこのはさん達に疑いの目を向けた時に少しは鎮火するのが早くなるだろう。
「――で、どうでしたか?」
周囲に誰もいないことを確認してから、ななかちゃんに目配せをする。
その言葉の意図を理解したななかちゃんは満足そうに笑みを浮かべる。
お淑やかで見ほれそうな笑みだが、それはどこか牙を剥いた獣のようでもある。
「ええ。薄らと感じていたものが確信に変わりましたわ」
「感じていたもの、ですか……?」
「……ねえ、それってもしかして」
「はい。私たちの敵です」
常盤ななかは告げた。
この一件の裏には『飛蝗』がいる、と。
〇琴織つばめ
そういうつもりじゃないんだけどRTAみたいな挙動してるつばめちゃん。
固有魔法が概ねクソギミック潰しなのが悪い。つまり作者が悪い。